今回の実例は、BBC NewsによるTwitterのフィードから。
ニュースのフィードとはいえ、前提知識的なものはほとんど必要なく、英文さえ見ればよいという性質のものなので、いつものような前置きなしでいきなり本題に入る。
というか、予備知識なしで読んでも中身が把握できるであろうと思われる文なのだが、逆にこの文を通じて知識が得られるのではないかという文でもあり、そういう観点で見てみたい。
こちら:
Dilapidated state of Tyne Bridge would have been fixed long ago if it was in London, councillors claim https://t.co/lkWtHASjP2
— BBC News (UK) (@BBCNews) 2021年12月13日
まずは文法的なことから。
この文、《主節 + 従属節 (if節)》という構造になった《仮定法》の文なのだが、主節とif節がそれぞれ違っていることにお気づきだろうか。
そう。主節の方は "would have been fixed long ago" と《仮定法過去完了》で、if節の方は "if it was in London" と《仮定法過去》になっている。つまり、《仮定法過去完了 if 仮定法過去》の形だ。
これが逆、つまり《仮定法過去 if 仮定法過去完了》ならばよくありがちで、高校生が使う参考書にも載っているくらいだが、今回のこの形はわりと珍しい。
《仮定法過去 if 仮定法過去完了》は「過去において~であったならば、現在…なのに」という意味で、実際にそういう状況は想像しやすいと思う。例えば:
He would be better off if he had worked hard when young.
(若いころにもっと一生懸命にやっていたならば、彼は今ごろもっとよい生活をしているだろうに)
If I had eaten breakfast this morning, I wouldn't be hungry now.
(今朝、朝食を食べていたならば、今空腹になっていないだろう)
ところが、今回見ている実例にあるのは逆で、《仮定法過去完了 if 仮定法過去》の形になっている。
Dilapidated state of Tyne Bridge would have been fixed long ago if it was in London
これはどういうことかというと、if節の中身が普遍的というか恒常的なことを言っているからだと考えられる。
この場合はTyne Bridge, つまり橋があるのがロンドンならば(ロンドンだったならば)という仮定をしているのだが、その「橋がある」は恒常的なことで、昨日ロンドンにあった橋が今日はブリストルにある、というようなことは考えられない。「その橋がロンドンにある」という事実は、橋が倒壊でもしない限りは過去のものにはならない。つまり、その橋がロンドンにあるということは、「太陽は東にのぼる」と同じように、感覚として、常に現在形で表されると考えられる。
一方、主節のほうは「修理される」ということで、それは「とっくの昔に修理された」と過去の話をするときは過去形になる。
こうして、if節の中が仮定法過去(つまり現在のこと)で、主節が仮定法過去完了(過去のこと)という文ができる。
これについて、当ブログでいつも参照している江川泰一郎『英文法解説』では例文が示されているだけで(259ページ)、当ブログではめったに参照しない*1安藤貞雄『現代英文法講義』でも例文が出ているだけと言ってよいくらいあっさりした記述なのだが(377ページ)、旺文社の『ロイヤル英文法』がたっぷり解説してくれているので、どういうことなのかもうちょっと調べたい人は『ロイヤル』を見てみてほしい(552ページ)。
条件節が現在も変わらない事実と反対のことを仮定し、帰結節が過去の事実の反対のことを表すときは、条件節の動詞は仮定法過去、帰結節の動詞は〈過去形助動詞+完了不定詞〉になる。
……と文法解説をしたところで、もう一度、実例の文を見てみよう。
Dilapidated state of Tyne Bridge would have been fixed long ago if it was in London
文頭の "diliapidated" は、大学受験レベルではまず見かけないような単語かもしれない。見てわかる通り、diliapidateという動詞(他動詞)の過去分詞が形容詞化したもので、この動詞は「~を荒廃させる」という意味で、これの過去分詞だから「荒廃させられた」、つまり「荒廃した」の意味。語感としては「廃墟と化した」くらいのニュアンスで用いられることが多いが、今回の実例では、添えられている写真(橋がサビだらけになっている)からもわかる通り「廃墟」までは行っておらず、「荒れ果てた」「手入れ(メンテナンス)がされていない」の意味。"Dilapidated state" は「ひどい状態」くらいの意味だ(が、その「ひどい」を具体的に描写しないとまともな英語にならないので、こういう描写の語彙力をつけておくのは、英語を使って何かをしようとする人には重要である)。
で、ここでそういうひどい状態に置かれているTyne Bridgeという橋は、この文を読んでわかるように、首都ロンドンにはない。イギリス(というかイングランド)の地理に疎くても、そのことはこの文面を読んだだけでわかるだろう。
ここで余力があれば、ついでに、ではそのTyne Bridgeとはどこにあるのかも見てみるとよいだろう。
Twitterフィードのリンク先記事:
BBC Newsは各記事の一番上を見れば、どの地域のニュースかがわかるようになっている。
この記事の場合、
England | Regions | Tyne & Wear
とあるが、これは「イングランド」の「地域」ニュースで、「タイン&ウィア」という地域のものであることを示している。
「タイン&ウィア」は、海外サッカー、特にイングランドのプレミアリーグに関心がある方なら知っているだろうが、そうでなければそれが地名・地域名であることもわからないかもしれない。
その場合、たいがいの環境では、"Tyne and Wear" と検索窓に入力するだけで、求める結果が検索できるはずだ。
タイン&ウィアはイングランド北東部の北の方にある地域で、「タイン」はタイン川、「ウィア」はウィア川のことで、2つの川の河口域一帯をさす。
ニューカッスル・アポン・タインと、サンダーランドがこの地域にあるので、サッカーに関心がある人は、「ニューカッスル・ユナイテッドとサンダーランドが激しいダービーになる地域」というとピンとくるだろう。
ともあれ、そのようにロンドンから遠く離れたイングランド北東部の港湾都市(かつては重工業の拠点で、かつての「日英同盟」の時代、日本との縁も深い地域だった)では、橋という重要なインフラもろくに手入れされず荒れるに任されているが、これがロンドンだったらとっくにきれいになっていただろう、というのが、今回見たTwitterフィードの内容である。
橋については下記を参照。1925年から28年にかけて建設された鉄の大きな橋である。
※3280字
*1:本体だけで6600円と高額だし、本棚でも場所をとるから、ちょっと勉強しようかなという人がそう簡単に手元に置ける本ではないし、内容も大学受験レベルにはオーバースペックなので……。