今回のエントリは、3月にアップしたものの再掲である。現在分詞が遠慮なくがんがん飛んでくるタイプの文章だが、実務で英語を読むならば、こういうのも見た瞬間に構文を正確に把握して文意を把握できるようにしておく必要がある。(そして文意を正確に把握できているかどうかを自分で確認するために最も確実な方法は、ここ15年ほどで学校英語から放逐されてしまった「いちいち和訳する」という学習法である。)
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今回の実例は、サッカーの欧州選手権(EURO)の予選で、観客席からイングランド代表の選手たちに対する人種差別の罵詈雑言が飛ばされた件についての報道。
イングランドがモンテネグロのポドゴリツァを訪れて行われた試合で、その残念な事態は発生した。
記事は下記だが、私が見たときとは見出しと文面が変わってしまっている(新聞社のサイトでは、事態の進展につれて同じURLで上書き更新されることがあるので、こういうこともありうる)。私が見た時点では、見出しは "Montenegro charged over racist chanting during England game" だった。今は下記のようになっている。
記事の本文も、新たな情報が付け加えられた上に文章が整理されているので、今回見るのとまったく同一の文は今の記事には見当たらないが、伝えられている内容には変化はないので、私が見た文面のままで解説を進めよう。
Callum Hudson-Odoi confirmed he and Rose had heard supporters "saying monkey stuff" during the first half, with Raheem Sterling making a point of cupping his ears towards the most vociferous section of the home support after scoring England's fifth goal.
まず、文の前半で《知覚動詞(感覚動詞)+O+現在分詞》の形が使われている。「彼とローズ選手が、前半の間に、(相手の)サポーターたちが『猿の真似を口にしているのを』聞いたことを、カルム・ハドソン=オドイ選手が事実と確定した」という意味である。
Callum Hudson-Odoi confirmed he and Rose had heard supporters "saying monkey stuff" during the first half
※ saying monkey stuffが引用符でくくられているのは、それがCallum Hudson-Odoi選手の発言をそのまま引用した部分であるためで、文法項目としては引用符は考えなくてよい。
続いて文の後半では《付帯状況のwith》と《現在分詞》が用いられている。
..., with Raheem Sterling making a point of cupping his ears towards the most vociferous section of the home support after scoring England's fifth goal.
直訳では「~が…している状態で」の意味だが、ここは "..., and Raheem Sterling made a point of..." を分詞構文にしていると考えたほうがわかりやすい(独立分詞構文)。「そしてラヒーム・スターリングは、イングランドの5点目を決めたあと、モンテネグロ側観客席でも最も騒がしい一帯に向かって耳をふさいでみせた」という意味になる。
これについて、江川泰一郎『英文法解説』には、次のような例文が挙げられている (p. 348)。
It's terribly noisy living near the airport, with planes coming over all the time.
「ひっきりなしに飛行機が飛んでくるので、空港付近で暮らしているとうるさくてかなわない」という意味である。
さて、上で見た部分で「カルム・ハドソン=オドイ選手が事実と確定した」と述べられているのは、下記に埋め込む試合後のインタビューでの発言のことだろう。かなりバリバリのロンドン弁で早口だし、th音がf音になったりしているが、再生速度を0.75にすればわりと聞き取りやすくなる。自動生成される英語字幕もついている(精度は高いとはいえないが、ないよりはましだろう)。
Callum Hudson-Odoi's Mature Response To Racism Chants In Montenegro
ヨーロッパのフットボール(サッカー)と人種差別の問題は、1998年のW杯フランス大会で人種的には非常にバラエティに富んでいたフランス代表が優勝したときに過去の話になっていくかのように思われたが、実際には、それから20年が経過しても問題は残されている。日本語でもよい本が出ているので、関心がある人は読んでみてほしい。
イングランドでは人種主義的な暴言の類は、かなり珍しいものになってはきているようだ。それでも深刻な事態の発生が皆無になったわけではない。カルム・ハドソン=オドイ選手が所属しているチェルシーFCのサポーターには人種主義者がいて(このクラブは80年代は本当に凶暴な人種主義集団がついていたので、それに比べれば断然おとなしくなったと言われてはいるが)、2015年にはチャンピオンズリーグの試合のために訪れたパリで現地の人に暴言を吐いて小突くという事件を起こしたこともあった。
2018年の年末には、ラヒーム・スターリング(マンチェスター・シティ)がチェルシーFCとの試合で、チェルシーのサポから人種主義的な暴言を浴びせられるということも起きているし、2017-18年のサッカーにおける人種主義事案は、前年に比べかなり増加しているという調査結果もある。
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