Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

《トピック文》と《サポート文》の構造, 倒置 (映画『ノマドランド』と西部劇)

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今回の実例は、映画評の文章から。

現在、日本でも劇場公開(ロードショー)中の映画『ノマドランド』。「ノマド」は定住しない遊牧民を指す言葉で、この映画は家に暮らすということをせず、車に寝泊まりして、収入源を求めてあちらからこちらへと移動して暮らす人々の中に入り込んで、その在り方を描き出すものだ。映画としての評価も極めて高い。先日、ゴールデングローブ賞の作品賞と監督賞もとったし、英アカデミー賞(BAFTA)でも何部門も受賞した。4月の終わりに授賞式が予定される米アカデミー賞(オスカー)でも主要部門でいくつもノミネートされている。監督はクロエ・ジャオ。中国出身で、高校以降は英米で過ごし、現在は米国で活動する女性の映画作家で、長編映画を撮り始めてまだ5年かそこらという、あらゆる点でアメリカのエスタブリッシュメントから離れた人である。原作は、こちらも女性のジャーナリストであるジェシカ・ブルーダーの著作『ノマド: 漂流する高齢労働者たち』(原題はNomadland: Surviving America in the Twenty-First Century)で、原著は2017年、春秋社からの日本語訳は2018年に出ている。 

ノマド 漂流する高齢労働者たち
 

www.youtube.com

私自身は、不要不急の外出を取りやめていたりするので、まだ見ることができていない。移動を自転車にして、他人との接触を最小限に抑えられる形で見に行くことは可能ではあるのだが、そうやって予定していると雨で自転車が使えなかったりしている。

さて、日本でも「場所と時間に縛られないノマドワーカー」なる概念がここ数年で定着しているし、「ノマド」という言葉には何か特別にポジティヴなイメージがあるかもしれないが、以前からある日本語を使えば「放浪者」「根無し草」だ。「どこの馬の骨とも知れない奴」である/になることだ。

たとえ表現が「根無し草」であっても、「放浪」はメインストリームでは、何かこう「男のロマン」的なものとして受け取られてきたわけで、『ノマドランド』も「男たちの物語」であったならば、たぶん今の私は「わざわざ映画館まで行くのもたるいし、配信レンタル待ちでいいや」と思っていただろう。だが、この映画は、原作も女性ジャーナリストなら監督も女性映画作家、主演もフランシス・マクドーマンドという女性の俳優(それもとびきりかっこいい女性の俳優)だ。だから「ああ、これは見に行かないと」と思っているのだが、先日ガーディアンに掲載されていた映画評を読んで、ますますその感を強めている。

というわけで、今回の実例はこちらの記事から。映画評、つまり文芸評論なので、読むのは結構大変かもしれないが(「西部劇」のイメージを知らないと、読んでもさっぱりわからないだろう)、一般紙に掲載されているレベルだから、評論としてはさほど難しくはない。

www.theguardian.com

まず記事の表題からしてハードルが高めだ。

”myth" という語については、当ブログでは何度か取り上げているが、「ギリシャ神話」とか「建国神話」で使う文字通りの「神話」という意味の他に、「事実ではないが、体系的な物語みたいになっているもの」という意味があり*1、日常で "It's a myth." などと言われるのは後者の意味である。この記事の表題にある "It's an utter myth" は「それは完全な神話である」と直訳できるが、つまりは「完全な作り事で、事実とはまったくかけ離れている(が多くの人が信じている)」という意味である。

"the western" は、大文字を使って the Western と書くことも多いのだが、「西部劇」の意味。ここで「西部劇」という言葉すら通じないという現実もあるのだが(もう10年以上前に高校生から「セイブゲキって何ですか?」と聞かれたことがあるのだが、だいたい私の世代でも「西部劇」は何となくぼやっと知ってる程度だろうし、詳しい人はよほどの好事家だろう)、「1860年代後半・南北戦争後のアメリカ西部を舞台に、開拓者魂を持つ白人を主人公に無法者や先住民と対決するというプロットが、白人がフロンティアを開拓したという開拓者精神と合致し、大きな人気を得て、20世紀前半のアメリカ映画の興隆とともに映画の1つのジャンルとして形成された」という日本語版ウィキペディアの解説を読んでおくだけでも、何となくのイメージはできるだろう。

今回読むこの映画評は、この映画は「西部劇」という「アメリカの神話」の批判的な変奏である、という主旨のものだ。

評者(筆者)は、映画だけでなく原作となったノンフィクションも扱いながら、この作品(というか「作品群」か)が描き出す「現代アメリカの姿」とでもいうべきものを指摘していく。ここで評者が何度か使っている "migrant" という語は、ニュース などでは「移民」という意味で出てくるし、そのほとんどが「国境」を超えるものだが、本来この語に「国境を超える」というニュアンスはない。"migrant bird" といえば、餌や生きていくのに適した環境を求めて移動する「渡り鳥」のことだし、"migrant" 「仕事を求めて1つの場所から別の場所へと移動する人」のこと、つまり「出稼ぎ労働者」「季節労働者」のことだ。このあたりは、アメリカの歴史と深いかかわりのあることだから、文献も多くあり、興味があればどんどん掘っていけるだろう。

英語の実例として見るのは、記事の中盤にさしかかったところから。映画の原作となった『ノマド』の本の筆者、ジェシカ・ブルーダーの発言を参照している部分: 

f:id:nofrills:20210416152831j:plain

https://www.theguardian.com/film/2021/apr/09/its-an-utter-myth-how-nomadland-exposes-the-cult-of-the-western

キャプチャしたパラグラフの最初の部分: 

In researching Nomadland, Bruder trailed the migrants between the beet fields of North Dakota and the camp grounds of California in her own camper van. Most, she says, were keen to frame the lifestyle in the soaring rhetoric of the old west. They cast themselves as outlaws, cowboys, pioneers. They spoke of freedom and opportunity, individualism and self-reliance. 

最初の一文が導入(以下の部分がどういう発言なのかの説明)で、2番目の文(青字)が《トピック文》、3番目、4番目の文(朱字)が《サポート文》という構造になっている。つまり「オールド・ウエストのレトリックで、自分たちのライフスタイルを語りたがる」ということはどういうことかというと、「自身のことをアウトローであるとか、カウボーイだとか、開拓者であるとみなしており、自由やチャンスについて語り、個人であること、自立独立の立場であることを語る」ということだ。

つまり、定住せずに車で寝泊まりして、仕事から仕事へと転々として回る生活を、「開拓者時代の自立した人間のような生活」だと語りたがっている、ということである。

そして、本日の文法項目: 

Only later did she start hearing about all the rest: the lost jobs, ruinous divorces and foreclosed homes that put them on the road to begin with.

副詞句の "only later" が《強調》のために前に出たことによって、主語と述語動詞が逆転する《倒置》が起きている。

  She started hearing about all the rest only later

  → Only later did she start hearing about all the rest

文意は「後になってからようやく、その他のことすべてを、彼女は聞くようになった」。

その "all the rest" (「そのほかのことすべて」)の具体例が、「すなわち」という意味を含む《コロン (:)》に続けて、そのあとに書かれている。いわく、「そもそも彼らを路上へ出すことになった、失われた仕事、打撃の大きな離婚、差し押さえられた家」(直訳)。

つまり、知り合って最初のうちは「アウトロー」「自由」「ライフスタイル」とかっこいいことを言っていた人が、しばらくすると「実は家を差し押さえられて」といった現実の問題について語り始める、ということだ。

そのことが、この評論文では次のように書かれている。

They printed the legend, then they told her the facts.

"the legend" と "the facts" の対比。これはこのまま暗記しておきたい文例である。私も暗記することにする。

この時点ですでに当ブログ既定の4000字を超えそうなのでこのあとは解説は省略するが、ここでもまた、この文が《トピック文》で、このあとにより具体的な《サポート文》が続くという構成が繰り返されている。

 

 

※4050字

 

 

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*1:日本語でも「安全神話」などという形で使われている「神話」はこの意味である。