Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

感嘆文, 省略の構文, it is ~ that ...の形式主語の構文, 同格, など(辞書のコリンズの選んだ「今年のことば」)

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今回の実例は、言語系の解説ブログから。「ゆる何とか」系じゃなくてガチなところのブログだが、今回みる記事は軽妙で読みやすいので安心してほしい。

2か月で1枚のカレンダーが最後の1枚になる時期になると、「今年もこの季節かぁ……」という小さなニュースが増えてくる。英国、というかイングランドでは、11月5日のガイ・フォークス・デーを前に、「焚火を組み上げたら、当日点火する前に必ず、野生のハリネズミが中に潜り込んでいないかどうか、よく確認しましょう」という呼びかけがなされるようになる(ここ15年かそこらの間にイングランドでもハロウィーンがイベントとして行われるようになっているそうだが、本来、この時期のイングランドハロウィーンではなくガイ・フォークス・デーである)。ハロウィーンの本場、アイルランドの北の方からは、「孫にねだられて」といった様子でゾンビ化しているベテラン政治評論家のセルフィが流れてきたりもする。

「今年のことば」も、そういった風物詩的なニュースのひとつだ。

英国では、いくつもある辞書出版社が、それぞれ「今年のことば」を選んで発表する。今日、ニュースになっていたのはそのうちのひとつ、コリンズのものだ。コリンズといえば『コウビルド英英辞典』である。

コリンズの辞書は、『コウビルド』をはじめいくつかあるが、同社のサイトで串刺し検索ができるようになっている。しかも利用は全部無料である。登録も必要ない。ぷらっとっと立ち寄ってさくっと検索して、語義の定義文や例文をチェックしていける。

さて、そのコリンズで、"permacrisis" という語が「今年のことば」に選ばれたというニュースがあった。

www.bbc.co.uk

permacrisisは、permanentのpermaとcrisisを合わせた造語で、「もうずっと危機」と直訳されるが、要は「次から次へと押し寄せてくる危機」のことである。今年の英国のニュースを見ていれば、説明は不要だろう。新型コロナウイルスパンデミック、ロシアによるウクライナ侵略、夏のとんでもない暑さ、嘘まみれのボリス・ジョンソンと、リズ・レタス・トラスに、スーエラ・クルーエラ・ブラヴァマン……

コリンズの「今年の言葉」には、このpermacrisisのほか、ロシア語表記からウクライナ語表記に変更されたKyivや、ジョンソンのpartygate, ほんの数年のうちにすっかり常態化してしまった「フードバンク」に続いてこの冬にあちこちで試みられるwarm bankといった言葉が入っている。それらを解説しているブログを、今回は読んでみよう。記事はこちら。

blog.collinsdictionary.com

実例として見るのは、第2パラグラフから: 

https://blog.collinsdictionary.com/language-lovers/a-year-of-permacrisis/

キャプチャ画像内の最初の文: 

How fitting, then, that 2022’s Word of the Year is permacrisis, a term that perfectly embodies the dizzying sense of lurching from one unprecedented event to another, as we wonder bleakly what new horrors might be around the corner.

ちょっと長いね。

この文、《省略》のある《感嘆文》*1だということは読めただろうか。つまり: 

How fitting it is, then, that 2022’s Word of the Year is permacrisis, ...

と、太字の斜字体で補ったものが省略されている。これは次のような例と同じだ。

  How nice it is!

  → How nice! 

よくある形だ。

さらにこの文は、ここで省略されているitが《形式主語》で、真主語はthat節という構文だ。つまり: 

   How nice it is that you're finally coming back after three years!

こういう文の、it is が省略され: 

  How nice that you're finally coming back after three years!

  (3年ぶりにあなたが帰ってくるのは、なんとすばらしいことでしょう)

というふうになっている。

"How fitting, then, ..." のthenは《挿入》の形で、訳すときは「ということは、~は何と似つかわしいことか」と、thenを最初に置いた文と同じように扱ってかまわない。

その後の部分: 

... permacrisis, a term that perfectly embodies the dizzying sense of lurching from one unprecedented event to another, as we wonder bleakly what new horrors might be around the corner.

太字で示した部分は全部、直前にある "permacrisis" の説明を、コンマでつないだ《同格》の形で並べてあるもの。

分量が多いので気圧されるかもしれないが、"my friend, Ken" (「私の友人のケン」)というのと同じ構造だ。

青字で示した "that" は《関係代名詞》で主格(動詞はembodies)。朱字で示した "from one ~ to another" は「~が次から次へと」の意味の熟語で、"one ~ after another" と表してもよい。紫の字で示した "as" は《接続詞》で《時》をあらわしている。

意味は、多少意訳しないと日本語として文意が通じなくなるので、原文との対照が容易なよう、なるべく直訳にしながら意訳すると、「次から次へと先例のないことが起きて、私たちがげんなりしながら、すぐそこにどのような恐怖が隠れていることやらと思うときに感じられる、めまいのするようなよろよろ具合を完璧に体現する用語であるpermacrisis」といった感じだ。

次の文はコリンズ辞書での定義文を紹介して、納得感が高いということを言っているだけで特に文法ポイントはないので先に行く。

3番目の文(この文は、大学受験のレベルを超えている): 

Much more of this and we might have forgotten what stability and security ever felt like.

《命令文, and ...》(「~すしなさい。そうすれば、…する」)という形は、誰でも知っていると思う。Turn left, and you'll see a bank. On the opposite side of the road is the restaurant you're looking for. (「左に曲がると、銀行があります。お尋ねのレストランはその向かい側にありますよ」)といった形の文だ。

ここではそれに似た構文で、《名詞句 and ...》となっている。主語が(youではなく)weなので内容的には命令文ではないのだが、あえてそうなるように書き添えれば、 "Let[Make] us have much more of this, and we might ..." ということになるだろう。

"much more of this" のmuchは比較級(ここではmore)を強める副詞で、この部分の意味は「さらにもっと多くのこれ」。文意は、「こんなことがまだまだ続くようなら、私たちは安定や安全というものがいったいどういうふうだったかを忘れてしまっているかもしれない」。ちょっとした《仮定法》でもある。

そろそろ上限字数的にやばい。2番目のパラグラフは、単語はやっかいかもしれないが、文法は大したものはない。読めば内容はとれるだろう。明確な文法ポイントといえるものには第1文の "given its all-consuming nature" のgiven(「~を与えられれば」→「~を条件とすれば、~を前提とすれば」)がある。

このパラブラフの第3文: 

It proves that the “-gate” suffix – made famous by the discovery of secret recordings in Washington DC’s Watergate Hotelstill has some life in it.  

ダッシュ》で挟んだ《挿入》も重要だが、それより注目したいのは、太字にした部分。「ずいぶん昔の時事的な表現だが、まだ死語になっていない」ということを英語でいうには、こう表現すればよいのだ、という点で、私も勉強になった*2

文意は、「そのことは、-gateという接尾辞が――米ワシントンDCのウォーターゲート・ホテルで秘密の録音が発見されたことで有名になったものだが――今もまだ、生命を持っているということを証明している」。

ウォーターゲート事件については、下記の映画がおすすめ。1本は古いもの、1本は新しいもので、どちらも見ごたえのある映画だ。

 

今回、コリンズによって選出された語は、まだほかにもある。しかしこの記事はすでに4500字を超えているので、それらについては次回に回したい。どういう語が選ばれたかは下記を参照。とてもわかりやすい動画は、コリンズのサイトのキャプチャである。

 

【追記】今日は元々、グレイスティール事件のことを取り上げようと思っていたのだが、韓国の首都であまりにひどい群集事故が起きてしまったので、人が死ぬ話・人が殺される話は避けることにした。グレイスティール事件については、またいずれ、機会があれば。

梨泰院で落命された方々を哀悼し、心からお悔やみ申し上げます。負傷された方々にはお見舞いを申し上げます。身体は無事でも心理的に傷を負っている方も多いと思います。心理的な傷は、現地から離れていても負うことがあります。ぼーっとしていても入ってくる情報が多いので、注意してください。映像や写真、音声はもちろん、文字情報にも気を付けてください。情報の入れすぎは、危険です。

 

 

 

*1:中学英語的に言えば、「感嘆文は必ず ! (感嘆符)で終わる」というのがルールだが、実際にはそうでないことも多い。

*2:いつも "It's still in use." とかの味気ない表現で済ませている。

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