Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

イーロン・マスクと、Twitterの「青い認証マーク」について、経緯の記録 (2)

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今回は、前回の続きで、イーロン・マスクTwitterを買収して以降引き起こしている大混乱(の一部)について。

日本語圏では昨日・今日あたり、前回取り上げたような「青い認証マーク(チェックマーク)」をつけているユーザーさんたちから、現在の名前から他の名前に変更できなくなっているという報告が相次いで上がった。認証マークをつけているのは創作活動や芸能活動をされている方が多く、名前に続けて新作の告知をしている方がとても多いが、このまま名前が変更できなくなると、今の新作を延々と告知し続けるという事態になってしまう。漫画家の森泉岳土さんもそのひとりだ。

こういう事態が出来(しゅったい)したのは、おそらく有料サブスクリプションTwitter Blueを「青い認証マーク」と混同していたイーロン・マスクが、たぶん鶴の一声で、「青い認証マーク」を誰でも月に8ドル払えば買えるものにしてしまったことに原因がある。このシステムでは、誰であれ、現在の名前で8ドルを払って青い認証マークを手に入れれば、誰にでもなりすませる。名前とアバター(アイコン)と認証マークの3点セットを書き換えてしまえばよいだけだ。

「8ドル」のシステムが始まってすぐに「イーロン・マスク(認証マークつき)」が大量発生したのは、そのせいである。

https://twitter.com/StefanGreybeard/status/1587560253859987456

こうしてTwitterは、青い認証マークつきで「イーロン・マスク」を名乗るコメディアンがお笑いの腕試しに興じる場となって、下記のようななりきり発言が大量に発生した。

マスクがこれにイラっとなって、「青い認証マークをつけている奴は勝手に俺の名前を名乗れないようにしてやる」とばかりに、名前の変更ができないようにしてしまったとしても不思議ではないが、そもそも、お前が著名人の本人確認済みのマークを、8ドル出せば誰でも買えるものとして販売して、それがスパム対策になるんだとかいう意味不明なことを考えていたからそうなったのだ。名前が変更できなくなっているユーザーにとっては、いい迷惑である。ていうかご自慢の技術を使って、最近青マークを取得したユーザーと、以前から持っていたユーザーを振り分けるくらいのことはすればいいじゃん。

こうして、Twitterへの評価はまた下がった。

コメディアンが誰かに成りすまして遊んでいるくらいならまだいい。

同様のやり方で、有名企業やNGOのアカウントを名乗って、プレスリリースめいた偽発言を投稿する人たちも、次々に出た。そういったなりすましの投稿のスクリーンショットを記録しているスレッドも作られた。任天堂の事例などは日本のネットでも報じられた。中には「なかなか皮肉が利いていてよろしい」と思わずニヤリとしてしまうような、「どっからどう見ても風刺」という発言も少なくなかったが、問題は、アバターも本物のをコピーしているから、風刺だということがわからない形で投稿されていたことだ。

 

そういった事例で、英語圏で最大の話題となったのが、製薬会社のイーライ・リリー社である。この会社は、今からおよそ100年前に、インスリン(インシュリン)の精製技術の革新に成功し、それまで使い物にならなかったインスリン製剤を実用化に結び付けた会社である。さらに言えば、開発に当たった研究者は誰にでも使えるようにしたかったインスリン製剤を収益構造に組み込んでしまった企業でもある。つまり、よい面でも悪い面でも「インスリンといえばイーライ・リリー」である。

そのイーライ・リリー社を名乗る認証マーク付きのTwitterアカウントが、「インシュリンを無料化します」とツイートした。

大混乱はそこから始まった。

Twitter Blueのサブスク契約者が、イーライ・リリー社になりすまして、インスリンの無料化を宣言しています。これを本物と信じてしまう人たちもいます。これでもまだ、青い認証マークが月8ドルというのがいい考えだとお思いですか」という @Public_Citizenのツイートには、「イーライ・リリー社(認証マーク付き)」による「喜ばしいお知らせです。インスリンは無料になりました」という偽のステートメントが、キャプチャで引用されている。

偽物アカウントによるこれがただの「ひっかけ」だったらまだよかっただろうが、そのレベルでは止まらなかった。株価に大影響が出たのだ。

こうツイートしているラファエルさんは、米NYCで非営利ラジオ局の番組をホストするなどしている方だそうだが、続けて、インスリンが本来の開発者の意に反して、製薬会社によって高額で販売されていることを指摘している。

このツイートの記述は、引用リツイートしているイーライ・リリー社のステートメントを皮肉な調子で言い換えたもの(「翻訳」したもの)で、「弊社の偽アカウントから発出された誤解につながるメッセージを読まされた皆様方にお詫び申し上げます」といった文面(日本ならば「ご迷惑をおかけして申し訳ありません」と書いているような文面)を、「遺憾ながら、弊社といたしましてはインスリン、つまり公的資金によって発明され、人々が死なないように人々に配布されるものとして、開発者によって無償譲渡されたものを、無料で配布することは行わないとお知らせいたします」(以上、直訳調)と言い換えている。

ここで英文法の話。下記の部分がだらだらと長いので読みづらいと感じた人もいるかもしれない。

... insulin, a publicly funded invention that was given away by its creator to be given away to people so they don’t die.

"a publicly funded invention" から最後までは、"insulin" を、コンマを使った《同格》の構文で言い換えたもので、筆者の意図としては、その前までの主文よりも、この同格の語句のほうに重点を置いている。

太字で示した "that" は《関係代名詞》で、先行詞は "a publicly funded invention" である。

下線で示した "so" は、実は《so that ...》の構文のthatが省略されたもの。「…するように」(この場合は否定文が後続しているので「…しないように」)。

これに続けて、ラファエルさんは: 

つまり、イーライ・リリー社の株価が暴落したのは、Twitterに風刺のツイートが投稿されたことだけが理由ではない、という。「何百万人という人々が、本来は無料を旨として作られたのに、どうしてインスリンに金を払わなければならないのか問うているから」。《間接疑問》や、《接続詞のwhen》に注意しよう。このwhenは会話などではよく出てくるが、学校では習わないかもしれない。「実際には~であるのに」みたいな意味を表す。

そして、お馴染みの《that's why ...》を使って、「だからこそ(そういうわけで)、他のインスリン関連銘柄も値下がりしているのだ」と述べている。

ラファエルさんのスレッドはまだ少し続くのだが、この続きはここには埋め込まない(文字数がすでに4400字だから)。

この「インスリン無料化」のツイートを投稿した偽アカウントは、笑いのためのパロディというより、明確な抗議として誤情報を(誤情報とわからないような形で)流したのだが、同様の例は、上の方でリンクしたなりすましの投稿のスクリーンショットを記録しているスレッドにも挙げられている。例えばロッキード・マーチン社の偽物によるサウジアラビアへの武器の販売についての発言も「インスリン無料化」と同様の風刺だし、イスラエルの政策を支持して米国内でロビー活動を行っている団体による「アパルトヘイト最高」みたいな発言も同じだ。意図としてはこれらは、混乱と破壊を目的とするデマではなかろう。抗議行動における言論の自由で語れることだと思う。

しかし、Twitterでのどこの馬の骨とも知れないだれかが為した発言が、株式市場にこのような影響を与えてしまったことは事実で、資本主義というか商業主義の社会ではこれは大変に困ったことである。Twitterを少し遠くから見てみると、そんな発言の発生地であるTwitterに、自社の広告を出したいと考える企業がどのくらいいるだろうかという疑問が浮かぶだろう。

下記ツイートでCas Mudde教授がおっしゃっているのは、そういうことである。わずか8ドルで認証マークを買ったアカウントが、巨額の資本金を持つ企業に、Twitterへの投資を思いとどまらせてしまえる。

上で少し触れたロッキード・マーチン社もこんなことになったという。

これがイーロン・マスクの作ったTwitterだ。

マスクはこれを作ろうとしていたのだろうか。私はそうは思わない。傲慢な人物が軽率に行動しただけだ。だからTwitterは、運営も利用者も広告主も、大混乱に陥っているのだ*1

Twitterの主な収入源は広告である。広告主がTwitterに広告を出さなくなったら、Twitterは干上がってしまう。Twitterにとってその脅威は現実的なものだ。そしてユーザーにとっては、イーロン・マスクが好きか嫌いかといったこととは関係なく、一様に、現実的で差し迫った問題となる。つまり、広告収入があてにならなくなったら、Twitterという場は存続しうるのか。マスクが「破産も視野に」みたいなことを言って騒ぎ立てているのは、そういう意味だ。

イーロン・マスクらの現経営陣は、(主に北米の)ユーザーたちが「Twitterという場が亡くなったら困る」と考えて、Twitterという場を維持するために、月8ドルを出してくれるのではないかと思ったのかもしれない。

だが実際に起きたのは、ユーザーの離脱だった。いつまで動いているかわからないサービスを、いくら使い慣れているからといって、そのまま使い続けられるのかどうか。

私がTwitterでフォローしている英語圏の人々は、Twitterを完全にやめた人はごくわずかのようだが、Twitterも使いながら、他の場所(インスタだったりSubstackだったりMastodonだったり)をメインにするか、少なくとも併用していく方向に切り替えた人はかなり多いと思う。そうしていない人々を、船が沈みつつあるのに楽しくパーティに興じている乗客にたとえる発言もかなりたくさんある。

私も、自分の発言だけならブログに戻ればいいだけなのだが、Twitterで得た人とのつながりをおしまいにしたくないので、SNSのアカウントを作って試用し始めたところだ。

そうやって多くのTwitterユーザーが様子をうかがいながら自分への影響を最小限におさえようとしているときに、Twitter運営はすさまじい勢いで迷走していて、少なくないユーザーがそれをニヤニヤしながら見守っている。

Twitter Blueは、そのサービスを利用したユーザーの発言が名だたる企業の株価に影響を与え(本稿では触れていないが、その中にはマスクの本業であるテスラも含まれる)、もはや「ネットでの出来事」と言っていられない事態を引き起こした後、新規受付が停止されたようだ。マスクの珍策はあっという間に撤回されたわけだ。すごい天才経営者だね(棒読み)。

 

6750字にもなってしまっているので、続きはまた次回。まだまだ記録できていないことが山のようにある。

 

 

 

Stan(熱烈なファン、信者)界隈: 

 

*1:日本で見ている限り、広告主は混乱していそうにないが……私の見る画面ではいつも通り、誰もが名前を知っている大手メーカーや世界的一流ブランドの広告が次から次へと流れてきている。洗顔料とか冬物衣料とかバッグとか、IT系セミナーとか。

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