Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

ソ連および東側では、「ホロコースト」「第二次大戦中のユダヤ人迫害」はどう位置づけられていたか

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今回は変則的に、Twitterのスレッドの翻訳を。

22日に見かけたこのスレッドは、長年もやもやしていたことについてはっきりした説明を与えてくれるものだった。スレッド投稿者で、米ニューヨーク拠点のメディアForwardなどで書いているAlexさんの許可をいただいたので、全文を翻訳する。以下、基本的に対訳形式で淡々と進めることにしたい(ただし、いつものような、学習参考書っぽい「直訳」ではなく、かなり「意訳」する)。

「CNNでファリード・ザカリアがウクライナのゼレンスキー大統領にインタビューしているのを聞いた*1。ザカリアは、ホロコーストのときにゼレンスキー家に何があったかについて質問していたが、ゼレンスキーはあの時代についてソ連式の理解をしているということが、私には非常にはっきりと伝わってきた。つまり、不完全な理解ということだ」

英文法的なことを言うと、 "it's so very clear to me that he has a Soviet understanding of that period" の文は、単語だけ拾えば《so ~ that ...》の構文に見えるかもしれないが、ここはそうではなく、《it is ~ that ...》 の形式主語の構文だ。"so very clear" のsoは《強意》で、ここは "very very clear" としても意味は同じ。ただ、口頭では "very very clear" と言っても違和感がないかもしれないが、文字で書くときはそれでは変なので "so very clear" とすることが多い。

「西側(西洋諸国)で、これがどのくらいよく理解されているかはわからないが、皆さんがご覧になっているメディアでのホロコーストの描写のほぼすべてがああいうふうなのには、理由がある。それは、生き残ったうえで、戦後は『鉄のカーテン』の西側にたどり着くことができた人々の語ることである」

英文法的には、《a reason why ...》(関係副詞)に注目。あと、最後の文でのandによる接続。

「戦後ソ連の政策は、ナラティヴをひとつにすることだった。つまり、『ソ連の人々は大変な苦難を経験した』というものだ。ソ連政府は、ナチスユダヤ人を特定して絶滅のために標的にしたということを、認めようとしなかった。ソ連共産党の統一見解を踏襲しないソ連ユダヤ人は罰された」

「戦争中に、ソ連政府に代わって西洋諸国で資金を集めていたユダヤ人反ファシスト委員会*2は、戦争の最後の数年を、ソ連ユダヤ人に対するナチスの蛮行を記録することに費やしたが、この人々はスターリンによって処刑された。詳しく知りたい方には次のサイトが役立つだろう: YIVO | Jewish Anti-Fascist Committee 」

ソ連は国策として、ホロコーストを描写することを許さなかった。ホロコーストを生き延びたユダヤ人たちは、それについて話をするためのフレームワークを持たず、また、ナチスに殺害された家族を讃えようとしただけでも罰された」

ソ連による迫害と、ホロコーストに関する情報の流れを制限した結果として、ソ連ユダヤ人の後の世代は、自分たちの一族の歴史を、戦争の一部として理解するようになった。(例えば、なぜユダヤ人は身を隠さねばならなかったのか、など)ほかの人々の経験とは違うように聞こえても、である」

「私自身の経験だが、私の家族・親族で、ナチスの時代を生き延びた人々は、自分のことをホロコーストの生き残りとは考えていなかった。この人たちが西洋諸国での描写を知ったのは1990年代のことだった。強制収容所を見たことがある者は誰もいなかった。銃弾によるホロコーストを生き残ったのだった」

ホロコーストというとアウシュヴィッツをはじめとする強制収容所絶滅収容所を連想されるかもしれないが、強制収容所が作られる前に、銃殺という形で大勢が殺されていた。今ここでその説明をしている余裕はないが、関心がある方は本で調べられたい。

「今回のCNNのインタビューでゼレンスキーは、ホロコーストで亡くなった自身の親族について話をしているが、戦争のコンテクストでその話をしており、ジェノサイドについては語っていない。彼は、『あの戦争』で生き残ったのは祖父*3だけでした、という話をしている」

「私がこの話を持ち出したのは、昨日、ゼレンスキー大統領がイスラエルに対して呼びかけたときに、イスラエルや西側のユダヤ人のホロコースト理解(いわば、教育を受けた人の理解)とは一致しない方向で、あの時代について口にしたからである」

「私はこの歴史について、米国の大学で学んだ。ホロコーストのメカニズムについて学んだ。ロジスティックスについて学んだ。ナチスによるユダヤ人絶滅を促進していった知的な枠組みについても。ほとんどの人々は、ホロコーストをそういうふうには学ばない。ユダヤ人であってもそうだ。ゼレンスキーは自分が認識していることを口にしたまでだ」

ソ連ユダヤ人の歴史について無知な人々が、ソ連ユダヤ人が自分たちのようには歴史を認識していないといって怒ることは、特に驚きではないが、それでも、またかと落ち込みはする。私たちのほとんど全員が持っているものといえば、表ざたにならない場で、声を落として静かに語られる、一家の物語だけなのだ」

「だから、もしこれを読んでいるユダヤ人の方で、ゼレンスキー大統領がホロコーストの歴史に言及したのを、ああいうのはないなと思った方がいらしたら、どうか事情をくんでいただきたいと思う。ゼレンスキー大統領は戦争を戦っている最中であり、ユダヤ研究の学位ならばファシストの侵略者を打ち負かしたあとに取ることができるのだから」

 

以上

 

https://twitter.com/JewishWonk/status/1505979954139389955

追記: 

消印所沢さんご教示いただいたのだが、デボラ・リップシュタットのDenial(邦題『否定と肯定 ホロコーストの真実をめぐる闘い』)にもこの件についての言及がある。

ソ連版のホロコーストでは、ドイツ人がユダヤ人を迫害したのではなく、ファシスト共産主義者を迫害したことになっている。加害者を "ドイツ人" にすれば、共産国家の東ドイツに塁が及ぶ。被害者をユダヤ人にすれば、人種問題という概念を認めることになる。マルクス主義イデオロギーに反することだ。…… (Op.cit., pp. 44-45) 

同じく、pp. 416-417には、オーストラリアで、ウクライナに出自がある「デミデンコ」と名乗るペンネームの書き手が、ウクライナに住んでいた家族の第二次大戦の経験に基づいた小説を書いて高く評価され、国際的にも名を上げたが、実はウクライナ系というのも真っ赤なウソだった、ということについて、ぞっとするような挿話がある。オーストラリアの反ユダヤ主義もまた、強烈である。

 

*1:Fareed Zakaria GPS (Global Public Square) という番組でのことで、ポッドキャストでだれでも聞けるようになっている: Exclusive Interview With Ukrainian President Volodymyr Zelensky - Fareed Zakaria GPS - Podcast on CNN Audio 

*2:https://en.wikipedia.org/wiki/Jewish_Anti-Fascist_Committee および ユダヤ人反ファシスト委員会 - Wikipedia を参照。

*3:このツイートでは「父」とあるが、これは誤記で、「祖父」の間違いだとAlexさんがあとのスレッドで説明している。そのため、ここでは修正後の「祖父」で訳出した。