このエントリは、2020年9月にアップしたものの再掲である。
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今回の実例は、前回の続きで、 "Rest in peace" の代わりに使われる "Rest in power" というフレーズについての解説記事から。
今から20年ほど前にカリフォルニア州オークランドのストリート・アートの界隈で用いられていたのが確認できているというこのフレーズは、やがてブラック・ミュージックやヒップホップに関連して用いられるようになり、2010年代に前景化したBlack Lives Matter運動(私はこれを「黒人は虫けらではない」「黒人だからってやたらと殺すな」「人を殺した奴が殺人犯になるのなら、黒人を殺した奴も殺人犯だろう」という魂の叫びだと解釈している。トレイヴォン・マーティン殺害事件以降の経緯を見ていた人ならお分かりいただけるのではないかと思う)の中で、警察(や自警団)の、過剰な力の行使 (the use of excessive force) によって*1いとも簡単に殺されてしまった―—というより、撃たれて倒れて、そのまま放置され、誰も近づくなと警察に言われるなどしたために誰も助けに行けず、そのまま失血死、つまり見殺しにされるというケースさえある。倒れて動けない相手を身柄拘束することには何の問題もないはずで、それでも警察が必要な医療を許可しないことは、国際人道法の法の精神に反している——黒人への追悼のことばとしても用いられるようになり、さらには、自分が自分であることを認めようとしない大人によってすりつぶされるようにして追い込まれて自ら命を絶ったトランスジェンダー(「LGBT」の「T」)の女子のことを人々が語り継ごうとするときにも、故人に捧げることばとして用いられた。そういった使用の広がりは、ちょうどその時期に普及し定着したTwitterという場での使用の増加・広がりによって観測できる——というのが、前回見た部分の大まかな内容である。
今回はその先を読んでみよう。記事はこちら:
キャプチャ内書き出しの "Those six hours" は前のパラグラフを受けての記述で、ミズーリ州ファーガソンで警官に射殺されたマイケル・ブラウンさんの遺体が路上にそのまま置いておかれた時間のこと。
Those six hours and the response to them can not only largely be held responsible for the introduction of rest in power to mainstream white America. They’re also fairly illustrative of where rest in power diverges from rest in peace in terms of message and application.
この部分は、あまり頻繁に見る形ではないが(書き言葉より、スピーチの原稿などにありがちな形である)、《not only A but also B》が2つの文にまたがって出てくる。最初の "not only" を見た段階で、読者は "but also" を予期して文字を目で追うのだが、そこで "but" という等位接続詞の代わりにピリオドの区切りがあり、その先に "also" がある。
Those six hours and the response to them can not only largely be held responsible for the introduction of rest in power to mainstream white America. They’re also fairly illustrative of where rest in power diverges from rest in peace in terms of message and application.
前半の文。下線で示した "be held responsible for ~" は「~の責任を負う、~について責任がある」の意味だが、ここではやや珍しいことに《無生物主語》、つまり《物事》が主語になっている。仮にこの個所が下線部和訳で出題されている場合、これを直訳して「《物事》(これらの6時間と、それに対する反応)が責任を負う」としてしまうと、日本語としておかしい。この英文の意味を日本語で表すには、その意味内容をよく考えて、それを的確に表せる、日本語として違和感のない表現を見つけなければならない。例えば「《物事》が原因で、~した」といった形に落とし込むのがよいだろう。その場合、"responsible for ~" の "~" の部分の名詞を動詞化した表現にすることになる。そこまでやってようやく、「自然な日本語」での英文和訳が完成する。
後半の文では、青字で示した "where" が《先行詞を含む関係副詞》であることと、《in terms of ~》という熟語が出てくることがポイントだ。
と、文法解説的なことを踏まえて(何となく漠然と、ではなく、文法・語法のポイントを踏まえて)、日本語にしてみてほしい。
私が今、英文和訳すると、「この6時間と、それに対する反応ゆえに、主流の白人のアメリカに "rest in power" というフレーズが導入されたと言える。そればかりではない。メッセージと適用という点で、"rest in power" が "rest in peace" と分岐する地点について、その6時間とそれへの反応は、かなり明確に説明しているのである」という感じになる。(翻訳とはちょっと違う。)
次の文:
And they hint at how strange it is that rest in power has become so ubiquitous.
太字にした部分は《形式主語のit》の構文、《it is ~ that ...》で、それが下線で示したhowの節(「いかに~であるか」)に入っている。「そしてそれは、"rest in power" というフレーズがここまでありふれたものになってしまったことがいかに奇妙であるかということを示している」といった意味である。
この記事は次回以降もまだ少し、先を読んでいくことにしよう。
※2860字
参考書: