今回の実例も引き続き同じ、新疆ウイグル自治区での強制労働という重大な人権侵害を引き起こしながら生産されている綿製品の材料と、世界のアパレルブランドの関係についての記事から。
なお、この記事が取り上げている人権団体連合体の報告は、個々の企業(ブランド)を非難することが目的なのではなく、それなしに済ますことができない基本的な原料・材料の生産過程に搾取が組み込まれているということ、その搾取を前提とした世界的な利益構造(「世界システム」的な)があるということを明らかにすることが目的であると私は読んでいる。生産・搾取の問題は、「ブラッド・ダイアモンド」のような地下埋蔵資源についてこれまで何度も指摘され、それこそ「ハリウッドスターがそれについての映画を作る」というような形でアウェアネス(問題の存在を人々に気づかせること)の取り組みも行なわれてきたが、綿という、現代では何の変哲もないような素材でもそういうことが起きている。あたかも奴隷制のもとで多くのアフリカ人(黒人)が「新大陸」のプランテーションで搾取されていたころのように。そしてその搾取を行なっているのが、いわゆる「西洋の先進国」ではないというところで、「反西洋」の思想を原動力(の少なくとも一部)とする対抗運動が機能するのかどうか……今日も、この報告で名指しにされていたブランドの綿製品を使いながら、考えている。
これまでのエントリは下記:
hoarding-examples.hatenablog.jp
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記事はこちら:
今回実例として参照するのは、記事の最後の方から。
キャプチャ画像の最初の文:
Yet members of the coalition said that it was not sufficient for brands and retailers to just sever direct relationships to suppliers but that a complete overhaul of the sector’s links to the region had to be undertaken.
けっこう長い文なので読むのがいやになってしまうかもしれないが、構造は文頭から読み下していけば十分に読み取れるもので、特に難しくはない。
Yet members of the coalition said ( that it was not sufficient for brands and retailers to just sever direct relationships to suppliers ) but ( that a complete overhaul of the sector’s links to the region had to be undertaken ).
"S said that A but that B" という形で、saidの目的語となるthat節が2つある形だ。重要なのはカッコ内、つまりsaidの目的語となっているthat節2つの中身なのだが、まずは文頭から見ていくことにしよう。
Yetという単語は地味だが意外と多義語で、出てくると身構えてしまう人も多いかもしれない。この文頭の "yet" は《接続詞》のyetで、意味は「けれども」「しかし」など《逆接》の意味だ。つまり、butやhoweverの類義語であるが、それらより「対比の意味がやや強い」と『ジーニアス英和辞典(第5版)』は説明している。まあ、読むときはあまり気にしなくてよいだろう。ざっくりと「butと似たようなもの」と思っておいてよい。
続いて、that節の中身:
... that it was not sufficient for brands and retailers to just sever direct relationships to suppliers but that a complete overhaul of the sector’s links to the region had to be undertaken
1つ目のthat節は、太字で示したように、この文の骨格は《it is ~ for ... to do --》の《形式主語》構文である。「ブランドや小売業者が、--するだけでは十分ではない」という意味になる。
そしてこの文の《真主語》である《to do --》の中身だが、toと動詞の原形の間に副詞のjustが入った《分割不定詞》の形になっている。意味は「単に供給者との直接の関係を絶つこと」。
次、2つ目のthat節は、主語が長い頭でっかちの形になっている("a complete overhaul of the sector’s links to the region" が主語)。"had to be undertaken" の部分は、《have to do ~》が時制の一致で過去形になって "had to" となったものに、《受動態》の《be + 過去分詞》が続いている。「行われなければならない」の意味。
そしてこの部分全体(saidの目的語全体)で、上で下線で示したように、《not A but B》の構造(「AではなくB」)になっていることにも注目したい。「直接の関係を絶つだけでは十分ではなく、完全な見直しが行われるべきだ」という構造だ。
この次のパラグラフは、そのように記者が地の文で書いたことについて、報告を行った人権団体連合体の人の発言を、引用符にくくってそのまま紹介してる個所。発言者の "Cranston" さんは、記事の上の方に "Chloe Cranston, business and human rights manager at Anti-Slavery International" と出てくる(Anti-Slavery Internationalはこの報告を出した連合体に参加する人権団体のひとつ):
“This isn’t just about direct supply chain links, it’s about how the global apparels sector is helping prop up and facilitate the system of human rights abuses and forced labour,” says Cranston. “There needs to be a deep and thorough interrogation of how brands and retailers are linked to what is happening at scale to the Uighur people.”
先ほど見た、今回の最初のパラグラフの内容を別の言葉で述べている箇所なので、内容が把握できているから、読めばわかるだろう。《this is about ~》はよく出てくる表現で「~の話ではない」ということ。「直接のサプライチェーン(原材料供給)のつながりだけの話ではありません。世界的なアパレル産業がいかにして人権侵害と厚生労働のシステムを是認し促進しているかということの話です」という文意だ。
発言内容の後半、"there needs to be ~" は、《there is ~》のis(be動詞)がneed to beとなった形。「(how以下について)深く、徹底的な尋問がなければなりません」という意味になる。
下線で示した "how" は、「いかに~であるか」という《疑問詞節》を導いており、青字で示した "what is happening" は「何が起きているか」(疑問詞節)または「起きていること」(関係代名詞節)。"at scale" は、この記事に何度か出てきた "extensively" とほぼ同義の表現で「大規模に」。whatから後ろは、「ウイグルの人々に、大規模な形で起きていること」という意味である。
キャプチャ部分の一番下に近いところにある "Gap has been contacted for a response." は、この画面だけ見ていると唐突なように見えるが、記事全体を見れば違和感はないはずだ。これは報道での書き方の決まり文句で、「コメントを求めたが、記事執筆時までに応答がなかった」ということを表している。この記事ではH&Mや無印良品などのコメントを紹介しているが、Gapは応答がなかったのでコメントを記載することができない、という説明である。
さて、この記事、7月24日にTwitterにフィードしたら、現在までに、retweetが2.8k, likeが4.7kとなっている。多くの人が関心を向けていることがわかる。私も続報や他の記事に気が付いたらまたTwitterでフィードするなり何なりしたいと思う。
無印良品もユニクロも入っている。ウイグルの強制労働を使っているアパレル企業のリスト。驚いたことにパタゴニアまで。 https://t.co/Sks7PyBzja
— n o f r i l l s /共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) 2020年7月24日
※4010字
参考書: