Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

【再掲】「~に賛成して、~を支持して」の意味の前置詞for("Women for Trump" という表現)

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このエントリは、2020年8月にアップしたものの再掲である。

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今回の実例は、少々変則的に。

昨日(8月25日)、日本のテレビのワイドショーでの米大統領選特集で、"WOMEN FOR TRUMP" を「トランプのための女性たち」と紹介していたという話をTwitterで聞いた*1。言うまでもなく、この "for" は「~に賛成して、~を支持して」の意味の前置詞である。

そのことをツイートしたら、意外にもretweetやlikeが伸びたので、こちらにも書いておき、さらに実例を足しておこうと思う。

その前に、まず、手元の英和辞典で for の項を引いていただきたい。forなんていう単語は英語を習い始めて最初に教わる単語で、日本語では「~のため(の、に)」と対応していると最初にインプットされるが、それっきり、よほどのことでもない限り、辞書では参照していないという人もけっこういるだろう。だが辞書との付き合い方がそんなふうでは、英語を「使える」ようになる範囲は限定的になる。

例えば私の手元には大修館書店の『ジーニアス英和辞典』の第5版がある*2ので、それを見てみると、831ページから834ページにかけて、3ページ半がforに当てられている。こんな小さな、「初歩的」と認識されているような前置詞で、3ページ半だ。(「前置詞」というか実は接続詞の用法があり、先日、鴻巣友季子さんがそれについてツイートしていらしたのだが、それは本稿最後に、あとで追記する。)

 

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大修館書店『ジーニアス英和辞典』(第5版) pp. 831-834

特に何かに特化されているわけではない、ごく普通の学習英和辞典でこの分量の記載があるものを、最初に習った「~のため(の、に)」だけで済ませてしまってはいけない。確かに「~のため(の、に)」はコア・イメージにはなるのだが、他人が読んでわかるような英文和訳や翻訳以前の、自分の中で英文の意味を把握するためだけの訳読であっても、常にそのように訳していればOKというものではない。この3ページ半を一度通読すれば、forという単語の持つ幅みたいなものが実感できるはずだから、ぜひ今すぐやってみていただきたい。

さて、『ジーニアス』では前置詞のforに全部で27の語義が挙げられている。その26番目に「…に賛成して、味方して、…を擁護[弁護]して、…の側に」とあるのが、問題の "WOMEN FOR TRUMP" のforである。(実用英語というか、日常での遭遇度合いから考えると、26番目じゃなくてもっと上の方に位置付けられていてもよいような気がするのだが、じゃあほかの語義は優先度が低いのかというとそんなこともないので、forの奥深さには震撼とする。)

このforは、大学受験の穴埋め問題や適語選択問題では頻出で、もちろん下線部和訳でもよく出てくるから、大学受験をした(する)人なら必ず知っているだろう。しかし、近年の日本の学校における英語教育で(愚かにも)消し去られてしまった「訳読」をしていないと、forのコア・イメージである「~のため(の、に)」を漠然と当てはめるだけで何となく意味がつかめたような気になるし、実際にそれでも何とかOKということも多いから、穴埋め問題や適語選択問題が正解できても、実は文の意味がよくわかっていない、ということはありうるし、実際によくある。例えば: 

  I'm ( of, at, for ) the plan, but Jim is against it. What about you? 

これは「私は計画に賛成だが、ジムは反対している。君はどうかね」という文意を正確に把握できていなくても、「againstとforは対になる」ということを「受験テクニック」的に教わっていれば正答を得られる。実際、「againstとforは対」という知識だけで、この文を全部読む前にぱぱっと処理してしまえば1秒だが、文を読むと10秒はかかるから、文を読まずに知識だけでぱぱっとやったほうが受験テクニックとしては有効、ということもある。

 

 

 

 

さて、このforについて、他の例も見てみよう。もっとサクサク探せればいいのだが、前置詞単独の実例探しは楽ではない(ウェブ検索をうまくできないので)。「たまたま見たもの」を書き留めておくのが一番良い。

まず昨日Twitterに書いたもの。

 

 

 

さらに、今朝方見たBBC Newsから: 

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Melania Trump to argue for president's re-election

argueはきれいな日本語になるような訳語を考えてると時間のロスが大きいので、受験生には「いちいち訳すな、がっさり意味だけつかめ」と教える単語の筆頭格だと思うが、その「がっさり意味だけ」は「論ずる、主張する」。下線部和訳程度なら多少ぎこちなくてもこの訳語で大丈夫なことも多いが、「論陣を張る」など日本語のバリエーションを持っておくとよい。

BBC記事のこの見出しは、直訳すれば、「メラニア・トランプが大統領(ドナルド・トランプ)の再選を支持して、論陣を張ることになる」。共和党の全国大会でFLOTUS (= First Lady of the United States) のメラニア氏がスピーチを行うことになっている、という記事だ(その後、記事は同じURLで更新され、「スピーチを行った」という内容になっている)。

これを「~の再選のために」としても、一応、意味は通るしおかしくはないから、そのままforの語義として最初に習った「~のため(の、に)」の中だけで考えてしまうこともあるかもしれないが、実はその「~のため(の、に)」の後ろ側に、辞書にして3ページ半もの広大な語義の海が広がっていることを踏まえたうえでそうするのと、本当にそれしか知らなくてそうするのとでは、雲泥の差である。

 

※ここまでで3490字+少しの加筆分

 

【追記】接続詞のforについて。私もこれは苦労した。最初は「文語的」云々の辞書通りの解釈から始めて(実際にはさほど「文語」的な場合でなくても普通に使われている)、ぐるりと回って、結局「というのは」という最初に習った語義(高校のReadingの教科書に出てきていた)に戻ってきた。でも「というのは」という日本語にとらわれていると、英文を書くときにイマイチ使えない。鴻巣先生のこの解説はたいへんにありがたいものである。

この2の例のような英作文は、大学受験生の自由英作文の解答にありがちなものだが、ロジックがおかしい。(そういうのを短時間で大量に見ると、言語野にたいへんな負荷がかかります。)

 

 forっていう接続詞は、その文の書き手(発話者)がテクストの中(行間)に明確に存在してるんですよね。

 

 

参考書:  

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*1:というか「見た」のだが、話は「聞く」ものだ。オオ、日本語ムズカシーネ。

*2:他の版もあるよ。でも最新の第5版を見る。

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