このエントリは、2019年9月にアップしたものの再掲である。asの識別はかなり大きなポイントになるにもかかわらず、はっきり認識できていない人が少なくない項目だから、しっかり見ておいてほしいと思う。
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今回の実例は、環境問題についてのBBCの大きな記事から。私も知らないことだったので記事を読んだときは「衝撃を受けた」といってよい状態だったが、あとから調べてみたら多少なりとも専門的な知見の場では周知の事実で、そのことは十分に共有されているようだった。問題は、それが一般人の知るところではなかった(だからBBCが 'secret' という単語を見出しに使った大きな記事を組んで、問題があるということを明らかにしている)ということだろう。
記事はこちら:
この記事が取り上げているのは、Sulphur hexafluorideという物質。略称はSF6で、化学物質の名称に慣れている人ならわかるだろうが、sulphurは「硫黄」、hexaは「6」で、fluorideは「フッ化物」。つまり「六フッ化硫黄」だ。
この物質名でウェブ検索すると、日本語でも多くの解説・説明がなされていることがわかる。ウィキペディアのような事典はもちろん、メーカーや研究機関など多くのサイトが検索結果に上がってくる*1。そのひとつが、東北大学大学院理学研究科大気海洋変動観測研究センター物質循環分野のサイトの解説である。ここからわかりやすい説明を少し長くなるが引用しておこう。
六フッ化硫黄(SF6)も温室効果をもつ気体のひとつです。六フッ化硫黄はもともと大気中にほとんど存在していませんでしたが、1960年代から工業的に生産されるようになり、それが大気に排出されることによって急激に大気中の濃度が増え続けています。主に、電力供給に関係した装置などで絶縁ガスとして利用されてきました。六フッ化硫黄を製造する際や、それを利用している装置が修理されたり廃棄されたりする際に、六フッ化硫黄が大気中に漏れ出ていると考えられています。現在の大気中の濃度はおよそ6ppt(pptは1兆分の1を表します)と極めて微量ですが、最近のわずか10年間の間におよそ2倍に増えたとされています。今後もこのような増加が続いた場合、地球温暖化に対する寄与が無視できないほど大きくなる可能性があります。……
六フッ化硫黄の最大の特徴は、大気中で安定であるということです。対流圏や成層圏の中では、化学反応によって消滅することはほとんどありませんし、海水に溶ける量もわずかです。このように安定であるということは、人間が大気に放出した六フッ化硫黄が、どこにも除去されずに、大気の流れに運ばれて広がってゆくということを意味しています。
今回のBBC記事では、この物質のこのような用途や性質についてかなりたっぷりと説明した上で、現在それが「汚い秘密 dirty secret」と呼ばれている背景が解説されている。つまり、20世紀の終わりごろから「環境負荷の少ないクリーンな電力」として世界各地で風力発電・ソーラー発電などの導入が進められてきたが、発電の動力は「クリーン」でも、その電力を人々に届けるための送電設備は、二酸化炭素(CO2)とは比べ物にならないほど強力な温室効果を有するSF6を使っている。
というわけで今回実例として見る部分である。
かなり分量のある記事の最初のセクション、スマホの画面だとまるっと1画面分くらいをスクロールしたところから。
But leaks of the little-known gas in the UK and the rest of the EU in 2017 were the equivalent of putting an extra 1.3 million cars on the road.
little-knownは、ハイフンを使った《複合語》で、2語が1語となって形容詞として用いられている。意味はそのまま「ほとんど知られていない」。
英文読解としては、この "the little-known gas" は、SF6のことを言っている(同じ名詞の繰り返しを避けるための言い換え)。
続いて、上記引用部分で下線で示した " were the equivalent of -ing" は「~することに等しい、に相当する」の意味。「等しい」でequalしか思いつかず、自由英作文で使ってはみたけれどなんかぎこちなく感じるという難関大学受験生は、この表現は覚えておくと役立つだろう。
One serving of broccoli is equivalent to two oranges when it comes to Vitamin C.*2
(ビタミンCのこととなると、ブロッコリー1食分はオレンジ2個分に相当する)
つまり、この文の意味は、直訳すると、「英国とEUのほかの(=英国以外の)場所における2017年のこのほとんど知られていない気体(=SF6)の漏出は、今ある分に加えてさらに130万台の車を路上に出すのと同じ効果をもたらす」。
次の文:
Levels are rising as an unintended consequence of the green energy boom.
このasがどういう機能を持ち、どういう意味か、わかるだろうか。
asについては既に何度か書いているが、まず、接続詞なのか前置詞なのかを見分けなければならない。そしてそれを見分けるには、asの後ろに続いているのが《S+V》の構造になっているか、あるいはその構造になっておらず名詞・名詞句だけかどうかを見る。
今回の例では、 "an unintended consequence of the green energy boom" はやや長くはあるものの名詞句で、《S+V》の構造ではないので(少し詳しく見ると、最後のboomという単語には動詞の用法も名詞の用法もあるから、ぱっと見では《S+V》の構造になっていないとは断定できないと思われるかもしれない。だがこのboomが動詞だったら、主語は直前のthe green energy、つまり3人称単数だし、その場合、この文自体の時制は、Levels areと現在形だから、boomが動詞ならば3単現のsがついていないとおかしい。したがってboomは名詞である……ここまで論理的に1秒以内で判断できるようにしないと、「使える英語」としては厳しい)、このasは前置詞である。
よって、"Levels are rising as an unintended consequence of the green energy boom." は「グリーン・エネルギーのブームの意図されざる結果として、(SF6の)レベルは上昇している」という意味になる。
続いて、関連記事リンク集の部分を挟んだ次の文:
Cheap and non-flammable, SF6 is a colourless, odourless, synthetic gas.
下線で示した部分は、見た目では形容詞だけだが、実際には《文頭のbe動詞が省略された分詞構文》であると考えられる。
Being tired and sleepy after a long day, I fell asleep on the bus.
= Tired and sleepy after a long day, I fell asleep on the bus.
(いろいろあった1日のあと、疲れて眠かったので、私はバスの中で寝入ってしまった)
ここでは単に、"SF6 is a colourless, odourless, synthetic gas, and it is cheap and non-flammable." などと書いてもよいのだろうが、それでは何か小学生の作文みたいでかっこ悪い。その点を補うためにこの《beの省略された分詞構文》の形をとっているのだろう。要は、「SF6は無色透明で無臭で合成によって作られ(つまり枯渇したりしない)、安価であり不燃性である(つまり扱いやすい)」という情報が読者に与えられればよいという記述だ。
SF6はそういう性質のガスだから、絶縁体として広く使われているわけだ。
今回はここまで。記事全文、けっこう分量はあるが、英語としては特に難しくはないので、ぜひ読んでいただきたいと思う。
参考書:
*1:情報があやふやなことが多い「いかがでしたか」ブログの類は、私が見たところではなかったので安心と思ったが、逆に「一般には知られていない」ということで危機感を覚えるべきかもしれない。
*2:英文出典: https://www.phrasemix.com/phrases/the-equivalent-of-something