今回の実例は、報道記事から。
「実例」というより「文例」というべきか。
「9-11から20年」の余波の中にまだいて、9月11日になる前に読んでいた記事でスクリーンショットを撮ってあるものをどうしようかなと思っているのだが(20年目で、改めて人々の心身があの日に、そしてあの日の後に米ブッシュ政権のとった政策・方針ゆえに受けた傷のことを描写する言葉を目にして、この話題そのものについて「実例」扱いすることに迷いが生じている)、The Rolling Stonesの "Aftermath" でも聞きながら書いてみようと思う。
"Things are different today," I hear ev'ry mother say
今回の記事は、1990年代からアルカイダについて調査報道を続けてきたジェイソン・バークが、「20年目の9月11日」を前にガーディアンに出した次の記事。
バークは次の著作が邦訳されている。
あとこれも重要。ちょっと読むの大変だけど(大著)。
記事の書き出しの部分:
今回、「文法」ではなく「英語らしい文」についてなのだが、書き出しの文:
In the summer of 1988, a dozen or so men gathered in the sweltering Pakistani frontier town of Peshawar.
太字にした部分は、「パキスタンの国境にある都市、ペシャワール*1は非常に暑い」という情報を持っているのだが、日本語の文章ではその情報を入れたい場合はこういうふうには書かない。
逆に言えば、日本語母語話者にはこういう英文の発想がなかなかない。私も書けない。書けないから「ああ、これこれ、これなんだよな」と言って実例としてメモしている。
日本語だったら、これをどう書くだろう。つまり、日本語として読ませる文として「翻訳」文を仕上げるには、どうしたらいいだろう。
「1988年の夏、非常に気温の高いパキスタン国境の都市、ペシャワールに、12人かそこらの男たちが集まった」と直訳すれば、そりゃ文の内容はわかるが、日本語としてあまりに不格好でスムーズに読めない(「翻訳調」になっている)。
しばらく(数日)考えたあとで思いついたのが、この手の「ルポ」の文章にありがちな体言止めを使う方法だ。
「パキスタン国境の都市、ペシャワール。ここの夏の酷暑っぷりは特筆に値する。その都市に、12人ばかりの男たちが集っていた。1988年の夏のことだ」
……みたいな感じ。これなら、原文の言っていることを余さず伝え、なおかつ日本語としてすっと読めるだろう。時間をかけた挙句に「~は特筆に値する」を思いついた時点で軸が固まった感じだ。
これが「正しい」翻訳なのかどうかは私にはわからない。原文は少なくともこういう語順ではない。これが仕事なら、もう少し寝かせて、この日本語を出すときの自分の脳内の格闘を過去のものとして距離をとってみて、そして違和感がないかどうかを検討することになるだろう。
英語の形容詞の使い方って、難しいよね。このスタイルが使えるようになると、英文が見違えるようにスッキリするんだけど。
今回、短いし中身もないけどこの辺で。しかしAftermathはいいアルバムだ。UK盤しか聞いたことないけど。
※1700字
*1:「ペシャーワル」「ペシャワル」の表記ゆれがありうるが、ここでは一般的な表記を使う。 via https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9A%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%83%AF%E3%83%AB