Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

【ボキャビル】quid pro quo, 前置詞+関係代名詞, 報道記事の見出しのルール(米トランプ大統領のウクライナ疑惑)

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今回の実例は、米ドナルド・トランプ大統領の弾劾の是非に関する公聴会が始まる前の報道記事から。

日本語圏では10月の災害に続き、11月は大学入試やら「桜を見る会」やらの日本の国内ニュースがたいへんなことになっているので扱いが相対的に小さいのではないかと思うが、英語圏ではウクライナ疑惑とトランプ弾劾の行方が連日トップニュースの一角を占めている。これは米国のメディアだけでなく英国のメディアでも同じだ。(ただしもちろん、英国のメディアの最大の関心は、自国のニュース――総選挙や水害――に向けられている。)

私は個人的にはアメリカの政治にはあまり興味がない。同時期に英国の総選挙のニュースが進行しているので、そちらを見るだけで手いっぱいで、上院を共和党が押さえている以上は結論がわかりきっているトランプ弾劾については見出しくらいしか見ていないから、最新の状況は実はよくわからない(ただ、こういうことになった理由の大枠は押さえているつもりだし、結論はわかりきっていても、こういういわば「ドラマ」を展開することを民主党が選んだことの意義はあるということも理解しているつもりだ)。

何が起きているのかは、パトリック・ハーランさんがわかりやすく解説してくれている記事があるので、そちらをご覧いただければと思う。

www.newsweekjapan.jp

 

さて、というわけで今回の記事。弾劾のあれこれが今のように動き出す前、先週の報道記事で、この見出しが目を引いた。

www.theguardian.com

 

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2019年11月6日、the Guardian

... newly released testimony in the impeachment inquiry against Donald Trump has produced a firsthand account of US officials negotiating a quid pro quo in Ukraine in which military aid would be used to pay for a political hit against Joe Biden

 "quid pro quo" は、ラテン語のフレーズがそのまま英語に取り入れられたもので、完全に英語の普通の単語みたいになっているので、不定冠詞のaがついている。

意味は、英語に直訳すれば "something for something" となり、英和辞典を参照すると「代わりのもの」、「代償」、「報酬」といった語義が出てくるが、報道記事など実際の英語で最もよく見かけるのは法律用語で、「交換条件」と訳すとしっくりくる。

この法律用語としてのquid pro quoの定義は、下記でわかりやすく説明されている(説明はわかりやすいが、法律系の書き方なので、英文は読みやすいとはいえないが)。

https://legal-dictionary.thefreedictionary.com/quid+pro+quo

 

というわけで、"a firsthand account of US officials negotiating a quid pro quo in Ukraine" は、「ウクライナで交換条件を直接交渉した米国当局者の説明」といった意味になる。

 

その後、下線で示した "in which" は《前置詞+関係代名詞》で、先行詞は "a quid pro quo" である。つまり、米国側がウクライナ側と交渉した交換条件において、"military aid would be used to pay for a political hit against Joe Biden" ということになっていた、という記述だ。文意を取れば、「米国側がウクライナ側と交換条件を交渉したが、その交換条件においては、ジョー・バイデンに対する政治的な攻撃の報酬として、軍事支援が用いられることになっていた」ということ。

 

なお、記事見出しでは "Top US diplomat observed clear Trump-Ukraine quid pro quo, testimony reveals" と、quid pro quoに冠詞がついていないが、これは報道記事の見出しでは冠詞は省くという原則にのっとってのことである。

 

英語の中のラテン語は、気取っていたりあえて格式張ったようにしていたりするように見える(聞こえる)かもしれないが、実はそんなこともなく、普通の表現として完全に定着していることも多い*1。日本語でいえば、昔の中国由来の四字熟語や故事成語のようなものというイメージで、私たち日本語話者が「自転車通勤するようになったら、通勤ラッシュから解放され、毎日の運動量も増えて健康になって、一石二鳥だ」と言ったり、「外資が乗り込んできたので、日ごろ対立しているA社とB社が共同プロジェクトに乗り出すという話だ。まさに呉越同舟だが、うまくいくのかね」と言ったりするときに、特に気取っても格式張ってもいないのと同じで、英語圏での日常の場面でquid pro quoのようなラテン語のフレーズが使われるときも特に気取っていたりするわけではない。ただ便利で伝わりやすい表現として使っているわけだ。あるいは今回の実例のような、単なる用語として(そのような用語としては、quid pro quoの他に、例えばper capitaとかad hocといったものがある)。

 

これらのように、ラテン語のまま英語に取り入れられた語・フレーズのほか、ラテン語が元となっている英語(語源をラテン語とする英語)もたくさんある。受験・受検に向けて本格的にボキャビルに取り組むときに語源を手掛かりにするという学習法は、難関大学を志望するとか、英検2級以上を受験するといった程度に基礎的な英語力(特に語彙力)がある人には有効である。(逆に、中学レベルの英語も不安な人が語源から単語を覚えようとしても、あまり効果はない。)

ラテン語が語源となっている英語に興味がある方は、下記が役立つだろう。

gogen-ejd.info

 

 

英単語の語源図鑑

英単語の語源図鑑

 
ラテン語の世界―ローマが残した無限の遺産 (中公新書)

ラテン語の世界―ローマが残した無限の遺産 (中公新書)

 
英単語の語源を知り語彙を増やすためのラテン語-日本語-派生英語辞典

英単語の語源を知り語彙を増やすためのラテン語-日本語-派生英語辞典

 

 

*1:ただし、同じラテン語のフレーズでも、いかにも「私はここでラテン語を使いますが」的な強調がなされることもある。その場合は気取っていたり、圧をかけてきていたりする。

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