Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

同格, continue to do ~, 不定詞の受動態, 分詞構文,【ボキャビル】pseudo-, on the other hand (クロアチアにおける過去の美化という問題)【再掲】

↑↑↑ここ↑↑↑に表示されているハッシュタグ状の項目(カテゴリー名)をクリック/タップすると、その文法項目についての過去記事が一覧できます。

【おことわり】当ブログはAmazon.co.jpのアソシエイト・プログラムに参加しています。筆者が参照している参考書・辞書を例示する際、また記事の関連書籍などをご紹介する際、Amazon.co.jpのリンクを利用しています。

このエントリは、2019年11月にアップしたものの再掲である。かなり重たい内容だが、英語は淡々としている。丁寧に読んでいこう。

-----------------

今回は前回の続きで、クロアチアでの「クリスタルナハト(水晶の夜)」記念行事でのスピーチから。

前回簡単に述べたが、クロアチア第二次世界大戦時は「クロアチア独立国」(Nezavisna Država Hrvatska: NDH) として枢軸側(ドイツやイタリアの側)にいた(ただし現在ではNDHは正当な政権とは見なされていない)。NDHではナチス・ドイツと同様に人種法が制定され、前回の前置き部分で言及したヤセノヴァッツ強制収容所で行われたようなユダヤ人やロマなどに対する迫害は「合法的」なものだった。

このNDHを作ったのが、クロアチア民族主義の集団「ウスタシャ」で、第二次大戦前は当時のユーゴスラヴィア王国内で暴力的な独立運動を行っていた。NDHはその独立運動が結実したものというのが彼らの見方で、現代では組織としてはウスタシャは存在しないが、クロアチアの極端な民族主義は消えたわけではなく*1、外部の者たちが批判的にクロアチアのウルトラ・ナショナリズムを「ウスタシャ」と呼ぶことがある。

今回見る部分には、これらの単語が出てくるので、最初に軽く解説しておいた。では、記事を見ていこう。

 

f:id:nofrills:20191112033403j:plain

2019年11月10日、Total Croatia News

キャプチャ画像内の2番目のパラグラフより: 

"The antifascist movement and the Ustasha movement, the victims and butchers, continue to be equated, ...

下線を施した部分は、先行部分と《同格》で、「反ファシスト運動とウスタシャ運動、つまり犠牲者たちと殺戮者たち」と、「つまり」を補って読むとよいだろう。

"continue to be equated" は、《continue to do ~》のdo ~の部分に受動態(《be + 過去分詞》)が来ている形(不定詞の受動態)で、「同等視され続けている」の意味だ。

 

続いて、等位接続詞andで結ばれた後の部分: 

and pseudohistorians continue to write a new history of Croatia, rehabilitating the NDH (Nazi-allied Independent State of Croatia).  

カッコ内の部分は記事を書いた人が補った注釈なので、英語の構造を取るときはスルーして構わない。ここでもまた、andの前に続いて《continue to do ~》が使われているが、これは修辞的な効果を狙った繰り返し(リフレイン)であろう(もちろん、元の発言は英語ではなくクロアチア語で、この記事はその英訳なのだが)。コンマの後の "rehabilitating ..." は《分詞構文》で、「まがいものの歴史家たちはクロアチアの新しい歴史を書き続け、NDHの地位を回復させている」という意味になる。

 

この文の主語の "pseudohistorians" は、pseudo + historians という合成語。接頭辞(単語の前につける言葉)の pseudo- は「ニセの、まがいものの」、また「疑似の」や科学用語の「擬~」の意味。ちなみに最初のpは黙字(発音しない字)で、この部分は、あえてカタカナで書けば「スード」または「シュード」という音になる。詳細は辞書を参照。オンラインでは下記で発音も確認できる。

ejje.weblio.jp

pseudohistorianというのは、pseudoscience(「ニセ科学疑似科学」)などと同じで「~を名乗っているが中身はそうでないもの」を批判的に述べる表現で、「歴史家と称して歴史学とは違うことをやっている者たち」みたいな意味。端的にいえば「トンデモ」ということだが、具体的にはホロコースト否定論者のような人々をいう。

ホロコースト否定論者は日本語圏にもうじゃうじゃいて好き勝手に発言しているが、あの卑劣な連中の「事実」の軽視については、下記の映画がわかりやすいので、見たことがない方は一度ご覧いただきたい。ちなみにこの映画の邦題はあまりよくない(原題はThe Denial「否認」)。映画のベースとなった本も日本語で読めるので合わせてどうぞ。 

否定と肯定 (字幕版)

否定と肯定 (字幕版)

 
否定と肯定 ホロコーストの真実をめぐる闘い (ハーパーBOOKS)

否定と肯定 ホロコーストの真実をめぐる闘い (ハーパーBOOKS)

 

 

最後のセクション: 

On the other hand, they are inventing crimes and the President is calling for a recount of the victims of the Jasenovac death camp. Why?" he said.

"On the other hand" は教科書にも出てくるような熟語で「他方」の意味。文意は「他方、彼ら(まがいものの歴史家たち)は犯罪をでっち上げており、大統領はヤセノヴァッツの死の収容所での犠牲者数の数え直しを要求している。なぜか?」

 

ヤセノヴァッツ強制収容所で殺された人々の数は正確にはわかっていない。第二次大戦後はクロアチアユーゴスラヴィアの一部だったが、ユーゴはクロアチアが大戦中に殺戮対象としていたセルビアベオグラードを首都とする「七つの国境、六つの共和国、五つの民族、四つの言語、三つの宗教、二つの文字、一つの国家」を持つ国で、いわば微妙なバランスの上に成り立っていた。20世紀のクロアチア黒歴史は今もなおまともに検証されていない。

現在のクロアチア共和国は、「ベルリンの壁」の崩壊後の国際情勢の変化(「東側」の解体)の中、1991年にユーゴスラヴィア社会主義連邦共和国から独立した(スロヴェニアクロアチアの独立から、ユーゴの解体は始まった)。この際、クロアチア国内に暮らしてきたセルビア人たちが独立に反対して、激しい武力紛争が起きた。その経緯はウィキペディアにもかなり詳しく記載されているので、関心がある方はお読みいただきたい。

クロアチア独立戦争については、下記の本がとてもよい。探せば公共図書館にもあると思う。 

バルカン・エクスプレス―女心とユーゴ戦争

バルカン・エクスプレス―女心とユーゴ戦争

 

 

こうして90年代に独立国となったクロアチアは、赤と白(本来は銀)の市松模様の盾という国章を使うようになった。サッカーの代表のユニフォームにも用いられているのでサッカーが好きな人にはおなじみだろう。中世以来、クロアチアのシンボルとして使われてきた模様で、チェス盤を表している。


【ロシアW杯注目選手】ルカ・モドリッチ(クロアチア) #2

 

1998年にクロアチア代表が初めて(ユーゴ代表としてではなく)サッカーのワールドカップに出場したときには、このユニフォームが、ヨーロッパで苦い記憶を引き起こすものとして批判されるようなことが起きた。かつてすさまじい暴力を展開していたウスタシャが同じ市松模様をシンボルとして使っていたため、ユダヤ人やロマ、セルビア人などに対する苛烈な迫害を思い出さずにはいられないという声が上がったのである。

今ではそのような批判もめっきり聞かれなくなっているが、クロアチアの《歴史》に対する態度には批判も多い(クロアチアだけでなくセルビアについても他の国についてもそういう批判はあるのだが)。例えば今年6月には下記のような記事が出ている。

balkaninsight.com

 

今年の「ベルリンの壁崩壊30周年」の式典でのドイツの政治リーダーたちの発言が決して明るいトーンでなかったのは、ドイツ国内でも、ハンガリーポーランドでも、移民排斥、反ユダヤ主義ナチス賛美といったものが見られ、政治的にもそういう主張をする人々が主流に入ってくるようになってきているからだが、2013年にEUに加盟したクロアチアもまた、暗い歴史を持っていて、その暗い歴史を正当化し、美化しようとしている人々がいる。

英語圏の報道機関でニュースになることはあまりない国だが、現地語ができなくても現地の英語メディアを時々でもチェックすれば情報は入ってくるので、そうすることをお勧めしたい。(そういうことをするためにも、英語は読めたほうがよい。)

 

参考書:  

徹底例解ロイヤル英文法 改訂新版

徹底例解ロイヤル英文法 改訂新版

 
英文法解説

英文法解説

 

 

 

*1:チトーの時代には消えたように見えてはいたのかもしれない。

当ブログはAmazon.co.jpのアソシエイト・プログラムに参加しています。筆者が参照している参考書・辞書を例示する際、また記事の関連書籍などをご紹介する際、Amazon.co.jpのリンクを利用しています。