Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

単語は中学レベルの基本語で簡単で文意も取りやすそうなのに、実は意外と難しい文の例(サッカーW杯、グループEで日本が首位)

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今回の実例は、Twitterから。

今日は元々は、あるレセプションの場で明らかになった英王室の中に根強くあるレイシズム(人種主義、人種差別)についてのことばを見ていこうと下準備はしていたのだが、いかにも気が重くてうーむと思っていたところ、今朝方、いかにも「構文解析してくださいよー」と言っているような文面が、FIFAのフィードとして流れてきた。

今大会は個人的に #BoycottQatar の主旨に賛同して見ないことにしているのだが、大会そのものへの言及ではなく、英語の実例ということで取り上げさせていただきたい。

既に日本では、というか日本以外でも大ニュースとなっているように、ドイツ、スペイン、コスタリカ、日本という組み合わせになっていたグループEは、今朝方3試合すべてが終了し、スペインを2-1で下した日本がグループ首位となり、そして世界の大半の人々の予想を覆してドイツがここで帰国することになった。

前日の試合の結果、ベルギーが決勝トーナメント進出を逃すことになったというニュースに続いて、大波乱である。

スポーツ専門情報サイトのBleacher Reportは、この展開に息も絶え絶えで、酸素吸入を受けるはめになってしまったようだ。

日本と同じく、欧州の強豪(デンマーク)をしのいで決勝トーナメントに勝ち進んだオーストラリアシドニー・モーニング・ヘラルドは、この展開を次のようなフィードで伝えている。

そしてFIFA

さて、この文。ぱっと見て意味が取れただろうか。

というより、ぱっと見て構造が取れただろうか。

一度、独力でやってみてほしい。独力では難しければこちらに北村一真先生のヒントがある

実は私はぱっと見では取れなくて、一語一語追いながら確認した。普通ならこの語数なら0.1秒くらいでできる作業に、2秒くらいかかっただろうか。

どういうことかというと、こういうことだ: 

  Another... うん

  Another famous... うん

  Another famous Japan... うん。で?

  Another famous Japan win... んにゃ? このwinは動詞か、名詞か?

FIFAのこのTwitterフィードは記事の見出しの流儀で書かれているから過去のことは現在形で表している。FIFAは基本的に北米ではなく欧州に軸足があって「イギリス英語」圏なので、チームスポーツのチームは単数ではなく複数で扱う(「イギリス英語」ではEngland isではなくEngland areとなる例は、当ブログでも過去に扱っているが、昨日、ベン・メイブリーさんもその話題でツイートしておられた)。だから、winが動詞の場合は3単現のsがついた "Japan wins" ではなく "Japan win" となる。だからこの時点では動詞でも名詞でもありうる。だが動詞と解釈すると、その前の "another famous Japan" とつながらない。"Japan" でなく "Japanese" ならつながる。だから、JapaneseのことをJapanと書いているのか……? 

などと思ってしまうのは、受験生にもありがちな筋違いの暴走で、暴走しない人はここで、「このwinは動詞ではなく名詞である」と判断する。

そして次に進むと……

  Another famous Japan win sees... お。動詞以外何ものでもありえないseesが出てきた!

……というわけで、ここまでの構造は次のようになる:  

Another famous Japan win sees ...

     S       V

そしてその次: 

  Another famous Japan win sees them... うんうん、seeの目的語がthemね。

  Another famous Japan win sees them top... うにゃ?

ここで、自分の頭の中に「topは第一義的に名詞」という思い込みがあることを改めて自覚してしまうのだが、実はこのtopは動詞で、この部分は《感覚動詞(知覚動詞)+O+動詞の原形》の構文になっている。

つまり、「日本の勝利は、彼らがtopするのをseeした」という構造だ。

ここまで見たところで、文の最後まで読むと: 

  Another famous Japan win sees them top a wild Group E

「またひとつのfamousな日本の勝利は、彼らがwildなグループEをtopするのをseeした」という構造が取れるだろう。

この時点では、ぱっと見て日本語にはできないところは英語のままにしておいてもいい。文構造を取るというのはそういう作業だ。そして、この作業ができなければ、正確に解釈することはできないし、したがって正確に訳すこともできない。

あとは単語レベルで訳語を探して、文の内容(言っていること)を変えないようにして、日本語として形を整えればよい。

さて、この文、単語はどれも「中学レベル」の基本語だが、実は意外と難しい。

まずfamousだが、これは「有名な、著名な」ととらえると詰む。だってさっき終わったばかりの試合の結果が「有名な」ものになっているはずがない。こういう報道によって「有名な」ものになっていくのだから。

この語義は、先日出たばかりの『ジーニアス英和辞典第6版』にも出ていないし*1、オンラインで使える英英辞典のいくつかにも出ていなかったりするのだが、dictionary.comには「略式」(非正式)の表現として出ている。

Informal. first-rate; excellent:
  The singer gave a famous performance.

Famous Definition & Meaning | Dictionary.com

つまり「第一級の、すばらしい」という意味だ。おそらく、「ほどなくして有名になる」ということで使われるようになったのではないかと考えられる。

つまり、この文の主語は「またひとつのすばらしい日本の勝利」である。「またひとつ」と言っているのは、初戦でのドイツに対する勝利を踏まえた表現だ。

ここで、上の方にエンベッドしたシドニー・モーニング・ヘラルドのフィードをもう一度見ていただきたいのだが、ここでも同じ famous が使われている。

... Japan defeated Spain 2-1 in a famous victory in Qatar

https://twitter.com/smh/status/1598423181479518221

続いて、"see them top ..." のsee。これも『ジーニアス英和辞典第6版』を使って説明しようと思っていたのだが、これは学習英和辞典で太刀打ちできるものではなさそうだ。ばりばりの翻訳者でもさらっと訳し流さずに逐語訳してくださいと言われたらかなり頭を悩ませるのではないか。

《see + O + 原形》のこの構文、意味的には「現にこういうことが起きている」感のある表現だが、それをこの場合にどういう日本語でアウトプットするか/できるかは、かなり時間をかけて考えないとならないかもしれない。とりあえず、その解説は当ブログで扱える範囲外だ。

"top ..." は「…の頂点に立つ、…のトップに躍り出る」の意味で、これはtopには名詞だけでなく動詞の用法もあるということさえ知っていれば、さほど難しくはないかもしれない。

最後に "a wild Group E" のwildは、「野生の」の意味ではもちろんないし、日本語の俗語でいう「ワイルドな」とも違う。

これも学習英和辞典にはそのまんまの語義は載っていないのだが、少し考えて訳語を探すという作業にはぴったりだろう。

wildは「人間が考えて手を入れて秩序立てたものではない」という含意がある。それが人間に起きるときは「理性をかなぐり捨てた状態」を意味し、「激昂して」とか「大興奮して」といった意味になる(だから日本語のカタカナ語の「その俳優のワイルドな魅力」みたいなのは、英語としてはちょっと通じないかもしれないっすね)。一方、ここでは「グループE」についての形容詞だから「波乱含みの展開を見せた」とか「予測不能の」といった意味になるだろう。

というわけで、FIFAのこのフィードは、「またもや日本が素晴らしい勝利をおさめ、予想外の展開を見せたグループEのトップに立った」という文意になる。

 

展開がキャプテン翼みたいになってきましたが、日本代表チームのみなさん、がんばってください。

大会はボイコットしていますが、感慨深く見守っています。

 

※ほぼ4000字

 

北村先生のヒント: 

 

 

 

 

*1:ちょっとドヤ顔していいっすか。

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