このエントリは、2021年4月にアップしたものの再掲である。
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今回の実例は、Twitterから。
いきなり「12クラブが署名しましたよ。ファンのみなさん、楽しみが増えてよかったですね」って話になってて、実際の現場の責任者であるチームの監督たちが「いや、そんな話、全然聞いてなかったっすね」「報道で知りました」と反応し、一般のサポーターから往年の名選手たち、さらにサッカーになど関心がないやんごとなき階級のボリス・ジョンソン首相までが一丸となって明確に反対の意思を示したことで、例の「欧州スーパーリーグ」は秒殺されたようだが(イングランドの6クラブが全部抜けてしまったし、ドイツのブンデスリーガの某強豪をはじめとする未参加のクラブがいくつも参加しないと言明しているので、リーグとして成立しない)、レアル・マドリのペレス氏は「なあにまだまだ終わらんよ」と意気軒高なようだし、実際、オーナーたちにああいう発想を持つに至らせた原因というか環境は何も「解決」されていないので(UEFAもUEFAである)、いずれまたゾンビのようによみがえってくるのかもしれない。
というわけで、各クラブも声明を出したし、いくつかは解釈の余地のないほど率直に「ごめんなさい」しているし、ひとまずは一件落着の感じだが、「これで終わった」と考えるのも楽観的過ぎるかな、というところだろう。
さて、この騒動がピークにあったころ、「スーパーリーグ」の12クラブのうち半数の6クラブを出してしまったイングランドでは、「パンデミックによる収入減をカバーしなければならないビッグクラブは、自分たちのポテンシャルを最大限に引き出して挽回する必要があり、そのために、世界中に名の知れたビッグクラブ同士の対決が頻繁に楽しめるスーパーリーグならば、世界各国に放映権が売れて、何もかもうまくいく」的な絵に描いた餅が喧伝され、ほとんど誰も聞く耳など持っていなかったかもしれないが、「欧州の外のサッカーファンは、とにかくレアルとユーベとシティを見たがっている」的な雑な話になっていたようだ。
そういう雑な話が「常識」みたいになってしまうのを防ぐためには、SNSという、個人の発言で構成される場はとても有効で、何か意見があればとにかく書いておくだけでも少しは違ってくるだろう。
今回の実例は、日本でのそういった個人の声に直接、言語障壁なしに接することができるスポーツライターのベン・メイブリーさんのツイートから。ベンさんは英国出身で、大学で日本文化を研究し、大阪府に住んでスポーツ番組でコメンテーター・解説者として活躍している。Twitterは必要に応じて日本語と英語の2言語で書かれているが、今回みるのは英語での文面(そりゃそうだ、このブログで日本語の文面を取り上げることはブログのコンセプトから外れてしまうのだし)。
@GreggBakowski Hi Gregg! Of great comfort to me has been the overwhelmingly very negative reaction to the Super League I’ve had from Premier League fans here in Japan.
— Ben Mabley(ベン・メイブリー) (@BenMabley) 2021年4月20日
Even from afar, they love the history, culture, and local identities associated with the Premier League.
このツイートの宛先(メンション先)は、英(イングランド)のガーディアンの記者である(ベンさんはガーディアンにも寄稿している)。 文法の実例として見るのは、最初の呼びかけのあとの第一文。
Of great comfort to me has been the overwhelmingly very negative reaction to the Super League I’ve had from Premier League fans here in Japan.
この文、主語がどれで述語動詞がどれか、一読しただけで判断できただろうか。
文頭が "Of" という前置詞だから、このofで始まる意味のまとまり(センス・グループ)の語句は主語にはならない。
ではこれは副詞句かと思って読んでいくと、この意味のまとまりの次にあるのが "has been" という、どっからどう見ても述語動詞にしかならなさそうな語句である。
主語もないのに、述語動詞が出てきた……ということは、これは《倒置》である。
つまり、"has been" の後ろに主語がある、ということになる。
そうすると、この文は次のような構造とわかるだろう。
Of great comfort to me has been the overwhelmingly very negative reaction to the Super League I’ve had from Premier League fans here in Japan.
太字が述語動詞、下線部が主語である。このように、主語がとても長いので、後回しにするのが自然だったのだろう。
で、文頭の "Of great comfort to me" は、基本的に、《of + 抽象名詞》の形になっている。これは「形容詞と同じ意味を持つ」と参考書などに書いてあると思う。
a man of importance = an important man
今回の実例での "of comfort" をこの例にならって形容詞で書き換える必要はないのだが、意味としてはこの《of + 抽象名詞》を想起しておきたいところである。
"of comfort" の用例は、例えば手元にある『ジーニアス英和辞典』(第5版)では、"be of little comfort" (「ほとんど慰めにならない」)というものが紹介されている(p. 420)。
さて、この長い主語だが、スラッシュを入れると:
the overwhelmingly very negative reaction / to the Super League / I’ve had from Premier League fans here in Japan.
"to the Super League" と "I’ve had" の間には関係代名詞の目的格が省略されており(《接触節》の構造)、「スーパーリーグに関し、ここ日本のプレミアリーグのファンたちから私が得ている、圧倒的に非常に否定的な反応」と直訳される。
次の文:
Even from afar, they love the history, culture, and local identities associated with the Premier League.
太字で示した "associated" は《過去分詞》で、直前の "the history, culture, and local identities" を後ろから修飾している(後置修飾)。「プレミアリーグと関係づけられている、歴史、文化、および地域のアイデンティティ」と直訳される。「遠く離れた日本のファンたちの場合も、イングランドのプレミアリーグのクラブをサポートするのは、(イングランドのファンたちと同じように)歴史や文化、地域との一体感といったものがあるからだ」ということだ。
※3140字