このエントリは、2021年4月にアップしたものの再掲である。
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今回の実例は、報道記事から。
報道機関には、新聞・雑誌やテレビのように、自分たちの社で取材したものを自分たちの媒体で記事や映像で読者・視聴者に届けるもののほかに、取材したものを新聞・雑誌など他の媒体に提供するものがある。後者は「通信社」と呼ばれ、国際的な通信社としては、ロイター、ブルームバーグ、AP (Associated Press) などがある。日本では共同通信、時事通信が有名だ。
通信社の配信する記事は、掲載媒体でその旨、クレジットがつく。例えば下記は産経新聞ウェブ版に掲載されている記事だが、共同通信のものである(こういう記事について「産経新聞の記事」と言ってしまうと間違いになるし、「産経新聞の報道」でも微妙になる。「産経新聞に掲載された共同通信の記事」と言うべきである)。日本語の報道ではこのように、記事末尾に「(共同)」などと記されることがよくある。
一方、ウェブ上の英語圏では、通信社の記事のクレジットは、記事ページの上の方、見出しとリード文のすぐ下のところに、日付などと一緒に記されていることが多い。下記は、エジプトの「アル・アハラム」という英語媒体に掲載されたAFP通信の記事である。
Twitterでアル・アハラムのアカウントが次のようにフィードしているのだが:
#UEFA weighs #SuperLeague revenge and changing #Euro host cities https://t.co/GWCWeDK8Fv pic.twitter.com/gAEyUGYUXK
— AhramOnlineSports (@AO_Sports) 2021年4月22日
この記事を「アル・アハラムの記事」と言うのは間違いなので、注意されたい(「アル・アハラムに掲載されたAFPの記事」である)。
AFP通信は、略さずに書くと "Agence France-Presse" と言い、上記キャプチャ画像のアル・アハラムは "AFP" と記載しているが、ときどき "Agence France-Presse" とクレジットしている媒体もある。見ての通りフランスの通信社だが(第二次大戦後の一時期は国有企業となっていたが、この50年以上は独立経営である)、国際的にはフランス語の他に英語などで記事を配信していて、私の環境では、国際ニュースではロイターの次によく名前を目にする通信社だ*1。
なお、AFPの場合、記事の文章だけでなく、記事についている写真も含めて配信しているので、写真にも、撮影した写真家の名前と合わせて、 "AFP" というクレジットがついている。
今回のこの記事、例の「スーパーリーグ」について騒動が一通り収まったあとで「まとめ」的に書かれた記述が非常に読みやすくてよいのだが、英文法の実例として今回見るのは、まず、第2パラグラフから。
In the space of 48 emotional hours, between Sunday evening and Tuesday evening, European football's governing body, aided by fans and politicians, quelled a mutiny by 12 English, Spanish and Italian clubs who presumed to form their own quasi-closed tournament which would have threatened UEFA's own Champions League and the federation's governance of the game.
太字で示した部分は《仮定法過去完了》である。仮定法だが、この文にはif節はない。つまりどこかにif節の意味を含んだもの(「もし~なら」)があるわけだ。少し詳しく見てみよう。
仮定法過去完了になっている述語動詞の主義は、下線で示した"which" で、これは《関係代名詞》で先行詞は "their own quasi-closed tournament" だ。
この "their" は誰のことか、と前のほうにさかのぼってみると、 "12 English, Spanish and Italian clubs" だろうと判断がつくはずだ。つまり"a mutiny by 12 English, Spanish and Italian clubs who presumed to form their own quasi-closed tournament" の部分は、「自分たち自身の半ば閉じられたトーナメントを立ち上げようとした、イングランドとスペインとイタリアの12のクラブによる反乱」と解釈される。
その "their own quasi-closed tournament" を先行詞として、"which would have threatened UEFA's own Champions League" という関係詞節が続いているのである。
ここでif節の意味を含んでいるのは "their own quasi-closed tournament" で、「if節の意味」とはすなわち「もし実現していたら」ということである。
というわけで、この部分は「(もし実現していたら)UEFAのチャンピオンズ・リーグを脅かしていたであろう、半ば閉じられたトーナメント」という意味になる。
さて、《仮定法》は、この記事の少し後の方にも出てくる。今度はif節のある形だ。
これはUEFAの会長がスロヴェニアのテレビに語った内容だが:
"The key thing is that the season has already started. If we cancelled the matches, television stations would have compensation demands."
下線で示した文が《仮定法》。これはif節もあるし、素直に読んでいけば問題なく解釈できるだろう。「もしわれわれが試合をキャンセルしたら、テレビ局は賠償(の支払い)を要求してくるだろう」ということだ。
この記事は、あの騒動についてのまとめとしてよく書けていると思う。関心がある方はぜひ全文を読んでみていただきたい。
しかし、最後の方にある、ユーロ(欧州選手権)開催地をめぐる最新の動きは、これは「スーパーリーグ」とは関係なさそうなのだが……。「ユーロ2020」は昨年の予定だったが、新型コロナウイルスのパンデミックで1年延期となり、今年の6月に開幕することになっている。いつもはホスト国は1か国なのだが(2か国共催されたこともあるのだが)、今回は元から、欧州各国で分散開催することになっていた。つまり人の移動がめちゃくちゃ多くなるシステムだ。
パンデミックで1年延期されている間にワクチンが開発され、実際に多くの人々に接種されるようになっているから、1年延期されただけで開催自体は問題なく進められるようだが(でも変異株もあるし、見てて怖い)、そういう中でも、都市によっては開催が危ぶまれているという。
UEFAは今回のユーロでは「スタジアムに観客を入れて試合を行う」ことを絶対としているそうなので(それがたとえ20%でも)、感染状況があまりよくない都市で無観客で開催するという選択肢はないようだ。何のためにそういうふうになっているのかは、この記事からはわからないが。
※3450字