今回の実例は、報道記事から。
ソースが探せなくなってしまったのだが、先日、「日本語は一般的病名・疾患名で臓器の名前を使って『〇〇炎』などと言うからわかりやすいが、英語は病名・疾患名に臓器の名前が入っていないことがあってわかりづらい」ということが話題になった。そのときに例示されていた病名のひとつが、「肝炎」を意味するhepatitisだ。
hepatitisには「肝臓 liver」の影も形もない。ついでに言うと、綴りを見ただけでは読み方もはっきりわからない。語強勢(アクセント)はどこに来るのか、heは「ヘ」なのか「ヒー」なのか*1、といったことがわからないと、この単語を口にしたところで通じるかどうかもわからないし、誰かがそれを口にしたとして聞き取れるかどうかもわからない。つまり、「単語(の見た目、スペル)を知ってても、口頭では通じない」ということになりがちな単語だ。
だが実は、hepatitisには「肝臓」を表す語根(語幹)が入っている。
「肝臓」なら、日本語でなまっちゃってるけど、食材として「レバー」という語が英語由来で日本語に定着しているから、「肝炎」だって「レバーなんとか」という呼称なら、日本語母語話者にもわかりやすかったかもしれない。だが、hepatitisに入っている「肝臓」はliverではなくheparというギリシャ語由来のことばで、このheparということばは「肝炎」のhepatitisのほか「肝臓の」を意味する形容詞のhepticにも使われてはいるものの、単独で「肝臓」の意味でこの言葉を使うことはあまりないから、わかりにくいのだ。
ちなみに -itis は「炎症」の意味で、これは例えば「気管支炎」のbronchitisなどにもみられる。
と、前置きはここまで。
さて、「肝炎」といえばC型肝炎である。英語では hepatitis C と言う。
C型肝炎はウイルス感染なので、ウイルスの抗体検査をすることで感染を確認するのが一般的だが、英国ではさらに先進的な取り組みがなされることになりそうだ、というのが今回みる記事の内容。こちら:
見出しの最初についている "Exclusive:" は「本紙独占」「スクープ」の意味で、報道内容としてはこの最初の一語は外してみればよい。
勘のよい方はこの見出しを見ただけで本日の文法項目はあれだなとピンと来ただろう。
記事の書き出しの部分:
第1文:
The NHS is to use artificial intelligence to detect, screen and treat people at risk of hepatitis C under plans to eradicate the disease by 2030.
はい、《be + to不定詞》(be to do ~)。この文法項目については当ブログでは過去に何度も書いているので、そちらを参照されたい。ここでは「~する予定である」「~することになった」という意味で解釈される。文意は「NHS(英国の国民健康保険システム)はAIを使う予定である(AIを使う方針である)」。
続いて、下線で示した《等位接続詞》の "and" だが、どのような構造を作っているか、一目見てわかっただろうか。
まずは、”and” の直後が "treat" という動詞の原形だから、それに先行する動詞の原形をつないでいるとあたりをつける。
すると、"detect, screen and treat" というつながりがぱっと目に入るはずである。
この例ではandで接続されている単語どうしがくっついているので、判別には2秒もかからなかったはずだ。
文は、"under plans" の前で意味が区切れていて、文意は「2030年までにC型肝炎を根絶しようという計画のもとで、NHSは、C型肝炎のリスクがある人々を検知し、スクリーニングし、治療するために、人工知能を使う方針である」ということになる。
"under plans to eradicate the disease by 2030" の "the disease"(定冠詞に注目)がhepatitis Cであることにも注意しよう。同じ語句の繰り返しを避けるための言いかえである。ここで代名詞のitを使っていないのは、文意を明確にするための文章術だろう。
"to eradicate" は《to不定詞の形容詞用法》と考えてよい。直前の "plans" にかかっている。
1文飛ばして、第3文:
Left untreated, it can cause life-threatening damage to the liver over years.
《分詞構文》である。もっと言えば《過去分詞で始まる分詞構文》で、「過去分詞の前にbeingが省略されている」と考えると腑に落ちる人も少なくなかろう。
ここでは意味的には、"If it's left untreated, it can cause..." ということで、「治療されないまま放置されると、何年にもわたって、それ(C型肝炎)は生命を脅かすダメージを肝臓に与える可能性がある」と直訳される。
その次:
But with modern treatments now available, it is possible to cure the infection.
はい、みんな大好き《付帯状況のwith》で、ここでは形容詞を伴っている。
文そのものは《形式主語のit》の構文(下線部)。
文意は「しかし、今では現代的な治療法が入手可能になった状態であり、感染を治療することが可能である」と直訳できる。
※2550字
*1:ちなみに、hepatitisの語強勢は第3音節に置かれ、無理を承知で敢えてカタカナで書けば「ヘパタイティス」というような発音になる。