Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

英文を書くときの接続詞の使い方, コロンやセミコロンと接続詞(5月に射殺されたパレスチナ人ジャーナリストについて、イスラエルが「責任を痛感」しているようだ))

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今回の実例は、Twitterから。

今年5月、パレスチナヨルダン川西岸地区で「PRESS」と大きく表示した防弾チョッキを着用して仕事をしていたTVジャーナリストが、イスラエル軍の兵士によって、防弾チョッキから出ている首から顔にかけての部分を撃たれて死亡する、というめちゃくちゃなことが起きた。

起きたことがあまりにひどすぎて、展開もいろいろありすぎて、書こうと思っていたことが全然書けていない状態ではあるが、当ブログの過去記事は以下: 

hoarding-examples.hatenablog.jp

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撃ち殺されたシリーン・アブ・アクレさんはパレスチナ人で、アルジャジーラアラビア語放送の記者としてパレスチナから伝える仕事を長くしてきた人で、アラブ全域で「誰もが知っているテレビのジャーナリスト」という存在だった。

その彼女を撃ち殺したことを、イスラエル軍は認めようとはせず、殺害直後などは逆に「パレスチナ人が撃ったんですよ」と人を馬鹿にするようなことを主張して各国のメディアに報じさせていたが(同じことを、ウクライナについてロシアがやったら、それらのメディアはそう報じていただろうか)、殺害から4か月もたってようやく、イスラエルは、ジャーナリスト殺害という立派な違法行為をはたらいたのは自分たちであるということを認めた。ただし「断定」の口調ではない。「その可能性は極めて高い」という口調である。「パレスチナのNGOがテロ組織のフロントである」とか、「ガザ地区の小学校の敷地内から攻撃が行われた(ので小学校を砲撃・爆撃した)」とかいったことを主張するときは「その可能性は極めて高い」などと言いもせず、証拠も示さずに断定するくせに、自分らのやったことについてはこれである。

日本語でいうと「責任を痛感している」ということだろう。安倍政権以降の日本語世界では「責任」は「痛感する」ものになっていて、「取る」ものではなくなっているとよく指摘されるが、それと同じようなことがイスラエルでも起きているのではないか。

ただ、イスラエルが殺害を認めたことは驚きだと言ってもよいかもしれない。今回「その可能性は極めて高い」などという口調ではあっても、殺害を認めた背景には、被害者が(殺害時は広くは知られていなかったかもしれないが)米国籍を持っていて(二重国籍)、事件は「米国外で米国人が殺された」という性質を帯びるものとなり、米国で人々の声が大きくなったことも作用しているであろう。それでもこの程度なのは、単に米国政府に事を荒立てる気がないということを示している。普通に真面目に「米国人殺害事件」として対処するならば、CIAのドローンを送り込んで「容疑者」を爆殺するのがデフォになっているような国だ、現在、特にオバマ政権以降の米国は。

シリーン・アブ・アクレさんがただのパレスチナ人だったら、イスラエルはいつまでものらりくらりと「肯定も否定もしない」という方針を貫いて、殺害の事実を絶対に認めようとしなかっただろう。

というわけで、今回の実例。イスラエルの発表を受けて、多くの人が言葉を発しているので、それを見ていこう。

まずはNBCのニュースキャスター、アイマン・モハルディーン。彼はパレスチナディアスポラで、NBCに移る前はアルジャジーラ・イングリッシュの記者だった。2011年のエジプトでの革命のときに、毎夜タハリール広場を見渡せる建物の上から実況解説をしていた彼の姿を覚えている人も多いだろう。

このツイートは《接続詞》に注目すると、とてもよい勉強になる。特に2番目の "while" だ。

Israel says it likely killed Shireen Abu Akleh but it won’t charge the soldiers with any crimes. This is what life is like for Palestinians under Israel’s brutal occupation. They are gunned down in front of the world while their killers go unpunished.

最後の文は、意味としては「彼ら・彼女ら(パレスチナ人)は世界の目の前で銃撃されて倒され、そして彼ら・彼女らを殺した側は罰を受けることもなく自由に歩いている」ということである。

この英文の "while" は、私を含む日本語母語話者が普通に英語を書こうとするとandを使いがちなところなのだが、《等位接続詞》のandは情報に強弱をつけずにただべたべたと並列することしかできないので、小さな子供が「えっと、えっと」と言いながらとにかく言いたいことは全部言おうと努めているときの文体になってしまい、よって「幼稚」な印象を与えがちである。大人が物を考えて(思考して)から言葉を発しているという印象にはあまりならない。そういうときに、情報に強弱をつける役割を持つ《従位接続詞》を使いこなせると、「ちゃんと考えてから言葉にしている」ということを示せる。アイマンはこの点、完全にぬかりなく、立派な英文を書いている。これは、このまま紙に書いて壁に貼っておいてもよいくらいの文だ。いわゆる「復文」(英文を日本語にし、その日本語から元の英文を復元するという作文compositionの練習法)の素材としてもおすすめである。

 

続いて、イスラエルの法律家や学者らが設立した人権NGO、ベッツェレムのツイート: 

ツイート末尾の ">" の記号は、「このあとに続きがある」ことを示すだけのTwitter独自のものなので、ここでは度外視してよいが、その他の記号類は丁寧に見ていこう。

まず最初の文: 

B'Tselem in response to the military's announcement on the killing of Shireen Abu Akleh:

※記号は太字にするだけでは見づらいので色をつけていく。以下同

この文末の《コロン》は、「このあとに引用が来ます」ということを知らせる記号である。次のような例と同じだ。

これはミケル・アルテタが「いいかみんな、マンチェスターはいつも雨だから、スプリンクラーをオンにして練習する」と言っている、というジョークのツイートである。その「~と言っている」をコロンを使って示しているのである。

このコロンは新聞の記事見出しなどにも使われるし、台本形式で会話を書き留めるときにも使う。次のツイートは、サンドイッチ店サブウェイの店員と筆者とのやり取りを書き留めたツイート。本筋とは関係ないけど、ピリオドを使わない記述というスタイルを取っていることも注目に値する。

閑話休題。ベッツェレムのツイートの第2文: 

It's not an investigation, it's whitewash; it was no mistake, it's policy.

ここでは《セミコロン》が2文をつなぐ役割で使われている。

こういうセミコロンは「そして」とか「すなわち」とか「一方で」というニュアンスを、言葉を使わずに添える役割がある。ここでは「そして」の意味合いだろう。

なお、セミコロンでつながれている2つの文はややイレギュラーな形というか口語体で、接続詞を使わずにコンマで2文を並べるというスタイルになっている(あるいは「ピリオドを使わずにコンマでゆるく区切ってある」と解釈することもできる)。この文体はロジックを不明瞭にしてしまうので、論文や報告書などでは避けなければならないが、口から言葉が出るときの調子をそのまま文字化しているようになるので、感情を伝えるには適している。スローガンなどにもよく用いられる形である。

文意は「これは捜査ではない。ホワイトウォッシュである。そして、これは間違ってやってしまったというものではない。そのように意図された政策である」。

 

ベッツェレムのツイートはまだこの先も読むべきなのだが、あいにくここで4500字を軽く超えているので、続きはまた次回に。

※4600字

https://twitter.com/AymanM/status/1566818136610979846



 

 

 

 

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