このエントリは、2020年12月にアップしたものの再掲である。
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今回の実例は、亡くなったジョン・ル・カレを偲ぶ作家や映画監督、俳優らの声を集めた記事から。メンツが豪華すぎててくらくらくる記事で、ゆっくり読んでいきたい。記事はこちら:
ここに言葉を寄せているのは、15人の作家や脚本家、映画監督や俳優、法律家といった人たちで*1、それぞれの知るジョン・ル・カレ、あるいはそれぞれにとってのジョン・ル・カレについて、自由に言葉を綴っている。
今回はまず一番上に掲載されている作家のジョン・バンヴィルの言葉から。バンヴィルはアイルランドの作家だが、ジョン・ル・カレも父親*2がアイルランドにルーツがあったので、可能ならばと移住を検討していたという*3。
というところで今回の実例:
キャプチャ画像の第一パラグラフの最後の文:
He was serious in the thought of moving to Ireland, but had he settled here, he would have been horribly homesick.
太字にした部分は《仮定法過去完了》で、if節のifが省略されているために《倒置》が起きている。省略と倒置がない形に書き改めると、butからあとは、"if he had settled here, he would ...." となる。文意は、直訳すれば「彼はアイルランドに移住するということを考えるに際して真剣であったが、もしもここに定住していたら、おそろしいほどのホームシックになっていたであろう」。
実際にはル・カレはアイルランドに移住しなかったので、ホームシックにもならなかった。だから仮定法で書いているわけだ。
ジョン・バンヴィルの作品は日本語で読めるようになっている。
ジョン・バンヴィルは「ベンジャミン・ブラック」名義で 風合いの違う作品(ミステリー小説)も書いている。アイルランドの重く苦しい抑圧の歴史(英国の支配とは別の抑圧)を扱った下記2作と、レイモンド・チャンドラーの有名な小説の公認続編というものが日本語訳されている。
ジョン・ル・カレは小説はとっつきづらいというイメージがあるかもしれないが(実際にとっつきづらいと思う)、80代も後半に入り、思い出せることを綴った回想録は、さながら「短編集」のように読めるのでぜひ。冷戦の始まりから終わり、そしてポスト冷戦の時代を生きてきた「おじいちゃん」の体験談だ。
原著の電子書籍がとても安いのは何なのだろう。500円でお釣りがくる値段になっている。 いつまで安いのかはわからないので、安く買いたいなら見たときに買っておくべきだろう。
The Pigeon Tunnel: Stories from My Life (English Edition)
- 作者:le Carré, John
- 発売日: 2016/09/06
- メディア: Kindle版
※本文1700字くらい。このくらい軽量化しないと毎日続けるのは実はつらい。
*1:クレジット表記をコピペすると、John Banville, Tom Stoppard, Charlotte Philby, Margaret Atwood, Philippe Sands, Tomas Alfredson, Susanna White, Hossein Amini, John Boorman, Ralph Fiennes, Bonnie Greer, Ian Rankin, Kit de Waal, Holly Watt and Adrian McKintyで、実に豪華である。
*2:この父親という人が非常にとんでもない人物で、そのことをル・カレ本人が書いたのが『地下道の鳩』の33章である。