Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

howの節, it is ~ to do ..., 分詞の後置修飾, 《同格》のof, 知らない単語があったときの文意の推測, やや長い文(英文読解), 過去完了など(この10年の科学を振り返る)

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今回の実例は、年末になると各紙に出る「この1年を振り返る」系の記事から。

普段なら振り返るのは「この1年」なのだが、2019年は10年の区切りの最後の年でもあるので、「この10年を振り返る」という記事も多く出ている。今回見るのはそのような記事のひとつで、カテゴリーは「科学」。

記事はこちら: 

www.theguardian.com

まず見出しに、"have an axe to grind" という慣用句のバリエーション、"with an axe to grind" が入っている。have ~とwith ~は動詞と前置詞という大きな違いがあるが、どちらも《所有・所持》を表すことができるので、このような書き換えは日常の英語でよく見られる。

  Can you see the boy who has a large paper bag? 

  Can you see the boy with a large paper bag? 

  (大きな紙袋を持った男の子が見えますか)

"have an axe to grind" は直訳すれば「研ぐべき斧を持っている」だが、「思惑がある、下心がある」という意味の慣用表現として用いられる。さらにイギリス英語ではより狭く、「何かにかこつけて自分の言いたいことを言う、何かをダシにする」の意味で使われる。ちなみに語源(いわれ)は不詳だ。詳細は下記ページを参照。

www.phrases.org.uk

 

今回の記事は、Laura Spinneyさんというパリを拠点とするジャーナリストが書いたもので、この10年間における科学分野での顕著な発展や新発見などをたっぷり列挙したあとで、アンドルー(アンドリュー)・ウェイクフィールドに言及している。

ここ1~2年の間に、北米や西欧で、いったんはほぼなくなっていた麻疹(はしか)が再度大流行するようになってきていること、その背景にあるのが親が子供にワクチン接種を受けさせない「ワクチン拒否」であることは、日本でもそれなりに大きく伝えられている。ウェイクフィールドは1990年代終わりから2000年代にかけて、その「ワクチン拒否」を煽動/先導した人物である。彼は英国の医師だったが、1998年に権威ある医学誌に「新三種混合ワクチンにはこんなに恐ろしい副作用が!」という内容の研究論文(と称するもの)を発表した。「新三種混合ワクチン (MMR)」は麻疹・おたふく風邪・風疹を防ぐために生後9~15か月の子供に接種されるもので、ウェイクフィールドの論文(と称するもの)の要旨は、さまざまな経路を伝わって副作用を恐れる親たちの間に広まり、「MMR忌避・拒否」の波を引き起こしたわけだ。その後、2010年になってウェイクフィールドの論文(と称するもの)には重大な問題がある(元になったデータが虚偽だった)とされ、掲載誌が論文を撤回、つまり「あの論文に書かれていたことは、科学的に妥当なものではない」との見解を公に示しているのだが、一度ばら撒かれた虚偽情報が引き起こした不安は、時間が経過しても完全には消えない。この件については日本語でも記事が読めるので、どういうことか知りたいと思った方は、ぜひ下記の記事に目を通していただきたいと思う。

gendai.ismedia.jp

今回の記事の見出しにある "those with an axe to grind" は、このような、「ニセ科学」を撒き散らすことで利益を得ようとしている人々のことを言っている。

実例として見るのは、記事の最後の方、ウェイクフィールドへの言及があった後、最後のまとめの部分から。

f:id:nofrills:20191227073953p:plain

2019年12月26日, the Guardian

キャプチャ画像の一番上: 

We heard a lot in this decade about how trust in experts has waned

《hear a lot about ~》で「~についてたくさん聞く」、「~のことをよく聞く」の意味。このaboutは言うまでもなく前置詞だ。

そしてこのaboutの後は、普通に名詞が来るだけでなく、この実例のように《疑問詞節》が来ることがある。ぱっと見、違和感を覚える人もいるかもしれないが、この形で何も問題はない。自由英作文などにもどんどん使ってほしい。

  We've heard a lot about the filthy water in Tokyo Bay. 

  (東京湾の汚い水についての話はたくさん聞いてきました)

  We've heard a lot about what problem the filthy water could cause. 

  (その汚い水がどのような問題を引き起こす可能性があるかについて、たくさん聞いてきました)

実例の文意は「この10年の間に、私たちは、専門家への信頼がいかに弱まってきたかということをたくさん聞いている」。

 

次、コンマから後の部分: 

..., but it’s difficult to know how much of that perception is real and how much of it comes down to minority opinions bellowed through the sousaphone of social media.

太字にした部分は《it is ~ to do ...》の形。「…することは~だ」の意味で、ここでは「~を知ることは難しい」。

その "know" の目的語となっているのが、等位接続詞andで結ばれた2つの疑問詞節だ。下線を補った "how much" はその疑問詞節を導くもので、「その認識のいかに多くの部分が本当で、それのいかに多くの部分が少数派の意見に帰着するのか」という意味になる。

この「少数派の意見 (minority opinions)」を後ろから修飾しているのが、"bellowed through the sousaphone of social media" という過去分詞に導かれた句である(《分詞の後置修飾》)。この部分で、"sousaphone" という単語がわからないかもしれないが、ここは《同格》のofが用いられていて、《A of B》の形で「BというA」の意味を表しているので、この単語の意味がわからなくても文意を把握するには支障はないだろう。

  The researcher wrote about the myth of female inferiority in 1980. 

  (1980年、その研究者は、女性の劣等という神話について文章を書いた)

 

ちなみにsousaphoneは大型の管楽器。マーチングバンドなどで使われているのを見ることがあるが、詳しい人でなければ名称までは把握していないだろう。楽器メーカーのヤマハが詳しい解説ページを作っているので、確認したい方はこちらをご参照のほど。

www.yamaha.com

 

この文の文意を把握する上でsousaphoneより重要なのが、過去分詞になっている "bellow" という動詞だ。こういうのは、大学受験では、「下線部の単語と同じ意味を表す語を選択肢から選べ」という形で出題されるかもしれない。語彙レベルとしては英検1級並みなので、たいがいの受験生は知らないだろう。私なら、yell, repeat, stretch, lengthenあたりを選択肢にするだろうか*1。キーとなるのは、"the sousaphone of social media" という表現が「少数者の意見を(不相応なほどに)拡大する、ソーシャルメディアという装置」の意味であることを、たとえsousaphoneという単語の意味がわからなくても、正しく推測できるかどうかである。

以上、まとめると文意は「その認識のいかに多くの部分が本当で、それのいかに多くの部分が、ソーシャルメディアというスーザフォン(拡声装置)を通じて叫ばれている少数派の意見に帰着するのかを知るのは、難しい」。

 

つまり「専門家なんか信頼されていない」という言説のどのくらいが本当で、どのくらいが、ウェイクフィールド論文が撤回されたあともあの説を繰り返しているようなごく少数のニセ科学論者が、2010年代に急速に発展し社会の隅々まで行き渡った(とされている)ソーシャルメディアを通じてしつこくわめき立てているものなのかは、判断がなかなかつかない、というのである。

 

次: 

In 2019, the US-based organisation Scholars at Risk reported that attacks on higher education communities had more than doubled globally over the previous three years – ranging from restrictions on academic expression to wrongful imprisonment and even violence.

太字にした部分は《過去完了》。文頭の "In 2019" という《過去の時点》*2に対して、下線をつけた "over the previous three years" (その前の3年の間に)のことを言っているので、《過去完了》が用いられているわけだ。

また、この実例のようにdoubleという動詞の前にmore thanが置かれることはよくあり、意味は「2倍以上になる」。「高等教育コミュニティーへの攻撃は、この3年間で、世界的に、2倍以上になっていると、米国に拠点のある団体、『スカラーズ・アット・リスク』が2019年に報告している」という文意だ。

そのあと、ダッシュ (–) を使って付け足されているのは、"attacks on higher education communities" に対する説明である。"ranging" は現在分詞で、《分詞構文》と考えればよいだろう。「学術上の表現に対する制限から、不当な投獄、さらには暴力まで」。

これは日本ではあまり考えられないかもしれないが、科学者が科学的な見解を述べることが歓迎されず、出版(発表)が制限されているだけでなく、例えば「宗教への冒涜」として訴追につながったりしうる国もある*3

 

その次: 

On the other hand, surveys suggest that trust in scientists is quite stable over the long term, and science funding has been slowly increasing in the world’s richest countries.

"on the other hand" は「他方」の意味の熟語。これは自由英作文などで自分が使いたいときに使えるようにしておかないとならない基本的な論理マーカーである。

この文は、特に文法的に解説すべきポイントはないのだが、こういう文の意味が取れるかどうかは重要だ。「参考書」のリンクのあとに訳例を掲示しておくので、各自、文意が取れるかどうか、確認してみてもらいたいと思う。

 

参考書:  

学校に入り込むニセ科学 (925) (平凡社新書)

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暮らしのなかのニセ科学 (平凡社新書)

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新装版「ニセ医学」に騙されないために ~科学的根拠をもとに解説

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代替医療解剖(新潮文庫)

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英文法解説

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  • 作者:江川 泰一郎
  • 出版社/メーカー: 金子書房
  • 発売日: 1991/06/01
  • メディア: 単行本
 
徹底例解ロイヤル英文法 改訂新版

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【訳例】On the other hand, surveys suggest that trust in scientists is quite stable over the long term, and science funding has been slowly increasing in the world’s richest countries.

→他方、科学者に対する信頼は、長期的にはかなり安定しているということを調査が示しており、科学(研究)に対する資金は、世界で最も豊かな国々ではゆっくりと増加しつつある。

※and that science funding... となっていれば、suggestの目的語のthat節が2つあるという構造になるが、ここではそうではないことにだけ注意。


さて、このあと土日はいつも通りに過去記事の再掲載になり、月曜日はもう30日なので、年内の新規記事はこれが最後の投稿となります(よほど注目すべき記事が出れば変更するかもしれません)。このブログは今年1月から開始した試みですが、ほぼずっと毎日更新のペースは保てました。意外と多くの方々に見ていただけていたようで、少しでもお役に立てればと思います。

英語をめぐっては2019年は大学入試の「改革」と称する「民間試験導入」でものすごいごたごたとぐだぐだがありましたが、あの問題はまだ終わっていません。「当面は実施しない」というだけで、数年後にはしれっと復活しそうな気配です。私は普通にそのへんの都立高の出身ですが(進学校ではあったけれど、すごい進学校ではなかったです)、30年も前に「読む・書く・聞く・話す(音声としての英語)」は授業でやってたし*4、「民間試験導入」の理由付けとして用いられている「4技能」は全然目新しいものではないです。「話す」能力が重要だと言うのなら、「話す」以前に「音読する」能力をつけるべきだし(当ブログで「長い文」「やや長い文」として扱っている文をちゃんと音読できるかどうか、自分で試してみてください。構造が取れてないと音読はできません。ちなみに英検は、そこはしっかりした試験になってます。)、もう本当に何をどうしたいのかよくわからないのですが、これからお子さんが受験生になる親御さんや、これから英語を教える立場になるかもしれない学生さんは、この機会に一度、何がどう問題なのかを整理するために、下記のような本を読まれるとよいのではないかと思います。 

英語学習7つの誤解 (生活人新書)

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ことばの教育を問いなおす (ちくま新書)

ことばの教育を問いなおす (ちくま新書)

 
英語教育の危機 (ちくま新書)

英語教育の危機 (ちくま新書)

 
本物の英語力 (講談社現代新書)

本物の英語力 (講談社現代新書)

 
話すための英語力 (講談社現代新書)

話すための英語力 (講談社現代新書)

 
英語教育論争から考える

英語教育論争から考える

 
検証 迷走する英語入試――スピーキング導入と民間委託 (岩波ブックレット)

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  • 作者: 
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2018/06/06
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

ではみなさま、よいお年をお迎えください。

当ブログは年末年始も毎日、過去記事の再掲載の記事を立てますので、毎日少しでも英語に触れるためのペースメーカーとしてご利用いただければと思います。

 

 

*1:この4つなら、答えはyell

*2:2019年はまだ終わってはいないが、「2019年に報告した」というのだから過去の時点が基準になっていることは明白だ。

*3:グレタ・トゥーンベリさんが重ねて強調している「科学の声を聞け」というのは、こういうことをも言っている。

*4:ちなみに大学は英語重視の私立大を受験したので、長文を読んで和訳して、日本語の課題文を英訳して……というペーパーテストのほか、リスニングも(今のセンター試験のようなレベルの易しいのではないようなのを)がっつりやりました。

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