Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

現在完了はこういうときにこそ使うもの(オーストラリア、ジョコヴィッチが一時入れられた入管施設に9年も拘束されている難民の声)

↑↑↑ここ↑↑↑に表示されているハッシュタグ状の項目(カテゴリー名)をクリック/タップすると、その文法項目についての過去記事が一覧できます。

今回の実例は、Twitterにフィードされている報道の映像クリップから。

新型コロナウイルスのワクチンを打たずに全豪オープン出場のため入国したオーストラリアで入国査証(ヴィザ)を取り消されたノヴァク・ジョコヴィッチ選手は、一度はその取り消しを裁判所が取り消したのだが、その後、裁判所のさらに上層で決定権を持つ出入国管理大臣が再度の取り消しを検討していると伝えられていた。当初、木曜にも出されると言われていたその結論が、1日遅れて、金曜日に出た。

その速報が来たときの、BBC Newsのアラートの画面。ここ数日、ほんと「何だかな」って感じなんだけど: 

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通常ならここでゲームオーバーで、入管当局に身柄を拘束されて一時的に施設に留め置かれ、次の便で出発地セルビアに送り返されることになるのだが、ジョコヴィッチのチームはさらに法的に取れる手は取るつもりのようで、本当に本当の最終的な結論が出るまでの期間は仮の入国許可(一時滞在許可)が出るから、その期間は豪州に合法的に滞在するという方針をとるようだ。まだその話は私が見る限りでは出てないみたいだけど。

で、ジョコのヴィザ取り消しの件については、担当の大臣の声明も首相の声明も読んだし、報道記事も読んだけど、解説できるような項目が見当たらなかった。私がこの話題に飽きてるから何も見つけられなかったのかもしれないが、特に「おお、これは」と思うようなポイントもなく、逆に言えばするする読めるはずだから、下記のTwitterまとめなどを手掛かりに、英語での報道やツイートを読んでみてほしい。

さて、今回の実例は、ジョコヴィッチが一時、入管管理施設に入れられていたことで、一時的にスポットライトが当たった、それまでほぼ無視されていた難民たちについての報告から。

 

ジョコが放り込まれた施設に、オーストラリア当局にただ留め置かれている難民たちがいたことは、3つ前のエントリでも少しだけだが触れた通りである。

ガーディアンのこの記事で中心的に取り上げられているメフディさんは、イランの政府から迫害を受けている少数民族の青年で、「難民」としてのステータスが確定している(つまり、「誰がどう見ても故郷では安全に暮らせない難民である」)にもかかわらず、オーストラリア政府は彼をまともに受け入れることはせず、ずっと入管施設に留め置いてきた。その間、何と9年。渡豪時に15歳だった彼は、24歳になった。

メフディさんはFBやTwitterをやっていて(というと、「難民は、極限まで苦労していなければならない」と考えている日本語圏のかなりの多くの人々は「難民のくせに、生意気な」と鼻息を荒くするだろうけれど、その感覚自体がおかしいということに早く気づいてほしいものである。そして、気づいても修正しようとしないかもしれないけど、修正してほしい)、彼のTwitterのページは「ジョコヴィッチ選手が施設に放り込まれてつらい思いをしてかわいそうというのなら、理由もわからないなかでそういう施設に何年も留め置かれている私たち難民のことも知ってほしい」という趣旨での投稿と、「私の名前をかたって寄付金を集めている人がいるようですが、私は一切関与していません」という告知などが立て続けに投稿されている。今回のジョコヴィッチの件があって、メフディさんが(リモートで)取材を受けて書かれた記事や映像報告もリツイートされるなどしている。映像の音声の聞き取りは難しいかもしれないが(電話というかインターネットを介しての通話で、音声の状態は理想的とは言えない)、ぜひ、この人の声というものを聞いてみてほしい。そこにいるのは、人間だ。

アルジャジーラのこのフィードにある映像では、この施設の部屋には窓がなく、建物の外にも出られないので新鮮な空気を吸うこともできないこと、傷んだ食品が食事に出されることなどが説明されている。

オーストラリアの入管施設というと、本土から離れた洋上にあるナウルパプアニューギニア英語圏ではPNGと略されることが多い)に置かれた国外施設が、国際報道でもたびたび取り上げられてきた。オーストラリアの国内政治のコマのひとつとして、「外国からの移民」が利用されてきたのだが、それに伴って閉鎖されたり再開されたりもしている。国際情勢の変化によっても。

en.wikipedia.org

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メフディさんはこのナウルの劣悪な施設に入れられていた。そのことから語り始めているのが、Middle East Eye (MEE) の下記映像報告である。4分近くあるが、英語字幕がずっと表示されているので、見てみてほしい。

ナウル(の施設)は残酷でした。常軌を逸した恐ろしい施設で、安全ではなく、何度か死にかけました。オーストラリア人職員から暴行を受けたことも、現地警察や住民に襲い掛かられたこともあります」と語る彼の顔は、時折、本当につらそうな表情を浮かべる。

「生きながら自分の体に火を放った人もいました。叫び声をあげていた……最終的には病院に搬送されましたが、そこで亡くなりました」と語るとき、彼はときどき言葉を途切れさせる。「自分がどうやって生き抜いたのか、よくわかりません」

2019年に法律が変わって、医療が必要とされる収容者はナウルの施設の外に移送された。PTSDにかかってたメフディさんもこのときにほかの190人余りと一緒に外に移送されたが、彼が新生活をスタートさせる前に政府がこの法律を撤廃(オーストラリアってかなりめちゃくちゃですね……今回のジョコのヴィザ取り消しの騒動でも、最終的に裁判所の判断を大臣がつぶすことが可能だったりしてるし)、彼はメルボルンのこの施設(元々ホテルの建物)に、少なくとも32人の人々と一緒に、放り込まれた。

施設では外に出ることは許されず、窓も開閉できず外の空気を吸えることはほとんどなく、ほぼずっと自室にいて、とにかく寝るか、ギターを弾くか、本を読むか、映画を見るかしていて「何とか死なずに、生き延びようとしています」

そんなふうにして閉じ込められている人々が30人以上いるこの施設に、1月4日、テニスのスーパースターが収容された。その日、目が覚めてスマホをチェックしたら、施設の外にいる友人知人たちから「その施設にジョコヴィッチがいるんでしょ」というメッセージが来ていて「何の話だ」と思ったが、施設の外にマスコミのカメラやジョコヴィッチのファンが詰めかけているのを開かない窓から見て、ニュースをチェックして、事態を把握した。「ショッキングですよね、世界最高のテニスプレイヤーが、こんな、みすぼらしいところにいるなんて」

そして異議申し立てを経てジョコヴィッチはこの施設から解放されたが、メフディさんは、ジョコヴィッチがこの施設の庇護申請者(asylum seekers, 難民申請者)について発言してくれることを期待している、と、"I’m really optimistic that he’s going to speak about us." という言葉で語る。「わずか4日間とはいえ、私たちがここでしている経験を、ジョコヴィッチ選手もしたのですから」

たぶん、ジョコヴィッチはそういうことはしない。フェデラーナダルだったら声を上げただろうし、マリーだったら確実に大声を上げているだろう。しかしジョコヴィッチはそういうことをするタイプの人ではない。そのことは、今回のこの騒動で次々と明らかになった嘘・虚偽と無責任行動についての言い訳と責任転嫁でも明らかだ。

メフディさんはスマホから入ってくるそういうニュースに接して落胆しているだろう。

せめてここが、こんな小さなブログではあるが、メフディさんの言葉をひとりでも多くの人に知ってもらうきっかけになればと思って、規定字数をすでに1000字近く超過して書き続けている。

というところで、今更ながら英文法解説。

MEEのこの映像、英文としては、基本時制のよいおさらいになる。高校入試レベルだが、大学受験を控えた人も、改めて確認しておきたい。情報を正確に読み取るには、時制はとても重要だ。読み飛ばしたり、過去形で書かれているのを現在形で解釈したりしてはならない。自分で英文を書くときにも、時制は大切にしなければならない。

映像が始まってすぐ、メフディさんがどういう人かを紹介するところで、次のようなキャプションが画面に現れる。

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https://twitter.com/MiddleEastEye/status/1480977426209460229

Mehdi Ali has been detained by Australia for nine years

お手本のような《現在完了》で、《受動態》だ。「9年間ずっと、オーストラリアによって、拘束されたままである」という意味。

メフディさんが、同じ施設に入れられているほかの難民申請者のと合わせて、ある写真をツイートしている。上の《現在完了》を、これらの写真で彼らの持っている手書きのプラカードの文言と突き合わせてみてほしい。

I came to Australia asking for safety when I was just 15 years old. Now I am 23 years old and still in detention. I am suffering. 

I came when I was 16 years old. Now I'm still in the detention. I'm suffering in here. 

I came when I was 15. Now I'm 22 years old an I'm still in detention.

現在完了ってのは、こういうことを表すのである。

映像のもう少し先にも、現在完了は出てくる。

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https://twitter.com/MiddleEastEye/status/1480977426209460229

これは、「2013年という過去の一点を起点にして、今までに合計で3000人以上の難民を(国境の外になる無期限収容施設に)入れてきた」ということを表している。数値に重点がある表現で、これは、「与えられたグラフの内容を英語で説明しなさい」みたいな英作文問題で、起点が過去にあって終点が現在にあるグラフの説明をするときに役立つ。

もうひとつ。映像でもっと先のところから: 

f:id:nofrills:20220114231153j:plain

https://twitter.com/MiddleEastEye/status/1480977426209460229

ここでは《to不定詞の意味上の主語》が使われていることを確認しておこう。

In 2019, the Medevac bill was passed by Australia's parliament allowing for detainees to be transferred for urgent medical attention.

動詞がallowだから、SVOOの文型で、"allowing detainees to be transferred ..." としてもいいんじゃないかと思うし、私ならたぶんそう書いていると思うが、ここでは "to be" の不定詞の意味上の主語として、forを用いて "for detainees" を不定詞の前に置くという形になっている。

6500字を超えてしまったので、さすがにここで終わることにしよう。

 

難民の扱いは、日本人はオーストラリアのこれを「よその国はひどいことをしている」というふうに見ることはできない。