Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

good cop and bad cop, cake-and-eat-it (News Corpにおける冷静な判断力とセンセーショナリズムの使い分け)

今回の実例はTwitterから、「文法」というより慣用表現の実例を。

慣用表現は、「イディオム」とも言うが、そこにある単語をそのまま語義通りにとらえても意味が通らない。"It's a piece of cake." は、語義通りに読めば「それはケーキ一切れだ」だが、意味は「それはとても簡単だ」である*1。ちなみにこの "a piece of cake" という慣用表現は、20世紀前半の米国に発したものである

www.phrases.org.uk

この例にもある通り、こういった慣用表現の多くは、誰かが使い始めたものが人口に膾炙して*2、定着したもので、現代の英語で使われているそのような慣用表現の中には、16~17世紀のイングランドシェイクスピアに由来するものもあれば、もっと古いものもあり、さらにはごく最近のものもある。できて数年程度の新しいものは、リアルタイムでは「流行語」にしか見えないから、「慣用句」としては観測不能だが、10年か20年後に定着していれば「慣用句」になるのかもしれない。

というところで先日、英紙ガーディアンの前編集長、アラン・ラスブリジャー氏のツイートに、そのような慣用句が2つも入っているのに気が付いた。

こちら: 

*1:この慣用表現については日本語にも似たような「朝飯前(あさめしまえ)」というものがあるので、"It's a piece of cake." には「朝飯前だ」が対訳として与えられることが多い。

*2:最近、日本語でこの「人口に膾炙する」という表現を「広く一般に行きわたる」とか「多くの人に使われるようになる」という意味で過剰に一般化している例によく遭遇するようになった。「インターネットが人口に膾炙する」など。インターネットは人が口にできないし、好むと好まざるにかかわらずのものだろ……という違和感がぬぐえないのだが。

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大文字の使い方, 単純未来のwill(核兵器禁止条約発効)

今回の実例は、Twitterから。

国連本部のある米ニューヨークでの時間で2020年10月24日、核兵器禁止条約(Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, またはNuclear Weapons Ban Treaty)が、発効要件(50か国の批准)を満たし、90日後の来年2021年1月22日に発効することとなった。

国際条約の発効には、通例、署名を経て批准という手続きが取られるが、そういったことについては ウィキペディアの「条約」の項目を参照されたい。

この条約の採択・発効に向けた取り組みで大きな役割を果たし、それによって2017年にノーベル平和賞を受けた核兵器廃絶国際キャンペーンICAN)の日本語版Twitterは、次のようにツイートしている。

 核兵器に関しては、すでに、核拡散防止条約*1があったわけだが、冷戦期に締結された発効したこの条約が、核兵器保有国の数を制限することを目的とし、核兵器そのものやその開発*2保有については必ずしも否定的なものとは言えなかった一方で、今回発効が決まった核兵器禁止条約は、核兵器そのものを「違法」なものとするという画期的な条約である。

ただし、この「違法」は何らかの強制力のあるものではなく、例えばガーディアンの記事に "the historic though essentially symbolic text" と記されているように、シンボルとして、つまり、いわば高々と掲げられる規範としてのもので、この条約が発効したからといってすぐに核兵器がなくなるわけではない。そのことについては、クラスター爆弾禁止条約が発効した(2010年)からといって、クラスター爆弾が廃絶されたわけではなく、現に今もナゴルノ=カラバフ紛争でアルメニアアゼルバイジャン双方*3によって使用されているということを思い起していただきたい(クラスター爆弾禁止条約は、ロシア、米国、中国、シリア、トルコといった国々も署名していないから、実効性はかなり限定的ではあるが、それでも、この条約ができてからは、この非人道兵器が使われたときに「おいおい、クラスター爆弾が使われてるのかよ」というような方向での関心が広い範囲から集まるようになってはいる)。

この点については、ICANの事務局長の発言が端的である。

条約の批准を各国に働きかけてきた国際NGO核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)のフィン事務局長は「発効すれば(核軍縮を進めるべきだという)強い国際規範が生まれる」と指摘。条約の枠外にいる核保有国にも核軍縮を迫る圧力になると強調している。今後は批准国を増やし、「核なき世界」を求める国際世論をどこまで強められるかが焦点になる。

mainichi.jp

 さて、今回の実例は、そのICANのツイート。

最初の文、"Can we have your attention?" は「注目していただいていいですか」、つまり「お知らせがあります」の意味。 その次、"WE GOT IT!" と全部大文字で書いてあるのは、《大声で言っている》ことを視覚的に表した表記(英語で、見出しなどではなく文章を全部大文字で書くと「怒鳴っているみたいに見える」ということで場合によっては嫌われるから注意が必要)。その次の第3文は、本稿で述べたように「50か国で批准された」ということを述べている文。

そしてその次。

*1:別名「核不拡散条約」; Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons: NPT。1970年発効。

*2:開発にともなう核実験については、1963年の部分的核実験禁止条約、1996年の包括的核実験禁止条約についても参照されたい。後者は2020年時点で未発効である。

*3:両国ともこの条約に加わっていない。

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接続副詞howeverの実例集(音楽ストリーミングにネオナチ音楽, マスクの防御効果の学術論文, トランプ発言とSNS)

今回の実例は、やや変則的に複数。

「しかしながら」という長たらしい訳語をつけて覚えさせられる《接続副詞》のhoweverについては、当ブログではすでに何度か扱っている(カテゴリーをご参照いただきたい)。「しかしながら」系の接続詞と接続副詞について、極限まで単純化した例文を使って基本的なことを整理した2019年4月のエントリから抜粋すると:  

「しかしながら」という意味を表すhoweverは、接続詞ではなく《接続副詞》(接続詞のように使われる副詞)で、接続詞を使うときとは、文の作り方とコンマの使い方が異なる。構造がわかりやすいように単純化した例文を見てもらいたい(いずれも「雨天だが、暖かい」という意味)。

例文1: 等位接続詞butを使った表現。butの直前にコンマ。

   It’s wet, but it’s warm. 

 

例文2: 従位接続詞althoughを使った表現で、althoughの節を前置した形。

   Although it’s wet, it’s warm. 

 

例文3: 同じく従位接続詞althoughを使った表現で、althoughの節を後置した形。

    It’s warm(,) although it’s wet. 

 

例文4: 接続副詞howeverを使った表現。いったんピリオドで文を切り、Howeverは大文字で書き始め、直後にコンマを置く。
   It’s wet. However, it’s warm. 

 

例文5: 同じく、接続副詞howeverを使った表現だが、ピリオドの代わりにセミコロン (;) を使い、Howeverは小文字で書き始めて、直後にコンマを置く。(論文などで使える正式なスタイル)

   It's wet; however, it's warm.  

実際の接続副詞howeverの用法には、この「例文4」と「例文5」に加え、文中に入るというパターンもある。上記の例文では単純すぎてその形にするのが逆に不自然になってしまうので、少々例文を変えると: 

  Tom likes brocoli. His brother, however, dislikes it. 

  Tom likes brocoli. His brother dislikes it, however

  (トムはブロッコリーが好きだが、弟はブロッコリーが嫌いだ)

……とこのように、主語と述語動詞の間にコンマで挟んで入れたり、文末にコンマに続けて置いたりすることがある。さらに、この形についてもピリオドでなくセミコロンを使うこともある。つまり、下記の6つの形が可能だ。例文はこれじゃなくてもいいんだけど、この形は暗記しないと使えるようにならないから、暗記が必要である。

  Tom likes brocoli. However, his brother dislikes it. *1

  Tom likes brocoli; however, his brother dislikes it. 

  Tom likes brocoli. His brother, however, dislikes it. 

  Tom likes brocoli; his brother, however, dislikes it. 

  Tom likes brocoli. His brother dislikes it, however

  Tom likes brocoli; his brother dislikes it, however. 

自分で英文を書くときは、「セミコロンを使うのは学術論文など堅苦しい文のとき」と考えて、論文ならセミコロン、普通の文ならピリオドを使った形3種類からおさまりのよいように感じるもの*2を使うことになるわけだが、これらの形を使った実際の英文を見ておくことは、暗記する知識について納得したり、知識を定着させたりするうえで役立つだろう。今回は、そんな実例をご紹介したい。

目次: 

  • Tom likes brocoli. However, his brother dislikes it. の形
  • Tom likes brocoli; however, his brother dislikes it. の形
  • Tom likes brocoli. His brother, however, dislikes it. の形

 

*1:「Howeverで文を始めるべきではない」とする人もいないわけではないが、過激派と思っておいてよい。実際にはHoweverで始まる文は、後述の例のようなものを、毎日目にする。

*2:厳密にいえば、《However, 主語 述語》の形は、先行文の内容とhoweverの入った文の内容の対比をしたいときに使う形で、他方《主語, however, 述語》の形は、先行文の主語とhoweverの入った文の主語との対比にスポットライトが当たっている感じになる。

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仮定法過去(もしもBrexitが猫ならば)【再掲】

このエントリは、2019年10月にアップしたものの再掲である。仮定法の使いどころがよくわかる実例である。

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今回の実例はTwitterから。

Larry the Cat(「猫のラリー」*1)をご存知だろうか。

ロンドンは大都市の例にもれずネズミの問題が深刻である。ロンドン中心部にある首相官邸(ダウニング・ストリート10番地)も例外ではない。首相官邸におけるその問題を解決すべく任命されるのが、「首相官邸ねずみ捕獲長 (the Chief Mouser to the Cabinet Office)」である。これは公職だが、人間はこの任に当たることはできない。猫……いや、猫様専用ポストである。

「ねずみ捕獲長」が最初に首相官邸で任官されたのは1924年、ラムゼー・マクドナルドが首相のときだった。以降、ずっと連続しているわけではないが、合計で12匹の猫様がこのポストに就き、勇猛果敢にねずみと戦ってきた。現在のラリーさんは2011年、デイヴィッド・キャメロン首相のときに連れてこられた、近所の保護動物施設 (Battersea Dogs and Cats Homeという有名な施設) の保護猫*2である。

Larry, the Chief Mouser: And Other Official Cats

Larry, the Chief Mouser: And Other Official Cats

 

ラリーさんは仕事はあまりしない。彼が首相官邸の前で寝そべっている横を、ねずみが走り抜けていく光景などが、ニュースの「ちょっと一息」コーナーに出ていたりしたが、元々、狩りをするよりは寝ていたいというタイプの平和的な猫さんのようで、一時は職務から解任され、より好戦的なフレイヤという女子に取って代わられていたこともある。仕事をしないわりには「税金泥棒」とののしられることもなく、人気者の座を確保しきっているようだ。首相官邸前の報道陣にも人気で、よい被写体になっている。

ラリーさんはTwitterでも人気者だ。@Number10catのアカウントは2011年2月から運営されており、現時点で33万人以上にフォローされている。といってもこのアカウントは非公式 (unofficial) で、風刺・時評を目的としたアカウントである。猫視点を借りて首相官邸の中のことを(想像して)語っているあたりは、21世紀英国版『吾輩は猫である』的な感触もあるのだが、そんなことはさておき、このアカウントの発言は単におもしろい。中の人のユーモアのセンスとバランス感覚が絶妙だ。

f:id:nofrills:20191010212725p:plain

 

あまり政治的でない例を挙げておくと、先日、デイヴィッド・キャメロンが回想録を出したのだが、その中でラリーさんのことをこう書いていて: 

f:id:nofrills:20191010022650j:plain

*via https://twitter.com/janemerrick23/status/1174602694838935552

(「ねずみの問題が度を越していたので、バタシーの保護施設にリズ・サッグを遣った。リズは野良猫として保護されていたぽっちゃりした、ラリーという名のトラ猫を連れて帰ってきた。マスコミは『キャメロン家の猫』と言いたがったがそうではなく、『首相官邸ねずみ捕獲長』であった。ラリーはねずみ捕りはあまりしなかったが、見た目はよかった。人なつっこいというわけではなかったが。執務室に入れたラリーが丸くなってるのもよいものだった。たとえ椅子という椅子がすべて白い毛まみれになったとしても」)

これに対して「猫のラリー」のアカウントはこう返していた: 

 (「こんなぶよぶよしたのに、ぽっちゃりとか言われる覚えはないにゃ!」)

 (「確かにラリーは見た目がよいと書いてはいたが、そんなことはいわずもがなではにゃいか」)

 

その「猫のラリー」アカウントが最高のユーモアのセンスを見せるのが、Brexitネタである。というわけで今回の実例: 

 

*1:このように「名前+ the ~」の形で「~の…」の意味となる。例: Johnny the Fox 「キツネのジョニー」 一方で、先日亡くなった「グランピー・キャット Grumpy Cat」の場合は、grumpyは名前ではなく形容詞であり、意味としては「猫のグランピー」ではなく「グランピーな(不機嫌な)猫」である。

*2:英語ではrescue catと言うが、「レスキューする猫」ではなく「レスキューされた猫」である。なぜここでrescueが過去分詞にならないのかといったことを考え出すと英語沼にはまるので、ほどほどにしておこう。

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【英文読解】ノーベル物理学賞の報道【再掲】

このエントリは、2019年10月にアップしたものの再掲である。このくらいの文は、何の苦もなくさくっと読めるようにしておきたい。

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今回は、いつもとは趣向を変えて、「英文読解」をしよう。読んでいただく英文は特に難しくない。センター試験の長文問題と同じくらいの難易度だ。

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等位接続詞, 助動詞+受動態, 前置詞のover, など(ローマ教皇が同性間のシヴィル・ユニオンを支持)

今回は、前回の続きで、同性カップルの権利についてのローマ・カトリック教会のフランシスコ(フランチェスコ教皇の発言から。

前回は、marriage(結婚)と、civil union[partnership] は、日本語では安易に「同性婚」「同性結婚」と言われるが、両者はキリスト教においては別のものなので、特に宗教家の発言について扱う場合には両者を同一視してはならないということをざっと説明し、現在世界的なニュースになっているフランシスコ(フランチェスコ)教皇のドキュメンタリーでの発言について、少しだけ見た。今回はその続きである。

記事はこちら: 

www.irishtimes.com

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civil unionはmarriageとどう違うか, a right to do ~, a right to ~ (ローマ教皇が同性間のシヴィル・ユニオンを支持)

今回の実例は、世界中で大きなニュースのひとつになっているローマ・カトリック教会のフランシスコ(フランチェスコ教皇の発言から。

まず最初にお断り申し上げておくと、私はキリスト教の信仰は持っていない。もっといえば、英語圏で「信仰 faith」とされているものを持っていない。聞かれれば「仏教徒だ」と答えるが、non-practicing Buddhist, つまりいわゆる「葬式仏教徒」であり、日常生活の中で儀式・儀礼としてやっている行動のなかには仏教由来のものがあるかもしれないが、深く考えて、あるいは深く信じてやっているわけではない。だから私が悪気なく書くものは個人的に信じていることに基づいているのではなく、深い理解に基づいているわけでもなく、それゆえに人によっては不快に感じられるかもしれない。そのようなことがあっても、私には悪意・害意はなく、私は私の限られた能力・リソースの中でベストを尽くしているということをご理解いただければと思う。

さて、フランシスコ(フランチェスコ教皇だが、そのお名前は英語ではPope Francisとなる。「フランチェスコ」はイタリアの男性名で、ローマ・カトリック教会は地理的にはイタリアの中にあるのでイタリア語の読み方をするのが通例だが、教皇はアルゼンチンの方で母語スペイン語なので、この名前のスペイン語形である「フランシスコ」も使われる。一方、同じ名前が英語では「フランシス Francis」となるので、英語報道記事では Pope Francis という綴りが使われる。

このように、1つの名前に言語ごとの読み方があるというのはヨーロッパあるあるで、世界史に出てくる「カテリン」が実は「カトリーヌ」で「キャサリン」であり、「ヘンリー」は「アンリ」で、「ヴィルヘルム」は「ウイリアム」といったことで混乱したことがある人は少なくないだろう。英語圏の人と大航海時代の話をしているときに、"Prince Henry" というのが出てきたら、それは「エンリケ航海王子」のことなのだからややこしい。

聞くところによると、カトリックの洗礼名の場合は1つの名前をそれぞれの言語圏に応じた名前で読むという。だから洗礼名が「フランチェスコ」というイタリア人は、スペインでは「フランシスコ」と呼ばれ、英国では「フランシス」、フランスでは「フランソワ」、ドイツでは「フランツ」と呼ばれることになる。「フランソワーズ」というフランス人はイタリアに行けば「フランチェスカ」だ。

そのフランシスコ(フランチェスコ)教皇のドキュメンタリーが、10月21日(水)にローマでプレミア上映され、その中にあった教皇の発言が世界的なニュースになっている。今回見るのはその発言の英語での文面。多くの報道記事にそのまま引用されているが、ここではアイリッシュ・タイムズの記事を参照する。記事はこちら: 

www.irishtimes.com

本題に入る前に述べておくが、教皇が支持した "civil union*1" は「婚姻関係」ではない。日本では、西洋諸国で最初にcivil partnership[union]が導入された際に「事実上の同性婚」と説明され、それが「同性婚」として一人歩きしたという経緯があるが*2、その簡略化が許容されるのはキリスト教の「神」とは関係のないcivilな領域の話をする場面だけで、「神」が関わるときはしっかり別のものとして区別する必要がある。なぜか。

現代の日本では、「結婚」というと「籍を入れる」という戸籍制度の話で宗教の話ではないが、キリスト教圏では「結婚」は(おおむね)宗教的なものだからだ*3。結婚は、基本的に、キリスト教では「サクラメント」(宗派により「秘蹟」または「秘跡」、「礼典」などいくつもの訳語がある)、つまり「キリストの奇跡を目に見える形で現在化する特別な儀礼」(ウィキペディア)である。

*1:civil partnershipとも。

*2:そのため、例えばエルトン・ジョンのような著名人が英国での制度開始直後にcivil partnershipを結んだことが「同性婚」と表現され、さらにその後、英国でsame-sex marriageが認められて結婚したときも「同性婚」と表現される、というかなり混乱した状況が生じている。

*3:参考となるウィキペディア記事: 

https://en.wikipedia.org/wiki/Marriage#Christianity および 

https://en.wikipedia.org/wiki/Christian_views_on_marriage

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beingの省略された分詞構文, 長い文, 省略, 関係代名詞の非制限用法, 準否定語など(ナスカの地上絵)

今回も前々回前回の続きで、新たに発見されたナスカの地上絵についての英語の報道記事を読んでみよう。

前回 は、下記記事の書き出しのパラグラフをじっくりと読んでみた。全部を読んでも、350ワード程度なので、分量的にはすぐに読み終わるのだが、英語の文章によくあることとして、書き出しのパラグラフは情報が妙にてんこ盛りになっていて、英語を母語としない立場ではかなり読みづらい。実際、限られた文字数に情報をてんこ盛りにするときによくあるように《挿入》や《後置修飾》などで文の構造も取りにくくなっていたので、そのパラグラフだけで当ブログの4000字を使い果たしてしまう勢いだったのだが、その先は話が具体的になり、普通に読めるので、速度を上げて読んでいけるだろう。

記事はこちら: 

www.theguardian.com

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挿入, 連鎖関係代名詞(であるはずのもの), 分詞の後置修飾, 英語の文章は最初のパラグラフが読みづらい(ナスカの地上絵)

今回は前回の続きで、新たに発見されたナスカの地上絵についての英語の報道記事を読んでみよう。

前回は、「ナスカの地上絵」についての英語のニュース記事を探すための下準備として「ナスカの地上絵」を英語でどう書くか(言うか)をウィキペディアを使って調べる手順について説明したあと、Googleのニュース検索で報道記事を探す手順について簡単に説明し、そうして誰でも簡単に見つけられる記事のひとつであるガーディアンの記事を読み始めたところで字数が尽きてしまっていた。今回はいよいよその記事を読んでみよう。全部を読んでも、350ワード程度なので、分量的にはすぐに読み終わる。センター試験の長文問題の一番短い設問と同じくらいだ。

記事はこちら: 

www.theguardian.com

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日本語ウィキペディアを手掛かりに英語の報道記事を探す方法、Google翻訳は辞書の代わりにはならないということ(ナスカの地上絵)

今回の実例は、辞書を引くということについて。

新たにナスカの地上絵が発見されたというニュースは、日本語でも大きく伝えられているので、ご存じの方が多いだろう。

ペルーの文化省は16日、世界遺産の「ナスカの地上絵」の保全作業をしている考古学者らが、幅37メートルの新たな地上絵を発見したと発表しました。これまでに知られている地上絵より古い時期のもので、急な斜面に描かれていたため自然の浸食でほぼ見えない状態だったということです。

news.tv-asahi.co.jp

これはもちろん世界的に大ニュースで、英語圏でも大きく伝えられた。今回はそれらの記事のひとつを読んでみよう。内容が単純明快で、同じことが日本語で伝えられているというニュースは、今回やるように、英語のメディア(それも、できればタブロイドではない一般の新聞)の記事をネットで探して読んでみると、「英語で文章を読む」ということのよい練習になる。当ブログでは以前、野球のイチロー選手の引退のときに所属球団シアトル・マリナーズが出したステートメントを読むということをしているが、今回はそれをニュース記事でやるという感じで進めよう。

まずは「ナスカの地上絵」について英語記事を探すための下準備をする。すなわち、「ナスカの地上絵」は英語ではどう表現するのかを調べる。このような世界的に有名な事物の場合は、日本語版のウィキペディアを参照するだけでわかることが多い。

日本語ウィキペディアで「ナスカの地上絵」のページを出すと、デフォルトのページレイアウトでは左サイドバーの中に「他言語版」の欄があるので*1、その中の "English" にカーソルを合わせると、英語版のページタイトルがポップアップする。これが、「それを英語でどう言うのか」の答えだ。

f:id:nofrills:20201019155726p:plain

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8A%E3%82%B9%E3%82%AB%E3%81%AE%E5%9C%B0%E4%B8%8A%E7%B5%B5

 

つまり「ナスカ」は "Nazca", 「ナスカの地上絵」は "Nazca Lines" だ。英語って物事をなんだかやけにあっさりと、いわば即物的に表現するよなあと思うことがよくあるのだが、個人的にはこれもその一例だ。

さて、こうして得られた "Nazca" というキーワードで、Googleで「ニュース」で検索すれば、英語の記事が出てくる。その中から、自分の読んでみたいものを読んでみればよい。クリック/タップした記事が難しかったりピンとこなかったりしたら、別の媒体の記事を読んでみるとよい*2

f:id:nofrills:20201019163943p:plain

今回は、この検索結果にも出ているが、単に私がいつも読んでいる媒体で、記事を読んでみたら短くていい感じだったので*3、ガーディアンの記事を見てみよう。

記事はこちら: 

www.theguardian.com

*1:スマホタブレットでは画面一番上の「文」と「A」が組み合わさったようなアイコンをタップして呼び出してください。

*2:英語圏の新聞はネイティヴ英語話者向けに書いているから、英語圏の読者が親しみやすいと感じる文が、文化を共有していない非英語圏の私たちが読んだときにはとっつきづらくて何を言っているかわからない文になったりもする。そういう「文化圏が違うからわからない文」は、かなりよく見かけるもので、その小難しさは、読み手の「英語力」の有無とはあまり関係ない。

*3:ワード・カウンターで数えたら350語程度だった。

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仮定法、仮定法過去、if節のない仮定法(Brexit: バルニエEU首席交渉官の発言)【再掲】

このエントリは、2019年10月にアップしたものの再掲である。再掲の時点で、正直、1年前のニュースとは思い難いのだが、報道されている内容はともかく英文法としては、基本的なことを念押ししてくれる感じになっているので、じっくり読んでいただきたいと思う。

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今回の実例は、いよいよ息もつかせぬ展開になってきた(はずの)Brexit関連のニュースから。

Brexitについては英国政府からはEU離脱担当大臣、EUからは首席交渉官が出て、頻繁に話し合いを行っている。英国側の大臣は、EU離脱を決めた2016年6月のレファレンダム以降、現在のバークレー氏で3人目だが、EU側はミシェル・バルニエ氏がずっと継続して首席交渉官の任に当たっている。

1951年生まれのバルニエ氏はフランスの政治家で、フランス国内でも何度か閣僚を務めてきたが、EUでの仕事も多い。EUで仕事をしている政治家の多くと同様英語はぺらぺらなので記者会見やインタビューは英語で応じていることが多い。例えば今年3月のEuronewsのインタビュー番組のクリップが下記。


EU needs to 'learn from Brexit', chief negotiator Michel Barnier tells Euronews

単語単位でときどきフランス語になるし(EUが「イー・ユー」ではなくフランス語の深い「ウー」の音だったり、responsibilityが「レスポンサビリテ」という感じだったり)、決して「ネイティヴっぽい発音」とは言えないかもしれないが、これがEUという国際機関での実務の英語である。

 

さて、今日参照する記事は、10月31日というBrexitの期限まで3週間あまりとなった10月6日の英オブザーヴァー紙(ガーディアンの日曜)に出た記事である。

文脈としては、英ボリス・ジョンソン首相が本気で通すつもりがあるんだかないんだかわからないような案を提示して、「EUの反応待ち」という態度を公にするというパフォーマンスの最中で、誰もかれもが「このままでは合意なんか成立するわけがない」と判断している(が、英国会では「合意なしでの離脱」に歯止めをかける法律、いわゆる「ベン法*1」があるので、Under the so-called Benn Act, if by October 19 the government has not won parliamentary approval for a divorce deal with Brussels or for leaving the EU without a deal, Johnson must request a delay until January 31, 2020. ということになっている)。どちらの側も「合意なしでの離脱」が実際に起きた場合のことを口にしだしており、どちらの側も他方を責めるストーリーを組み立てている。

この記事は、EUの交渉担当者であるバルニエ氏がそれを明言したことを報じる記事で、下記リンクから記事を見ていただければわかるが、「If祭」としか言いようのない "If" 連発の文面になっている。仮定法満載だ。仮定法好きにはたまらない。

www.theguardian.com

この "If" (仮定法)をひとつひとつ、すべて見ていくのは、英語学習の観点から有益なのではないかとは思うが、私もそこまでヒマではないので、1か所、非常に目立っているところだけを見てみようと思う。

*1:「ベン」は法案提出者であるヒラリー・ベン下院議員の名にちなむ。

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時制の一致, 《条件》を表す直説法のif節, nothing but ~, 引用符のルール(環境を破壊する企業の金で優遇されることを学生たちがボイコット)【再掲】

このエントリは、2019年10月にアップしたものの再掲である。あとから見るとこの回、最重要ポイントは引用符の使われ方のようにも思える。そのくらい、日常的な報道記事での引用符の使い方のお手本のような実例だ。

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今回の実例は、以前取り上げた記事の続報といえる報道記事から。

この6月、シェイクスピア劇の上演を中心に活動する劇団「ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー (RSC)」を、ひとりの重鎮が退団した。理由は、RSCがエネルギー企業BPをスポンサーとしていることについての疑問を劇団の経営陣に示したのに、何年も回答が得られなかった(放置されていた)ことだった。当ブログで以前見たのは、その時の記事である。

その記事から、BPという企業について述べた部分を引用しておこう: 

……そういう中で、環境問題を解決する方向につながらない活動をしている企業に対する一般の人々の目も前以上に厳しくなっている。超大手エネルギー企業のBP (旧称はBritish Petroleum)もそういう企業のひとつで、表面的には「私たちは環境問題を真剣に考えています」というポーズを取りながら、依然として化石燃料のさらなる開発をやめようとしていないという点が、環境保護を訴える人々から強く批判されている(が、たぶん株式市場とかそっちでは何事もないのではないかと思う)。また北海油田を開発する企業のひとつであるBPは税制上も優遇されており、その点でも批判が大きい。莫大な利益を上げながら納税額が少ない上に、化石燃料から手を引こうとしないとあらば、批判が大きくなるのは当然のことだ。

現実には、BPは資金も潤沢にあり、自社のイメージアップを目して、さまざまな芸術活動・施設のスポンサーとなっている。1959年に設立された英国の超名門劇団でシェイクスピアの時代の劇場を現代によみがえらせたShapespear's Globe (グローブ座) を運営するRoyal Shakespeare Company (RSC) もBPをスポンサーとする芸術・芸能団体のひとつだ。

 

さて、今回の報道は、そのRSCがBPとの関係を解消した、という内容だ。それも当事者(学生たち……BPのスポンサーシップは「学生が格安で観劇できる」という内容のプログラムへのものだった)の抗議によって。

www.bbc.com

若い人たちが「地球環境を破壊する企業は支持しない」という意思を表明し、そのように行動して結果を出しているのは、たぶん、最近の気候変動の影響があまりにもあからさまになってきていること、それらの現象やその結果は「高校生でもわかる」くらいに科学的に説明できること、そして西洋の若い人々にとってそれら科学的な説明を拒否したり否定したりする宗教右派勢力(原理主義者)の存在は、「身近」とは言えない場合でも社会の中に認識できるくらいの存在であるということなどとかかわっているだろう。

環境問題を熱心に報じているガーディアン紙では、最も近いところで10月2日に「スイスのアルプスの氷河の氷がとけていることが原因で、山からの落石が増えており、山間の村に住む人々が危険にさらされている」という報道があったが、これなど「気温が多少上がったところで、影響など大したことはない」という訳知り顔の大人の言うことを一発で蹴っ飛ばせるくらいに具体的だ。

アイルランドイングランド南部は、今回のこの記事が出たとき、まさに巨大な低気圧(元ハリケーン)が到来しようとしていたのだが、このように台風的なものが勢力を保ったまま、あそこまで大西洋を北上するということは以前はまずなかった。この点、下記解説がわかりやすかった。

news.yahoo.co.jp

 

さて、本題に入ろう。

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ニューヨークを拠点とする3つの新聞を、はっきり区別する。

今回は、いつもと趣向を変えて、英語圏の新聞について基本的なことを書いておきたい。

英語圏の新聞は、大まかに2種類に分けられる。「タブロイド tabloid」と呼ばれる新聞と、「ブロードシート  broadsheet」と呼ばれる新聞である。両者の呼称は、元々は印刷されている紙の大きさに由来している。「タブロイド」は380 mm × 300 mm, 「ブロードシート」は600 mm × 380 mmで*1、ブロードシートを2つに折るとタブロイドになる形だ。これは日本でも一般の新聞(朝日、読売、日経、毎日など)と、スポーツ新聞(東スポスポニチ、デイリーなど)や夕刊紙(夕刊フジ日刊ゲンダイなど)の違いとして広く知られている。

そして日本の一般の新聞とスポーツ新聞の違いのように、英語圏でも「ブロードシート」は普通の報道のための新聞で、「タブロイド」はスポーツ・芸能とゴシップに特化した娯楽のための新聞という大まかな違いがある。後者は日本語でも「タブロイド新聞」「タブロイド」と呼ばれ、一般的に「信頼できない情報源」と認識されている。実際、タブロイド紙は「売れればいい」という編集方針で、センセーショナルに話を盛ったり、大げさな見出し(いわゆる「釣り見出し」)を付けたり、でっちあげ・捏造報道をしたりすることが多い*2

21世紀に入ってからは、ネットの影響などもあって新聞ももろもろ変わっていて、「ブロードシート」の大きな紙が敬遠されるようになり、それまでブロードシートで印刷していた新聞が「ベルリナー」と呼ばれる一回り小さな紙*3や、「タブロイド」 を使うようになっているが*4、紙の大きさは同じタブロイド判でも、内容がブロードシートの新聞は「タブロイド新聞」とは呼ばれない。それらは、日本の感覚では「一般紙」や「普通の新聞」と呼ぶべきだろうが、英語圏では「高級紙(クオリティ・ペーパー) quality paper」、あるいは単に「新聞 newspaper」と呼ばれている。

ここまでまとめると、

-普通の新聞、一般紙 = broadsheet, quality paper, newspaper

-スポーツ新聞、ゴシップ新聞、タブロイド新聞 = tabloid

世界各国の新聞を情報源として参照するとき、この2つの区分が基本となる。例えばフットボーラーの移籍情報について、あるタブロイドが「スクープ」と銘打って派手な記事を書き立てている段階では、ほとんどの人が「話半分で聞いておこうか」という態度をとるが、ほかのタブロイドも同様のことを書き始めると「そういうことになっているのかな」と思い始め、一般紙が報じるに至って「事実と確定した」と受け取られる、というイメージだ(実際にはスポーツ専門メディアもあればテレビ局もあるので、こんなに簡単ではない。近いところではリオネル・メッシの移籍未遂みたいな報道を参照。英語圏ではガレス・ベイルの移籍についての件が記事を探しやすいだろう)。

 

さて、この区別、ネットで日本国外(海外)の報道に接するときには、なかなか難しい側面もある。実際に印刷された紙で見れば、派手なセンセーショナリズムのタブロイド新聞は見た目からしてそういうふうだから「これは話半分で聞いておこうか」という構えも取りやすいが、ネットだとそういう見た目の違いがわかりにくい。各媒体のサイトを見れば、一般紙(高級紙)は重厚な雰囲気のロゴがあったり、全体に落ち着いたレイアウトだったり、フォントがTimes New Romanなどセリフのフォントだったりしているからまだ空気感があるが、Twitterのようにそのメディア自体のデザインが見えない環境でぽこっと単体でニュースフィードが流れてくると、どのメディアがタブロイドメディアなのかを元から知っていないと、「これはタブロイド報道だから話半分で」ということができない。

この点についての対策は、残念ながら「最初から把握しておこう」ということ以外にないと思う。つまり、一度は「不確かなタブロイド報道をうのみにしてしまった」という道を通らなければわからないこともあるかもしれない。そういう、いわば「やらかし」は誰にでもありうることである。もし、不確かな話をうのみにしてしまっているとわかったら、「ああ、やらかしてしまった」ということで訂正なり発言の削除なりの対応をしていくようにしたい。

というわけで、今回の本題だが、米国の「ニューヨークなんとか」というメディアについて。

*1:https://en.wikipedia.org/wiki/Newspaper#Format による

*2:ただし、一般紙でも捏造報道が問題になることはあるので、「タブロイドは捏造するが、一般紙なら捏造はない」という単純な見方に陥らないようにしなければならない。例えば、今リアルタイムで問題になっているのはニューヨーク・タイムズで、ある記者が事実をろくに確認せずにセンセーショナルな報道を行っていたという事案である。

*3:470 mm x 315 mm

*4:https://en.wikipedia.org/wiki/Broadsheet#Switch_to_smaller_sizes を参照。ただし新聞を読むという行為には「あの大きな紙をがさがさわさわさする」という体験も組み込まれているわけで、ブロードシートから小さな版型への切り替えは成功した例ばかりではなく、結局元のブロードシートに戻すという判断をした新聞もある。

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省略, compel 〈人〉to do ~, 倒置 (イングランドの新型コロナウイルス「第二派」対応策とカオス)

今回の実例はTwitterから。

欧州では新型コロナウイルスによる感染拡大がまた深刻なことになっている。いわゆる「第二波」だ。

第一波では全土的に一斉に厳しい行動制限(ロックダウン)を導入したイングランド*1は、今回、各地域ごと、感染状況に応じて3段階制 (three tier system) で行動制限を実施する。

 仕組みとしてはスッキリしていそうだが、そこはカオスUK、イングランド内で公選市長*2を置く各自治体との意思疎通がうまくいっていないようだ。特にグレーター・マンチェスターマンチェスターとその郊外部)のアンディ・バーナム市長(労働党)がその点で活発に発言している。バーナムは以前は国会議員で、サッカーのエヴァトンFCの熱烈なサポーターなのだが、国会議員時代にライバルのリヴァプールFCのサポーター96人が死亡した1989年の群衆事故、いわゆる「ヒルズバラ(ヒルズボロ)の悲劇」の真相究明のために大いに尽力したことで知られる。その彼がなぜマンチェスターの市長なのかとかいうことも興味深いのだが、今はそれについて述べている余裕がないのでまたの機会に。

ともあれ、今日15日の朝、バーナム市長が次のようにツイートしているのに気が付いた。

このツイート自体は、コンテクストを知らなくても読むことはできるだろう(コンテクストを知っていれば話がより分かりやすいが)。

*1:英国は、保健行政は各自治政府に権限があるので、ウェールズスコットランド北アイルランドはそれぞれ自治議会・自治政府が方針を決めて、それぞれの首相・ファーストミニスターが人々に告知している。イングランド自治政府を持たないので英国会・英国政府がその役を負う。

*2:日本から見たら「市」に選挙で選ばれた「市長」がいるのは当たり前なのだが、イングランドでは公選市長は21世紀になってようやく導入された新しい制度である。その話はまた別の機会に。

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男・女に限定しない3人称単数の代名詞としてのtheyの用例(単数か複数かを文の前後から判断するという読解スキル)

今回の実例は、報道記事から。

英語を習って最初に覚えることのひとつが、人称代名詞である。下記の表は、英語を習った誰もが暗記させられたはずだ。 

  主格 所有格 目的格 所有代名詞
1人称単数  I my me mine
2人称単数 you your you yours
3人称単数(男)  he his him his
3人称単数(女) she her her hers
3人称単数(人以外) it its it -
1人称複数  we our us ours
2人称複数 you your you yours
3人称複数 they their them theirs

このように、英語では3人称単数の場合は、常に「人か人以外か、人である場合は男か女か」を判断して人称代名詞を使い分けているのだが*1、人か人以外かはともかく、他人が自分のことを言う場合に男か女かを決め打ちされるのは違和感がある、という人々が、男女を明示しない(つまりgender-neutralな)代名詞を使ってほしいということで、元から男女の性別にかかわりなく用いられている3人称複数のtheyを3人称単数の代名詞として用いることが、ここ数年で広まってきた。

元から、たとえば行政の書類や法的な文書、学術論文などで、漠然と不特定な「誰か」を言う場合に性別を特定しないようにするために "he or she" あるいは "he/she", "s/he" と表記することはあったが*2、誰か特定の人を言うときにこれを使うのはあまりにおかしい。 "Allie is a student. He or she is from Canada." みたいになってしまう。

ここに、he, sheのどちらかで呼ばれたくない人々を呼ぶときに使う1語の代名詞の必要性が出てくる。

実はこれは18世紀にはすでに英語で問題となっていたことだそうで、さまざまな提案がなされてきたという。それら詳細な話には今回は立ち入っている余裕はないが、興味がある方はこちらの米ミルウォーキー大学の文書ノン・バイナリーwikiなどを参照していただきたい。

Theyが実は単数を指しているという事例は、ジェンダーの観点からの疑問が呈される前からも英語の日常生活の中でよくあったという。例えばMerriam-Webster辞書には次のような用例がある

No one has to go if they don't want to.

こういう事情で、男女関係なしに使われる3人称複数の代名詞を、男女関係ない3人称単数の代名詞として使っていこうということになって、大手報道機関なども「3人称単数のthey」を特に注釈なく使うようになってきた。

今回の実例はその例。記事はこちら: 

www.bbc.com

報道されている内容は、スウェーデンのレストランで、中国の政治トップを新型コロナウイルスにひっかけておちょくったストリートアート系の絵が壁に貼られているのが差別的であるとして問題になっているということだが、本稿ではその話題には立ち入らない。

実例として見るのは、問題になっているその絵を描いたアーティスト(作者)への言及の記述だ。

*1:日本語では「あの人」や「先生」「課長」など性別が表に出てこない呼び方をするのが普通だが、英語でheやsheを使うところで "that person", "my teacher", "my boss" みたいな表現を使うのは不自然である

*2:ただし「人間」を表す語がmanだった時代、つまり20世紀前半くらいまでは、一般的に「人」を言うときの代名詞はheだった。女性という存在はそのレベルで抹消されていたのである。

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