Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

時制の一致, 未来完了, 仮定法過去, 分詞構文, to不定詞の形容詞的用法 (ペルー大統領の弾劾と失職・逮捕)

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今回の実例は、報道記事から。

今朝方、Mastodonを見ていたら、英語圏のニュース系のフィードで立て続けに「ペルー大統領逮捕」というヘッドラインが流れてきた。ちょうどアルゼンチンのクリスティーナ・キルチネル副大統領(元大統領でもある)が、大統領だったころの汚職で有罪、禁固6年の判決を受けたというニュースがあったばかりだし、汚職かなと思ったらもっとすごい話だった。

というか、ペルーといえばアルベルト・フジモリだ。以下、少々日本語がわかりにくいが(翻訳した人が内容をわかってなかったのでロジックが崩れているっぽい)ウィキペディアから: 

1990年、フジモリは大統領選挙で勝利したが、共和国議会での彼の政党「変革90」の議席数は3番手に留まった。……このため、政府と議会の関係は政権の始まりからの緊張と対立を孕んだものとなった。……フジモリは議会と伝統的政治とを通じた「大衆(ポピュラリティー)の危機」を利用して、これが国家の問題、特に危機管理に対する障害の側面を強調した。 議会閉鎖と権力の絶対的なコントロールを計画し始めた。  

憲法秩序の破棄は、最終的に1992年4月5日の夜、「アウトゴルペ」として知られるようになった。 フジモリは、共和国議会を解散し、司法権の活動を中止するように国家にメッセージを出した。各都市に配置された軍は、主要な民主主義機関の本部と政治的反対派の住宅を取り囲み、メディアに襲撃をかけ、ジャーナリストのグスタボ・ゴリッティらを誘拐した。……

アルベルト・フジモリ - Wikipedia

今回弾劾され逮捕されたペドロ・カスティージョ大統領(すでに「前大統領」だが)は、このフジモリ元大統領の娘のケイコ・フジモリ候補と競って僅差で大統領になってまだ1年半くらいなのだが、フジモリ父がやったのと同じように、議会の解散と権力の掌握を突然宣言して、それで議会で弾劾されたという。議会解散などというめちゃくちゃなことをやった背景には汚職疑惑があったとNHKは見出しで大きく取り上げているが、私が見た英語圏のフィードでは「逮捕(警察による身柄拘束)」や「弾劾」という言葉が並んでいた。英語圏のフィードの多くはアメリカの人によるものだが、私の見る画面ではそのほとんどが「ペルーにできてなぜアメリカにできないんだ」という感情の吐露を伴うものだった(もちろん、2度も弾劾されたのに逮捕すらされていないドナルド・トランプのことである)。

そのことを報じるBBCの記事に、ちょうどよい文法項目があったので、今回はそれを取り上げたい。記事はこちら: 

www.bbc.com

見出しは、カスティージョ大統領が罷免され、副大統領をつとめていたディナ・ボルアルテ氏が大統領に任命された、ということである。

実例として見るのは、記事のわりと最初の方から: 

https://www.bbc.com/news/world-latin-america-63895505

キャプチャ画像内の第5パラグラフ、というか、BBC Newsは1文ごとに改行するという謎スタイルなので第5文: 

Ms Boluarte, a 60-year-old lawyer, said she would govern until July 2026, which is when Mr Castillo's presidency would have ended.

短い文だがwouldが2つ出てくる。

最初の "would" (太字)は単なる《時制の一致》である。主節の動詞 "said" が過去形だから、間接話法で示されている発言も過去形にしているわけだ。つまり: 

  Ms Boluarte said, "I will govern until July 2026 ..."

  → Ms Boluarte said (that) she would govern until July 2026 ...

2番目の "would" は、下線で示してあるが、《would + have + 過去分詞》の形である。これは、形だけ見ると、ぱっと見は仮定法過去完了に見えるが、実はそうではなくて、《未来完了》のwill have endedが、「もしもカスティージョ氏が任期をまっとうしていたら」という反実仮想のもと、《仮定法過去》でwill → wouldになったものだ。

  Mr Castillo's presidency will have ended in July 2026

  → Mr Castillo is now gone, but his presidency would have ended in July 2026

かなり珍しい例ではないかと思う。めったに遭遇しない。20年以上前に、難関私立大過去問でわからないところがあると質問を受けたのがこの用例だったことは覚えている(設問箇所ではなかったけど長文の中に含まれていて、質問者は赤本に出ている長文を全部細かく精読することで英語力をさらに伸ばすという、ネットがまだ一般的でなくて今のように自然な英文がそこら中で手に入るわけではなかった時代に英語を得意科目としている受験生が当たり前のようにやっていたやり方をしていて、そしてこの難しい例にぶち当たったのだった)。

 

記事のその次の文も少し見ておこう: 

Speaking after taking the oath of office, she called for a political truce to overcome the crisis which has gripped the country.

下線で示した部分は《分詞構文》。

太字で示した "to overcome" は、その直前にある "a political truce" にかかる《to不定詞の形容詞的用法》。文意としては、「大統領就任の宣誓をしたあとで演説し、危機を克服するための政治的な休戦を呼びかけた」。

これも形だけ見ると、call for somebody to do something のように見えるが、その意味でとらえると文意が通らない。「政治的な休戦に、危機を克服するよう呼び掛けた」では意味不明である。

このように、英語を読むときは形だけでなく、内容を取ることが必須である。

ただ、最近の流行を見てると、そういう方向じゃなくて、「形式さえ押さえればオッケー」みたいな方向に行きそうだけど。パラグラフ・ライティングなど、形式さえ押さえればできる……みたいに言ってる人もいるわけで。

そんなんで中身のあるものが書けるわけないじゃない。「まずは形から入る」のは有効だけど「形さえ押さえれば大丈夫」ということにはならない。

 

※2770字

 

 

 

 

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