今回の実例はTwitterから、「文法」というより慣用表現の実例を。
慣用表現は、「イディオム」とも言うが、そこにある単語をそのまま語義通りにとらえても意味が通らない。"It's a piece of cake." は、語義通りに読めば「それはケーキ一切れだ」だが、意味は「それはとても簡単だ」である*1。ちなみにこの "a piece of cake" という慣用表現は、20世紀前半の米国に発したものである。
この例にもある通り、こういった慣用表現の多くは、誰かが使い始めたものが人口に膾炙して*2、定着したもので、現代の英語で使われているそのような慣用表現の中には、16~17世紀のイングランドのシェイクスピアに由来するものもあれば、もっと古いものもあり、さらにはごく最近のものもある。できて数年程度の新しいものは、リアルタイムでは「流行語」にしか見えないから、「慣用句」としては観測不能だが、10年か20年後に定着していれば「慣用句」になるのかもしれない。
というところで先日、英紙ガーディアンの前編集長、アラン・ラスブリジャー氏のツイートに、そのような慣用句が2つも入っているのに気が付いた。
こちら:
This is an important piece on the still-relevant role of gatekeepers. Even though, confusingly as ever, Murdoch features as both good and bad cop. A cake and eat it figure, as so often ... https://t.co/rbHuTsvGUA
— alan rusbridger (@arusbridger) 2020年10月26日
*1:この慣用表現については日本語にも似たような「朝飯前(あさめしまえ)」というものがあるので、"It's a piece of cake." には「朝飯前だ」が対訳として与えられることが多い。
*2:最近、日本語でこの「人口に膾炙する」という表現を「広く一般に行きわたる」とか「多くの人に使われるようになる」という意味で過剰に一般化している例によく遭遇するようになった。「インターネットが人口に膾炙する」など。インターネットは人が口にできないし、好むと好まざるにかかわらずのものだろ……という違和感がぬぐえないのだが。