Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

正確な内容把握のために-ing形の判別が必要な文, 前置詞のas, 前置詞+動名詞, 見た目では構造が判断できない例, make + O + 動詞の原形, など(ロシア人外交官が亡命した)

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今回の実例は、亡命したロシア人の手記から。

米国に、Foreign Affairsという雑誌がある。雑誌といっても外交・国際関係・国際政治の専門誌で、掲載されているのは日々の動向を報じる報道記事ではなく、専門家や識者による分析記事や学術的な論文が主であり、専門家や外交官、政策決定者の間で非常に強い影響力を持つ。国際政治学者のような人たちは当然読んでいる雑誌のひとつだ*1。発行元は外交問題評議会(CFR)である。日本では『フォーリン・アフェアーズ・リポート』として日本語化の上で発行されている。日本語版は図書館に入っていることがあるほか、大型書店で実際に手に取って買うことができるはずだ。

Foreign Affairsそのものはしっかりお金を払って購読するような雑誌で、私はがっつりは読んでいないのだが(仮に購読したところで、量的に読み切れないのは明白である)、誰でも無料で受け取ることができるニューズレター(日本式に言えば「メルマガ」)だけは購読している。雑誌本体の購読の勧誘とあわせて、そのときどきの必読記事を教えてもらえるのがとてもありがたい。

今回実例として見るのは、今週送信されてきたそのニューズレターで知った記事。この2月のロシアによるウクライナ侵略で職を辞して亡命した、元ロシア外交官の手記である。

というと難しそうに思われるかもしれないが、基本的に論文ではなく、報道記事とも違った「読み物」のスタイルの記事で、難関大を目指して受験勉強をしている人ならば、単語さえ何とかなれば(つまり辞書があれば)読めるだろう。読んで内容を把握した上で、筆者の述べていることが理解できるかどうかはまた別だが。

記事はこちら: 

www.foreignaffairs.com

筆者はボリス・ボンダレフ氏 (Boris Bondarev)。2002年にロシア外務省に入省して外交官となり、この2月にウクライナ侵攻が始まったときは、スイスのジュネーヴにある国連事務局で仕事をしていた。

文章はまず、今年2月24日に何が起きて、ボンダレフ氏が何を思い何を考えたかということから書き始められている。

実例として見るのは、その少し下の部分: 

https://www.foreignaffairs.com/russian-federation/sources-russia-misconduct-boris-bondarev

まず、画像内の最初の1文: 

Resigning meant throwing away a twenty-year career as a Russian diplomat and, with it, many of my friendships.

つい先日、動詞の-ing形についてという、当ブログから見れば基本中の基本すぎて説明もしていなかったことに関する説明のエントリを立てたが、ここで太字にした2つの-ing形について、それがどういうものかを説明できるだろうか。

別に文法用語は使わなくてもいいが、この程度のことが説明できなければ、英語は読めるようにも話せるようにもならない。

「ネイティブ(英語母語話者)は習わなくてもできる」と言われていることのほとんどすべてはその言語で生活する環境の中にいるからできるのであり、外国語として、1週間のうち定められた時間しか英語に接する機会のない私たちはそうはいかない。細かな規則は、私たちが漢字の読み書きを習うときのように、単なる知識として、いちいち習わなければならない。そういったことについて、「これは自分で説明できるだろうか」と考えてやってみることが、確認のためのよい機会となる。

言うまでもない当たり前のことだが、こういったことを意識しているかどうかでインプットできる量も、アウトプット可能にしていける量も変わってくるので、ぜひ意識してみてほしい。

さて、十分に間隔があいたところでいうと、この文例ではresigningもthrowingも、両方《動名詞》である。throw away ~は句動詞(連語)で「~を投げる」から転じて「~を捨てる」の意味なので、ここはそれぞれ「仕事をやめること」、「~を捨てること」という意味。

「捨てる」の目的語である「~」の部分は、"a twenty-year career as a Russian diplomat and, with it, many of my friendships." で、これは単語を拾ってつなぎ合わせていくだけでも何となく意味が取れてしまうかもしれないが、正確に読むように心がけよう。特に注意すべきは《前置詞のas》で(というか「このasはどういう意味だろうか」と考えるところから始めるべきだが)、この部分の意味は「ロシアの外交官としての20年におよぶキャリアを、そしてそれと一緒に、私と友情関係で結ばれた人々の多くを」。

本来「友情」という意味の抽象名詞であるfriendshipが複数形になって具体的な「友情関係(にある人)」の意味になっていることにも注意したい。

次の文: 

But the decision was a long time coming.

さっき「この-ing形は動名詞でしょうか、現在分詞でしょうか」みたいな話をしたばかりで恐縮だが、この "coming" は何であるのか、私は知らない。というのは、このフレーズは最初から熟語(慣用表現)として覚えてしまったからだ。高校のときに学校で使っていたリーディング教材で、本文脇で語注がつけられていたのだったと記憶している。意味は「待望の(もの)」といったことで、起きることがわかっていた出来事がついに起きた、といったときに使う。long time in comingと、comingの前にinのある形もあるそうで、ということはこのcomingは動名詞だろう。ウェブ検索してみたところ、下記のサイトに例文などが多く掲載されていた。

https://www.wordsense.eu/a_long_time_coming/

というわけでこの文は、いろいろな訳し方があると思うが、私なら「いずれこうなることはずっと前からわかっていた」みたいな感じで訳すだろう。

この次、2002年に入省したときはわりと開明的な時代で、よその国の外交官と良好な関係のうちに仕事ができた、という一文を挟んで: 

Still, it was apparent from my earliest days that Russia’s Ministry of Foreign Affairs was deeply flawed.

《形式主語》のitの構文で、真主語はthat節。「ロシアの外務省はひどく欠陥のあるものだということは、入省したてのころから明白だった」。

文頭の "still" は「それでも、しかし」の意味。

  I don't mind your smoking. Still, I would suggest that you quit it for your health. 

  (別に喫煙したってかまわないよ。それでも、健康のために禁煙したほうがいいと思うけど)

次: 

Even then, it discouraged critical thinking, and over the course of my tenure, it became increasingly belligerent.

太字にした "it" は、前出の "Russia’s Ministry of Foreign Affairs" を指す。この点、前回のエントリで見たように、イギリス英語ならtheyを使うかもしれないが、Foreign Affairsはアメリカの雑誌でばりばりのアメリカ英語なので疑問の余地なくitを使っているということだろう。「そのころでさえ、ロシア外務省は批判的思考はなるべくさせまいとしていたし、しかも、私が勤めていたあいだに徐々に外部に対して敵対的になっていった」。

次: 

I stayed on anyway, managing the cognitive dissonance by hoping that I could use whatever power I had to moderate my country’s international behavior.

この文にも-ing形が2つ出てくる。今度は、それぞれが現在分詞なのか動名詞なのかを考えなければ、正確な読解はできない。逆に言えば、これが正確に読めていれば、それぞれが現在分詞なのか動名詞なのか、正しく判断できているということになる。

最初の-ing形、"managing" は《現在分詞》で、これは「私はmanageしながらstay onした」という意味の《分詞構文》である。

managingの目的語になっている "cognitive dissonance" は心理学方面の専門用語で「認知的不協和」と訳されるが、簡単にいえば「自分の中に矛盾を抱えた状態」「心の葛藤」といった意味になる。最近流行っている言い方なので、入試に出てくる長文の中にも使われていたりするかもしれない。

その次の-ing形である "hoping" は、直前に前置詞のbyがあることから判断は容易にできると思うが、《動名詞》である(《前置詞+動名詞》の構造)。"by hoping ~" で「~と願うことによって」。

「~」の中身であるthat節だが: 

that I could use whatever power I had to moderate my country’s international behavior

下線で示した "whatever" は形容詞(というか《関係形容詞》*2)で、「どんな~でも」の意味。ここでは "whatever power" で「どんな権限でも」。

そのあとは、ぱっと見、 "I had to moderate..." という意味のまとまりがあるかのように見えてしまうかもしれないが、そうではなく、"whatever power I had / to moderate..." という区切りである。これは形式からは判断しにくいことで、意味を取らないと判断はできなかろう(今の「学校で訳読をやっていない」という世代の人たちは、こういうところが弱いのではないかと思う)。"to moderate" は《副詞的用法》のto不定詞で、「~を緩和・抑制するために」。

というわけで、that節の意味は「自国の国際的なふるまいを抑制するために、私が持っている権限ならどんな権限でも使うことができると」。

筆者のボンダレフ氏は、自国が誤情報満載で自己正当化している状況をおかしなことだと思いつつ、それが自国、というか20年も過ごした自分の勤め先であるがゆえに内心、大変な葛藤を抱えていたが、「なあに、ひどくなったところで自分の仕事上の権限を使って抑制していけばいいのさ」と考えて、ゲームから下りずにいた、ということである。

外務省からの亡命者というと前々から他国とつながっていた可能性を疑われるのがつきものだが、ボンダレフ氏はおそらくそういう事情があっての亡命ではないのだろう。

そしてこのパラグラフの最後に、"but" による論理展開がくる。《A but B》の論理構造では、AよりもBの方が重要であり(「今日は日差しはたっぷりあるけれども、風が冷たくて寒い」と天気予報が言う場合、伝えたいのは「日差しがたっぷり」ではなく「寒い」であり、「暖かくしてお出かけください」と続くだろう)、それはこのように、一定の長さがあるパラグラフの中で最後に短い文がButでつながれて出てくるという構造になっている場合も同じである。

But certain events can make a person accept things they didn’t dare to before.

太字にした "can" は「~することができる」が「~しうる」「~することがある」の意味で用いられているもの。

下線で示した部分は《make + O + 動詞の原形》の構造で「Oに~させる」。何らかの強制力を伴う場合に用いる表現である。「やむなく~せざるをえなかった」的な意味。

最後のところ、"things they didn't dare to before" のところは単語だけ拾っても意味が取れないだろう。まず、大きな構造としては《接触節》で、関係詞が省略されていると考えてもよい。"dare to" の直後には動詞が省略されている(繰り返しを避けるため)。つまり、次のような構造だ。

... make a person accept things that they didn’t dare to accept before

文意は「しかし、ある種の出来事は、ひとりの人間に、以前は受け入れようとはしなかったことを受け入れさせてしまうことがある」。これをパラグラフの最後に置いて、次のパラグラフでさらに、筆者を翻意させた "certain events" のことを展開していくのである。

なお、この文は、難関大学受験(特に文系)ではこういうのが読めるか読めないかが分水嶺となるというような必須レベルの英文だ。かなり難しいかもしれないが、文意を読んで納得して終わりにするのではなく、じっくり読み返して構造を見てもらいたいと思う。

 

今回、途中で当ブログ規定の4000字を突破してしまったので最後は駆け足になったが、こんなところで。ボンダレフ氏の手記は、ここまでが導入部で、この先が本編なので、あとはじっくり読んでいただきたいと思う。手記の後半はかなりハードな内容になるが、英文のレベルはここで見てきたようなレベルで、決して平易ではないにしても、特に難しくもない。ロシア人外交官というインテリが書いた文に、Foreign Affairsという専門家向けの媒体の編集者が手を入れた文はこうなのだ、という目安にもなるだろう。逆に言うと、このくらいの英文は自力で書けるようにしておきたい、というところなのかもしれない。レベル高いな。

 

※6000字

 

 

 

*1:例の、アレキサンダー・マックイーンの黒ワンピがご自慢の方がお読みかどうかは知らないが、少なくともこの雑誌を読んでいたら、ワシントン・タイムズを「普通の保守派の新聞」と認識することはないと思う。

*2:「関係形容詞」という用語は、大学受験生は特に覚えなくてもよいと思う。学習英和辞典でwhateverの項を参照すれば説明があるのでそれを参照されたいが、要はwhatが疑問代名詞にも(What did you see?)、疑問形容詞にもなる(What colour was the car?)ということが、関係詞になっても引き継がれているだけである。気楽に考えてOKだ。

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