Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

【ボキャビル】myth, 仮定法過去完了, 形式主語itの構文(広島・長崎への原爆投下をめぐって米国で信じられている俗説とCIA)

↑↑↑ここ↑↑↑に表示されているハッシュタグ状の項目(カテゴリー名)をクリック/タップすると、その文法項目についての過去記事が一覧できます。

今回の実例は、嘘を嘘と指摘する歴史家のTwitterの連投から。

アレックス・ウェラーステインさん (Alex Wellerstein) は、ニュージャージー州ホーボーケンにあるthe Stevens Institute of Technologyという研究機関に即ずる科学史の研究者で、専門は核兵器の歴史である。

ウェラーステインさんは日本時間で8月9日の早朝、原爆に関して米国で言われている不正確な情報について、下記のツイートから始まるかなりの分量の連続投稿を行った。

mythというのは、そのままの意味では「神話」で、日本語でも「神話」と訳されることが多いが、このままだと正確には伝わらないことが多い(この用法での「神話」という言葉は、学問的なバックグラウンドがなければ接することがないし自分でも使わない)。この場合のmythは「事実ではないこと」で、日本語で表すには、おそらく「デマ」という俗語を当てるのが最もしっくりくるだろう。それでは強すぎるようなら「事実無根の俗説」といったところか。

ちなみに英英辞典での定義は下記のようになっている。

a commonly believed but false idea

https://dictionary.cambridge.org/ja/dictionary/english/myth

an unfounded or false notion

https://www.merriam-webster.com/dictionary/myth 

というわけで、ウェラーステインさんの上記ツイートの "The #1 outright myth ... regarding the bombings of Hiroshima and Nagasaki is that the cities were warned about the impending attack." は、「広島と長崎の(原子)爆弾攻撃に関する完全にでたらめな俗説のナンバーワンは、これらの都市(広島と長崎)がすぐに攻撃があると警告されていたというものだ」というように直訳される(直訳はやりづらいけど、直訳じゃないと英語学習の役には立たないからね……「こなれた訳」は各自自分で考えてください)。

 

ウェラーステインさんはこのデタラメ話がどうしてデタラメであるのかについて、連ツイの形で、かなり詳しく述べている。今回実例として見る(もののメイン)は、そのひとつ。

ウェラーステインさんがこの「広島・長崎の原爆投下では事前警告があった」という説(事実無根)のソースとなったと考えているのは、実際に米軍が日本の都市上空から散布した下記のビラだ。

www.library.pref.nara.jp

ビラでは水戸、八王子、郡山、前橋、長野、高岡など12の都市が爆撃(空襲)対象として特定されており、 裏面には「これらの都市以外も爆撃対象にするかもしれない」と書かれてはいるが、確かに、広島と長崎はここには挙げられていない。それが事実である。

そのことについて、ウェラーステインさんは「原爆投下は完全に極秘で、原爆搭載機は重量を軽くするために武器も備えていなかった」と指摘した上で、次のツイートを続けている。

 

The security of the missions would have been jeopardized if they had given warning 

お手本のような《仮定法過去完了》である。「彼ら(米軍)が警告を出していたならば、(原爆投下の)ミッションの安全性が危険にさらされていただろう」という文意。しかし実際には、事前警告は出されておらず、原爆投下ミッションの安全性は保たれた。「実際には~だったが、もしも~でなかったならば」ということを述べるために使われる仮定法過去完了としては、まさに教科書通りである。

 

そのあとの部分にも仮定法過去完了が入っている。長ダッシュを置いて付け足しされた部分: 

it would have been clear which plane needed to be shot down

「(もし米軍が警告を出していたなら)どの飛行機が撃ち落される必要があるか、(日本側には)明白になっていただろう」。

 

この文は、《形式主語itを用いた構文》で、真主語はwhichの節と、それに続くthatの節の2つである。

it would have been clear which plane needed to be shot down, and that a single B-29 should be attacked and not ignored

つまり「どの飛行機が撃ち落される必要があるか、そして単独で飛行しているB-29は攻撃されるべきであり無視しておいてはいけないということが、明白になっていただろう」*1

 

f:id:nofrills:20190810044207j:plain

2019年8月9日、Twitter @wellerstein

 

ウェラーステインさんの連ツイはまだこのあとも続いているが、「広島と長崎の原爆投下に際しては事前警告があった(のだから、米軍はルールを破ったわけではない)」的な、米国で(少なくとも一定の範囲では)見られる自己正当化言説の源について、彼は次のように指摘している。

CIAがこのように「誤った/きわめてミスリーディングなキャプション」をつけているそうだが、CIAはそれを指摘されてもこのキャプションを放置しているそうで、それは……(以下略)。

 

というわけで、ウェラーステインさんの連ツイは全部読んでみるといいと思う。アメリカで、少なくとも一定の範囲で、どのようなことが信じられているかということと、そして1945年にはもう戦争は枢軸国と連合国のどちらの勝利に終わるかなどということは問題にすらなっていなかった(連合国の勝利があまりに確定的だった)ということがよくわかる。

それゆえに、今日の長崎での平和祈念式典で被爆者の方が語られた、あまりに凄惨な体験(爆心地近くの工場で爆死したお父さんの遺体を見つけ、兄弟でありあわせの木切れを集めて荼毘にふそうとしたが遺体が焼けていくのを見ておられずその場を後にし、翌朝戻ったが焼けておらず、骨を拾える状態ではなく、……という体験)に、「なぜ」以外の言葉が見つからない。

今年は広島の式典でも長崎の式典でも、両市長の平和宣言で個別の具体的な体験がいつも以上に語られていた。核兵器の脅威が過去のものになるどころかますます大きくなっていく世界に、「キノコ雲」というかっこいいビジュアルの下でどのようなことが起きていたかをはっきりと伝えようという決意が感じられた。

 

 

長崎原爆記―被爆医師の証言 (平和文庫)

長崎原爆記―被爆医師の証言 (平和文庫)

 
長崎の鐘 (アルバ文庫)

長崎の鐘 (アルバ文庫)

 
ナガサキ 消えたもう一つの「原爆ドーム」

ナガサキ 消えたもう一つの「原爆ドーム」

 

 

*1:ネット上には、「四国の航空隊にいた爺さんが8月6日の朝にB29を単機で迎え撃ったが全く歯が立たずのがしたという話を聞いた孫がいて」云々という真偽不明な話(というより「ソースは2ちゃん」……という表現も、2ちゃん/5ちゃんが廃れた今はもはや通じないかもね)があるようだが。