今回は、前回の続きで、英国のエリザベス女王の葬儀にアイルランド島から参列した人々についてのベルファスト・テレグラフの記事から。前置きは前回のエントリを参照。
記事はこちら:
前回は書き出しのパラグラフを読んだので、今回はその後を読んでいこう。
この後の部分は、実務的な文章にありがちなパターンで、長く見えるけれど実は単なる羅列であって構造を取るのは難しくない、という形である。
US President Joe Biden, New Zealand Prime Minister Jacinda Ardern and her Canadian and Australian counterparts, Justin Trudeau and Anthony Albanese, will attend. So too the leaders of most Commonwealth countries.
High-profile guests from Northern Ireland will also be present, ranging from political and religious leaders to local recipients of the Queen’s Birthday Honours.
ここで注目しておきたいのは、「出席する」を意味する2つの表現だ。太字で示した "attend" と "be present" である。これら2つの表現は相互に置き換え可能である。ここでは自動詞の用法で、他動詞的に「~に出席する」と言いたい場合、attendは他動詞でも使えるのでそのままでよいが、be presentの方は前置詞が必要となる。次のように。
I attended the meeting.
I was present at the meeting.
(そのミーティングには出席しましたよ)
ときどき混同されるのだが、これに似た意味のtake part in ~という表現は、これらの表現とは少しニュアンスが異なる。take part in ~は、文字通り、自分のpart (役割) がある場合にしか使えないので、葬儀に参列するようなときには使わない。ミーティングへの出席なら使う。こういったことを考えずにやみくもに「意味(に見えるもの)」だけを暗記しても、「使える英語」にはならない。
他、語彙的なことでは、"New Zealand Prime Minister Jacinda Ardern and her Canadian and Australian counterparts, Justin Trudeau and Anthony Albanese" の部分にあるcounterpart(s) という語は、学術論文にはほとんど出てこないかもしれないが、報道記事などを読むならば必須の単語だ。ここにあるように、異なる国や団体での同じ地位の人のことを表す。「A国の首相は30代で、B国のcounterpartも40代と若い」という場合は「B国の首相も」という意味だし、「うちの会社の社長は大阪出身で、今回の取引先3社のcounterpartsもみな近畿地方の出身である」ならば「3社の社長はそれぞれ」といった意味になる。
また、上で引用した部分の第2文:
So too the leaders of most Commonwealth countries.
これは "So too do the leaders of most Commonwealth countries." のdoが、わかり切っているので省略されてしまっている形で、意味としては "The leaders of most Commonwealth countries will attend, too." である。
引用部分の第2パラグラフ:
High-profile guests from Northern Ireland will also be present, ranging from political and religious leaders to local recipients of the Queen’s Birthday Honours.
太字にした《ranging from A to B》は、現在分詞を使った表現だが、これはこれで熟語みたいな感じで覚えておくといろいろ使えて便利だ。特に学術論文で数値を挙げて説明するときによく用いられる。
a variety of food, ranging from bread, biscuits and pasta to cooking oil
(パンやビスケット、パスタから、食用油まで、さまざまな食料)
このrangeは自動詞で、「(範囲が)及んでいる」の意味。
The participants' ages ranged from 18 to 25.
(参加者の年齢は、18歳から25歳だった)
上記の文の意味は、「また、北アイルランドからは、政界および宗教界の指導者たちから、女王の誕生日叙勲を受けた地元の人々まで、高名な招待客が参列することになっている」。
その次の文もまた、学術論文で事項を列挙するときにも使われる表現で、ここではセミコロンが用いられているが、本来コロンを用いる箇所なので*1、コロンに置き換えてみると:
The leaders of the five main parties here: Sir Jeffrey Donaldson (DUP), Michelle O'Neill (Sinn Fein), Naomi Long (Alliance), Doug Beattie (UUP) and Colum Eastwood (SDLP) will all be present.
太字にするだけでは見づらいから赤い色を付けたが、これは項目を列挙するときに使う記号だ。同じ形式で別の例を考えてみると:
Five cities have been selected: Paris (France), London (England), Berlin (Germany), Madrid (Spain) and Rome (Italy).
セミコロンを使うとしたら下記のように使うのが本来だ。
Five cities have been selected: Paris, France; London, England; Berlin, Germany; Madrid, Spain; and Rome, Italy.
みなさんお手持ちの英和辞典の語義の表記でも、こういうコロンとセミコロンが使われていることは確認できると思うので見てみてほしい。
次のセクション。
キャプチャ画像内の第3パラグラフ。《時制の一致》に注目して見てみてほしい:
Mr Martin said that he and Mr Higgins would come to London for the late Queen's funeral "reflecting that admiration and respect" that people around the world, particularly in Ireland, had for her.
この文は、太字にした2語がきれいに時制の一致をしている。2番目の太字箇所の "would" は、that節内のwillが、主節の動詞のsaidの時制に合わせて過去形になったものである。
ちなみに、thatも2つあるが(下線部)、最初のthatは「あの~」の意味で、2番目のは《関係代名詞》で、文意は「マーティン首相は、世界中の人々、とりわけアイルランドの人々が故エリザベス2世に対して抱いていた『あの賞賛の気持ちと敬意を反映して』、首相とヒギンズ大統領は葬儀のためにロンドンに赴くのだと述べた」。
前回書いたように、マーティン首相は、アイルランドのシステムから「英国王」を抹消したエイモン・デ・ヴァレラが創設したガチガチの共和主義の政党フィアナ・フォイルの現在の党首である。
少なくとも政治の最前線では、「アイルランドは反英」というのは、古臭いステレオタイプになりつつあるのだ。それが心情的に許せない人々は多くいるかもしれないが。
さて、話を英文法に戻して、最後の文:
In an interview BBC Radio 4, he said that the Queen's 2011 visit to Ireland was "the culmination of years of peacebuilding" and will be remembered as it "opened up a new chapter" in Anglo-Irish relations.
これがなかなかの難物で、私が学生の時にこんなのを目にしていたらパニクって泣いていたと思うが、《時制の一致》がぐだぐだになっている。
結論からいえば、これは《非標準》と言える形で、「文法警察」みたいな人がチェックしていたら修正させられていたに違いないが、「時制の一致」というやつは、書き手の気持ちがどこにあるか次第で変わりうるということを示している。
ここでは、マーティン首相のBBC Radio 4でのインタビューは、ついさっき終わったばかりなのだろう。だから、「首相はこう発言した」は "he said" と過去形なのだが、その発言内容は、あたかも今発言されたもののように、時制の一致の影響を受けない形で書かれている。この文の書き手の意識が、首相の発言内容を完全に過去のものとする前に文が書かれたためであろう。
本来、がちがちに規則を当てはめるならば、次のようになるはずである。
... he said that the Queen's 2011 visit to Ireland was had been "the culmination of years of peacebuilding" and will would be remembered as it "opened up a new chapter" in Anglo-Irish relations.
英語にはこういう柔軟性(と言っていいのかな)があるということは、学術論文を書くときには前提としなくてよいが、人の血が通った人の息遣いがある文章を読むときには、知っておいてよい。
既に4700字を超えて、当ブログの規定文字数を大幅に超過しているのだが、最後にひとこと。
今回見たベルファスト・テレグラフは北アイルランドの新聞であり、この記事の見出しも「北アイルランドからの参列者」だが、この事例のように、今ではこの新聞が特に明確な区別をせずにアイルランドのボーダーの向こう、26州のことを扱うことも増えてきている。
アイルランドは何もボーダーの北と南で対立しているわけではない、ということが、この例でよくおわかりいただけるのではないかと思う。