Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

倒置, not only A but B, keep + O + -ing, 【ボキャビル】tangible(米アカデミー賞で韓国映画が最優秀作品賞他4冠)【再掲】

このエントリは、2020年2月にアップしたものの再掲である。

-----------------

今回の実例は、Twitterから。

2月10日の第92回米アカデミー賞は、韓国映画『パラサイト 半地下の家族』が、最優秀オリジナル脚本賞、最優秀国際長編映画*1、最優秀監督賞、そして最優秀作品賞まで獲得するという、驚きの展開となった。この映画、アメリカのスタッフも資本も入っていない、アメリカから見れば完全な「外国」映画である。

これまでも「外国語映画賞」部門はあり、そこでイタリアのフェデリコ・フェリーニとか、スウェーデンイングマール・ベルイマンとか、日本の黒澤明とか、スペインのペドロ・アルモドバルとか、イランのアスガル・ファルハーディーといった映画作家たちを高く評価してはきたが、基本的に米アカデミー賞アメリカの、アメリカ国内向けの映画賞である。「外国語とか何とかという条件をつけず、単に、映画として素晴らしいもの」に与えられる「作品賞」はアメリカの映画がとるのがお約束だ。ときどきイギリスの映画がとることがあるが、いずれにせよ英語の作品である。

昨年(第91回)、メキシコが舞台でスペイン語の映画であるアルフォンソ・キュアロン監督『ROMA/ローマ』が「外国語映画賞」(今年からは「国際長編映画」)と「作品賞」に同時にノミネートされ、この作品が劇場公開という形よりむしろNetflix配信で一般の人々に届けられたこともあいまって、「異例の作品が、最優秀作品賞獲得なるかどうか」という話題になったが、最終的には最優秀作品賞をとったのは、普通にアメリカ映画の『グリーンブック』だった。(『ROMA』は最優秀外国語映画賞はとった。)

むしろ昨年は、『グリーンブック』が最優秀作品と位置付けられ、スパイク・リー監督の『ブラック・クランズマン』が受賞しなかったことで「アメリカにおける黒人の歴史をいかに語ったものがいかに評価されるのか」という問題を前景化させたことが、少なくとも英語圏では大きな話題となり、「スペイン語の映画が作品賞にノミネートはされたが受賞はしなかった」ということは、「Netflix配信の映画が作品賞にノミネートはされたが受賞はしなかった」ということほどにも注目されなかった。

そういうのがあって、「米アカデミー賞ってのはそういうものでしょう」とみなが思っていたところに、韓国を舞台にした韓国語の映画『パラサイト』が、「外国語のすばらしい映画」としても、「単に映画としてすばらしい映画」としても評価されたのだから、人々の驚きはひとしおではない。しかも、この韓国語の作品、脚本賞もとっている。オスカー像4体お持ち帰り!

というわけでTwitterで実況を追っていたが私もびっくりしたし、私の視界に入ってくる反応もみな「これは驚いた!」「すごい!」というものばかりだった。

やや時間をおいて、アカデミーの公式アカウントから受賞スピーチのクリップが配信されてきたが、会場も「すごい!」のムードに包まれている様子だ。 

 2分40秒あたりで舞台の照明が落とされてしまうという一幕があるが、最前列に座ったトム・ハンクスシャーリーズ・セロンといった映画スターたちが「照明つけてつけてつけて」と騒いでいる様子は、早くもGIF化されている。

 

というような状態で、要するにみんな「うわー、すごい」と口々に言っているような状態だが、そういったツイートのひとつが今回の実例。こちら: 

ツイート主のザック・シャーフさんは、アメリカの映画・TV評論&ニュースメディアのIndiewireのニュース・エディター*2

*1:前回まで「外国語映画 Foreign Language Film」と位置付けられていたものが、2020年2月の第92回から、「国際長編映画 International Feature Film」となった。

*2:「映画専門誌の編集者」のような仕事。

続きを読む

リスニング(聞き取り)の練習素材, thatの判別(ホアキン・フェニックスの英アカデミー賞でのスピーチ)【再掲】

このエントリは、2020年2月にアップしたものの再掲である。

-----------------

今回の実例は、スピーチから。

今日2月10日は米国の西海岸、ロサンジェルス「アカデミー賞」の授賞式が行われていて世界的な注目を集めているが、あれは実は米国の「映画芸術科学アカデミー」が選ぶ米国のローカルな賞で、国際的な賞ではなく、正確を期すならば「米国のアカデミー賞」と呼ぶべきだろう。実際、「アカデミー賞」は世界各国にある。「日本アカデミー賞」もあるし「英国アカデミー賞」もある。今回の実例はその「英国アカデミー賞」でなされたスピーチから。

「英国アカデミー賞」は、「英国映画テレビ芸術アカデミー (British Academy of Film and Television Arts, BAFTA)」が選ぶ英国のローカルな映画賞で、「BAFTA賞 (BAFTA Awards)」と呼ばれている。毎年、米アカデミー賞の少し前に授賞式が行われるが、今年は2月3日にロンドンで授賞式が行われた。ノミネートされた作品や監督・俳優、および受賞した作品や監督・俳優については、下記ウィキペディアにまとまっているので、そちらをご覧いただきたい。

en.wikipedia.org

 

ここで大きな注目を集めたのが、最優秀主演男優賞を獲得したホアキン・フェニックス(『ジョーカー』)のスピーチだった。その内容は、ネット上の日本語圏でも広く伝えられた。

 

今回はこのスピーチを見てみよう。まずはBAFTAのアカウントがアップしている映像から。

英語として特に聞き取りづらさはないスピーチだが、ネイティヴ英語話者がスピーチとしてナチュラルに話す程度のスピードはあるので、センター試験のリスニング程度のスピードのものしか聞き取れないとちょっと厳しいかもしれない(聞き取れなくてもあまりヘコまないでほしいと思う)。また、言葉(テクスト)としてはあまりきれいに整理されきっていない、生々しい発話のスタイルなので、聞いただけで意味を把握するのはちょっと難しいと感じる人もいるかもしれない。

聞き取りができてもできなくても、このスピーチは下記記事で文字に起こしてあるので、それを見ながら答え合わせをするなり聞き取りの練習をするなりするとよい。

www.bbc.com

記事の途中に "Joaquin Phoenix's Bafta speech in full" というコーナーがあるので、そこを参照。

続きを読む

時制, 関係副詞の非制限用法, 関係代名詞, 分詞構文(40年前、北アイルランドでひとりの男が獄中で餓死した)

40年前の5月5日、北アイルランドでひとりの男が死んだ。66日間の絶食の末のその死は、その後の事態の展開を大きく変える死であった。

男の名前はボビー・サンズ。1954年3月9日生まれ、1981年5月5日没。27歳で、死亡したときはウエストミンスターの英国の国会下院*1議席を有していた。それ以前に、彼は、英国政府が「テロ組織」に指定していた(今も指定している)the Provisional IRA(いわゆる「IRA」)のメンバーであり、彼がメイズ刑務所という英国の刑務所内で最期を迎えたのも、そのためである。

……と書くと「わけがわからないよ」となってしまうだろう。正直、私もこの話を他人に説明できるようになるまでには苦労した。日本語で書かれている文章には十分な情報量がない。しかも多くの場合は事実に照らして間違ってさえいて、英語圏で一般的に知られていること(「信じられていること」とは別に)を英語で仕入れて、ネット上の日本語圏でせっせと修正するなどしていたこともある。

例えば、サンズの絶食――ハンガーストライキ、すなわちハンスト――を題材に、ヴィジュアル・アーティストのスティーヴ・マックイーンが作った、ほとんどセリフがなく説明もない映画 Hunger には、監督が大きな賞を取り、主演俳優が「イケメン俳優」と騒がれ出したあとに日本でDVDを出すなどした配給会社によって『静かなる抵抗』なるロマンチックで寝ぼけた副題がつけられ、「あらすじ」としてDVDパッケージや各配信サイトに掲載されている文面も映画の内容にも、映画が立脚している事実にも即していない完全なでたらめで、日本語版ウィキペディアも非常にひどいものになっており、2015年にそれを修正したときのことは怒り散らしながら(なのでお見苦しいところもあるが)ブログに書いてある。この、ことばによる説明というものを最初からせず、ことばによらない説明もほとんどせずに、既に社会の中で《神話》化している《物語》に人間の身体を与え、人間の重みを描き出した映画については、2014年に書いたこのエントリで言いたいことは全部言った感がある。

他にも、私のブログでは、ボビー・サンズについては何度も書いている(あるいは言及している)。

というわけで、1980年から81年にかけて、何があったのかということについては映画Hungerを見ていただくのがよいと思うのだが、この映画は説明というものを全然しておらず、その「説明」という点で非常によいと思われる記事を、今回は読んでみよう。

記事はこちら: 

www.bbc.co.uk

記事を書いたのは、北アイルランド紛争の時期を通じて現地の情勢をずっと取材して伝えてきたジャーナリストのピーター・テイラー。北アイルランド紛争を「ロイヤリスト」、「リパブリカン」、「英国の国家機関(英軍、情報機関)」の三つ巴として分析し、それぞれに入念な取材を行ってまとめた3部作が主著で、1994年の停戦後の和平へのプロセスまで、「テロ」の中で(アメリカ流の、いわゆる「カウンター・テロリズム」のスタンスとは別の立場で)目撃し、伝えてきたジャーナリストである。 

Loyalists (English Edition)

Loyalists (English Edition)

 

 

*1:The House of Commons, これを日本語にするときは「庶民院」と書かないと噛みついてくる人もいるのだが、正直、「そういうこだわりなんですね」というポイントであるとしか言えない。現代の政治においては特別な文脈でもない限り、そこまでこだわる必要性はないところだろう。

続きを読む

分詞構文, 同格, prompt + O + to do ~, 助動詞+受動態, be able to do ~, of + 抽象名詞(首相官邸とメディアと報道の自由)【再掲】

このエントリは、2020年2月にアップしたものの再掲である。

-----------------

今回の実例も、前々回および前回見たのと同じ、英国の首相官邸がおこなう記者会見に「出席できる記者」を選別しようとし、排除された記者たちとともに全記者が会見をボイコットした、ということを報じる記事から。

記事はこちら: 

www.theguardian.com

こういう「記者選別」(首相官邸の側が、報道が自分たちに都合のよいことを書くように環境を作っている)は、正直日本のうちらには特に新しいこととは見えないのだが、民主主義の前提を破壊するものとみなされている。そういう「民主主義の前提」は、正直、もはや顧みられることもなくなりかけているのだが(もしそれが重要視されていたら、最初から嘘と不正と不法行為にまみれていたBrexitはどこかでストップされていただろう)、報道に携わる人々の間ではまだ完全に「こんなもんじゃね」みたいなムードにはなっていない。だからこういう記事が出ているのだが、こういうことを伝えるときに引き合いに出されているのが「ドナルド・トランプ流」みたいな概念である。

報道機関を敵視し、自分に都合の悪いことを報じられるとfalseやunfoundedといった言葉ではなくfakeという小学生じみた言葉を使って「フェイクニュースだ」と連呼するトランプは、CNNやニューヨークタイムズを敵視し、Fox Newsや右派新興メディアを優遇してきた。この「トランプ流」のやり口については、例えば2018年11月のForbes Japanのコラム(水本達也さんによる)に詳しい。

forbesjapan.com

2016年大統領選の民主党の指名争いでヒラリー・クリントン国務長官に敗れたサンダース上院議員は、アコスタ氏のような大手メディアの記者を「メディア・エスタブリッシュメント(支配階級)」と呼んで、批判の対象とした。

そして、彼らの立場を一変させたのが、トランプ政権の発足だった。スパイサー大統領報道官(当時)は、これまで記者会見を事実上独占してきた大手メディアの記者たちを一切無視し、あまり知られていない新聞や雑誌の記者を指すようになった。また、ネットを通じて、ホワイトハウスには縁のない地方紙の記者から質問を受けることもあった。

筆者も当初、トランプ政権の前代未聞のやり方に、ある種の小気味よさを感じたことは否定しない。なぜなら、花形記者とその他大勢の記者たちの「格差」が、今後は縮まるかもしれないという錯覚を覚えたからだ。

しかし、しばらくして、新たに「参入」してきた記者たちが、大手メディアの記者がこれまで繰り広げてきたような政権や大統領の説明責任を追及するやり取りに消極的なことが分かってきた。権力から嫌われれば、再び質問ができなくなるからだ。

トランプ氏が執拗にCNNなどを「国民の敵」として仕立て上げるのは、自らに批判的なメディアをたたくだけではなく、大手メディアとそれ以外のメディアの間にくさびを打ち込む狙いもあった。

 

英国でもボリス・ジョンソン首相と側近のドミニク・カミングスらのもとで同様の「くさびを打ち込む」という分断が行われようとしているというのが、今回の「記者選別」という行為に対する評価で、それに対してその場にいた記者たちは「分断を拒む」という意思表示として全員が会見をボイコットしたのである。

続きを読む

there is/are ~の現在完了形, 関係代名詞の非制限用法, 動名詞の意味上の主語, 分詞構文(首相官邸とメディア)【再掲】

このエントリは、2020年2月にアップしたものの再掲である。

-----------------

今回の実例は、前回見たのと同じ記事から。背景解説等は前回のエントリをご参照いただきたい。

記事はこちら: 

www.theguardian.com

 

続きを読む

接続詞, 代名詞, tell + O + to do ~, allow + O + to do ~(首相官邸とメディア)【再掲】

このエントリは、2020年2月にアップしたものの再掲である。

-----------------

今回の実例はメディアに対する首相官邸の扱いをめぐる報道記事から。

2019年夏に英国の首相となったボリス・ジョンソンという人は、一言で言えば「そこそこいい家の子」で、イートン校からオクスフォード大学に進んだという経歴の持ち主だ。1970年代のことで、「そこそこいい家の子」くらいではイートン校ではあまりよい立場にはいられないものだったが、処世術には長けていたようで、学業はダメでも同窓生からの人気は高いという学生だったようだ。

大学でも「愉快な奴」として目立ってはいたようだが学業は全然振るわなかった。1987年に不満足な成績で卒業して、その後はコンサル会社に就職したが1週間で辞め、その後は家族(知識人階級)のコネで一流新聞のザ・タイムズに研修生として入社したが、最初に書いた記事で捏造をやらかしてクビになった。続いて、大学時代の自身の人脈で、同じく一流新聞のデイリー・テレグラフに入った。これにより、ジョンソンは「元々はジャーナリスト」と描写されるが、「ジャーナリスト」といっても現場で取材することが必須ではない、論説記事執筆担当の記者で、いかに読者を引きつける文章が書けるかどうかが勝負の仕事だ。

それはそれで貴重なスキルだし(実際、ジョンソンの書いた文章はおもしろい)、ジョンソンがその道を極めていってくれていたら今頃英国はこんなことになっていないかもしれないのだが、どういうわけか、ジョンソンは大学時代に政治に足を突っ込んでいた。新聞で仕事をし、テレビにも出て顔も名前も売れに売れていたジョンソンは、2000年代に政治家としてぐんぐん目立つようになって、ついには首相にまでなったわけだ。彼の経歴について詳細はウィキペディア参照

https://en.wikipedia.org/wiki/Boris_Johnson

 

さて、そういう経歴の人物だから、メディアの中がどうなっているかはよく知っている。2019年12月の総選挙前に、厳しい質問を次々と浴びせかけることで有名なBBCの「各党党首インタビュー」を拒否したのも、ただの気まぐれではなかっただろう。

日本でもしばしば話題になるが、メディアにとって「取材させてもらえないこと」は何としても避けねばならないことという前提がある。ドミニク・カミングスというかなりとんでもない人物を側近としているジョンソンは、英国の大手メディアに対してそのカードをちらつかせ、時にはそれを切っている。

1月31日にEUからの離脱が正式なものとなって、ジョンソンのその態度がさらに1段階強められた。2月3日、首相官邸での記者会見(ブリーフィング)で、官邸側は、デイリー・ミラー、アイ、ハフィントン・ポスト、ポリティクス・ホーム、インディペンデントの記者を締め出そうとした。これに応じて、政権寄りの報道で批判されている超大物を含む他のメディアの記者たちもこの会見への出席を拒否し、「官邸側が取材する記者を選ぶ」という異常事態は英国では大きく報じられた。

 

というわけで、今回はこの件を報じたガーディアンの記事から。記事は下記: 

www.theguardian.com

 

続きを読む

《程度》を表すby, 分数の表現(「~の3分の1」), as a result, 最上級+ever, 関係代名詞, 接続詞while, 形式主語など(民主主義の後退についての学術的な文)【再掲】

このエントリは、2020年2月にアップしたものの再掲である。

-----------------

今回もまた、前々回および前回の続きで、学術的な報告書の記述から、大学入試で課される自由英作文に使えそうな表現を拾っていこう。

出典は前回までと同じ(下記のPDF): https://www.bennettinstitute.cam.ac.uk/media/uploads/files/DemocracyReport2020.pdf

見るページも前回と同じ。

続きを読む

付帯状況のwith(インドの感染爆発)

今回の実例は、前回のと同じ文章から。コンテクストの説明などは前回のエントリをご参照いただきたい。

記事はこちら: 

www.theguardian.com

前回書いたように、この文は「書いてあることを、書いてある通りに読む」ということが意外と難しく、その読み方(「正確な読み」)を意識して英文を読めるようにするという練習に適している。わかる単語だけ拾って、脳内で適当に補完しても、何となく意味が通っているように思われるから、そうやって「速読」気分を味わうこともできるのだが、それで済ませてしまうにはもったいないクオリティの英文である。

続きを読む

《it was ~ that ...》の形の文の構造を見極める, 関係代名詞(インドの感染爆発)

今回の実例は、ある状況をかなり長期にわたって分析し、解説する記事から。

インドでの新型コロナウイルス感染の拡大とその深刻な状況については、日本でもいくらかは伝えられている。日本、特に大阪も実にひどい状況になっているが、インドの場合、病院に搬送されても吸入に使う酸素がなく、その他の医療物資も不足していて、まともな医療が受けられないということが、感染の新たな「波」の中で生じている。私の見ている範囲での英語圏では、4月後半はインドの感染拡大状況といわゆる「医療崩壊」がトップニュースになっていて、昨日から今日にかけてはアイルランドや英国、米国の政府が、インドで足りていない物資(病院で使う酸素など)の支援を実施することが決定したとか、支援物資が送られたとか、現地に到着したとかいったことがニュースになっている。

しかしそのインド、欧州各国や米国が感染拡大でひどいことになっていたときには、欧米がいわば「上から目線」で「あんな国でわが国のようなひどい状況が生じたら、すさまじくひどいことになる」と心配してみせていた国々のひとつなのだが、実際には、そのときには恐れられていたほどにはひどいことにはならなかった。その理由もいろいろ取りざたされていた。食事を手で食べる習慣があるから、手の清潔への気の配り方が普段から違うのだとか、常食されるスパイスがよいのだとか、まあ、いろいろあった。同じころ、日本についても、さほど感染が拡大していないことについて、ビタミンDがどうたらとか、幼少期に受けるBCG予防接種がどうたらとかいう理由らしきものがいろいろ取りざたされていたが、インドについていろいろ言われていたのもそれと同じようなことだろう。誰も確証を持っていないが、何となく自分の知ってる範囲、わかる範囲のことで何かを考えたくて、いろんな人がいろんなことを言っていて、中には説得力のあることもあった。でも、科学的には特に根拠はなかった。

科学的に根拠があるかどうかなど、実のところ、さほど重要ではない場合も世の中にはいろいろあって、宗教的信念がハバをきかせているところでは特にその頻度・度合が高まる。そしてインドは、2014年の総選挙で、いろいろとぐだぐだだった国民会議派が大量に議席を失い、ヒンズー・ナショナリズムのBJPが大量に議席を獲得して政権について以来、ヒンズー教徒の宗教熱が高まっているし、宗教熱があおられてもいるという。ほかの宗教、例えばイスラム教に対する公然たる敵視は、BJP支持者の心をしっかりつかんでおくためだろうが、きわめて暴力的な状況を生じさせており、新型コロナウイルス前の世界では、インドが国際ニュースになるときはその宗教を背景とした暴力についてのニュースが多かった。

それが、コロナ禍では忘れられたようになっていて、「なぜインドは感染封じ込めに成功したのか」という話題が時々出るようになり、またさらにはボリウッドの有名映画俳優が感染して入院したといったニュースが時折伝えられ、そして今は俗に「インド変異株」と呼ばれる変異株と、「第二波」と位置付けられる感染爆発のニュースが、あまりに多くの火葬の炎の写真とともに、連日伝えられるようになっている。

そういった状況を振り返りつつ分析しているのが、今回見るガーディアンの記事である。記事はこちら: 

www.theguardian.com

「『われわれは特別ではない』。勝利を謳歌しまくったことが、いかにしてインドを悲惨な状況に追いやったか」という意味のタイトルのこの記事、読んでいてどうしたって「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証として、東京五輪を」云々という日本政府のプロパガンダがかぶって見えてくる。分量もあるし、読むのが楽な記事ではないが、ぜひお読みいただきたいと思う。このウイルスは、「勝利した」と思い込んでしまうこと自体が罠なのだ。感染抑制に成功している国・地域(ニュージーランド、台湾など)は「勝利した」と考えているのではなく「うまくコントロールできている状態を、状況を見てやることを変えつつ、キープしなければ」と考えている。

続きを読む

やや長い文, 関係代名詞, 付帯状況のwith, 【ボキャビル】動詞のmark, so-called, satisfaction with ~(民主主義の後退についての学術的な文)【再掲】

このエントリは、2020年2月にアップしたものの再掲である。

-----------------

今回の実例は、前回(先週末)見たのと同じ学術的な報告書から。

出典は同じで下記のPDF: 

https://www.bennettinstitute.cam.ac.uk/media/uploads/files/DemocracyReport2020.pdf

見るページも前回と同じ。

続きを読む

英文読解、難しい単語の語義の推測、自由英作文で使える基本的な表現(民主主義の後退についての学術的な文)【再掲】

このエントリは、2020年1月にアップしたものの再掲である。

-----------------

今回の実例は、学術的な報告書から。

国公立大・私立大の二次試験などで、「与えられたグラフを見てわかることを英語で説明せよ」という主旨の自由英作文が課される場合、視覚的な(見てわかる)情報を言語化できるか(それも、英語で表現できるか)ということが問われているのだが、その際、決まりきった定型表現を使えるか使えないかで結果に大きな違いが出る。学術論文などはそういった表現の宝庫というか、そういった表現で書かれることが決まっているものだから、二次試験直前の仕上げの時期に、自分で使えそうな英語表現を見つけようというつもりで英語の学術論文を見てみることは、かなり効果的な勉強法になるだろう。

今回見る報告書は下記の記事で紹介されているもの。

この記事の見出しで内容の概略を把握したうえで、報告書そのものを見てみよう。URLは下記(PDFのほう):  

報告書は全部で60ページ、本文だけだと40ページくらいあって、受験生がちょっとやそっとで読める分量ではないが、最初の方にあるKey Findingsのところだけなら問題なく読める。そこを見たうえで、もしより詳しいことを知りたいなと思ったら、本文でそれが書いてある箇所を読めばよい。

続きを読む

目的格の関係代名詞 whom(北アイルランド紛争当時、暴力を否定していた人)【再掲】

このエントリは、2020年1月にアップしたものの再掲である。

-----------------

今回の実例は、少々変則的に、書籍から。

1月24日、北アイルランドの紛争後の政治で極めて重要な役割を果たしたシェイマス・マロンが、83歳で亡くなった。

nofrills.seesaa.net

 

北アイルランドナショナリストカトリック側)」というと、日本ではほとんどの人がシン・フェインとIRAを想起して、「シン・フェインこそがナショナリストの代表」と思い込んでいることすら珍しくないのだが、実際には、21世紀に入ってからシン・フェインがのしてくるまでは、北アイルランドナショナリストを代表する政党は、SDLPだった。

SDLPは北アイルランド紛争が紛争化する前、1960年代後半に盛り上がっていた公民権運動の中から生じた政党で、人権重視の社会民主主義政党だが、北アイルランドの文脈では「暴力反対」の立場と説明するのがよいだろう。つまり、「暴力によって目的を達すること」を是としたばかりかそれを追求したリパブリカン・ムーヴメント(=シン・フェイン)とは根本的に対立する考え方だ。そして(いろいろはしょるが)、紛争の間中、ナショナリストの人々の最大の支持を集めていた政党は、SDLPだったのだ。

最終的には、この暴力否定派のSDLPが暴力肯定派のシン・フェインを政治的対話の場に引き入れた(受け入れた)ことで、1990年代の和平が進展したのだが、それに際して、SDLPの中では非常に激しい反対論があった。「シン・フェインと話などすべきではない」というその立場の代表的な人物が、シェイマス・マロンだった。

マロンは、後にノーベル平和賞を(ユニオニストのデイヴィッド・トリンブルと共同で)受賞することになったSDLP党首(当時)のジョン・ヒュームの、リパブリカンに対する、いわば宥和的な姿勢に異を唱えていたが、1998年のグッドフライデー合意成立後は、この合意によってスタートしたユニオニストナショナリストの権限分譲による北アイルランド自治政府で、自治政府を率いるファーストミニスター&副ファーストミニスターのペアの片割れとして、アルスター・ユニオニスト党(UUP)のデイヴィッド・トリンブルとともに行政のトップを務めることになった。

……とまあ、そういう人なんだけど、詳細は上記の私のブログとそのリンク先である私の連続ツイートのまとめを見ていただくとして、そのマロンが最後に語り残したことが、2019年5月に回顧録として出版されていた。訃報があったときにこれに言及したツイートが何件もあった。

 今回の実例はその本から。Amazon Kindleで900円くらい、楽天KOBOでは700円足らずなので、興味のある人は買ってみてほしい。 

Seamus Mallon: A Shared Home Place (English Edition)

Seamus Mallon: A Shared Home Place (English Edition)

  • 作者:Seamus Mallon
  • 出版社/メーカー: The Lilliput Press
  • 発売日: 2019/05/17
  • メディア: Kindle
 

「本から」などと言うと難しく聞こえるかもしれないが、実例としてみるのは、今年のセンター試験で出題された文法項目の、とてもシンプルな例だ。

 

続きを読む

完了不定詞が主語になっている文, 助動詞+受動態 (BBCの調査報道番組Panoramaが、過去のPanoramaについて調査報道)

今回の実例は、報道記事から。

今日は時間がないので前置きはごく短く済ませたい。BBCのPanoramaという番組は、日本でも少しは知られているかもしれない。時事問題についての調査報道番組だ。ときどきひどいものがあるが*1、たいていは立派な内容である。

そのPanoramaが、今回、過去のPanoramaについて調査報道を行うという。今回の調査報道を担当するのは、北アイルランドでの「ダーティー・ウォー」(特に治安当局と現地武装勢力との癒着)についてやサウジアラビアでの人権侵害の調査報道を行ってきたジョン・ウェア*2。彼が調査対象とする過去のPanoramaは、1995年に当時新人だったマーティン・バシール記者(現在はBBCの宗教分野担当で、今は新型コロナウイルス感染で休職中)が行ったダイアナ妃のインタビューである。このインタビューでダイアナが吐露したいろんなことがあちこちに波紋を広げたのだが、そもそもこのインタビューを取り付けたバシールが不正な手段を使っていたという「疑惑」が調査されてしかるべきということになり、現在、ダイソン卿という人による法的な調査と、BBCによる調査の2つが行われているそうだ。で、法的な調査のほうの結論が報告書という形で出される前に、BBCがジョン・ウェアを担当にして行った調査を、問題が生じたPanoramaという番組の枠で、5月に放送することになった、というのが今回見る記事の報道内容である。記事はこちら: 

Diana, Bashir, and that TV interview: now Panorama investigates itself | Diana, Princess of Wales | The Guardian

*1:例えば2012年のサッカーの欧州選手権Euro開催前の開催国ウクライナポーランドの「サッカーと人種主義」についての番組は、あらかじめ用意されたストーリーに合わせて仕立てられたグロテスクなものだった。

*2:ジョン・ウェアがどのくらいガチな報道記者であるかは https://www.theguardian.com/politics/2020/jan/22/bbcs-john-ware-to-sue-labour-over-panorama-investigation-into-antisemitism などをご参照のほど。 

続きを読む

同等比較 (as ~ as ...), 省略, help+動詞の原形, 【ボキャビル】one's love for[of] ~, as long as ~ can rememberなど(フランクフルトの名物サポーターはホロコーストの生き残り)【再掲】

このエントリは、2020年1月にアップしたものの再掲である。

-----------------

今回の実例はTwitterから。ただしやや変則的に、ツイート本文と、映像についている英語字幕を見る。

ドイツに、「ドイチェ・ヴェレ (Deutche Welle)」という国際放送局がある。ドイツ国内でドイツ語で語られることを、ドイツ国外に、英語やフランス語、スペイン語などでも伝えている報道機関で、英BBCの「BBC World」のようなものだ。「DW」の略称をシンプルにデザインしたロゴは見たことがあるという人が案外多いのではないかと思うが、Twitterではドイツ語のアカウントが@DeutcheWelle, 英語のアカウントが@dwnewsなどとなっている。後者は、欧州情勢に興味がある人はフォロー必須のアカウントのひとつだ。

twitter.com

この媒体の関連アカウントのひとつが、スポーツニュース専門の@dw_sportsだ。ドイツ語ではなく英語で運用されており、サッカーの代表のニュースやブンデスリーガのニュースはここをチェックするといろいろと話が早いという感じ。

今回の実例は、1月27日の「ホロコースト記念日」のこのアカウントのツイートから。

ツイート本文の下に映像が入っている。音声はドイツ語だが、英語字幕がつけられているので、それを見てほしい。

続きを読む

論理展開を押さえて読む, SVOCの構文, 時制の一致, whether節(名詞節), if節のない仮定法, 形式主語など(75年目のホロコースト記念日)【再掲】

このエントリは、2020年1月にアップしたものの再掲である。

-----------------

日本では語られもしないので知られていない(私自身も長いこと知らなかった)が、1月27日はアウシュヴィッツ収容所がソ連軍によって解放された日(1945年)である。例年、現地では大規模な式典が行われ、世界的には「ホロコースト記念日」となっている。

この日、Twitterでは「ホロコースト記念日」を表す#HolocaustRemembranceDay#HolocaustMemorialDayハッシュタグ*1や、#NeverAgain, #NeverForgetという標語のハッシュタグがTrendsに入るのが毎年の光景だ。

今年は、Twitter上には、ユダヤ人の「歴史を語り継ごうとする意志」よりも、イスラエルナショナリズムイスラエル国外の支持者のものも含めて)が非常に色濃く出ているように感じられたが(ネタニヤフが昨年の選挙で勝てなくて政治的にあれこれやってる最中であることとか、ネタニヤフが刑事訴追を何とか回避しようとしていることとかが影響しているのかもしれない)、この話題について何かを書くときに「イスラエル国」をスルーすることはできないのかもしれないということは認識しつつ、ここで私はイスラエルとは直接関係を持たない立場から、ホロコーストを語る言葉を取り上げたいと思う。ホロコーストが、アウシュヴィッツやトレブリンカから遠く離れたところにまで影響を及ぼしていた(いる)こと、それが「ヨーロッパ」の歴史の一部であることを知ることは、日本国内でのあまりに軽薄で軽々しくて尊大で、敬意のかけらもない否定論(否認論)をひとりひとりが無視するための足掛かりになるはずだ。

 

英国にはユダヤ人(ユダヤ教徒)は少なくない。シェイクスピアの『ヴェニスの商人』に明らかなように、ユダヤ人はずっと昔から英国にいたが、1930年代終わりから40年代はじめにかけて、欧州大陸から逃げてきた人々とその子孫も多い。そしてそういう人々はまず例外なく、親族を大陸でホロコーストのために失っている。「祖父と祖母は脱出できたが、その両親や兄弟姉妹は強制収容所に送られて殺された」といった非直接的な形でホロコーストの経験を持つ人々は、とても多い。

また、欧州大陸がナチス・ドイツ反ユダヤ主義政策によって塗り替えられるようになる前から英国に住んでいたユダヤ人も、ドイツやベルギー、フランスなど大陸に住んでいた親類縁者がホロコーストで殺されている。

そして、もしもナチス・ドイツが英国を占領していたら、彼ら「英国のユダヤBritish Jew」も絶滅収容所送りになっていたことは確実だ。

経済分野を専門としてきて、現在では民放ITVの政治部エディターであるジャーナリストのロバート・ペストンは、第二次大戦が終わってから15年後の1960年にロンドンに生まれた。親もロンドンで生まれているので、ホロコーストとの直接的なつながりは、例えば労働党デイヴィッド・ミリバンドエド・ミリバンド兄弟(お父さんのラルフ・ミリバンドがベルギーから脱出してきたユダヤ人難民)ほどにも強くない。ペストン家の人々はユダヤ人とはいえ信仰を強く持っていたわけではなく「文化的ユダヤ教徒」だそうだが*2、それでも、大陸のユダヤ人たちに起きたことを他人事とは扱えない。そういったことを、「アウシュヴィッツの解放」から75年となる今年、、彼は「ジューイッシュ・ニュース」というロンドンのBritish Jews向けメディア(現在はイスラエルの「タイムズ・オヴ・イスラエル」紙傘下らしい)に短い記事を寄せている*3

 

 

*1:英国では後者を名称としたトラスト(基金)があり、ハッシュタグに絵文字が添えられるようになっている。

*2:「文化的〇〇教徒」はうちら日本人のいう「葬式仏教徒」みたいなもので、キリスト教でもイスラム教でもユダヤ教でも何教でもありうる。日本の「葬式仏教徒」も「文化的仏教徒」と名乗ればよいと思う。

*3:ペストンのこの記事は、このメディアに彼が持っている「個人ブログ」の1本目の記事となっている。今後、ペストンはここにも書くようになるのかもしれない。

続きを読む
当ブログはAmazon.co.jpのアソシエイト・プログラムに参加しています。筆者が参照している参考書・辞書を例示する際、また記事の関連書籍などをご紹介する際、Amazon.co.jpのリンクを利用しています。