Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

長い文、《譲歩》の接続詞、等位接続詞、挿入、continue to do ~, avoid -ingなど(MITメディアラボが性犯罪者ジェフリー・エプスタインの金を受け取っていた件)

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今回の実例は、The New Yorkerの調査報道記事から。

The New Yorkerは1925年の総合雑誌で、優美なアールデコ調のロゴは創刊からのもの。日本語圏では小説や随筆など文学分野のコンテンツで広く知られているかもしれないが、ファクトチェックが厳しいことで有名で、調査報道での存在感が大きな媒体でもある。近いところでは#MeTooの大きなうねりを引き起こした映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインに対する告発報道を最初にやったのが、新聞のThe New York Timesと、この雑誌 (2017年10月23日号) だった。 両媒体はこの報道でピュリッツァー賞を受賞した。

The New Yorker [US] October 23 2017 (単号)

The New Yorker [US] October 23 2017 (単号)

 

そのワインスタイン告発の取材をし、記事を書いたのが、弁護士の資格を持つジャーナリストのローナン・ファローだが、その彼が2019年9月に同じ媒体で書いた記事が今回の題材である。

この記事がきっかけとなって起きたことは、日本語圏のメディアでも、一般紙およびIT系のメディアで報じられている。例えば下記: 

www.itmedia.co.jp

www.asahi.com

朝日新聞のこの見出しは、文字数の制限があるとはいえ、非常にミスリーディングなので注意が必要。「MIT」(マサチューセッツ工科大学)ではなくMITの中の研究機関「MITメディアラボ」だし、「性的虐待疑惑の富豪」ではなく「性犯罪で有罪判決を受けた者 (convicted sex offender)」である(「疑惑」の段階ではなく、フロリダ州で有罪判決を受けたあとでの資金受領が問題となっている。なお、当人は今年2019年8月にニューヨークの拘置施設で自殺したが、これはフロリダ州で司法取引の末に有罪となった件とは別に、連邦法で人身売買の容疑で逮捕され、裁判を待っている間のことだった)。

 

というわけで、何があったのかは日本語報道記事で確認できるとして、今回はファローの記事そのものを見てみよう*1。記事はこちら: 

www.newyorker.com

この記事もまた、英語の報道記事のお約束通り、最初のパラグラフに報道内容の要点がまとめて述べられており、続く部分(第2パラグラフ以下)で ジャーナリストの調査した内容についての詳細が述べられている。

今回見るのは最初のパラグラフから:

f:id:nofrills:20190910061111j:plain

2019年9月6日、The New Yorker

上で述べたように、第一パラグラフはその記事全体の内容を要約して述べているので、1文1文が長いことが多く、この記事も例外ではない。上記キャプチャ画像にある最初の文: 

Dozens of pages of e-mails and other documents obtained by The New Yorker reveal that, although Epstein was listed as “disqualified” in M.I.T.’s official donor database, the Media Lab continued to accept gifts from him, consulted him about the use of the funds, and, by marking his contributions as anonymous, avoided disclosing their full extent, both publicly and within the university.

こうしてみると、かなりの長さがある。この文を読んでみよう。

 

まずざっと読んだところで、次のような処理ができていれば、この長い文も問題なく読めるはずだ。つまり、"Dozens of pages of e-mails and other documents ... reveal that ...  the Media Lab continued ..., consulted ..., and ... avoided ..." という文の骨格をつかむことが最重要である。

Dozens of pages of e-mails and other documents ( obtained by The New Yorker ) reveal that( although Epstein was listed as “disqualified” in M.I.T.’s official donor database ), the Media Lab continued to accept gifts from him, consulted him about the use of the funds, and( by marking his contributions as anonymous ), avoided disclosing their full extent, both publicly and within the university.

最初にカッコに入れた "obtained by The New Yorker" は、《過去分詞による後置修飾》で、直前の "dozens of pages of e-mails and other documents" を修飾している。つまり「The New Yorkerによって入手された(が入手した)何十ページもの電子メールなどの文書類」の意味。

 

ここまでがこの長い文の主語で、それに対する述語動詞が "reveal", その目的語がそのあとに続くthat節である。

 

このthat節の中は、まず、althoughの譲歩節があるのでこれをカッコにくくってしまおう。《譲歩》は文法用語で、「AだがB」、「AではあるがB」式の構文のことと考えておけばよい。次のような文だ。

  Though I was hungry, I didn't feel like eating. 

  = I didn't feel like eating though I was hungry. 

  (空腹だったが、食べる気はしなかった)

ここでは "although Epstein was listed as “disqualified” in M.I.T.’s official donor database" がその《譲歩》の節(従属節)で、「エプスタインはMITの公式の寄付者データベースでは『不適格』と位置付けられていたが」の意味。

 

この従属節に対する主節が "the Media Lab continued to accept gifts from him, consulted him about the use of the funds, and, by marking his contributions as anonymous, avoided disclosing their full extent, both publicly and within the university" と、これだけ単独で見てもかなり長くなっている。

この文が長いのは、《等位接続詞》のandによる接続があったり、前置詞句の《挿入》があったりするためで、それをスッキリさせると "the Media Lab continued ..., consulted ..., and ... avoided ..." という骨格(「メディアラボは…し続け、…に相談し、…を避けた」)が浮かび上がる。最初にandの接続の構造を見て取ることが重要だが(詳細は後述)、この部分を前から順番に見ていこう。

 

まず "the Media Lab continued to accept gifts from him" の部分は特に疑問を覚えるところはないだろうが、continue to do ~「~し続ける」は注意しておいてもよいかもしれない。continueはto不定詞を目的語に取る場合と動名詞を目的語に取る場合と両方あるが、動名詞を用いるのは特にある行動を持続して行う場合で (He continued speaking.「彼はしゃべり終えなかった」のような場合)、それ以外はto不定詞を用いることが多い(He continued to work at the factory. 「彼はその工場で働き続けた」など)。まあ、細かいことなので、あまり気にしなくてもよいかもしれないが。

 

次の "consulted him about the use of the funds" も特に問題はないだろう。このuseはtheがついていることから判断できるように、名詞である(「使用」「用途」の意味)。

 

そのあとに等位接続詞のandが出てくるが、そこで間髪入れずにコンマで挟まれた《挿入》があるので、andが何を接続しているのかを考えるには、少し先を見なければならない。

and, by marking his contributions as anonymous, avoided disclosing...

このようにして、コンマとコンマで挟まれた部分(挿入されている部分)を外してavoidedという動詞の過去形を見つけたら、先行する部分にある動詞の過去形とつながっているのだなと判断でき、最終的に、 "the Media Lab continued ..., consulted ..., and ... avoided ..." という骨格が見えてくる、というわけだ。

 

《挿入》されている "by marking his contributions as anonymous" は《前置詞+動名詞》の構造。by markingは「マークすることによって」で、mark A as Bは「AをBとしてマークする(印をつける)」だから、この部分は「彼(エプスタイン)の貢献を匿名とマークすることによって」だ。

つまり、エプスタインからの寄付金を、表向き、「匿名の篤志家からの寄付」として処理していたということである。あからさまな隠蔽工作だ。

 

そのあと、"avoided disclosing their full extent, both publicly and within the university" の部分は、まず、《avoid -ing》の形に注意。avoid ~「~を避ける」は、目的語にはto不定詞を取らない(動名詞だけ)の動詞である。

そういった動詞についてMEGAFES、またはMEGAFEPSという覚え方をした人も多いだろう(私もそうだ)。下記の各語の頭文字をとった暗記法である。

  M: mind

  E: enjoy

  G: give up

  A: avoid

  F: finish

  E: escape

  P: put off

  S: stop

avoidはこの中に入っているくらい有名で頻出の語だ。覚えていなかった人は、今ここで覚えてしまおう。

今回の実例の "avoid disclosing" は「開示することを避ける」。"avoided disclosing their full extent, both publicly and within the university" の文意は、「それら(エプスタインの寄付)の全容を、公的にも大学内部にも、開示することを避けた」。

 

つまり、MITメディアラボのやっていたことは、2008年にフロリダ州で性犯罪で有罪となり、MITという大学そのものでは「この人物からの寄付金は受け取ってはならない」としていた人物であるジェフリー・エプスタインからの寄付金を、それがエプスタインからの寄付だということを隠して、受け取っていたということである。それが文書類で証拠づけられたということが、ローナン・ファローの報道記事の内容だ。

弁解の余地などあろうはずがなく、MITメディアラボの責任者のJoi Itoこと伊藤穣一所長は、このThe New Yorkerの記事が出て24時間もしないうちに辞任した。

この件について関心がある方には、報道記事よりむしろ、下記のnoteの記事が興味深いかもしれない(ショーンKY氏による)。

note.mu

 

参考書。今日の内容のようなことは、故伊藤和夫先生(駿台予備校)の参考書がわかりやすいのかもしれない。私自身は受験生のときは伊藤和夫の参考書は合わなくて使っていないのだが、今見るとやはりよくできている。著者が90年代に亡くなっているので文例が古いのがちょっとつらいが(国公立2次で出るような時事的な長文にそのまま対応はできない)、中を見てみる価値はあると思う。Kindle版なら「なか見検索」があるので、リンク先で見てみていただきたい。  

英文解釈教室〈新装版〉

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ビジュアル英文解釈 (Part1) (駿台レクチャーシリーズ)

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ほか、基本の参考書:  

徹底例解ロイヤル英文法 改訂新版

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英文法解説

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*1:なお、The New Yorkerは、読者登録していない場合は1か月に読める記事の上限が決まっているので、すでにそれを超えてしまっている人がもしいらしたらごめんなさい。

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