今回の実例もTwitterから。
テリー・ジョーンズの死去を受けて、前回はジョン・クリーズ(居丈高キャラ、上官キャラ)のツイートを見たが、今回は同じく「モンティ・パイソン」の一員で軽薄キャラ、おしゃべりキャラとして地味キャラ、まじめキャラのジョーンズと組んだスケッチに印象的なものが多かったエリック・アイドルのツイートを。
I loved him the moment I saw him on stage at the Edinburgh Festival in 1963. So many laughs,moments of total hilarity onstage and off we have all shared with him. It’s too sad if you knew him,but if you didn’t you will always smile at the many wonderfully funny moments he gave us
— Eric Idle (@EricIdle) 2020年1月22日
最初にこれを読んだとき、「すばらしい言葉だなあ」と思った。芸能人の不倫でも、公費を受けることをやめることにした王族の「自身のブランド化」でも、小説家の「自分の好きな服装をして、自分の望む通りの人称代名詞を使ってほしいと言って、自分の望む相手と一緒になればいいけれど、性別というものは現実にある」というツイートでも、何かを見れば過剰に「わが事」にして憤激したりするのが当たり前という言語空間ばかり見ている目には、一服の清涼剤のようだ。こんなにはっきりと悲しみを表しながら、なおかつ「でも君たちは笑ってていいんだよ。そうできる立場なんだから」と言える人は、本当に人間性豊かで知性のある人だと思う。
というわけで、英語として見ていこう。
最初の文:
I loved him the moment I saw him on stage at the Edinburgh Festival in 1963.
《the moment + S + V》は「SがVした瞬間に」という意味の副詞節(《時》を表す副詞節)。変則的だがthe momentという2語で1つの接続詞のように機能している。文意は「1963年にエディンバラ・フェスティヴァルでステージ上の彼を見た瞬間に、私は彼が大好きになった」
次の文は目的語がSとVの前に出て、O+S+Vの形になっていることに注意*1。
So many laughs, moments of total hilarity onstage and off we have all shared with him.
下線を引いたのが文の目的語で、その後の "we" が主語、"have (all) shared" が動詞だ。このallは「全員」という意味の副詞で、ざっくりと、「とてもたくさんの笑い、ステージ上で、またオフ(ステージ)でのとんでもなく可笑しい瞬間を、私たち全員が彼と共有してきた」という文意になるだろう。
そしてすばらしい、最後の文:
It’s too sad if you knew him, but if you didn’t you will always smile at the many wonderfully funny moments he gave us
この文はbutの前で1つの文、後ろで1つの文という構造になっていて、それぞれにif節があって、修辞の言葉を使えば《対句》の形になっている。
どちらのif節も《条件》を表す副詞節で、仮定法ではない(直説法である)。if節内が過去形になっているのは、「故人を知っていたかどうか」という過去のことを言っているためであり、仮定法過去ではない。
また2番目のif節(butの後)は、繰り返しを避けるための《省略》が行われているので、"if you didn't know him" と補って考える必要がある。
文意は、「もしあなたが彼を(個人的に)知っていたのならあまりに悲しいことですが、もしあなたが彼を知らなかったのなら、いつだって、彼が私たちに与えてくれた多くのすばらしくおもしろい瞬間を見て笑うでしょう」と直訳できる。
ジョーンズを個人的に知ってると死去はちょっと辛すぎるが、別に知り合いでもなければ単に優れたコメディアンとしてジョーンズの作品を見てげらげら笑っていればよいのである、ということだ。
さて、続いてパイソンズ唯一のアメリカ人メンバー、テリー・ギリアムのツイートも見ておこう。特に文法的なポイントがあるわけではなく、故人について思いつくだけの形容詞を挙げて、追悼した一文だ。最後で笑いを取るように下品で外した言い方をしているのがパイソンズのスタイルである。ジョン・クリーズともエリック・アイドルとも全然雰囲気が違うが、これもまた胸に迫る追悼文である。ちなみに一番最初の "HE WAS A VERY NAUGHTY BOY!" はテリー・ジョーンズの数々の名セリフの中でも一番といえるセリフだ(正確には、元のは現在形なのだが……こういう過去形は、過去形であるというだけで「追悼」を表せている)。
HE WAS A VERY NAUGHTY BOY!!...and we miss you.
— Terry Gilliam (@TerryGilliam) January 22, 2020
Terry was someone totally consumed with life.. a brilliant, constantly questioning, iconoclastic, righteously argumentative and angry but outrageously funny and generous and kind human being...
1/2 pic.twitter.com/2945mp6JYQ
...and very often a complete pain in the ass.
— Terry Gilliam (@TerryGilliam) January 22, 2020
One could never hope for a better friend. Goodbye, Tel.
2/2
そして、大学時代からジョーンズとは親友だったマイケル・ペイリン。パイソンズ唯一の「まともな人」と評されるペイリンは、ジョーンズの訃報を受けてあちこちのメディアに出て、故人との思い出を語っていた。元々Twitterはごくごくたまにしか使っていないのだが(数年に1度のレベル)、ジョーンズの死について、一言だけ投稿がある。
You will be very missed old friend. I feel very fortunate to have shared so much of my life with Terry. pic.twitter.com/4oNANoIeB2
— Michael Palin (@NotMichaelPalin) 2020年1月22日
これも文法解説は不要だろう。しようと思えばできるポイントはいくつかあるのだが、そうしたいと思わない。
ペイリンのインタビュー(Sky News)。パイソンズの女装芸について「エリック・アイドルはかわいい系で、ジョン・クリーズは恐ろしかったが、テリー・ジョーンズは普通におばちゃんだった」みたいなことを言ってておもしろい。
Sir Michael Palin on Terry Jones
テレグラフのインタビューでは、認知症についてジョーンズがどのような態度だったかも語っている(後半)。
Terry Jones fondly remembered by close friend and collaborator Michael Palin
*1:このように目的語が前に出た形を《倒置》と扱うこともあるが、当ブログでは「《倒置》とはS+VがV+Sの順になること」と考えるようにしているので、O+S+Vを《倒置》とは位置付けないでおく。ただしタグは、参照性をかんがみて、「倒置」も設定しておこう。