Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

前置詞+関係代名詞, 現在完了の受動態,など(「イーロン・マスクとジャック・ドーシーは競合関係にあるのではない。協力関係にあるのだ」という解説)

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今回の実例は、専門的な知見を持つ人のブログにアップされた解説記事から。

先週末、英語圏の、特に「リベラル」な人々の間でよく見かける「Twitterはマスクに買収されたのでもうおしまいだ。これからはジャック・ドーシーの次の幕に期待しよう。ベータテストが始まったそうだから、登録しよう」みたいな意見……違うな、「意見」じゃない。でも何なのかがはっきりわからないので「記述」としか言えないか……について、次のようなエントリを立てた

一言でいえば、「マスクもドーシーも同じ穴の貉ですよ」ということだ。

hoarding-examples.hatenablog.jp

今回は、それについて、15年も前からジャック・ドーシー(Twitter創業者。っていうか元々のTwitterの「中の人」)を知っており、Twitterが立ち上げられて最初の外部APIにかかわった開発者で、現在は調査報道をしているデイヴ・トロイさんのブログでの解説を見てみよう。

たいへんな長文で、単に読むのにすごく時間がかかると思うが、目を通していただきたい内容だ。

記事はこちら: 

davetroy.medium.com

英語圏でよくあるQ&A形式(想定問答の形式)でまとめられた記事で*1、筆者が解説系のYouTuberだったら、このまま問答を音声&映像にしていただろうと思われる内容&語り口である。つまり、あまりがちがちに堅い記述ではない。がちがちに堅くはないが、記述はしっかりしている。このまま印刷できるタイプの文面だ。

英文法の実例として見るのは、書き出しの導入部から。

https://davetroy.medium.com/no-elon-and-jack-are-not-competitors-theyre-collaborating-3e88cde5267d

最初のパラグラフ: 

Elon Musk’s deal to buy Twitter has been met with surprise, derision, and gnashing of teeth — and an overwhelming amount of well-intentioned but poorly-informed commentary and analysis.

太字にした部分は《現在完了の受動態》で、下線部の《be met with ~》は「~を以て迎えられる」という意味の熟語。つまり、何かがあったあとの人々の反応が~なものだった、というときに使う。よくあるのはbe met with surpriseの形で、例えばおしどり夫婦として知られていた俳優カップルが破局したときの報道などでも多用される。

青字で示した "well-intended but poorly-informed" という表現はこのまま覚えておきたい。読むに堪える日本語にするのはここでは控えておきたいが(企業秘密)、「意図としては善意だが(悪意があるわけではないが)、与えられている情報がまずい人がこういうことを言っている」という場合に用いる。要するに、筆者の意図としては、「正確な情報を得ずにしゃべってる人がいっぱいいますよ」「ひょっとしたらあなたやあなたのお友達もそうではありませんか」という指摘である。

英語を書く必要がある人は、ハイフンを使って複合語になっているところも注意しておこう。略式の記述ならハイフンなしで "well intended but poorly informed" と書いてもいいし、実際にこういう略式の書き方が正式な書き方として指定されていることもあるかもしれないが、本来は、このようにハイフンを使う。

次の文: 

As someone who has followed the company closely since its inception and has had a chance to talk in depth about technical topics with Jack Dorsey and the company’s other founders over the years, I have a different view.

太字で示した "as" は、その後ろに続いているのが名詞句であって節ではないことから、迷う余地なく、《前置詞のas》と判断されなければならない。

その名詞句の部分が長くて、主節というか文の本体は、文の最後の5語だけである。

名詞句の部分: 

someone who has followed the company closely since its inception and has had a chance to talk in depth about technical topics with Jack Dorsey and the company’s other founders over the years

だらだらと長いが、構造は単純だ。"someone" に《関係代名詞》のwhoの節がくっついてて、「~な人物」。これに、さっき見た文頭のAsを加えて「~な人物として」。

このwhoの節が長くなっているのは、《等位接続詞》のandによる構造を含むため。andは2つあるが、2つ目のは "Jack Dorsey and the company's other founders" という単純な語句で(それだけでも十分に長いが)、これをthemに置き換えると次のようにすっきりする。

someone who has followed the company closely since its inception and has had a chance to talk in depth about technical topics with them

頭の中で、このようにすっきりさせたあとで、もうひとつの "and" の構造を見てみよう。このandの直後は "has had" となっているので、このandはその前にある《has + 過去分詞》とこれとをつないでいる。そういう目でこの節を見ると、"has followed" が目に留まるはずである。つまり、 "someone who has followed ... and has had ..." という構造だ。

ここまでの意味は「この会社(Twitter社)の発端から密にフォローしてきて、ジャック・ドーシーはじめ創業者たちと技術的なトピックについて深い話をする機会を得てきた人物として」となる。

そして最後の文:

Here’s a series of common questions regarding the deal and the relationship between Dorsey and Musk about which I see the most errors and misconceptions.

太字にした部分は《前置詞+関係代名詞》。I see the most errors and misconceptions about them. のthemが関係代名詞になった形である。関係代名詞whichの先行詞は、少し離れているが、下線で示した "a series of common questions" である。

文意としては「以下に述べる一連の質問はよくあるもので、私から見れば、今回の買収について、またドーシーとマスクの関係について、最も多くの誤りや勘違いがある部分である」といった意味になる。

なお、文頭の "Here's ..." は、この下に次々と列挙していくときの定型文で、「以下が~である」という意味で、記事類だけでなく、口頭での報告やプレゼンなどでも使われる。冒頭部分でこれが出てくると、「この先が本題だな」と身構えて読むなり聞くなりすることになる。

 

ここまでを前置きとして、デイヴ・トロイ氏は、この記事でQ&Aを展開し、Twitterイーロン・マスクとジャック・ドーシーについてのよくある誤解を解きほぐしていく。

そこで説明されているのは、マスクにせよドーシーにせよ、「ウォール街の投資家」を「テクノロジーで世界を変えていくことを邪魔する勢力」とみなしているということだ。これはテクノ・ユートピア論的でもあるが、そんなにキラキラした世界観で彼らが動いているわけではない。

彼らが嫌っている「ウォール街」は、旧世代左翼がイメージするような「富を独占する強欲な資本家」ではなく、「コンプライアンスに縛られた哀れな連中」だ。マスクにせよドーシーにせよ、「俺らの好きなようにやらせれば、世界は絶対によくなる」という信念の持ち主だ。ついでに言えば、そのために犠牲になる人が出ても、それはやむを得ないという倫理観の持ち主でもある。言い方を変えれば、徹底的に「強者」である。

そもそも、マスクによるTwitter買収とは、「ウォール街からTwitterを取り戻すこと」であり、ジャックはその価値観を共有している(マスクのような陰謀論者ではないかもしれないが……というか私はある意味でジャック・ドーシーのファンだから、そう思いたくないだけかもしれない)。以前から、「Twitterを会社化したことは失敗だった」と言っている通りだ。

彼らの思想は、残念ながら、2010年代で現実を見ることをやめてしまっている懐古主義者のそれだと個人的には思う。「懐古主義というより「原理主義」かもしれない。テック・ユートピアニズムゆえに、プーチン政権に接近しているのだから。

ここで参照されているメドベージェフは、ロシアの政治リーダーとしてさっそうと登場したとき、「西洋文化に親しんだ新世代のロシア人リーダー」として各国のメディアに売り込まれた(PR会社が裏についていた)。その「西洋文化」が、英国のハードロック音楽だった。

Medvedev is a fan of British hard rock, listing Led Zeppelin, Black Sabbath, Pink Floyd, and Deep Purple as his favourite bands. He is a collector of their original vinyl records and has previously said that he has collected all of the recordings of Deep Purple. As a youth, he made copies of their records, even though these bands were then on the official state-issued blacklist.

Dmitry Medvedev - Wikipedia

こういったことを、ほんの少しだけでも踏み込んで考えてみることで、過去の、そして今のTwitterをめぐるあれこれの見え方は変わってくるだろう。

個人的には、2009年のイランの「緑の海」運動のときのTwitterのあり方と、当時のジャックの姿勢(テクノロジーにできることを全力でやろうとしていた)を思い出して、少しだけ泣いている。

まあ、その数年後には彼は「(軍事政権下の)ミャンマーで瞑想しています」とツイートして大炎上したのであるが。つまり「人権の擁護」というものがわかっていてイランの緑の海運動を支持したわけではなく、そのうねりの大きさに感動しただけだったのだろう。

4900字になってしまったのでそろそろおしまいにする。

 

 

 

 

*1:英語圏でよくあるFAQ形式の説明について、前回の『ユリシーズ』読書会 #22Ulysses(第17挿話を扱った回) で「キリスト教のカテキズムの形式が基本にある」という知見が得られたのは、もの知らずな私には、大変興味深い経験だった。

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