Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

as much A as B, 分詞構文, not just A but B, など(ブラジル大統領選世論調査の結果が実態とかけ離れていたのはなぜか)

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今回の実例は、前回の続きで、ブラジルの大統領選挙結果に関する事前の世論調査が、情勢を大きく読み間違えていたことに関する解説記事から。前置きなどは前回のエントリを参照。記事はこちら: 

www.theguardian.com

この件に関しては、米国の政治学者であるCas Muddeジョージア大学教授の連続ツイートが興味深いのだが、それは本エントリの最後に補足するとして、早速本題に入ろう。

前回は、下記キャプチャ画像(記事の締めくくりの部分)の第一パラグラフを読んだ。今回はその次の部分を読んでみよう。

https://www.theguardian.com/world/2022/oct/03/why-did-the-brazil-election-pollsters-get-bolsonaros-vote-so-wrong

前回、文字数が多くなってきたのでこの第2パラグラフは扱えなかったのだが、通例当ブログではそういう場合、文字数が爆増しようとも無理やり同じエントリにねじ込むか、そうでなければ切り捨てて忘れて次に行ってしまうのだが、今回のこれは、切り捨てていくにはあまりにも惜しい実例なので、こうして2回にわたって取り上げている。記事の内容は、正直、そこまでする意味はないと思う(読んではもらいたいが、そんなに複雑な話ではなく、一度読めばわかるはず)。

Ultimately, pollsters stress, polling remains as much an art as a science, necessitating hard judgments not just about how different kinds of people respond to polls, but how they will end up actually voting. “We are constantly running to catch up,” said Wells. “Every election, there will be something different.”

文中の "Wells" は人名で、この記事のもう少し上に出てくる "Anthony Wells, head of European political and social research at the pollster YouGov." のことである。つまり、このパラグラフの最後の2文は、調査会社YouGovの人のコメントである。

さて、その前の部分から。

太字で示した《as much A as B》は《比較》(同等比較)を含んだ表現。江川泰一郎『英文法解説』では、p. 170において、not so much A as Bの肯定の形として扱われている。

今回の実例の文、"polling remains as much an art as a science" はこのまま暗記してしまってもよいくらいによい例文だが、remainsという動詞(「依然として~であり続ける」)がちょっとわかりにくい場合はis(「~である」)に置き換えて、"Polling is as much an art as a science." として暗記例文にしてもよいだろう。

文意は、「世論調査は、科学であるのと同様に、技芸であるということに変わりはない」。

この "art" は、絵画とか彫刻のような「芸術、美術」の意味ではなく、「技術、技能」の意味。artは基本的に、キリスト教世界の概念では、神の手で作られるもの(例えば花)ではなく、人の手で作るもの(例えば花の絵)のことを言う。この文例の場合は「職人技」ということだろう。長年の経験に基づいた微妙な匙加減が重要になる、というような。

その後の部分:

..., necessitating hard judgments not just about how different kinds of people respond to polls, but how they will end up actually voting.

下線で示した "necessitating" は《現在分詞》で、ここは《分詞構文》。この前の部分から続けると、「世論調査は、科学であるのと同様に、技芸であるということに変わりはなく、難しい判断を必要とする」。

青字で示した《not just[only] A but B》の構造は、この "hard judgements" を説明するabout ~をひっぱってきていて、「Aに関するものだけでなく、Bに関する難しい判断も」。

このAの部分が、"about how different kinds of people respond to polls", Bの部分が "how they will end up actually voting" で、「さまざまな属性の人々がどのように調査に反応するかだけでなく、その人たちが最終的に実際にどのように投票するか」。

つまり、例えば都市に暮らす勤め人が「〇〇党に投票するつもりだ」と答える傾向が強い、というだけでは世論調査は終わらなくて、その人たちが実際にどのくらい〇〇党に投票するのか、というところまでも見なければならない、ということだろう。

ここで「世論調査とかばかばかしい。協力なんかしない」という人たちがいるだけならまだよいが、「連中はフェイクニュースだからからかってやろう」的に、本当は△△党に投票するつもりなのに「〇〇党に投票するつもりだ」と答える、というようなことが起きると、世論調査の導き出す結果はデタラメになってしまう。

その状況をわかりやすく述べているのが、YouGovのウェルズ氏のコメントだろう。

“We are constantly running to catch up,” said Wells. “Every election, there will be something different.”

「事態に遅れずついていくために常に走っている状態です。選挙のたびに、前とは違ったものが出てきます」と。

 

※ここまでで約2600字

 

というところで、以下は補足。上の方に書いておいたCas Mudde教授のツイートから: 

開票結果が入り始めて、どうやら事前の世論調査(ルラ圧勝)は間違っていたようだと感じられ始めたときのツイートで、Mudde教授は「(トランプの勝利に終わった)2016年の米国の(大統領)選挙のときのあの感覚」がしていると書いている。

ただしブラジルは、米国のような謎めいた「選挙人」制度ではなく、実際に有権者が投じた票がそのまま数えられるので(米語でいうpopular vote)、米国式の謎の逆転はない。そのことが "Brazil does have a democratic system" という記述の内容だ。その上、誰かが50%以上投票しない限りは当選者が確定されない。

ちなみに、ブラジルは、米国が支援していた軍事政権の時代があり、今の体制はそのあとに民主化したあとのものである。

開票が進むにつれて、両者拮抗の様子がわかってくる。

そしてここまで見たところで、「第一回投票ではルラが上位に来るだろうが、考えられる限りで最悪の形だ」と述べ、「第二回投票がどうなるか、心配だ」としてスレッドを立てている。

そして最終的な結果は、ルラが48.43%、ボルソナロが43.20%: 

これを事前の世論調査と比べると: 

こんな感じで、はっきりと、ほとんどの調査会社で現職ボルソナロの支持が過小評価されていたことがわかる。

これについて、Mudde教授は: 

Main problem for pollsters is no longer "shy" but "secluded" far-right supporters, who reject all interaction with mainstream.

「調査会社にとっての主要な問題は、もはや、『極右支持を明示したがらない(内気な)極右支持者』ではなく、メインストリームとは一切かかわろうとしない『隠れ極右』である」と結論している。

 

※ここまでで約7500字

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