Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

「↑→↓↓↓」から「↓↓↓」だけを切り抜いて、それを斜めに配置したAntiFa系のシンボルマークのことだと大騒ぎした主流メディアと、米極右界のネットミーム

Twitter/Xの画面を見たら、Helldiversという単語がTrendsに入っていた。どんなに低気圧でだるくても眠くても、知らない単語があればチェックしてみるのが習性である。字面から漫画か何かか、あるいはガザでアメリカがやってる食糧支援に偽装したデス・トラップ、GHFに参加している面々のことか(GHFには反イスラムの暴力的バイカー集団が参加していることが伝えられている)、と当たりをつけてみてみたら、ゲームのようだ。

時は西暦2084年。宇宙に進出した人類は、さまざまなエイリアンの襲撃を受け、窮地に立たされていた。プレイヤーは、そんな人類の脅威を取り除くために戦う精鋭・特殊部隊“HELLDIVERS(ヘルダイバー)”の一員となり、エイリアンたちと激闘を繰り広げていくことになる。

本作は、一筋縄ではいかない挑戦的なバトルを楽しめる“超骨太”のシューティング。限られた弾薬数、救援が到着するまでの残り時間、無限かと感じられるほどに次々と迫り来るエイリアンたち——。緊張感あふれる戦場では、正確でいて時に大胆なアクションや戦術、そして仲間との連携が重要となる。……

HELLDIVERS(ヘルダイバー) | ゲームタイトル | PlayStation

なぜこの単語がTrendsに入っているかを見てみれば、例えば「新作がアナウンスされた」とか「映画化が決定した」といったゲーム系のニュースがあったからではない。「ターニング・ポイント」という極右デマのムーヴメントを組織化したチャーリーなんとか(関心がなさすぎて名前を憶えていない)を撃ち殺した人物が使ってた暗号みたいなのが、このゲームで使われるコードだったということが判明して、メインストリーム・メディアが流していた「アンティファの犯行」とかいったデマ・誤情報が覆されたのだそうだ。

 

何でも、銃弾のケーシングに彫り込まれていた下向きの矢印3本が並んでいるのが「アンティファのシンボル」として取りざたされていたが*1、それは実はこのHelldiversというゲームで使われるコードで、「下向き矢印3本」だけでなく、「上向き矢印1本、右向き矢印1本、下向き矢印3本」というのがセットになっていて、 そっから「下向き矢印3本」だけを切り出すのは、それなんて国家安康、って感じだな。ちなみにこのコードを使うと Eagle 500kg Bombってのが出てくるんだって。ミームにもなってるんだって。私はゲームをやらないので文字でしか知らないんだけど、「コナミコマンド」みたいなものかな。

Know Your Memeまで出てきてるし…… (^^;)

 

メインストリーム・メディアは、これを「アンティファだー」とか「トランスジェンダーだー」と大騒ぎしていたらしい。こっぱずかしい。ちなみに、Helldiversというゲームはantifaとは逆の側にいる人たち(つまりfa, もっとちゃんと書けばfash)の間で人気なのだそうだ。

 

銃撃容疑者はほかにもいろいろミーム的なものをちりばめているそうで、それらをまとめてくれているスレッドが下記。

"Groyper" ってのがもうわかんないよね。でも私にはどうでもいいから「何かわかんないけどそういう極右フリンジ」とだけ認識して先に行く。いずれにせよ、「アンティファ」でも「トランス」でもない。「サヨク」ではない。

 "transvestigating" ってのがわかんないよね。でもどうでもいい。字面からだいたいわかるし。

アメリカでは、極右が歴史的にアンティファが使っていたものを使うということも平気で起きるんだな。ばかばかしい。まともに取り合ってられるか。

これは過激派あるある。いわゆる「内ゲバ」。Fuentesってのはニック・フエンテスでしょ、この文脈で名前くらいは知ってるような気がするけどそれだけ。調べるのは私にとっては時間の無駄。

下品で幼稚。

 

アダムさんのスレッドを単に貼ってるだけなんだけど飽きてきたので、あとはThreadreaderに投げとこう。

 

ここに列挙されている、銃撃犯の銃弾に彫り込まれていたという文言のように、読んだときに意味が取れないものは、現代の文では、ほぼ例外なく、特定の界隈だけで通用するようなネットスラングミームである。そのまま英語から日本語にしたって意味が取れないばかりか意味がない。警察の人やBBCのような大手メディアの記者だって、その界隈に通じていなければわからないだろう。

 

しかし、やっぱり笑いものであることに変わりはない。

"chefs kiss" というのは、ちゃんと書くとchef's kissなのだが(アポストロフィー)、作った料理を味見したシェフが「最高!」というときに手の親指と人差し指でやるしぐさのことで、意味は「最高」。「メインストリームメディア(MSM)がゲームのヘルダイバーへの言及を認識せず、アンティファが悪いと言っているのは、本当にもう最高だ」といった文意。

WSJがどうたらというのは、さっきはてブで見たんだけど、これですね。

【ワシントン共同】米国の保守系政治活動家チャーリー・カーク氏(31)が射殺された事件で、ウォールストリート・ジャーナル紙は11日、捜査当局が犯行に使われたとみられるライフルを発見し、内部からトランスジェンダーの権利擁護や反ファシズムを訴える刻印のある弾が見つかったと報じた。ただその後、記事を修正し、一部の当局者からこの分析に懐疑的な見方も出たと伝えた。

弾の刻印、分析に懐疑論 活動家射殺で米紙修正|47NEWS(よんななニュース)

 

ここでアレックス・ガーランドの映画『シヴィル・ウォー』を思わずにはいられない。私が見た日本語字幕は「アンティファによる虐殺」と、まったく反対の方向に転がっていくような誤訳をしていたが(翻訳をした人がそういう思想なんだろうなという質の誤訳)、あの映画の中の大統領は何でもかんでも「アンティファがー」と言うタイプの人間で、アンティファを虐殺したあとの世界があの映画の舞台だ。あの映画が始まる前に起きたことは、たぶん、『アクト・オブ・キリング』みたいなことだ。アメリカがどうなるのかはわからないが、『シヴィル・ウォー』の世界にいたる道は、もう整備されているんだろうと思う。ガザ・ジェノサイドの扱いを見ていても。

 

 

 

*1:「アンティファのシンボル」とは、ひょっとして左斜め下を向いてるやつのことかな……銃撃犯が使ってる真下向いたのとは違うじゃん。アメリカって紋章学的なことやってる人っていないの?

3単現のs(はてブで話題の漫画『順子 NEVER DIE!!!』をめぐって)

 

くだらないからツイート貼るだけでいいやと思ったんだけど本文ないのもおさまりが悪いので形式を整えるために本文を書く。

 

"順子 never die!" は「順子よ、絶対に死ぬな!」としか読めない。

「順子は決して死なない」と言いたいのなら、 "順子 never dies!" としなければならない。

neverのない形でも同じで、「順子は死んだ」なら "順子 dies!" だ(あの漫画の中での使い方ならば、新聞の見出し調の文体でよいので、過去形にせず現在形でよい)。

 

んで、こういうのを「細かいこと」だとか「どうでもいいこと」だとか言ってると、「英語ができない奴」扱いされるような英文しか書けなくなるし、使い物になる英語力は身につかない。

 

本稿、縦読みはありません。

人称代名詞を使わないで書かれた報道記事と、男性名から女性でも使われる名前に改名した銃撃犯

やることが山積みの状態のまま、腱鞘炎がやばい感じの上に、ずいぶん前に何だかわけのわからない言いがかりをつけられていたことに今頃気づいたので自衛のために反論したらものすごい絡み方をされて(Twitterのリプライの埋め立て……15年ぶり。前にそういう目にあわされたときは、はてなブログじゃなくてはてなダイアリーで何が起きたかを書いたんだけど、リプの埋め立ては攻撃手法のひとつなんですよね)、前の記事のはてブをまだチェックすることもできていなくてすみません。ブクマしてくださった方が忘れたころ(3日後くらい)にチェックすることになると思います。ご海容のほど。

 

で、例によってパレスチナと関係のない話題での英文を読まないと頭がおかしくなるので、関係のないニュースの記事を読んだんですよ。日本で伝えられているかどうかは未チェックですが、米ミネアポリスでの、痛ましい銃撃事件。標的は学校を併設したカトリックの教会。標的は教会の中の子供たち。銃撃犯の窓からの乱射で子供2人が殺され、14人が負傷。

最初にこの銃撃事件に気づいたのは、たまたま見ていたニューズアグリゲーターの画面で "anti-Catholic" という文字列を見たから。こんな文字列がニュースに出てくるのは北アイルランドだろうと思ったらミネアポリスで、頭の中が「?」で満たされた。いわく、警察は銃撃犯は「反カトリック」で、事件はヘイトクライムと考えられるという、といったリード文だったが、それはすぐに訂正されて、「動機は不明」もしくは「動機は複合的」になっていた。

いずれにせよ、何があったのかは確認したかったので、その画面で目についた見出しをクリックしてみた。乱射して子供たちを殺傷してすぐに自分に銃を向けた容疑者は、ロビン某という名前で、代名詞は "he" が使われていた。容疑者の顔写真はまだ公表されていない段階だった。感想は「まだ何もわかってない段階なんだな」というだけで、数時間したらまたニュースチェックしよ、と思って画面を閉じた。

その次に見たのは、スマホに入れてるアイルランドのThe Irish Timesのアプリだ。たまたまアイルランドの政治ニュースに用があったのだが、トップニュースがこのミネアポリスの銃撃事件だったので記事を読んでみた。そしたら、容疑者のロビン某の代名詞が "she" だった。よく見たらアイリッシュ・タイムズの記事ではなく、提携メディアであるNYTの記事だったが、まあそれは些末なことだろう。

web.archive.org

ロビン (Robin) は男性でも女性でもありうる名前である。『ブレードランナー 2049』で主人公の上司を演じていたロビン・ライトは女性だし、『いまを生きる』のロビン・ウィリアムズは男性だ。

名前が「ロビン」で、代名詞が "he" と "she" の両方あるということは、報道機関の間違いでなければ、トランスジェンダーで、例えば「自分では男性と称し、そのように生活しているが、法的には女性」といったことが考えられるな、と思っていたが、何しろ情報がない段階なので考えたってしょうがない。

そしてしばらくしてから、この事件はLive blogで報じていたが、容疑者についてはいつも以上に慎重だったBBCのわりと確定的な記事が出ていた。そして、この記事が、徹底的に代名詞を避けていた。少し見てみよう。下線で示してあるのが銃撃犯に言及している語句である。

Investigators say that the attacker who opened fire on pupils as they were praying at a church in Minneapolis was "obsessed with the idea of killing children".

Robin Westman, who killed two children and injured 18 others, did not seem to have any specific motive, according to Minneapolis Police Chief Brian O'Hara.

The attacker "appeared to hate all of us", the chief said on Thursday, adding: "More than anything, the shooter wanted to kill children".

The murdered children have been identified by family as Fletcher Merkel, eight, and Harper Moyski, 10.

...

Officials have released few details so far about the suspect's background, but say Westman previously attended the church's school and had a mother who had worked there. 

The 23-year-old suspect is believed to have approached the side of the Annunciation Church, which also houses a school, and fired dozens of shots through the windows using three firearms. Police also found a smoke bomb at the scene.

Witnesses have described seeing children bleeding as they fled from the church, begging for help from strangers.

In a news conference on Thursday, acting US Attorney General for Minnesota Joseph Thompson said "the shooter expressed hate towards many groups, including the Jewish community and towards President Trump".

The attacker, who died at the scene of a self-inflicted gunshot wound, left a note, officials said, but they added that a definitive motive may never be known.

"I won't dignify the attacker's words by repeating them, they are horrific and vile," said Mr Thompson. 

...

日本語で書かれた文面を機械的に英語にしたのではないかと思うくらい、徹底的に代名詞を排除して書かれている。むしろ、英語ってこういうふうにも書けるのかとびっくりしたくらいであるが、英語で読んでるとさすがに違和感がある。

そしてこの次のパラグラフで説明がなされる。

Westman's name was legally changed from Robert to Robin in 2020, with the judge writing: "Minor child identifies as a female". However, some federal officials and police have referred to Westman as a man when discussing the attack.

つまり「容疑者ウエストマンの名前は、2020年に法的に変更され、ロバートからロビンになった。この際、判事は『自己を女性と認識している未成年者』と書き記している。しかしながら、一部の連邦政府関係者や警察官は、今回の攻撃について語る際に、ウエストマンを男性として扱っている」。

2025年に23歳なので2020年は未成年だ。そのときに名前を男性名の「ロバート」から、女性名(としても一般に使われる)「ロビン」に変更した。どちらも愛称は「ロブ」のままでいけるから、かなり現実的な選択だったのかもしれない。

そして2025年に彼女が起こした事件について語るときに、一部の警官やFBIが「彼」扱いをしているというのがどういうことなのか。私はアメリカのことはろくに見てないのではっきりとはわからないし調べるのもだるいのではっきりわからないまま書くが、2025年1月にドナルド・トランプ政権が発足して真っ先にやったトランスジェンダーやクイアの権利の剥奪に関連しているのかもしれない。

BBC記事のこのあとの部分: 

Chief O'Hara told reporters that news outlets should stop using the killer's name, because "the purpose of the shooter's actions was to obtain notoriety".

He added that she, "like so many other mass shooters that we have seen in this country too often and around the world, had some deranged fascination with previous mass shootings".

Chief O'Haraは上の方でBrian O’Haraとフルネームで言及されており、男性である。したがって、太字にした "He" は警察のオハラさんのことだ。

そしてそのオハラさんの発言内容を報じる文が、少し不自然にも見える形で、引用符で全文をそのまま転記するようなスタイルではなく、地の文としてthat節を使う形で主語だけ引用符の外に出して、書かれている。それが、容疑者についてようやく出てきた人称代名詞の "she" だ。ということは、オハラさんは容疑者について "she" とは言わなかったということだろう。単に "the suspect" と言ったのかもしれないし、"Westman" と名前で言及したのかもしれない。あるいは "he" を使ったのかもしれない。わからない。

 

というわけで、「北アイルランドでもないのに、『反カトリック』の攻撃だなんて、嫌な話だ」というのが入口だった陰惨な事件は、もっと別な方向で陰惨な展開を見せた。実際に、この1つの事件を以て「ほらみたことか、トランスジェンダーの連中は狂暴なんだよ」とわめきたてている自称フェミニストがいるらしい。気が重い。

そして何よりも、身勝手な人物の一方的暴力で命を奪われた2人の子供たちがかわいそうでならない。けがをした子供たちや、体は大丈夫でも精神的に傷を負った子供たちには、時間はかかるだろうけれど、着実な回復の道を歩んでほしいと思う。

この人物の背景には興味はないし、この人物が使った武器(例によってアソルトライフルを含む銃を3丁も使ったらしい。それも合法的に入手したものを)に関しては、もう、外国人は関心を持つだけ無駄だと私個人は思っているので、記事も流し読みするだけだ。

ただこの容疑者、個人的に非常に迷惑だなと思うこともしてくれている。

FBI Director Kash Patel has described the attack as "an act of domestic terrorism motivated by a hate-filled ideology".

In a post on X, Patel said that the attacker "left multiple anti-Catholic, anti-religious references" written on guns and in notes uncovered by investigators.

"Subject expressed hatred and violence toward Jewish people, writing Israel must fall,' 'Free Palestine,' and using explicit language related to the Holocaust," he wrote.

The killer also "wrote an explicit call for violence against President Trump on a firearm magazine".

パレスチナではガザが武力で制圧どころか抹消されようとしていて、ガザにいるカトリックの人々、正教の人々も、生命の危機に瀕している。個人の生命だけでなく、ずっとそこにあったクリスチャンのコミュニティ自体が抹消されようとしている。それに抵抗している。カトリックの人々がパレスチナの解放を訴えている。そういうときに「反カトリック」を標榜し無差別暴力を子供に加える人物が「パレスチナ解放」と口にする。その害悪たるや。つか、うちら、自分たちの側にこういうのがいることは事実として認識しないとだめですよ。

 

下記は、先日イスラエルに爆撃されたカトリック教会の前に集うカトリックの人々。ガザを立ち去ることはしないという。

「反カトリック」の思想で、ガザを支持・支援することはできない。

 

ちなみに、最初にアグリゲーター経由で見た "he" を使っていた記事だが、履歴を頼りに探してみると、NDTVという媒体の記事だった。普段は見ない媒体で、どの国のものかもはっきりとはわからなかったが、調べてみるとインドである。私が見た "he" を連打したような記事はサイト検索してももう見つからず、あったのはこの記事で、"he" を使うことに正当性があると主張しているような記事だ。

The man who opened fire on students and worshippers at a Catholic School in Minneapolis on Wednesday had previously shared the details of what he wanted to wear for "my shooting".

"I don't want to dress girly all the time, but I guess sometimes I really like it. I know I am not a woman, but I definitely don't feel like a man ... I really like my outfit," revealed a translation of parts of Robin Westman's notebooks, mostly written in Cyrillic.

これをそのまま読めば、この人物を単に "she" で表すことは難しいと報道機関の記事を書いた人が判断したということだろう。名前の「ロビン」も性別関係なく用いられる名前だ。そういうときの代名詞は、今のお約束では単数でも3人称ならtheyを使うということになっているのだが、ここではそのルールに従ってもいない。

というか「ロビン」が「女性」だったというのの根拠は、2020年にロバートからロビンに改名したときの判事の言葉(上述のBBC記事より、'with the judge writing: "Minor child identifies as a female".')だけなのだろうか。

この銃撃犯のことは個人的にまったくどうでもいいのだが(いずれまた、例の90年代の高校銃乱射事件の犯人みたいに一部で神格化されるんだろうなとは思う)、英語の実例として、ここまで「これはどうなの?」と思わされる記事もまずない。

 

最後に資料として、アイリッシュ・タイムズに掲載されているNYTの記事の一部。下線を補ったのがこの銃撃犯をさす名詞・代名詞。ちなみに記事の後の方で "Federal officials referred to Westman as transgender." と書かれてはいる。

https://web.archive.org/web/20250828072319/https://www.irishtimes.com/world/us/2025/08/28/robin-westman-minneapolis-school-shooting-suspect-posted-videos-fixated-on-guns-and-violence/

https://web.archive.org/web/20250828072319/https://www.irishtimes.com/world/us/2025/08/28/robin-westman-minneapolis-school-shooting-suspect-posted-videos-fixated-on-guns-and-violence/

本人が「自分の代名詞はshe/herです」と明示していたのなら、英文としてこれで何も問題はない。だが、 "I know I am not a woman, but I definitely don't feel like a man" という人が、自分のことをshe/herで扱ってほしいと言うだろうか、という疑問がある。以前はそう言っていたけれど、今はそうではないということも考えられるが。

 

そして単に英文として、NYTのこの "she" 連呼と、上で見たBBCの違和感のあるほど代名詞を使わない文体と見比べると、ちょっと怖い。自分が当たり前だと思っていた報道の文体はNYTのもので、BBCのに違和感がある。でもきっとファクトに忠実なのはBBCのほうだ。

英語ってこういう性質、NYTの文体が自然に見えて、するっと読めてしまうような性質の言語だ……。ファクトと「読みやすさ」は関係ない。

英語に限らず、三人称の代名詞で執拗に性別を言う言語はきっとどれもそう。代名詞だけでなく名詞も性別をつける言語も多いが(英語はactor, actressなど一部の語だけだが、フランス語は例えば "Je suis étudiant." と"Je suis étudiante." と語の形が変わるし、名詞が変われば形容詞も変わる)、それを思うだけで気が遠くなる。この点は、私は心底「日本に生まれてよかった(日本語が母語でよかった)」と思っている。

英語のhometownとは何か、実例を通して確認する。(英語読まずに機械翻訳の結果見てパニクるなっての)

週末あたりから、ネット上の日本語圏でやたらと「ホームタウン」という語を見るようになり、それが「移民がー!!!!!」っていうパニックと重なってて、「なんだこれ」と思っていたのだが、ガザ・ジェノサイドで手一杯&頭もいっぱいで、22日に封切られたドキュメンタリー映画も初日に見たんだがそれについて書くこともできていないなかで、目の端にとらえるくらいしかしてこなかった。

 

それが今日、電脳塵芥さんで検証記事が出ているのを見かけ、おかげでようやく、だいたいの経緯が把握できた(気がする。わけわかんないままだけど)。

nou-yunyun.hatenablog.com

とにかくこれ、わけわかんないのは、そもそもJICAが使っている用語の「ホームタウン」が意味不明であるというところから始まってる。何の話をしているのかわからないときに、「何の話をしているのか、説明を!」と呼びかけるのではなく、その意味不明な用語を好き勝手に解釈してパニクっている人たちが引き起こしている大騒ぎがネットで肥大化しているわけで、なんつうか、虚無の上に虚無を重ねても虚無なんすよ。豆腐の上に豆腐乗っけても豆腐でしょ。ねぎとかしょうがとか醤油とかがないと冷奴にはならない。何の話だ。

 

JICA語の「ホームタウン」については意味がわからないままだが、hometownは「故郷」っていうか「出身地」の意味である。あるいはスポーツチームの「拠点(とする町)」。

 

例えば今BBC Newsを探してみたら、下記の記事がある。

 

Depeche Mode fans call for hometown recognition
2 August 2025

https://www.bbc.com/news/articles/c4gzvvgyejpo

 

これは、デペッシュ・モードというバンドのファンが、出身地(エセックス州ベイジルドン)に記念の壁画なり何なりを作って、バンドを顕彰し、バンドのファンがいわゆる「聖地巡礼」ができるようにしようと言っている、という記事である。

 

あと、これ。

Lemmy mugs created in Motorhead singer's hometown
6 August 2025

https://www.bbc.com/news/articles/c620j1g4e17o

 

2015年に没した*1モーターヘッドレミーの出身地が、焼き物の街であるストーク・オン・トレントで、そこの製陶業者(窯)がレミーを記念するデザインのマグカップを作った、という地域ニュースである。5月には銅像もできていて*2、「レミーの出身地」が没後10年にして盛り上がっている、ということか。(でも彼の活動拠点は米国のハリウッドだった。自宅もそこ。)

 

それとこれ。

Tour de France Scot hailed a hero in his hometown
30 July 2025

https://www.bbc.com/news/articles/c07p99kglp9o

 

これも、ツール・ド・フランスで活躍したスコットランド人の選手が、出身地(故郷)でたたえられている、という記事だ。彼はこの町のサイクリングクラブでトレーニングしていて、彼が活躍したことで次の世代が触発されるだろう、といった地域ニュースである。

 

いずれも、誰かの「出身地」をいうときにhometownという語が使われている例だ。「現在の拠点」ではない。

 

最初の例のデペッシュ・モードは、バンドとして成功したときには故郷 (hometown) のベイジルドンを離れてロンドンを拠点としていたはずだし*3モーターヘッドレミーは英国を出て米国のLAを拠点としていた。しかも、「LAのロックスター」なのに豪邸ではなく小さなアパートに住んでいたことで有名だ。レミーは国境を越えているから「移民 immigrant, migrant」だけど、hometownはストーク・オン・トレントであって、移住先のLAではない。

 

7月に亡くなったオジー・オズボーンも、ミュージシャンとしては長くビバリーヒルズに暮らしていたけれど(ふなっしーが訪問してたよね)、最後は故郷である英国のバーミンガムに戻っていた、というのを、亡くなったときのBBC Newsでやっていたけれど(ラジオで聞いた)、ついでにオジーについての英語版ウィキペディアでhomeの用例を探してみると次のようになってる。

The original Black Sabbath line-up of Ozzy, Tony Iommi, Geezer Butler, and Bill Ward reunited in November 2011 for a world tour and new album. Ward had to drop out for contractual reasons, so the project continued with Rage Against the Machine's Brad Wilk stepping in for Ward on drums. They played their first reunion concert in May 2012, at the O2 Academy in their hometown Birmingham.

... 

In January 2016, the band began a farewell tour, titled "The End", supposedly signifying the final performances of Black Sabbath. The final shows of The End tour took place at the Genting Arena in their home city of Birmingham on 2 and 4 February 2017, where Tommy Clufetos replaced Bill Ward as the drummer for the final show.

https://en.wikipedia.org/wiki/Ozzy_Osbourne

バーミンガムは「シティ」の格がある町・都市なのだが、hometownも使われるし、home cityという表現もあることがわかった。すばらしい。濡れ手に粟だ。

 

一方で、オジー・オズボーンにとって、長く拠点としていたビバリーヒルズはhometownではない。

 

となると、例えばナイジェリアのラゴス出身の人が日本の東京都杉並区に住むとして、hometownと呼ばれるのはどこか。2秒も考えればわかるだろう。ラゴスである。

 

だから、JICAの「ホームタウン」という用語がトンチキなことは別として、「日本の〇〇市が、アフリカからの移民のホームタウンになる」という文は、完全に意味不明なので、取り合う必要がない(「何かの勘違いでしょう」と指摘すればよい)、といえる。

 

のだが。

 

しかも発端がGoogle翻訳というのを知って、私は膝から崩れ落ちたよ。崩れ落ちているヒマなどないのだが。私の頭の中はテトリスががんがん積みあがってる状態で、とにかくひとつひとつ片づけなければならないのに、崩れ落ちていたらそれもできない。

 

それ以上にショッキングなのはJICAの英語のセンスのなさなんだけど……英語使える人、いるよね、さすがに。意思決定層にも。

 

以下、Twitter/Xにとりあえず連投したものの転記。

 

※最後の方「訳出されが」は制限文字数に収めるときの編集ミスで、「訳出」です。「訳出されてそれが」と書いてあったのを編集したんだけど、なんでこうなった。

↑↑↑↑↑↑これ、重要↑↑↑↑↑↑

普通に読まれる文として書かれた英文*4を日本語に訳したときに、日本語として読んで何を言っているかわからないのは、9割以上は自分の解釈ミス・誤訳です。このケースでは「故郷」が誤訳ですね。「(JICA用語の)ホームタウン」であって「故郷」ではない。

それはテクストに書かれているんですよ。Google翻訳は捨象しちゃうかもしれないけど。

この引用符、1つ前のエントリにも出てきてるので、そっちも見ておいていただければと。

hoarding-examples.hatenablog.jp


www.youtube.com

こんなものをみているじかんはない……

 

 

*1:もう10年になるのか……。

*2:北アイルランドで量産される誰だかわかんない銅像を見慣れている目には新鮮なことに、誰だか一目でわかる。

*3:ファンが「ロンドンの聖地マップ」みたいな本を作っている。https://walkingintheirshoes.info/

*4:読んでも意味があまりよくわからないように書かれている芸術性の高い英文は話が別。ジェイムズ・ジョイスとか。

《there's + 複数形》の実例をメモる。

ウェブ検索では見つけられない実例をちょいメモ。

 

ガザ・ジェノサイドやパレスチナとは関係のない話題の英文をときどき読まないと、言語野が涸れはててしまうので、ランダムにウィキペディアを読んだりしているのだが、今日はたまたま、BBC Newsのアプリを立ち上げているときに誤タップしたために目の前に出てきた記事がするすると読める感じだったので読んでいたら、メモすべき実例にも遭遇した。一石二鳥とはこのことか。

 

記事はこれ: 

www.bbc.com

オーストラリアで警官2人を撃ち殺し、逃走中の容疑者についての記事である。通常、そういう事件の容疑者のプロフィール記事みたいなのが出ることはあまりないのだが、この人物の場合は記事化も納得、という印象の内容だった。

 

この人物、元から国家・政府の権威には従わないという主義主張(リバタリアニズム)の人だったのかもしれないが、新型コロナウイルスによる行動制限やマスク義務化がきっかけとなったのか、近年、そういう「反国家・反権威」の考えがますます強固になっていて、 BBC記事で引用符を使って "a "sovereign citizen"' と示されている類の人になっていたという。あえて日本語にすれば「主権市民」か(「市民主権」ではない)。つまり、「国家の権威が及ばない市民」ということで、一般的なリバタリアンより過激だ。むしろ、武装勢力じみている。

 

実際、米国の自警団運動などはそういう思想なのだが、それをこの人はオーストラリアでやってて、司法や警察相手に、いろいろ奇矯な行動をとっていたという。ただしネオナチとかではなく、ナチズムの権威主義全体主義を警戒するあまり、普通の警察を見てもナチスに見えるようになっている系だ。当局の側は何かあったときもいわば「はいはい」と流していたみたいだが、今回、警官が2人も射殺されるという深刻極まりない事件になってしまった。日本でちょうど今、神戸で面識のない女性を付け回してオートロックのマンションのエレベーターに入り込んでエレベーター内でその女性を殺した容疑者が、しばらく前に殺人未遂で逮捕されて傷害罪で起訴されて執行猶予になっていたということがニュースになっているのと頭の中で重なり合って、「どっちもこっちも、『あのときもっと厳正に対処していれば』ということになっとるな」などと思いつつ記事を読んでいったところに、あるじゃん、実例が。

 

Police say they understand he is an experienced bushman - or a person familiar with the wilderness - which presents a challenge for the search party hunting for him.

"He's well-versed in the bush and there's caves up there, so it'll be a while before they find him, I think," a neighbour told the ABC.

https://www.bbc.com/news/articles/cr4e9ddwd5ro

《there's + 複数形》である。こういうの見ると、目が輝いちゃう。メモっておかないと、って。

 

標準文法では、《there is + 単数形》、《there are + 複数形》である。何かが1つあるときはthere isで、何かが複数あるときはthere areだ。これが「正しい英語」である。 なので、「正しい」表現では、 "there's caves up there" ではなく "there are[there're] caves up there" となるはずである。

 

だが、口頭での発話においては、常に「正しい英語」が出てくるとは限らない。特にthere isはthere'sという短縮形で発話されることが多く、話者が細かいことにあんまりこだわらない性格だったり、「正しい英語」を使う必要性があまりなかったりすると、《there's + 複数形》の形で発話されることがある。

 

こんなの、ウェブ検索してもそうそう簡単には見つけられないので、自分のためにメモっておく。

 

 ちなみに、上記発言のコンテクストは、「テレビニュースでインタビューを受けた容疑者の近隣の人の発言」である。意味は「ブッシュ(野山)には慣れてる人だし、あの辺は洞穴もあるから、警察が容疑者を見つけるにはしばらくかかるんじゃないですかねえ」ということ。

 

容疑者は銃持ったままだろうし、早く身柄拘束されますように。

 

しかし名前がすごい。元々Desmond Christopher Filbyだったのを、Dezi Bird Freemanと改名しているそうで。

不定詞の意味上の主語(ガザからの自由詩 "How much must I?")

先日、《不定詞の意味上の主語》を表す《for ~ to do ...》の構造について書いた

hoarding-examples.hatenablog.jp

不定詞の意味上の主語」とは、「to doするのは誰か」ということである。それが文の主語と一致している場合や一般論のときは明示されないが、一致していないときにforを用いて明示するのである。

 

■ I have something to read. (私は読むべきものを持っている)※直訳

→ to read するのは、文の主語である I なので、特に何も書かない

 

■ I have something for my son to read. (私は息子が読むもの/息子に読ませたいものを持っている)

→ to read するのは my son で、文の主語である I とは異なるので、forを用いて明示する。「息子が読むもの」か「息子に読ませたいもの」かは文脈次第で、いずれにせよ「読む」のは話者である「私」ではなく「息子」である。

 

一般論をいうときはこうなる。

■ It's important to sleep well. (ちゃんと寝ることは重要だ)

→「誰にとってもしっかり睡眠をとることは重要」という文。

 

■ It's important for you to sleep well after a hard day. (あなたは一日大変だったんだから、ちゃんと寝ることが重要だ)

→何らかの文脈があって(例えば「私は大丈夫だから、あなたが寝なさい」と言われたのに対する応答、など)、「あなたが寝る」ことをことさらに言っている、という状況になる。

 

forを使わずに《意味上の主語》を言う構文もある。want to do ...と、want ~ to do ...を思い浮かべていただくとよいだろう。この形をとれる動詞は限られている。

■ I want to take a break. (私は少し休憩したい)

→ to take するのは、文の主語である I なので、特に何も書かない。

 

■ I want you to take a break. (私は、あなたに少し休憩してもらいたい)

→ to take するのは you で、文の主語である I とは異なるので、明示する。

 

ラサール石井参院議員のような人たちが深い知見も意味もなくdisってくれたおかげで軽視されつくしている「英文法」は、こういうことを体系的に学ぶものだ。そしてこういうことを知らないと、英語が「道具として」使えるレベルにはならない(なるとしてもひどく時間がかかる)。信じられないほどのレベルで英語を使いこなしているガザの人たちは、こういうことをかなり徹底的に学んでいる。マーフィー使ってるっていうし。

 

さて、上にリンクした先日の記事への補足。"a song for you to sing" が「あなたのために(誰かが)歌う歌」ではなく「あなたがが歌う歌」であるならば、「あなたのために(誰かが)歌う歌」は何というのかという質問があった。それは "a song to sing for you" である。語句の順番が違うだけだが、それで意味が全然変わってくる。

 

というわけで今回は、ガザでテント暮らしをせざるを得ない状況の中でも勉強し続けて修士論文の口頭試問をパスしたMBA持ちのモハンメドさんの自由律詩(自由詩)を読んでみよう。英語の詩は、規則通りに韻を踏むことがお約束だが、「自由律」ではそのルールは無視してよい。

 

 

全体にわたって、《不定詞の意味上の主語》を表す《for ~ to do ...》の構造が繰り返されている。"for them to call me a hero" は、直訳すれば「彼らが私をヒーローと呼ぶ(ためには)」の意味で(callが作るSVOCの構造にも注意)、それが "How much must I do ..." の文の中にはめ込まれている。つまり、この詩は全体が、"How much must I do ... for them to call me a hero" を何層にも重ねてある形で、最後に "a hero" をめぐるどんでん返しがある。

 

英語としては全然難しくないし、《for ~ to do ...》の構造を意識して読むのに非常に適したテクストだと思う。全訳はnoteのほうに掲載する(noteはこれから書くので、書いたらリンクします→書きました)。

note.com

 

このエントリが1ミリでも英語の勉強になったと思われたら、可能なら、MBA持ちのモハンメドさん(「モハンメドさん」が多すぎるのでひとりひとりにニックネームをつけて呼ぶようにしている)にご寄付を。金銭的余裕がないかたは、彼の言葉を広めてください。今、集団として殺されつつある人びと(ジェノサイドされている人びと)のなかにどういう人がいるのか、「あちこちのすずさん」的な目をもって、事態を見てほしい。Twitter/Xをやっていたら彼をフォローしてその言葉を追ってほしい。幼い息子さんが2人(イマドとアダム)いて、お連れ合いのヤラさんとの核家族4人でテント暮らしをしていて、珍しく、お連れ合い(成人女性)の姿も映像や写真に入れています(自分の家の成人女性の姿は見せまいとするのが現地のデフォ)――つまりとても「リベラル」な人です。

chuffed.org

さて、当ブログならびに拙Twitter/Xアカウントを、id:tmrowing (松井孝志先生)にご紹介いただきました。ありがとうございます。

tmrowing.hatenablog.comTwitter/Xのアカウントでの#ガザ市民の声翻訳について、"胸が締めつけられるような投稿が多いのですが、現実を知るためにもお読みいただければと思います" とおっしゃっていただきました。

私は、普通に読んでいたらとっくに胸が締め付けられてつぶれていたと思いますが、翻訳者なので自分の感情などというものはないものとして扱っています。それでも現実があまりにひどいし、ずっとフォローしてる人たちについてはそれなりに愛着もあるので(「ネット上の友人」という関係になっている人もいる)、本当に、ときどきどうしたらいいかわからなくなっています。そういうときに英文法解析ができる隙があると、私は救われます。現実世界で起きていることと異なり、ちゃんと根拠を示して解説すればそれで話が終わるからです。イスラエルのやっていることは単なる違法行為なので、本来、ちゃんと根拠を示して法的な手続きをとれば、それで解決するか、解決するに至らなくても停止するはずのことなのです。その秩序が、イスラエルによって破壊されている。それは今に(2023年10月7日以降に)始まったことではなく、例えば隔離壁についてはもう20年以上も前に「違法」と判断されています(「国際司法裁判所は2004年7月9日にイスラエル政府の分離壁の建設を国際法に反し、パレスチナ人の民族自決を損なうものとして不当な差別に該当し、違法であるという勧告的意見を出している」)。

ガザ・ジェノサイドは、この世界のルール、特に戦争犯罪や人道に反する罪、ジェノサイド罪といったものを規定する国際法をすべて無視して――というより「スルーして」という日本語がふさわしい――遂行されています。法律が無視されているということは、被害者からみれば頼れるものがないということになる。警察にストーカー被害の相談をしているのに「痴話げんか」とみなされて放置される被害者と同じで、どこにも救いがないのです。そして、その流れを主導し決定づけたのは、米国の民主党政権ジョー・バイデン大統領)です。トランプが最悪なのは、1期目で米大使館をテルアビブからエルサレムに移転させたことからも明らかですが、ガザ・ジェノサイドの責任を負うべきはトランプではないです。でも、トランプはICC国際刑事裁判所)に制裁を発動するという暴挙に出たわけで、責任がないわけでもないです。そこまでして、何を守りたいのか、と私は思ってもいるけど、結局、彼らは「守りたい」ものがあるから破壊しているのではなく、単に破壊したいのでしょう。何のためにかはわかりませんが。

そうそう、ウガンダといえば、ICCじゃなくてICJの方で、南ア対イスラエルで唯一反対してイスラエル側についていたあの判事(ICJの副所長で、今年初め、当時の所長が自国の首相となるために辞職したので、臨時の所長になったけど、その点は岩澤判事が正式な所長に選出されたので大丈夫は大丈夫)が、法に照らしてではなく、自身の信念に照らして判断していた*1ことがウガンダのメディアのインタビューで判明し、今、Twitterは大騒ぎになっている状態。国際法方面がこれを何ともできないなら、アメリカとイスラエル(とロシア)による破壊に加えて自壊の方向の力も加わるのではないかと。

 

*1:「自身の信念」だけではないかもしれない。あの人、書いたものがあれこれコピペだったことがばれているんだけど、コピペ元を誰かが支給していたのだったら……。

誤訳しそうになったときにGoogleに助けられた話: "to call out the silence" は熟語化しつつあるのかな

今、本当に、翻訳の作業中なんだけど、誤訳しそうになったのでちゃちゃっと書いておく。

頭を翻訳モードにしているつもりでも、翻訳に必要な集中ができる前に目にしている言葉が目の前で崩壊して意味を失っていくという状態で*1、普段ならこんなところで誤訳しそうになるということはたぶんないのだが。

 

今やってるのはこれで: 

https://x.com/translatingpal/status/1954609141793890626

それは下記への追記分である: 

https://note.com/nofrills_note/n/n92655b7f4838

note.com

原文: 

Following his killing, UEFA issued a statement noting his “death” but failed to mention that he was deliberately murdered by the genocidal Israeli state. His wife has publicly called out the silence, addressing football star Mohamed Salah directly: ...

これを流れで翻訳していて(英語の文字を追うのと同時に頭の中で日本語になるがままにしている状態)、太字部分をうっかり「沈黙を破り」と訳しかけ、「いや待て、この原文はそんなこと言ってないぞ」と読み返して(だって事実として、ここでの話者、つまり "His wife" には「破る」ほどの「沈黙」はなかったのだから)、……通常ならここですぐにちゃんと言葉通りに訳せるんだけど、今は極めて調子が悪いので、意味が取れなくなった。

もちろん、call outという句動詞は知ってるし、自分でも英文を書く際に使いたいときに使える範囲の表現だが、普段なら何ら苦労しないところで、call outがひとつの表現として意味をなさず、callとoutというばらばらの単語にしか見えない。頭が高校2年レベルまで戻ってしまった(こういうのを繰り返して、自分で英文を少しは書けるところまで持ってきたのである)。

それがまた自分に負担になってストレスが増すのだが、やらないという選択肢はない。

こういうときにすべきなのは、辞書を参照することだが(辞書をひくという習慣がない最近の人にはこれがまったく通じないのだが、この基本をおろそかにすると、誤訳量産機にしかなれないよ)、辞書を引く気力すらないので、とりあえずググるという雑なやり方をしたところ、AI導入後の今どきのGoogleは気の利く秘書みたいになってて、一発で調べものが完了する。これが「誰も元の記事を見ようとしないのである」的な状況を引き起こし、内容だけGoogleに吸い上げられる報道機関は危機感を表明、みたいなことになっているのは知っているが(報道機関よりも、個人がSubstackなどで運営している専門性の高いサイトが深い危機感を抱いている様子。エチオピア情勢とか)、実際にググるだけでこれが目の前に出てくると、「わ~い、一発で済んだ♪」と思ってしまう。

 

https://www.google.com/search?q=Call+out+the+silence+meaning

つまり《to call out the silence》という表現には、"to bring attention to the lack of speech or response in a situation" (発言や反応がないという事実に注意を向けさせる)という意味がある。うん。直訳だね、これは。「沈黙をcall outする(指摘する)」だから。

そっから、「さまざまなニュアンス」として4項目が挙げられているが、"Publicly confronting" と "Focus on injustice" が《熟語》っぽい。「沈黙をcall outする」という直訳からずいぶん離れてきてるので。

 

なお、上記のGoogle検索画面のキャプチャは私のトラッカーがある状態でのもの(私のフィルターバブルの中でのもの)で、トラッカーを手動で外して同じURLを読み込むと下記のようになる。私向けにカスタマイズされている検索結果より、こっちの方がわかりやすいね。そんなに「難しいの読んでる奴」扱いされてるのかな。

 

※AIがまとめて列挙している部分は、本気で参考にしたいなら、ソースとして表示されるリンク先に本当にそんなことが書いてあるのかどうかを確認する必要がある。実際に中を見てみると「そんなこと書いてないじゃん!」ということも多発するのがAIなので、本当に要注意。

 

ともあれ、これで疑問は解けたので、翻訳の作業に戻ることができる。英語ブログのネタもできたし、Googleのフィルターバブルの実例も採取できたし、めでたしめでたしじゃないか。

 

というわけで、note記事の更新に戻ります……。とりあえず「夫について語られないことがあると指摘」っていう方向性で日本語にします。

 

*1:原因はストレスで、しかもそれは翻訳対象の言葉、それらの言葉が語っていること、それらの言葉が生じている状況が私という人間にもたらすストレスなので、逃げ場はない。

not ~ any, help + O + 動詞の原形, など(ガザから、学問継続のためのペンと紙を買う代金の支援要請)

ガザの大学生マフムードさん(アズハル大学、医用生体工学専攻)から、学問を続けるための支援要請が来ています。

 

これ、対面でお話する方にお伝えするとほぼ例外なくびっくりされるんですが、この状況下で、ガザでは高校も大学もリモートで授業・講義・試験が続いています。学生はテント暮らしをしながら課題と向かい合い、教員は授業プランを考えたり試験問題を作問したり採点したり、学生からの「昨日、隣のテントが爆撃されて急遽避難しました。課題提出日を遅らさしてください!」といった請願に応じています。コロナ禍でリモート教育のシステムが整っていたのが不幸中の幸いで、それがなかったらいったいどれだけの人が教育をあきらめていたか。

 

マフムードさんも、北部ベイトハヌーンから南部ハンユニスに避難してしばらくしたころ、一度、学問の継続をあきらめたことがあります。一家の長男坊として生活を支え、食料や水、燃料を確保しながら、スマホやPCの充電のため共同充電所にでかけ、ネットのつながるところまで行って課題をDLしてくるだけでももういっぱいいっぱいで、その上学費もかかる。学問の中断は思いとどまったものの(彼は真剣に、技術者になりたいとがんばっています)、今度は、3日にハンユニスの避難先の学校が爆撃されてお身内を亡くし、埋葬が済んだらその足で殲滅作戦がおこなわれているハンユニスを脱出して、破壊の程度がそれほどでもない中部デイル・アル=バラハに行き、数日路上生活したあとでようやく身を寄せることができる家を見つけ、高額な家賃も何とかしたばかり。そのなかで、ノートやペンがどこかにいってしまったのかもしれないし、あるいは単に持っていたものを使い果たしたのかもしれない。

 

いずれにせよ、逆境なんていうものではない逆境で、学ぶことをあきらめていないひとりの学生さんのため、金銭的ご支援が可能な方にはご検討いただければと思います。何とぞよろしくお願いします。

chuffed.org

※本稿はnoteにもクロスポストしますが、当ブログらしく英文法解説しておくと、 "I don’t have any notebook or pen" は《not ~ any》の構造で、noの意味、全否定です。「まったく~ない」。 "Please help me buy the necessary paper and pens." は《help + O + 動詞の原形》の構造。

 

noteへのクロスポスト完了

note.com

UPDATE

期末試験受験中のマフムードさんから。まず初日の受験完了報告。添付画像で「提出済み、採点待ち」であることが確認できます。

 

試験2日目。「大変な状況下でろくにものもないけれど、全力を尽くして学業をやり遂げます」という決意の弁。学費もクラファンで集めているとはいえ、細かく報告してくれて、本当に律儀な若者だと思う。

しかも勉強してるだけでなく買い出しにも出てるし(まだ価格が高すぎて買い物はできないなあという段階): 

弟さんが買い物をしてきたんですね(彼は彼のクラファンをやっている): 

幼い弟さんと妹さんがスープか何かの鍋を見ている間、そばについているお兄ちゃん。この肩の細さ。痛々しい。

 

UPDATE: ブクマ家のみなさん、ありがとうございます

当エントリがはてなブックマークのトップページに出てるのを発見して、スクショしてマフムードさんに送ったら、すごい喜んでくれました。ブクマカのみなさん、ありがとうございます。

 

手書き文字(90代のイギリス人)

いやもう、「Twitterすごい」としか言いようがないんですが、以下をここにアップするのは第一義的には手書き文字の実例です。90代のイギリス人の手書き文字。かなり読みやすいので読んでみてください。下記のツイートに添付されている写真。

 

 

ツイ主のニコラ・ペルジーニさんは、スコットランドエディンバラ大学准教授(政治学)。彼のもとに送られてきた手書きの手紙を写真で紹介してくれているのですが、この送り主のおじいさんA L Smithが、第一次大戦中から戦後にかけて、オクスフォード大学のベイリオル(ベリオール)・コレッジ*1のmasterで、1919年にヴァイツマンから2年前に出されたバルフォア宣言を支持するよう依頼する書簡を受け取ったが、おじいさんは「パレスチナの地にユダヤ人がsettleすれば、現在住んでいる人がunsettleすることになる」として支持を拒否したと。

 

ベイリオル・コレッジともなるとmaster(学長)のリストがウィキペディアにあるのでチェックしてみると、確かにある。歴史学者1850年生まれ、1924年没。

https://en.wikipedia.org/wiki/Arthur_Smith_(historian)

 

ウィキペディアにはさすがにバルフォア宣言のことは書いていないけれど、大英図書館などで掘ろうと思えば掘れるのではないかと。英国のことなので。

 

いやあ、すごいものを見たのでシェアしたくなりました。

 

肝心の通信の内容はペルジーニ准教授が論文なり論説記事なりに書いてくれると思いますので、気長に待ちましょう。

 

サムネ用:

 

*1:雅子さんが学んだのはここ。

「仮定法はこう使え!」というお手本が、ガザからやってきた。

久しぶりにログインしました。

 

今回のエントリは、表題通り。下記です。初見で、あまりの美しさにしばししびれました。英語の仮定法独特の、ちょっともっちゃりした余韻が重なり合うところに、等位接続詞andを使う(べき)《列挙》の構造が絡んできて、気取らない、身近で素朴な言葉の連なりが美しい絵を描く。そこに "siege" とか "F-16" といった、いわば「ガザ用語」が、現実というものを突き立てるようにして、自然に織り込まれている。

 

とにかく、読んでください。医用生体工学専攻で義足の技術を学んでいる大学生、マフムードさんの投稿。彼にとって英語は外国語です。私にとってもそうだけど、私が彼の年齢のときに英語でこういう表現力を持っていたかというと持ってなかったし、今だってたぶん、かろうじて足元に貼りつけてはいるかなっていうくらいの能力しかない。

 

一応、当ブログらしく英文法解説めいたことをしておくと、下記の太字のところが《仮定法》です。あと、下線で示した "used to" もきれい。

What if there were no war on Gaza?
Perhaps I would be telling you about the beauty of Gaza — about its calm sea and its kind-hearted people.
I would have spoken about our beautiful traditions, about thyme and olives, about the traditional dabke we dance in joy,
about our simple celebrations that filled our homes with laughter,
about how we used to play and have fun in our little neighborhood in Beit Hanoun, running freely, laughing wholeheartedly.

...

 

本来は、一字一句に真剣に向き合って、粗訳して寝かせて推敲して訳しなおして……というプロセスを経て日本語化して公開するような性質の文(というか「散文詩」ですよね)なのですが、今は事情があってスピード優先なので、ざっと仮訳したものをnoteにアップしてあります

note.com

なぜ「スピード優先」かというと、マフムードさんは緊急にお金(クラウドファンディング)を必要としているから。私にできることとして、ガザからの言葉の翻訳に使っているTwitter/Xやnote以外のチャンネルにも彼の言葉を流して、彼への投げ銭を1人でも多くの人に検討してもらいたいから。

chuffed.org

何が起きているかというと、ガザでは今が「物資入手のチャンス」(それも今後ないかもしれないようなチャンス)になっているのです。

 

数か月前に完全に封鎖されて物資がまったく入らなくなったガザ地区には、基本的に、食べるものも生活必需品もずっと入っていません。ひどい兵糧攻めです。GHFとかいう「人道支援を称するデス・トラップ」と称される詐欺的な目くらましの事業と、「人道危機を憂慮してま~す」というアラブ諸国のポーズのための物資の空中投下で、焼け石に雀の涙を垂らすような物量の物資を、加害者自身が焼け石を火炎放射器であぶりながら入れてくる、という状況で、それを加害者は「物資は入っている」と言っているんだけど、「なんがつなんにちなんじなんぷん、何を何キロ?」と小学生のようにツメたら、相手は黙るんじゃないかなという程度でしかない。ガザとイスラエルまたはエジプトの境界のこちら側には、普通に物資を積んだトラックが列をなして待機しているのに、境界線を越えることを、ガザ地区の外周部を制圧している/支配するイスラエルが許可していない、というか、イスラエルの一般市民のうちの過激派が、道路をふさぐなどして積極的に妨害している。

 

私がフォローしているガザの人たちも、自撮り写真を見る限り、「細い」んじゃなくて「薄い」という印象になっていて、赤ちゃんは体が大きくなるどころか痩せ始めていて、こちらとしても不安と焦りでどうしようもなくなっているんですが、昨日8月7日に唐突に、支援物資のトラックがある程度の意味を成すくらいの数量でまともに(略奪されずに)入って、何人もの人が「市場に物が並んでいる」という報告をしている、という状況です。物価も、小麦粉やお米1キロが日本円に換算して数千円、という法外な価格から見れば大幅に下がっていて、多くの人が、数か月ぶりにお砂糖を買って、甘くしたお茶を飲んでいると報告している。

 

しかしマフムードさんは、つい先日、避難先としていた南部ハンユニスの学校がイスラエルに爆撃されてお身内が犠牲になり、イスラエル軍が殲滅作戦の最終段階に入ったハンユニスを出て、中部デイル・アル=バラハに移動したはいいものの身を寄せる場所も見つからず、ようやく見つけた家は大家が法外な家賃を要求……という状況で、本人ふらっふらの状態で必死にネットで呼びかけてお金を集め、ようやく家を確保したばかりです。つまりこれまで集めたお金は使い果たしている状況と思われます。ちなみに彼は彼の核家族では長男で、お父さんは怪我のため働けず、長男の彼が大黒柱です。まだ大学生なのに。ジェノサイドなんか起きていなくて順当に技師になれていたら、専門職として安定した収入を得ていたかもしれないけれど(←仮定法で書いてみた)、今はその見込みもなく、頼れるのは本当にクラファンだけという、めちゃくちゃ不安定な状況です。しかも、彼が面倒を見る責任を負っているのは、彼自身の核家族の他に5家族(近縁の親族)。というわけで、物価が下がっているこのチャンスに必需品を調達するために、1家族あたり100ドル、6家族分で合計600ドルの支援要請が出ています。

 

 

というわけでの「スピード優先」での仮訳公開です。何卒、よろしくお願いします。

 

マフムードさんのクラファンはこちら: 

https://chuffed.org/project/mahmoudmassri

クラファンの要請文の文面は日本語化してあります。下記画像です。これは自由にダウンロードして印刷等していただいてかまいませんし、これをネタに金儲けをしようというのでない限りは訳文は自由にお使いいただいて構いません(訳文の権利は私は主張しません)。

https://chuffed.org/project/mahmoudmassri

しかしまあこの人たちのこの英語力は本当にすごいと思う。日本で「12年間もやって英語がしゃべれないのはどういうことだ」というルサンチマンのにきびみたいなものから噴出した怨念が作り出した、間に合わせの、「道具としての英語」という美名で呼ばれるようなものではないので。

 

(ほぼ全編現地語の映画『ノー・アザー・ランド』でもバーセルが一瞬だけ英語を使うシーンがあって、そこで彼は自分の教育的なバックグラウンドに言及していたんだけど、ガザの人たちの状況は西岸のバーセルとはまた違う。)

 

"a song for you to sing" は「あなたのために歌う歌」ではない。「あなたが歌う歌」である。(不定詞の意味上の主語)

わたしは激怒した。必ず、かの、イメージだけでしたり顔で「日本の英語教育」を語っちゃう上に1980年代末の、『別冊宝島』の「道具としての英語」の時代の認識のまま「文法」を敵視する業界人改め国会議員(参議院)の、「張りぼて」と言うのも張りぼてに失礼なレベルでチャチな言説にカウンターをくらわしておかなければならぬと決意した。わたしには政治がわからぬ。わたしは、一介の英語屋兼ブロガーである。コンマのあとにスペースがなければ笛を吹き、仮定法と遊んで暮して来た。けれども「英文法なんかやってるからしゃべれない」という邪悪な言説に対しては、人一倍に敏感であった。

ラサール石井*1の思い込みとは逆に、日本の英語教育で「英文法」が片隅に追いやられて、もう何年になるだろう。ぶっちゃけ、そうなる前から、文法などお構いなしに「何となくフィーリングで」*2英文を読む大学受験生はとても多かったし、その中にはごくまれに、なぜかとびぬけて優秀で、文法はまったくできないのに読解テストは8割超をコンスタントに得点するという人もいた(が、そういう場合は自分では英文を書けないので、自由英作文ができないと受からない大学には進めなかったりするのだが)。いやもうほんとマジで、He is a lawyer. を He has been a lawyer for 30 years. に展開することもおぼつかない、みたいなことは、いつだってとてもありふれていたんだけど、もうそういう問題ではなく、全体に、なんていうか……と急に歯切れ悪くなっててあれなんですがごめん。

昨晩、noteのほうでこの記事を書いたときに、"My Death is not a song for you to sing" というタイトルの「ガザの詩人の会」の自主制作本(電子書籍)について自分のツイートを発掘する必要があって、このタイトルをTwitter/X内で検索したときに目にしたものを見て、「英文法大事!!!!!!」と叫んだわけですよ。さらしたいわけではないのであちこちマスクしますが、スクショ: 

 

 

うんうん、わかるよ、単語だけ勝手につなぎあわせるとこうなるよね。だがこれは不定詞の意味上の主語》だ。英文法ちゃんとまじめにやってないとできない項目トップ10の上位に食い込む例のあれだ。

 

It's easy to take a picture with your phone. という文なら一般論だ。「(一般的に)携帯電話を使って写真を撮ることは簡単である」という意味だ。

それを一般論にせず、「特定の誰かが写真を撮ること」を言いたい場合に《意味上の主語》が出てくる。 It's not easy for me to take a picture with my phone, because I'm injured in my right hand. みたいなものだ。「私が携帯電話で写真を撮るのは難しい。右手に怪我をしているので」。これは一般論ではない。「ほかの人にとっては難しくないかもしれないが、私には難しい(怪我をしているから)」ということを言っている。

 

これを踏まえていないと、It's not easy for me to take a picture with my phone. を「携帯電話で自分のための写真を撮るのは簡単ではない」と解釈してしまうのだがそれは誤訳だ。上記キャプチャはまさにその例である。

さらにそこから、日本語だけで勝手に考えて「携帯電話で自撮りするのは難しい」とか「インカメラで映え写真ってどうやったら」みたいに「意訳」してしまうこともあるだろうが、それは意訳じゃなくて単なる誤訳である。元の解釈が間違ってるんだから。

 

ひるがえって、"My Death is not a song for you to sing" だが、これは「私の死は、あなたのために歌う歌ではない」ではなく、「私の死は、あなたが歌う歌ではない」である(to singするのがyou, というのが《意味上の主語》の構造。こう説明しても理解されないのがデフォっすけどね)。

 

要は、他人の死を勝手に称揚すんな、ということで、これは2023年10月以降全地球規模で広がっている、非パレスチナ人の間でのパレスチナナショナリズムの熱狂と陶酔に、当事者であるパレスチナ人によってガツンとくらわされているパンチである。非パレスチナ人は、パレスチナについて語ることはできても、パレスチナ語ることはできない、というとわかりやすいだろうか。翻訳者なんざ特に、基本的にただの媒体なんで、自分が熱狂しちゃいかんのである(ましてや煽動するなどもってのほか)。自分が歌うな、言葉に歌わせろ、そういうことだ。

 

私はロマン主義的な熱狂、あの甘美な陶酔も知っている(いろいろあったんだよ)。むしろ大好きだ。だが、それを捨てねばならぬ。わたしは覚悟した。そういうことだ。

 

そんなことより、不定詞の意味上の主語くらいはしっかり押さえようず……

 

https://x.com/n0fr1ll5/status/1937904439941366256?ref_src=twsrc%5Etfw%7Ctwcamp%5Etweetembed%7Ctwterm%5E1937904439941366256%7Ctwgr%5E49b5a161e3c372e0c52184ea7ab9fc416d3cf21f%7Ctwcon%5Es1_c10&ref_url=https%3A%2F%2Fnote.com%2Fnofrills_note%2Fn%2Fn10746a0c0162

https://x.com/n0fr1ll5/status/1937904439941366256?ref_src=twsrc%5Etfw%7Ctwcamp%5Etweetembed%7Ctwterm%5E1937904439941366256%7Ctwgr%5E49b5a161e3c372e0c52184ea7ab9fc416d3cf21f%7Ctwcon%5Es1_c10&ref_url=https%3A%2F%2Fnote.com%2Fnofrills_note%2Fn%2Fn10746a0c0162

 

buymeacoffee.com

ちなみに、このEbookを紹介してる元スレッドはこれ: 

ドイツ、ベルリンとスコットランドに拠点のある自主出版レーベルで、フェミニズムや反植民地主義の詩を扱っている。下記の詩集はデスク脇に置いて常に参照できるようにしてある。

Keep Telling Of Gaza

 

英文法の重要性については、下記の本がいい。ゴールは「書く」ことで(このあたり「英会話」で熱狂している日本の「読み書きはできるのに会話ができなかったと思い込んでいるけれど実は書くこともできなかった中高年」の視野の狭さは致命的だが、今の30代から下はこの「英語の読み書きはできる日本人」という神話からは自由だろう)、そのために「文法」がいかに重要かをちゃんと書いている。著者は「外国語としての英語」というものを扱いなれている英語母語話者である。翻訳は高橋さきのさん。

 

ていうか、「英語の読み書きはできるけどしゃべれない」と眉間にしわよせてた中高年、こういう英語書けないでしょ。

これは、ガザで経営学を大学院で学んでいる最中にジェノサイドに巻き込まれた人の英語。

 

この人も経営学を修めた人。

 

看護師さん。

 

今、ぱぱっと見た画面にあったものをいくつかリンクしただけだが、このクオリティの英文がガザからは毎日、いくつものアカウントから流れてくる。この人たち、もう20年近く前から封鎖下にあって、自由に外と行き来できるわけでもない環境で育って学んできて、この英語を使えてるわけです。文法はケンブリッジの教材(マーフィー)でがっつりやってるみたいですね。

 

 

*1:この名前もいいかげん恥ずかしいんだが、私はこの名前を「恥ずかしい」と思って30年くらいになる。

*2:こういう常套句があった。

ガザの中学校での英語の授業がどんな感じか、教諭自身が映像を投稿しています。

英語を教える立場にある方、あった方ならきっとご興味がおありかと思うので、noteにアップしたものをこちらにもリンクしておきます。

 

パレスチナ人の教育水準が(かなりとんでもなく)高いというのは、ずーっと前から、それこそアラファト議長が「パレスチナ」そのもののアイコンだったころから言われていたことで、それはイスラエル建国以降、先祖から受け継いできた土地を奪われ、故郷を追われて難民化したパレスチナ人の多くが、何があっても奪われえないものとして教育を重視したから、と説明されてきて、私もそれに納得していたのだけれど、それにしたって、この人たち、英語できすぎでしょ、というのは、2005年ごろから、ガザから英語を使ってツイートしていたりブログを書いたりしていた人たちの英語に接するたびに思っていたことです。単に流暢なだけでなく気骨と気品のある立派な英語で自分の言いたいことを表現してるし、一言一言に意味のある、中身のある文を書いている。現在、DMでやり取りもしている理系の大学生など、私よりよほど英語がうまい。この人たちの母語であるアラビア語と英語は(日本語と英語同様に)遠くかけ離れた言語で、これは相当の練習・訓練の結果だし、その現場はいったいどうなっているんだろうということを、いつか、ゆっくり話せるときが来るといいなと思っているわけです。

 

「英語でツイッターやってる人たちなんてごく一部のエリートでしょ」と冷笑する人がいそうですが、故リフアト・アルアライール教授(彼はガザの自治体アカウントの英語屋さんだった)をはじめとする大学教授など上層の知識人だけでなく、一介の英語教諭も、薬剤師やアーティストも、大学生も、みんなすごい。今はガザ地区の外に出ているジャーナリストのアブバクル・アベドさんなど、発音もばりばりのRPなんだけど(「BBCイングリッシュ」と呼ばれるアクセント)、実はまだ大学卒業してない(在学中にジェノサイドが始まって、現場に放り込まれた形。本来はスポーツ・ジャーナリズムが専門)。彼はイギリスの大学に留学しようとして試験は通ったんだけど、ガザのパレスチナ人だから留学できなかったということがジェノサイドの直前にあったとBBCのニュースキャスターみたいなかっちりした英語で説明してたんですよ。こちらとしてはもう、目が点、耳はダンボで聞きいるよりなかった。

 

アブバクル・アベドさんは突出して優秀なのだし、彼だけでなく、すばらしい英語が使えるかどうかには個人の資質とか、向き不向きとかいったことはもちろんあるにせよ、とにかく全体の水準が高いことは間違いないです。となると、この人たちの大学以前の学校での英語って……という興味をおぼえない英語教育関係者はたぶんいないと思います。

 

と、そんな中、ガザで英語教諭をしていたアラアさんが、かつて自分の授業光景を何かの取材で撮影した映像をアップして「懐かしいなあ、生徒たちに会いたいなあ」とツイートしていたので、それをnoteで取り上げました。ジェノサイド前の、平凡な中学校の教室での英語の授業の様子です。

note.com

なお、アラアさんは現在はガザ地区の外に出ていて、そこで英語を教えたり、オンラインでアラビア語講座を開いたりしていますので、関心がおありのかたはぜひ、彼女のアカウントをフォローしてみてください。ちなみに、アラアさんは故リフアト・アルアライール教授の教え子のひとりです。

Gaza Unsilenced

Gaza Unsilenced

Amazon

 

ガザでの英語については、We Are Not Numbersという語りと記録のプロジェクトの責任者、アフメド・アルナウークさん(在英パレスチナ人)がまとめた同名の本の序文にも書かれています。この人たちがいかに真剣に、「英語を使って語ること」に取り組んできたか。「会話に頻出する表現を覚えましょう」っていうレベルの話ではないんです。語り残すための強靭な英語。

 

ガザで栄養支援のプロジェクトのテントをイスラエルが爆撃し、大勢が死傷した件で、現場からの報告をまとめてあります。

はてブでも話題ですが: 

https://b.hatena.ne.jp/

ガザ地区で栄養失調に陥っている乳幼児や母親たちを対象に無料で栄養相談を実施し、栄養補助食品(サプリ)を支援している診療テントの行列にイスラエルによる空からの攻撃が行われ、大勢が殺傷された件、現場で栄養相談をしている医師(モハンメド医師。「モハンメド」さんが多すぎるので私は「メド先生」と呼んでいる)がTwitter/Xの相互フォローさんで、私の見ている画面には、攻撃直後のツイート/投稿が流れてきていました。

これを含め、このときのガザ地区内からのツイートをnoteのほうにまとめてあります。私がショックを受けすぎている上に、次から次へといろんなことが報告されていて、まだエントリの後半が完成していないのですが、骨子(現地の声のまとめ)はできています。英語としては難しいものはないので、ご一読いただければと思います。

note.com

メド先生のこの栄養支援活動については、この攻撃の何日か前に翻訳紹介しています。

note.com

https://x.com/Medo198518/status/1943203707719721384?ぷref_src=twsrc%5Etfw%7Ctwcamp%5Etweeteきmbed%7Ctwterm%5E1943203707719721384%7Ctwgr%5E7139f6c0asie7si0a8bc23011e1c9c94c55d235c6baa%7Ctwcon%5Es1_c10&ref_url=https%3A%2F%2Fnote.com%2Fnofrills_note%2Fn%2Fnd03e6b3575f0

Twitter/Xをご利用の方は、メド先生のアカウントをフォローしてください。できれば金銭的支援も(Chuffedでクラファン実施)。クラファンのURLはnoteの記事(両方とも)に記載してあります。よろしくお願いします。

 

メド先生についてのnoteの記事は、「臨床栄養学のメド先生」というタグをつけて一覧できるようにしてあります。そちらもご一読いただけますよう。

https://x.com/Medo198518/status/1943203707719721384?ref_src=twsrc%5Etfw%7Ctwcamp%5Etweetembed%7Ctwterm%5E1943203707719721384%7Ctwgr%5E7139f6c0ae70a8bc23011e1c9c94c55d235c6baa%7Ctwcon%5Es1_c10&ref_url=https%3A%2F%2Fnote.com%2Fnofrills_note%2Fn%2Fnd03e6b3575f0

 

#StopGazaGenocide 

 

■追記: ブクマコメントへのお返事■

ガザで栄養支援のプロジェクトのテントをイスラエルが爆撃し、大勢が死傷した件で、現場からの報告をまとめてあります。 - Hoarding Examples (英語例文等集積所)

猫のサムネイルは何も関係ないのか

2025/07/13 17:42

Aboutのページで説明してある通り、猫のサムネイルは当ブログのアイコンです。以前、近所にいた猫さんです。私のことをドジでのろまな亀だと思っていて(カメラのオートフォーカスがものすごく遅いので、シャッターチャンスを逃しまくっていることを見抜かれていた)、カメラ目線をくれるのはありがたいのですが、いつも上から目線でした。

 

なお、メド先生のところにも猫ちゃんがいます。耳の大きな茶トラのかわいこちゃんです。noteの「臨床栄養学のメド先生」というタグから記事をご確認ください。全部に入れてあると思います。

 

あと、noteの「ガザの動物たち」の記事群では、ガザのNNN(ねこねこネットワーク)のことなども扱っています。最新ニュースでは、NNNから猫好き弁護士さんのところに派遣されてきた子猫がへそ天で寝てます。

note.com

今のガザは「瓦礫の山」として語られ、憐れまれがちですが、そのガザで人が生きているということ、生きようとしているということを、広く知ってほしいです。人が生きているところに猫や犬など動物たちも生きています。

 

いわゆる「ずっこけ分詞構文」の実例(ロード・ノーマン・テビット死去)

江川泰一郎『英文法解説』のp.347にいう「ずっこけ分詞(構文)」(分詞の意味上の主語と文の主語が一致していない形の分詞構文。より堅苦しくは「懸垂分詞」)の実例を、ノーマン・テビットの訃報で見かけたのでメモ。

 

Born to working-class parents, his wife permanently was paralysed when an IRA bomb went off at Grand Hotel in Brighton on Oct 1984 at 2.54am.

Born to working-class parentsしたと筆者が言いたいのはheでありhis wifeではないので(実際にはhis wifeもborn to working-class parentsしていたかもしれないが、筆者はそれを語りたいわけではない)、この文はコンマの前の分詞句の意味上の主語 (he) と、文の主語 (his wife) が一致しておらず、すなわち所謂「ずっこけ分詞構文」である。

しかしこの記述、"on Oct 1984 at 2.54am" って、時刻より日付を書きたかったのではないかと思うが……12 October 1984ですね。

 

ブライトン爆弾事件は、爆弾犯が本を書いてるんだけど、これが成立過程も含めてよくある「自己正当化の言い訳本」ではないのはすごいと思う。

 

英国の政党UKIPは廃れたわけではない。カリスマ指導者が新党Reform UKを作ったことで抜け殻にはなったかもしれないが。

※このブログは英語の実例についてのブログなのですが、今回は英語とは関係のない話です。はてなブックマークで知ったことなので、はてなブログに投稿しておきます。

 

昨日7月7日はてブで下記記事が話題になっていたのに気づき: 

b.hatena.ne.jp

www.tyoshiki.com 

「欧州極右」と聞いたら読まずにはいられないのでクリックしてみたのですが、ガザ・ジェノサイドでぱっつんぱっつんになっている頭(しかも、きゃっきゃうふふする仲のガザの人たちが明日にはもうこの世にいないかもしれないというおそれが、本当にリアルになっている)には、残念ながら入ってくるものは何もなく、ただ目を走らせながらだーっとスクロールダウンしてみたところ、「英国の極右」として重要な名詞であるBNPも出てこなければ(まあ、それはわかる。もう古いから)Britain Firstも出てきてないようだし、唯一出てきているのはUKIPで、それが衰退しちゃったことになってて、その「衰退」の最大の推進力である「ファラージ新党」ことReform UK(以下「RFUK」)が出てきていない。

 

ええと……。

 

というわけで、とりあえずTwitter/Xに連投したら、それが元の id:tyoshiki さんに拾われて追記として載せていただいたので(ありがとうございます)、それをこちらにも掲示しておきます。

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