Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

接続副詞のhoweverとコンマの使い方、など(パレスチナでジャーナリストが撃ち殺され、イスラエルが嘘をばらまき、英語圏主要メディアの報道はぐだぐだだ 1)

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今回の実例は、Twitterから。

先週水曜日の5月11日、パレスチナのジェニン難民キャンプ*1で、一人のジャーナリストが、取材中にイスラエル側からの銃撃によって命を奪われた。

殺害されたのは、シリーン・アブ=アクレさん(「アクラ」という発音や表記もある)。1971年生まれで50代に入ったばかりの女性ジャーナリストだが、1997年以降、アルジャジーラアラビア語放送でパレスチナからの現地報道を行い、アラビア語のテレビニュースを見ている人ならば誰もがはっきりと知っているような、超有名記者だった。

撃たれたときは、PRESSと大きく書かれた防弾チョッキを着て、ヘルメットも装着していたが、それだけ防護していてもできてしまうわずかな隙間(耳の下)を撃ち抜かれた。一緒にいたカメラマンが先に撃たれており、この人も背中を負傷したが生命には別条はなく、何が起きたかを証言している。

報道関係者であることを明示している人を標的とすることは、救急隊や救急車、病院、学校を標的とすることと同様、あるいはそれ以前に、民間人(非戦闘員)を標的とすることと同様、国際人道法(つまりジュネーヴ条約)違反である。

昨今、ロシアがウクライナでそれをして、「国際社会」が「社会」全体として、あるいは個々の成員(各国)が非難の声を上げているのだが(例えばマリウポリの産院攻撃)、イスラエルパレスチナでそれをし続けてきたし、それらの国際人道法違反(つまり「戦争犯罪」の行為)はほぼ全力でスルーされるのが常である。スルーされるだけならまだいい方で、イスラエル側が流す嘘が、英語圏の主流メディアで何度も重ねて流されて増幅されることもよくある。そして2022年の現在、米国大使館もイスラエルの側、つまりPRESSと明示したジャーナリストを撃った(と思われる)側に立ち、イスラエルが根拠も示さずに言う「彼女を撃ったのはパレスチナ人だ」という嘘*2をただ増幅する。

Middle East Eye (MEE) は、以前も当ブログで見ていると思うが、ロンドンに拠点を持つオンライン・メディアである。いろいろ言われてもいるが、そういうのもウィキペディアに書いてあるのでそちらを参照。

ツイート全体は、《A. However, B》の形式で書かれている。この形式においてはAとBはそれぞれ独立した文である。Howeverは《接続副詞》であって接続詞ではないので、常にコンマを伴う。このツイートでもそうなっている。

Israel’s foreign ministry and US embassy tweeted a video showing Palestinian gunmen in Jenin firing down an alley, suggesting they likely hit Shireen Abu Akleh.

However, footage, satellite imagery, geolocation, and eyewitness accounts debunk Israel’s claims

文法上の注目点は《分詞構文》などもあるが、細かく書いているとまた終わらなくなるから端折ることにする。文意は「イスラエル外務省と米大使館が、ジェニンにおいて武装したパレスチナ人複数人が細い街路で銃撃している様子を示す映像をツイートした。パレスチナ人がシリーン・アブ=アクレさんを撃ったと考えられると示唆してのことである。しかしながら、現場映像や衛星写真、ジオロケーション、目撃証言は、イスラエルの主張が嘘であることを示している」。"debunk" という語は、ニュース記事や評論などを読むうえでは、覚えておくと便利な単語だ。やや口語的な響きのある語で、論文などで使うなら類義語のdiscreditあたりを使った方がよいかもしれない。

MEEはこのツイートに続けて、具体的な検証の過程を詳しく述べているが、そちらは次回以降に扱うこととして、今回は、英語圏の大手メディアがいかにイスラエルの嘘を増幅しているか、あるいはそれに寄り添っているかということを示す具体例を見ていこう。

(要点だけ先に書いておくと、イスラエルが示している「パレスチナ人ガンマン」がいた場所は、ジャーナリストが銃撃された場所の近くではない。そこから撃って、あそこに立ってる人に銃弾が当たるということは、考えられない。)

むろん、出る端からTwitterでどんどんdebunkされているのだが、そんなことは、大手メディアの影響力の前では、牛の前に立ちふさがるカマキリくらいのものだろう。

シリーン・アブ=アクレさん殺害の状況から考えて、この殺害は単なるkillingではなくmurderである可能性はとても高いし、それゆえassasinationという非常に強い言葉を使う人もいるくらいだが、murderにせよassasinationにせよ、殺意(殺す意図)や準備といったものが立証できないときは、報道機関は使うことができない*3。しかしながら、あのように「仕事中に外的な要因で落命した」場合は、通例、dieではなくbe killedを使う(「心臓発作を起こした」といった場合ならばdieだろう)。「交通事故で落命した」ときだってbe killedが標準的だ(ただしこの場合は、見出しではdieを使うこともさほど珍しくない)。

しかしニューヨーク・タイムズ(NYT)は、"Shireen Abu Akleh dies at 51" と見出しを打った。

これには即座にツッコミが入った。例えば下記、ジョアンナさんのツイートでは、非常に詳しく添削が入っている。

もっとあっさりした、どこのコピーエディターでもやりそうな修正を入れたのがこちら: 

こういう見出しを打ったNYT, 最終的には削除したようだが(だからもう確認できない)、殺害のすぐあとにはまさに「デマ」としか言いようのないものをばらまいていた。(キャプチャ取っとけばよかった。)

他方、米国の通信社APは、それとなく細部をぼやかした記述というテクニックを使っている。次のツイートを見て、どこがぼやかされているか、わかるだろうか。

そう、この点である。

文章の最初の方で「イスラエル軍の発砲」と書かずに、最後に「イスラエル軍のジェニンにおけるraidの間に」と書くことで、「イスラエルの」という情報をやわらげている(発砲がイスラエルのものだったかどうかはわからない、というトーンにしている)。下記のような表記基準を持ち、明解な、文章を頭から一度読んだら重要な情報がすっと入ってくるような文章を旨とするAPが、である。

数時間後にははっきり書いたようだが、それでも「パレスチナ側の言い分としては」が先行している。それ自体は、事実がまだestablishされていない段階では妥当かもしれないが、それならば最初っからこのスタイルで書けばいいのである。Israelを文章の後ろの方にそっと置いたりせずに。

……と、ここですでに当ブログ規定の4000字をはるかにこえ、倍の8000字になろうとしているので、今回はここまでとして、次回にこの続きを扱うことにしたい。

 

ちなみに、シリーン・アブ=アクレさんが殺害された5月11日は、昨年2021年のガザ攻撃から丸一年となる日だった。

イスラエルは2000年の第二次インティファーダ以降(つまりオスロ合意などなかったかのように*4アリエル・シャロンの政権が強硬な政策を取るようになって以降)、ジャーナリストだけでも50人以上を殺してきた。シリーン・アブ=アクレさんはその被害者リストに記載される最新の名前となってしまった。そして彼女の名前が最後にはならないだろう。この暴虐を止めない限りは。

https://twitter.com/garnetsandgrace/status/1524499565101129729



 

 

*1:「難民キャンプ」という名目だが、現在では普通の街みたいになっている。「難民キャンプ」なのは、元々住んでいたところから追い出された人々が一時的に暮らすようになった場所だからで、本来ならばその人々は元の村・町に戻れているはずなのだが、実際にはイスラエルによってそこに戻ることができない状態に置かれているため、一時的な「キャンプ」のはずが何十年もそこにいることになってしまっている。これが「パレスチナ問題」の最も重要な部分に位置する問題である。

*2:これが嘘であることは、次回以降のブログで取り扱う。

*3:assasinationという言葉は要注意である。この言葉を持ち出して「理由がないのだからそんなことをするはずがない」として殺害そのものを否認しようとしているのは今回イスラエル側であるが、このように強い言葉はそういうふうに利用される。このやり口は、ホロコースト否定論などでもみられる。see https://twitter.com/OmarBaddar/status/1524764035358633984 

*4:オスロ合意がいいとか悪いとか十分だとか不十分だとかいうことはここでは話題にしません。その文字数がありません。って書くとアポロジストだって攻撃されるだろうけど……。

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