このエントリは、2020年9月にアップしたものの再掲である。
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今回の実例は報道記事から。
当ブログでは今年7月、中国の新疆ウイグル自治区(以下「ウイグル」)で中国政府が行なっている人権侵害・弾圧に関して、人権団体の連合体が報告を出したこと、そこで世界で流通している衣料品に用いられている綿素材のうち、無視できないくらいの割合が、強制労働が行なわれているウイグル産であると指摘されていることを報じた報道記事を、何度かに分けてみてみた。
hoarding-examples.hatenablog.jp
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この報告で指摘されている強制労働の問題は、報告が出る前から指摘はされていたのだが、この報告のあとでアウトドア・ブランドのパタゴニアが、ウイグルからの原材料調達を停止すると発表するなど、影響(効果)は出ているようだ。
今回見る記事はそのさらなる続報で、米国政府の方針に関するものである。記事はこちら:
米国はウイグルを産地とする中国の主要な輸出品である綿とトマト(加工品用)を禁輸する方針で、税関当局が準備を進めているということが報じられている。記事はあまり長くなく、特に読みづらいところがあるわけでもないので、関心がある方はぜひ読んでいただきたい。
なお、BBCのこの記事だけだと細部がわからないので、もっと深い関心がある方は、米メディアの記事を探して読むことをお勧めしたい(私はそこまでは踏み込んでいないので、この記事がいいよというものがあるわけではないが)。
実例として見るのはこの記事の最後の方から。
キャプチャ画像内4番目のパラグラフより:
China produces about 20% of the world's cotton with most of it coming from Xinjiang.
短い文だが、この文を書いてある通りに読むことは文法を知らない人には難しいだろう。
まず前から順番に読んでいくと、最初の8語は「中国は/生産している/約20%の/世界の綿の」となるが、文法を知っていて意識しないで読めるようになっている人は、こんなふうに区分けすることなく、この8語をひとかたまりとして処理して、「中国は世界の綿の約20%を生産している」という情報を取ってくることができる。これが「文法を意識しないで読める」状態だ。だがそのためには、「英語では主語のすぐ次に述語動詞が来て、そのあとに目的語が来る(SVOという語順になる)」、「A of Bで『BのA』の意味になる」という文法の知識や、「aboutという語は数値の前に置いて『およそ、約』の意味を表す」といった単語の知識が必要となる。手練れはその知識をいちいち意識せずに使えるということで、知識がなければ文を書いてある通りに読むことはできない。
さて、そのあと、9語目、つまり太字で示したwithから後ろだが:
with most of it coming from Xinjiang.
このたった7語、それも固有名詞のXinjiangを除いては中学生でも知っているような基本単語しかないようなフレーズだが、高校で習う文法知識がないと読めない。少し前まで大いに流行っていた「英語は中学英語だけで大丈夫」という主旨の英語学習本にはこのような性質のものも含まれていることもあったのだが、「中学英語だけで」といった耳に心地よい宣伝文句は、動機付けのためのフレーズでしかなく、必ずしも実際にそうだというわけではない、ということは前提としておく必要がある。
さて、このwithだが、当ブログでは何度も取り上げている《付帯状況のwith》である。解説は過去に書いているので、タグからたどっていっていただきたい。さらにここでは《現在分詞》のcomingを伴っていて、下記例文と同じパターンになっている。
A huge dog was standing there, with its tongue hanging out.
(そこには、舌をだらりと垂らしたばかでかい犬が立っていた)
"most of ~" は「~のほとんど」で、そのあとの "it" は先行の名詞である "cotton" を受けているが、意味的には「中国が産出する綿」のことである。
というわけでこの部分は、「そのほとんどが新疆から来ている(新疆産である)」という意味。
こうして部分部分の意味を押さえておいてから、文全体の形を整えると、「中国は世界の綿の約20%を生産しているが、そのほとんどが新疆産である」ということになる。
ウイグルで産出されるものを中国の外の国・企業が買うことの何が問題かといったこともよくわからないという人もおられるかもしれない。ウイグル産のものを買わないこと(不買) は、ウイグルの人々を苦しめるだけではないかという疑問を抱く人もいらっしゃるだろう。そういった疑問を解消するのに役立つと思われるのが、1990年代の「ナイキ・ボイコット」の事例だ。英語圏をあたれば解説や分析などいろいろな記事・文献が読めると思うが、日本語で検索したところ、下記の論文が見つかった。興味がある方にはご一読をお勧めしたい。
「不買はウイグルの人々を困らせるだけだ」という論については、スポーツ用品メーカーのナイキと東南アジアのスウェットショップの問題についてご参照いただくのがよいかと思います。例えば https://t.co/WSk7t3xt6G 人権と労働について、CSRについて、よく調べられまとめられていると思います。
— n o f r i l l s /共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) 2020年9月9日
※2550字
参考書: