今回の実例は、Twitterと報道記事から。
現在、テレビ局のITVで自身の名前を冠した番組を持っているロバート・ペストンは、Twitterを積極的に使っている英国のジャーナリストのひとりで、よく、長いスレッドの形式で投稿している。彼は今回も、リズ・トラス内閣のぐだぐだとどたばたに際して何度か長いスレッドを投稿している。
今回見るのは、そのひとつ。誰かがThreadReaderで作成してくれたまとめのページが読みやすいので、そこにリンクする:
書き出しの部分(スレッドの最初のツイート)から:
書き出しの文:
I completely understand the argument that it would be insane - contempt for the way we do democracy - for a political party to change its leader TWICE after a general election.
少し長い文だが、ぱっと見ただけで文の構造が取れただろうか。
構造を取るためにまずできることは、《ダッシュ》で挟まれた部分が《挿入》であると見抜いて、それを外して考えることだ。そうすると:
I completely understand the argument that it would be insane - contempt for the way we do democracy - for a political party to change its leader TWICE after a general election.
太字にした "that" と、下線で示した it, for, toが浮き上がって見えるはずだ。
この "that" は《同格》の節を導くthatである。
《同格のthat》については、当ブログでは何度も取り上げてきたのだが、「《that節》という~」という構造を作る。
「~」の部分に来るのは名詞で、どの名詞でもいいというわけではなく、ある程度決まっている。「テストが学力が向上させるという考え」という言葉は自然でどこでも使えるけれども、例えば「テストが学力が向上させるという部屋」では意味不明か、あるいは意味が成立するとしてもごく限られた場合、特定の文脈の中だけだろう。
《同格のthat》が使えるのは前者のような、どこでも通じるかたちになる場合だけで、学習用の英和辞典でthatの項をよく読めば、「~」の部分にどういう名詞が来るか、主なものが列挙されている。『ジーニアス英和辞典』第5版では、2154ページにある。
ペストンのこのツイートにある "argument" はその筆頭格で、《argument that ~》の形で「~という議論」の意味を表す。
さて、そのthat節の中身だが:
that it would be insane - contempt for the way we do democracy - for a political party to change its leader TWICE after a general election.
《it is ~ for ... to do --》の構文で、be動詞のisが "would be" というかたちになったもの。"TWICE" と全部大文字で書かれているのは《強調》のためだ(大声で言っている感じ)。「政党が、総選挙後に2度も党首を変えるのは、常軌を逸したことであろう」。
ここにいったん外した《挿入》の要素を入れ込んで、文全体の意味を取ると、「政党が、総選挙後に2度も党首を変えるのは、常軌を逸したこと――私たちが民主主義を実践する方法に対する軽侮――であろうという議論を、私は完全に理解している」。
ペストンは最初にこう書いて、次にそれに対する《サポート文》となる文を挟んで、2番目のツイートで "But" と論を展開している。この英語の文章のパターンもよく見ておくとよい。
さて、《同格のthat》をもう一例見ておこう。今度は報道記事というかガーディアンのライヴ・ブログから。クワシ・クワルテング(クワーテング)前財務大臣が更迭された日の、更迭確定直前のエントリ:
A No 10 source has said they are not commenting on reports Kwasi Kwarteng is due to be sacked as chancellor, the BBC’s Chris Mason has said.
ここにも《同格のthat》の構造があるのだが、thatが省略されているからそれがわかりにくい。私が大学受験生のとき、こういう文に遭遇したら「大事なものを省略しないでよ」と泣いていたものだが、泣いてばかりいたって読めるようにはならない。他の部分から、「ああ、ここにはthatが省略されているな」と判断できるような読解力をつけなければならない。
省略されているthatを補うと、この文は次のようになる。
A No 10 source has said they are not commenting on reports (that) Kwasi Kwarteng is due to be sacked as chancellor, the BBC’s Chris Mason has said.
おわかりだろうか。"reports that ~" で「~という報道」である。
文意は「首相官邸筋は、クワシ・クワルテング財務大臣が更迭される見込みという報道について、コメントはしないと述べた、とBBCのクリス・メイソンが伝えている」。
この《同格のthat》は、構造を取らず、単語だけ拾って適当につなぎ合わせて解釈できている気になっていると、思わぬ誤訳をすることがある。その話はまた改めて書こう。
※2770字
※『ジーニアス英和辞典』は、文中では出典として第5版を埋め込んだが、今から入手するのなら、来月上旬に出る第6版を待った方がよいだろう。大幅な改訂がされている。
今まで紙の英和辞典というものを持ったことがないが、とりあえず手にしてみたいという方は、旧版が中古で安く出ているのを使ってみるのもよいと思う。旧版だと最新の語が収録されていないという弱点はあるが、ネットが使える現在、最新の語が入っているかどうかはあまり気にしなくてもよいだろう。『ジーニアス英和辞典』の第4版は、内容はとてもよい。新古書店で数百円で出ているのをときどき見る。そういうのを使って紙の辞書に慣れてきたら、新しい版を買い直すとよい。