Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

日本語の「仕方がない」を英語でどう表現するか, およびアメリカ英語のAAVEについて

↑↑↑ここ↑↑↑に表示されているハッシュタグ状の項目(カテゴリー名)をクリック/タップすると、その文法項目についての過去記事が一覧できます。

今回の実例は、Twitterから。

現実世界に複数言語話者がいるのだから、Twitterにも複数言語話者がいて、その中には日本語を外国語として習得した人々もいる。そして、英語を母語とする日本語話者の間でときどき、日本で日本語のフレーズの「対訳」としてあらかじめ与えられている英語のフレーズについて、指摘がなされることがある。

今回見るのはそういう例だ――とはいえ、ツイート主がこの直後に「これは冗談だからね」と言っているので、あまり真に受けすぎてもいけないのだが。

まずは文面を虚心坦懐に読んでみよう。

"be played out" はbe outdatedとだいたい同じ意味。この場合のplay out ~は、「outの状態になるまで~をplayする」という意味で、「~をやりつくす、使い果たす」みたいな意味になるわけだが、これが受動態になったものが "be played out" で、「限度まで使い果たされる」、すなわち「もう使えない」から「古びてしまっている」ということだ。

これはよく「ネイティヴらしい」と形容される表現のひとつで、うちら外国語としての英語を使う者にとっては素直にoutdatedという専用の単語を使ってもらったほうがわかりやすい。なお、世間でウケる「英語は中学3年分で大丈夫」みたいな方針の英語学習本は、このplay out ~/be played outみたいなものも「中学レベル」と扱っているので、要注意である。

というわけで、上記@BadForUsさんのツイートの第一文は、「日本語の『仕方がない』を、"it can't be helped" と英語にするのは、古臭い。今はそんな英語を使う人はいない」という意味。

この「仕方がない」= "it can't be helped" の古式ゆかしい対訳ペアは、ずっと昔からあるもので、私もかつてそう教わったことがあるのだが(例えば研究社の新和英中辞典が引けるWeblio辞書のサイトで検索すると、この対訳ペアがあることが確認できる。そして和英辞典に載っていれば多くの「日本語の英訳」の文章に出てくることになり、それを通じて英語圏の日本語学習者が目にすることになる*1)、学校の試験のようなものは別として、会話の際に自分で使ったことはないと思う。その時々の文脈に応じて "No choice." とか "There's nothing we[you] can do about it." とか "That's life." いった表現が自然に出てくるからだ。"It can't be helped." なんて19世紀の上流階級のような言葉遣いは、自然にはできない。

@BadForUsさんのツイートは、ここまでは「冗談」ではない。「冗談」なのは第二文だ。

@BadForUsさんのツイートの第二文: 

Start teaching people the phrase “it be like that sometimes.”

「"it be like that sometimes" というフレーズを人々に教え始めるべきだ」という意味の文。これが「冗談」を意図した部分だが、このフレーズがおもしろいからちょっと見ておこう。

このフレーズは、直訳すれば「時には、そういうこともある」という意味。itもbeもlikeもthatも、英語を習い始めた週に習うような初歩的な単語だが、これがこういうふうに組み合わさったときに何を意味するか、正確に解釈することは、英語を習い始めたばかりの人にはたぶん無理だ(フレーズを丸暗記するのでない限りは)。

いや、英語を習って相当経つ人も、かなり習熟している人でも、文脈なしでいきなりこのフレーズだけ見せられたら意味が取れないかもしれない。「文法的におかしいんじゃない?」と思うかもしれない。だって、itのあとに助動詞もないでいきなりbeがあるのだから。

通例isやareが使われるところでなぜかbeという原形が使われるのは、"habitual be" と呼ばれるもの。アフリカン・アメリカンの英語、それもAfrican American Vernacular English (AAVE) と呼ばれる非標準的な英語の表現で、「習慣的に~である」ということを表すときのbe動詞を原形のまま使う*2

en.wikipedia.org

この habitual beを使った "it be like that sometimes" という表現は、アフリカン・アメリカン以外の人々にもかなり使われているようだが、まあ、口語である。イリノイ州シカゴでコミュニティ活動をしているアートセンターが、"It Be Like That Sometimes" と題するプログラムを運営していて、そこにこのような説明がある。

The phrase “it be like that sometimes” has existed as a slang expression about the various trials of the human experience, and [is] embraced by teens as they deal with the unknown. 

www.hydeparkart.org

直訳すれば、「“it be like that sometimes” というフレーズは、人間の経験するさまざまな試練についていう口語表現として存在してきており、10代の人々が未知のことに対処するときに好んで使われている」。

そういう表現なので、あまり堅苦しい場で使うと浮いてしまうだろうが、友達同士の会話とか家族での会話のような場合なら十分に使えるだろう。

なお、これを《強調の助動詞 do》で強調した "It really do be like that sometimes." という文については質問Q&AサイトのQuaraでのやり取りがわかりやすい。

で、このツイートに反響がいろいろあり、たくさんリツイートされるなどしていたので、@BadForUsさんは次のように、「冗談で言ってるだけだからね」と追記した。「アフリカン・アメリカンの口語表現を使いなさいなんて教えないようにwww」と。

 "I'm (just) being ~" は「(普段は必ずしもそうではないのだが、)今はたまたま~」という意味を表す現在進行形の用法。江川泰一郎『英文法解説』ではp. 229で "The children are being very quiet" といった例文で説明している(すごくわかりやすい)。 

英文法解説

英文法解説

 

というわけで、@BadForUsさんの案は本人的には冗談だったわけだが、指摘そのものは至極まっとうなもので、「仕方がない」は "it can't be helped" というあまり聞かないようなフレーズじゃなくてもっとよい表現があるわけで、リプライにはそれらの表現がいろいろと寄せられている。いくつか貼りこんで、今日のエントリを終わりにしようと思う。

 

 

 

 

 

 

 

最後のツイートはおもしろい。そういえば「貴様」は、日本語母語話者にとっても、フィクションの中でしか見ない・聞かない言葉だ。おそらく、第二次世界大戦後に日常から消えていったのではないかと思うが、それについてはまた別途確認が必要なことだろう。

 

※末尾のツイート貼りこみを除いたら4000字以内。ツイート貼りこみがあるので4800字。

 

参考書: 

 

*1:see https://twitter.com/gitadine/status/1362639121785610243

 and https://twitter.com/BadForUs/status/1362569108064251906 for example.

*2:これについての具体例として、ウィキペディアにソース付きで挙げられているのは、いつもクッキーを食べているセサミ・ストリートのクッキー・モンスターについて "Cookie Monster be eating cookies" と表す人も、エルモがたまたまクッキーを食べているときは "Elmo is eating cookies" と言う、という例。