今回は、英文法の実例というより英語記事の探し方について。
今日2022年9月27日は、7月に殺害され、その数日後には東京タワーの足元にある増上寺という立派なお寺でお葬式が行われた安倍元首相の「国葬」と称する行事が、九段下の日本武道館で行われた。私は丸一日、音声を伴うメディアをシャットアウトして、開いている時間はほぼずっと読書して過ごしたので、それが日本国内外のテレビやラジオのようなメディアでどのように報じられたのかはさっぱりわからないが、Twitterではやはりその話ががんがん流れてくる。中にはいろんなレベルで何かとついていけない話もある。
銃殺されたひとを、銃砲で送るって😳…ついていけない感性。 pic.twitter.com/UFm3Pf2ufD
— 加藤郁美 (@katoikumi) 2022年9月27日
ちょっと待って……。殺人のお話の曲を、殺人事件の被害者に捧げるって、何ごと。仮に故人の愛した曲だったとしても、普段の生活で流して故人を偲ぶとか、身内で法要のときに使うのが限界の作品では。 https://t.co/yqmoKxVmyb
— nofrills/文法を大切にして翻訳した共訳書『アメリカ侵略全史』作品社など (@nofrills) 2022年9月27日
本日開催された安倍元首相の国葬に、ミャンマーの駐日「大使」が参列した。ミャンマーの民主派「統一政府」(NUG)や在日ミャンマー人コミュニティーは「国軍にお墨付きを与えてしまう」と批判していたのにも関わらず。
— Teppei Kasai (@TeppeiKasai) 2022年9月27日
動画の引用元: @thepage_jp https://t.co/bK9V6bcWvQ pic.twitter.com/eeh8Wg5mLz
国葬(のようなもの)の式壇は富士山をイメージして作られているらしい。それはそれは美しいのだろう。
— 松尾潔 (@kiyoshimatsuo) 2022年9月27日
富士山世界文化遺産の構成資産に登録された三保松原を擁する清水区は、長引く断水でいま危険な状況にある。自衛隊員が足りないとも聞く。
同じ国、同じ時の出来事。 pic.twitter.com/g2EZNlOHQw
九段下交差点付近、国葬反対プラカを掲げたひとに向けて罵ったり喚いたりする献花帰りのひとが、しばしば「国へ帰れ」「日本人じゃない」と言っているのを見かけた。これが一般人なのだとしたら、一般人ヤバいですわ。
— GAKU TANIGUCHI - trailights record (@trailights) 2022年9月27日
今日、9/27安倍元総理の国葬会場近くに取材に行った僕の友人が偶然撮影したもの。
— moco20210120 (@moco20210120) 2022年9月27日
多分、国葬反対デモを牽制するために動員された工作員ヤクザではないか? pic.twitter.com/yYLi9Wd8vw
ある待合室のテレビ。国葬の中継番組だった。50代と60代の女性が「立派ねえ」「ほんとねえ」と見入っていた。隣の私が「静岡は大変なことになっていますね」と呟いた。すると「あら、何かあったの?」「どうしたの?」と。おふたりに事実だけを伝えた。何だか悲しくなってきて、その場を去った。
— 東ちづる /Chizuru Azuma/ Get in touch (@ChizuruA1) 2022年9月27日
国葬のネット中継、佳子さまが映ったら途端にセクハラコメントが飛ぶのひどい…
— 猪谷千香🍋 (@sisiodoc) 2022年9月27日
映像を見てても、昭恵氏が喪主扱いになってるのはやっぱり妙だ。供花する人に昭恵氏がいちいちお辞儀している。国主催の国葬だったら昭恵氏もゲスト扱いになって然るべき。これではただの家族葬のプレイバックだ。
— 毛ば部とる子 (@kaori_sakai) 2022年9月27日
こういった指摘のほかに多かったのが、英国のエリザベス女王の葬儀との比較の発言である。それも見た目の壮麗さなどの比較ではなく(その点では、日本が日本式の、それこそ天皇の即位の儀のようなものをやるのでない限り、かなうわけがない)、予算の比較だ。BBCが記事にしていたことも大きく作用しているだろう。
BBCニュース - 「なぜ安倍元首相の国葬費用はエリザベス女王より高い?」、日本で話題にhttps://t.co/97uztd7tU0
— BBC News Japan (@bbcnewsjapan) 2022年9月24日
私自身は、費用の比較はあまり意味がないと思っている。第一に、こういう比較は日本では日本円に換算して行われるが、為替相場によってどうとでもなってしまうから。それと、英国の王室は自分たちの財産を持っているし、自分たちの不動産物件を会場に葬儀を行っているわけで、安倍氏の所謂「国葬」とは条件が違いすぎている。
それでもなお、この「国葬」とやらにこんなにカネかけてどうするんだろう、というのは、ある。
その点について、「国葬」とやらの支持者からは「弔問外交」という疑似的な四字熟語が、呪文のように唱えられる。この疑似的四字熟語が呪文化したのは、中曽根元総理が死去して1年近くたってから行われた壮麗な「国葬」もどき(内閣・自民党合同葬)のときだったと思うが、そのときも、「そんなん、国費使ってやるなよ」という批判に対して「弔問外交というものがあるのを知らないのですか」という、謎の上から目線の反論が起きたものだった。
死去したときに90代で、同時代の国外の政治家たちの多く(ロナルド・レーガン、マーガレット・サッチャーなど)はすでに亡いような昔の政治家の、死去から1年も経過してから行われる「葬儀」にくる人々の間で、どんな「外交」が行われうるというのだろう。しかもコロナ禍で日本は外国人の入国を事実上禁止していたタイミングではなかったか? Twitterを立ち上げれば、日本の学校に学費をおさめてあるのに渡航できずにいる学生たちからの嘆きや落胆の声が毎日届いていたころではなかったか?
そもそも「葬儀」と呼ぶのが変だ。初七日どころか四十九日も過ぎてから行われるものはよくある仏教なら「法要」、宗教色を取り除くのなら「追悼式典」である。ワシントン・ポストのTwitterフィードはそこを正確に伝えていた。
The commemoration of Shinzo Abe has put a spotlight on the scandal ensnaring the ruling party over its links with the Unification Church. https://t.co/mjXmOrRwYn
— The Washington Post (@washingtonpost) 2022年9月26日
WaPoはfuneralって言わずにcommemorationって言ってる。BBCよりまとも。 https://t.co/HCTj1xrGaS
— nofrills/文法を大切にして翻訳した共訳書『アメリカ侵略全史』作品社など (@nofrills) 2022年9月26日
そもそも「弔問外交」というのは、中身がない。「英語ではあまりそういうのにこだわらないかな」というくらい、実体のない概念である。デーブさんの指摘:
ちなみに英語で弔問外交の表現がない。引用符で”condolence diplomacy”で表示されている。
— デーブ・スペクター (@dave_spector) 2022年9月26日
《引用符》を使っているということは、「所謂~」という意味でそのフレーズを使っているということだ。「所謂『撮り鉄』」とかいう感じで、「辞書には載ってないけど、世間ではそう言うよね」くらいの言葉にも用いるし、このケースのように、「外国ではそのように呼びならわされている」という意味合いで英語化したフレーズを使うときにもこの形を用いる。
で、エリザベス2世の葬儀では、ほとんどすべての国が代表者は1人(というか1組)だけだったのが、アイルランドは大統領と首相の2人が葬儀に参列していたということは、当ブログですでに書いた。そしてこの機会に、アイルランドのマーティン首相はダウニング・ストリートで英国のトラス首相と会談をしているのだが(葬儀の前に北アイルランドのベルファストで行われた追悼の集会でも2人は緊急の課題について話をしている)、そういうのを特に「弔問外交」と騒ぎ立てた形跡はない。
記事の記述は次のようになっている。
Irish premier Micheal Martin is to meet Prime Minister Liz Truss on Sunday, before attending the Queen’s funeral the following day.
Ms Truss will also meet US President Joe Biden, Canadian prime minister Justin Trudeau, and Poland’s President Andrzej Duda at 10 Downing Street on the same day as Mr Martin.
The Taoiseach is expected to offer Ms Truss his condolences on the death of the late monarch, ahead of the state funeral at which hundreds of the world’s dignitaries are expected to attend.
...
「外交」にあたることは、"meet" というシンプルな語で表されている。
そもそも「弔問外交」とは、「弔問」のために各国の首脳などが一つの場所に集まって顔を合わせれば「社交」行事のようになる、という意味だろう。「外交」には入念な準備が必要なガチの交渉事もあれば、顔を合わせて互いに挨拶をして話をするというカクテルパーティーのようなものもあり、「弔問外交」でできることは後者だ。「弔問」のついでに顔を合わせたので軽く「社交」的なことをしておくことを、あたかも「社交」的なことをするために「弔問」するかのように扱うのは、話が変だ。コンビニに立ち寄ったついでにガムを買うことと、ガムを買うためにコンビニに行くことは違うはずだ。
それでも、日本語では「漢字が4つ」の疑似的な四字熟語(漢字2字の熟語が2つくっつけられたもの)は絶大なパワーを持つ(かねてから私は、日本でのnewspeakは、ジョージ・オーウェルが『1984』で描いたような言葉の単純化ではなく、むやみやたらな四字j熟語化として現れているのではないかと思っている)。「弔問外交」もそのひとつだ。このほかに「風評被害」といった例もある。その文字列を突き付けられると、何か、文句を言っちゃいけないような圧力を感じる。本来、「風評」と「被害」が別々の語であるように、「弔問」と「外交」も別々の語である。それが一緒になることで、別々の単語をただ並べてあるだけというより強い磁場みたいなのができてしまう。
漢字四字のなんちゃって四字熟語の魔力はあるから、「弔問外交」と言われたら納得しちゃうかもしれないけど、実体はあんまりない。でも、それ知ってて「弔問外交」を過大評価して持ち上げる専門家・識者もいっぱいいるんで、ご注意を。
— nofrills/文法を大切にして翻訳した共訳書『アメリカ侵略全史』作品社など (@nofrills) 2022年9月27日
とまあ、ここまでで4700字を超えているのだけど、まだもう少し続ける。ただ、今日書こうとしていたことは明日に回すかな……もうすでに長すぎるので。長すぎるので。
安倍氏は元首相で、具体的には2つ前の代の首相だ。「外交」では互いに格を合わせるのが原則で、だからエリザベス2世(国家元首)の葬儀には世界各国の国家元首が参列したのだが、安倍氏の場合は、葬儀から2か月半も経過した今なぜか強行されているこの追悼行事を本当に「葬儀」と受け取っているとして、2つ前の代の政治リーダーが参列するのが筋と言えるだろう。
だからといって……という人選をしてきたのがフランスだ。ちなみにフランスは大統領制だが、大統領は名誉職のようなもので政治リーダーは別にいるというアイルランドのような体制とは異なり、大統領が政治リーダーを務めている(米国と同じパターン)。
https://t.co/G2p9QZte1h ちょっと待って、ほんとにニコラ・サルコジを迎賓館に迎えて「弔問外交」ですぅ、って、ドヤってんの? 日本政府、本当に恥ずかしいよ。
— nofrills/文法を大切にして翻訳した共訳書『アメリカ侵略全史』作品社など (@nofrills) 2022年9月27日
確かに、サルコジは2代前のフランスの政治リーダーである(今のマクロンさんの前がオランドさんで、その前がサルコジさん)。だから「格」としては合っているのだろう。しかし……
ニコラ・サルコジって、いまこうなんですが https://t.co/f3ziuwCxfh ほぼちょうど1年前の2021年9月末に有罪判決で禁錮1年の判決を受けて、刑務所に入らずに自宅で、足に電子タグつけさ出られてる。フランス政府はそういう人を代表として送ってきた。意地悪。 pic.twitter.com/7tpjt24Q6u
— nofrills/文法を大切にして翻訳した共訳書『アメリカ侵略全史』作品社など (@nofrills) 2022年9月27日
タイポ
— nofrills/文法を大切にして翻訳した共訳書『アメリカ侵略全史』作品社など (@nofrills) 2022年9月27日
☓さ出られてる
○させられてる
「禁錮1年」の判決が1年前なので、裁判前〜中の身柄拘束の期間を考えればもう刑期は明けているのではと思いますが(要確認)、フランス政府を代表して「外交」ができる立場の人とは思えないですね。故人と知り合いではあったかもしれないにせよ。
英国からも2代前の首相だったテリーザ・メイが来ているそうだが、メイは今は何のポストも持っていない平議員で、保守党内では「終わった人」の位置づけである。
そして、普通に人権意識がある国ならば無視する、クーデターで、民主的な政権をつぶして権力の座に居座っているあの軍事政権。現在進行形で絶賛弾圧中である。まあ、故人が「戦後レジームからの脱却」とかいって、人権という考えを目の敵にしてきた人だから、これも当然の成り行きかもしれない。
こんなことをしているミャンマー軍事政権と昵懇の仲であることを、「弔問外交」を錦の御旗に強行する自称「国葬」という場で世界に見せつける日本国政府。英国のエリザベス2世の葬儀ではミャンマーは招待せず。 https://t.co/gPqasjffpv
— nofrills/文法を大切にして翻訳した共訳書『アメリカ侵略全史』作品社など (@nofrills) 2022年9月27日
で、今日、予定を変更してこれを書いているのはここからの流れである。
エリザベス2世の葬儀に呼ばれなかった国について、はっきり書いておくことは、役立ちますかね。
— nofrills/文法を大切にして翻訳した共訳書『アメリカ侵略全史』作品社など (@nofrills) 2022年9月27日
でも7000字近く費やして、そこまでたどり着けていない。明日、また。
ミャンマーが話題に出たついでに:
今日はこの日……。日本国政府は長井さんのカメラひとつ取り戻せなかった。ミャンマー軍政との力関係はそういうことなんでしょう。 https://t.co/2gFvABNWnf
— nofrills/文法を大切にして翻訳した共訳書『アメリカ侵略全史』作品社など (@nofrills) 2022年9月27日
そして、オーストラリアでの報道。オーストラリアはアルバニーゼ首相が武道館に来ている。
オーストラリア国営放送の国葬報道。
— ダースレイダー (@DARTHREIDER) 2022年9月27日
非常に奇妙な国葬。岸田の判断は最悪、訪日する海外首脳は誤った情報を与えられている可能性があり、トルドーは民主的プロセスを経てない国葬より自国の災害対策を優先したのは正しい。豪首脳訪日は何も得るものはないだろうとまで… https://t.co/GH0PND9UKD
※6700字