このエントリは、2019年6月にアップしたものの再掲である。ネイティヴ日本語話者にはわりとわかりにくい《no + 比較級》がどういう場面で使われるのか、よくわかる実例である。
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今回の実例は、EUの欧州議会でBrexit担当代表を務めるヒー・フェルホフスタット氏(元ベルギー首相)が、英紙ガーディアンに寄せたオピニオン記事から。
この文章の文脈は、テリーザ・メイの後任を決める保守党党首選挙である。メイは6月7日に保守党党首を辞任することを正式に表明し、その後保守党の党内手続きとして次の党首選びが開始された。立候補者は最初10人いたが、6月半ばに国会議員たちによる複数度の投票で2人にまで絞り込まれ、あとは一般の党員による郵便投票で最終候補2人のうちのどちらかが次の党首に選ばれることになる。現在の英国会では保守党が過半数を取らない形で政権をになっており、選ばれた新党首は自動的に、次の英国首相になる。投票の締め切りが7月22日、結果発表が23日で、メイがダウニング・ストリート10番地を去るのが24日という日程だ。詳しくはウィキペディア英語版を参照。
この保守党党首選で最初から「本命」とされてきたのが、EU離脱を決めたレファレンダムのときに離脱陣営のキャンペーン・グループを率いていたボリス・ジョンソンで、Brexitを煽るだけ煽ってその後の困難な実務段階には関わろうとせず、メイの内閣で外務大臣となったはいいが長く持たずに仕事をほっぽり出していった人物であるにもかかわらず、議員による投票でも断トツの1位だった。2番手はジェレミー・ハント外務大臣で、彼も有力政治家ではあるが、ジョンソンが勝利することはほぼ確実と見られている。ちなみにこの2人が最終候補になったことで、「〇〇〇味のカレーか、カレー味の〇〇〇か」の選択ではないかとの指摘があったことに対し、「どちらも〇〇〇味の〇〇〇である」との反論がなされていたのには、至極ごもっともと思った。
ちなみにジョンソンは政治家になる前はメディアで仕事をしており、ブリュッセル特派員として、「ジャーナリスト」の身分で、デマと誇張にまみれた「ブリュッセルからの直送情報」という名のデタラメをあれこれ書き立てていた。彼のデタラメ情報は2000年代の英国で、反EU感情をあおるのに大いに貢献した。
ともあれ、このような調子でジョンソンが次の英国首相になることがほぼ確実と見られているわけで、フェルホフスタット氏の文章はそれに対するカウンターと言えるものだ。
記事はこちら:
今回見るのは記事の書き出しの部分。いわゆる「つかみ」のところだ。
Three years after the United Kingdom’s Brexit referendum, the UK is no closer to figuring out how to leave the European Union – and what comes next – than it was when the result was announced.
"– and what comes next –" の部分は、ハイフンで挟んだ《挿入》なので、文構造を見るときは外した方が見やすいだろう。これを外すとこの文は次のようになる。
Three years after the United Kingdom’s Brexit referendum, the UK is no closer to figuring out how to leave the European Union than it was when the result was announced.
ここで太字にした部分は、《no + 比較級》の形になっている。以前も説明したが、noは「ゼロ」の意味であり、《no + 比較級 + than ...》は「…よりもゼロだけ~だ」のいうことになる。これを普通に読んでわかる日本語にすると、「~である度合いは、…と変わらない」となる。単純な例文で見てみるとわかりやすくなるだろう。
My brother is no taller than me.
(弟は私よりもゼロだけ背が高い→弟は私と同じくらいの背の高さだ)
引用文中で下線で示した《close to ~》は「~に近い」の意味。前置詞としてtoを使うことがポイントだ。これは、今でも人気のある60年代のアメリカのポップソングのタイトルで覚えてしまうのが早いと思う。
Close to You - Carpenters with Lyrics
上で引用した部分は、「英国がBrexitを決めたレファレンダムから3年が経つが、英国はどのようにしてEUを去るかーーそしてそのあと何がくるのかーーについて、レファレンダムの結果が告知されたときと同程度にしかfigure outすることに近づいていない」と直訳される。
《figure out》は受験英語で定番と位置付けられてきた熟語表現で、figureという語からわかるように数学のイメージで考えると意味が頭に入りやすいだろう。「解法・解を見つける」ということだ。そのうえで、実際の文章の中での訳し方はいろいろ工夫する余地がある。語義は例えば下記など参照。
フェルホフスタット氏のこの文章は、このあとしばらく怒涛の否定語の連続となっていて、そこもまた見どころといえば見どころなので、次回に取り上げてみよう。