Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

検索にAIが組み込まれるようになって、翻訳現場はちょっとだけ楽になったかも(人名の読み方、著名人の場合)

17日にnoteのほうで、下記のエントリをアップした。

note.com

アメリカ合衆国には仕事で必要な範囲の最小限の関心しか持っておらず、食というものにも特に関心がない*1ので知らなかったのだが、アメリカには、食に関するJames Beard Awardという権威ある賞があるのだそうだ。1985年に亡くなったJames Beardさんという専門家(日本でいうところの「料理研究家」)を顕彰するために作られた財団が運営している賞で、毎年、「最優秀シェフ賞」など食の現場に立つ人やお店を表彰しているほか、「メディア部門」もあるといい、そのメディア部門で、今年はパレスチナ人が3人、一度に選ばれた、ということがあった。

テント暮らしの人々にかなりちゃんとした食事やおしゃれなデザートを大鍋で作る炊き出しの様子を、TikTok形式のテンポのよいビデオにまとめて世界中に発信しているハマダ*2さん、ジェノサイドが始まったあとにガザを後にするという苦渋の選択をし、現在は米国を拠点としている詩人でジャーナリストのムスアブ・アブートーハさん、在外パレスチナ人として、親から自分に伝えられてきたパレスチナの料理のレシピを書き残し出版するなどの活動をしてきたライラ・エル=ハダッドさんの3人である。

詳細はnoteに書いたエントリを参照していただくとして、こちらに書いているのは、この賞、James Beard AwardのBeardは何と読むのか(どうカタカナにすればよいのか)ということについての調べもののことを書いておきたかったからである。つまり、「ビアード」なのか「ベアード」なのか、だ。

*1:私にあるのは「関心」ではなく「好き嫌い」である。肉を食わないのは肉が嫌いだからだし、肉を食わないと、圧倒的品数がぎゅうぎゅうに詰め込まれているカルディに行っても買うものがない(あの店のものは、人々が目をキラキラさせて語る調味料やレトルト、瓶詰はほぼ全部「肉エキス」「鶏ガラスープ」の類が入っている)。よってカルディにも関心がない。スパイスと豆は安くてありがたい。

*2:モハンメドの愛称である。

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劣勢比較が読めない人は、翻訳に手を出す前にやることがあります。(ガザの殺傷を記録した写真でもthe least graphicなもの)

前置きなしでザクザクいこう。

 

今回の実例: 

https://x.com/MahaGaza/status/1934900963438977386

本文に添えられている写真がTwitter/Xによって非表示にされているので、キャプチャで。

https://x.com/MahaGaza/status/1934900963438977386

注目するのは書き出しの部分。

One of the least “graphic” images from today’s Israeli massacre of starved Palestinians near a US-backed aid distribution point in southern Gaza.

っていうか、この息が長い文(「体言止め」の形式で動詞がないから、厳密には「文」ではないのだけど)の最初だけ。

One of the least “graphic” images 

これ、ぱっと見て、「最もgraphicなimageのひとつ」と解釈してしまう人*1は、その状態では、翻訳には手を出したらいけません。手を出す前にやることがあります。

はい、おわかりですね。《劣勢比較》。

*1:なかなか信じてもらえないんですが、英語と日本語というものを突き詰めてない一般的な人は、「英語なんか、わかんないところは飛ばして解釈していいんだよ」と甘やかされるままになっているので、こういうのができないんですよ……これができなくても100点満点で80点は取れますし。

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不定冠詞と定冠詞(「銃弾がひとつ、僕の頭の脇をかすめていって……」 #ガザ市民の声翻訳 )

このブログの管理画面にアクセスするのもずいぶん久しぶりになってしまってすみません。前置きなど書いているとまた時間がかかってしまうので、いきなり本題です。

 

今回の実例(出典は下に書きます): 

Today, I nearly lost my life. The school where my family and I were sheltering was targeted with random shelling. A bullet passed right next to my head and exploded in the wall beside me — as you can see, this is the bullet.

https://x.com/MahmoudMassri15/status/1933522472374018246

これは、ガザ地区で北部の自宅を追われ、遠く離れた南部の町の「安全な区域」とされている場所にある学校の建物に家族ともども身を寄せている大学生の書いた文の一節と、その文に添付されている写真です。

その学校のあるエリアにイスラエル軍の攻撃があり、流れ弾が飛んできたときの身も凍るような体験を、さらっと描写した一節です。

ここで注目したいのは、下に太字で示す通り、《不定冠詞のa》と《定冠詞のthe》です。

A bullet passed right next to my head and exploded in the wall beside me — as you can see, this is the bullet.

自宅を奪われ避難所に身を寄せている筆者(もちろん非戦闘員です)の頭の脇をかすめて飛んで行った銃弾は、不定冠詞をつけて "a bullet" といい、壁に着弾したその銃弾(を写真に撮ったもの)は定冠詞で "the bullet" といいます。

非常に基本的な英文法なのですが、もともと「冠詞」というものがない日本語を母語としている上に、「冠詞なんていう細かいこと(はどうでもいいのにこだわるなんてばかげている)」というプロパガンダみたいなのが横行している環境にいると、どうしてもこういうことを「なんとなく感覚で」理解しているだけ、ということが多くなります。しかも最近は、学生さんが、英文法を「文法」として学ぶ機会が激減している。

でもこういう「文法」を知らないと、ガザのこの大学生(マフムードさん)の書いているような、ちゃんと意味が通じる英文は書けない。

ガザの人たちが英語でものを書くことについては、英語教育者だった故リフアト・アルアライール教授が編纂した、ガザ地区の若者たちによる英語での創作短編集の前書きに説明されています。「英語帝国主義がー」といううねりに対抗して築き上げられたのだろうと思しき、強靭な思想です。読んでみてください。下記の本の前書きの部分にあります。

原著も電子書籍があるので、そちらでも。

 

さて、今回実例として参照したマフムードさんの投稿は、全文を下記で日本語化してあります。本人とも連絡を取って私個人でやっている翻訳プロジェクトです。

note.com

というわけで、今月に入ってnoteを使い始めています

note.com

ガザ地区の中からの市民の声や、ガザ地区の市民を支援する外部の人々の声、国際法の専門家の解説などの翻訳を「翻訳」として扱うことは上記のnoteでやっていきます。こちらのはてなブログでは英文法をやります。(頻度増やせるようがんばります。)

 

英文法の安定っぷりが、今の私には癒しです。

第二次大戦後の世界秩序の基礎だった国際法は、イスラエルとドイツによってガザで墓場に送られてしまいました。正直、今もまだ「国際法では」と言い続けることは、延命措置にもなってないかもしれない。Twitter/X上の「国際法の死」を語る冷たい言葉――それはシオニストからだけでなく、パレスチナ連帯筋やパレスチナディアスポラからも発され、後者が重く響く――に接するたびに、「どうしてこうなった」としか思えず、「どうしてこうなった」かを考えると行きつくところは2002年から2003年のイラク戦争のゴリ押しなんですが、「どうしてこうなった」よりも「今、どうすればいいのか」を考えるべきであり、それについては「国際法」の骸を振り回すような今日(昨日かも)のマクロン大統領の発言などを聞いてはらわたが煮えくり返るような思いと「言ってくれたんだ」という思いがないまぜになって頭がぐるぐるするばかりで、答えというか解などないわけです。

一方で英文法ではそんなことは起こらない。この定冠詞にはこういう機能とこういう意味がある、と言い切れる。

今の私には英文法は癒しです。

そんなもののために、ガザの人の発言を利用するのは不謹慎だと言われるでしょうが、マフムードさんにはDMで許可取ってあります。彼もそういうことはわかっている。自分の「売り」が英語であるということは認識している。彼だけでなく、ガザの英語話者はみんなそうです――むろん「英語が好き」「英語が肌に合う」といったこともあるでしょうが、やはり「いい仕事に就くために英語を身につける」「学問のために英語が必要なのでやる」といったことでやってきた人たちです。

 

本日の内容が少しでも役に立ったと思われたら、1ドル、1ユーロでも彼に送金してください。今回の「頭に被弾しそうになった」件のほかにも、日本語圏でも報じられている、アメリカが手を出し口を出して「支援」名目でやっているデス・トラップ作戦、GHFで物資を取りに行って死にそうにもなっています。彼はまだ学生なのに、長男坊だから(家父長制!)11人家族を養わなければならなくなり、オーストラリアのChuffedというサイトを使ってクラウドファンディングをやっています。

chuffed.orgクラファンの文面も日本語化してあります。

https://chuffed.org/project/mahmoudmassri

英語でTwitter/Xを使って日々のことを書き、それで世界中の人とつながってクラファンもやっている彼にとって、これまでがんばって身に着けてきた英語が、今や生活の糧を得る道具、日本語で流行りのフレーズを使えば「武器」です(彼は非戦闘員ですが)。それは価値を生まねばならない。彼の英語から学べること、確認できることはたくさんあります。学んだら、彼に還元してください。小麦粉1キロを手に入れることすらままならないところにいる若者に。

 

 

 

GOAT, "Dude just breathes ball", ”It rules" など、こなれまくった英語(米語)を、ChatGPTも使いながら読む

2月はいろいろあってこのブログにまったく書くことができなかったので、3月は何とかしようと思っていたのに、もう下旬になる。

というタイミングで、画面を見たときに「お、これは」と思うものがあったので書き留めておこう。

Twitter/Xでは、こちらがフォローしていないアカウントから勝手に配信されてくるものが集まる Explore > For you という画面がある。

https://x.com/explore/tabs/for-you

そこには、Trening Topicsのほか、Who to followやPosts for youといったセクションがあり、さらに「ビジネスニュース」とか「スポーツニュース」とか「エンタメニュース」とかいった当たり障りのないニュースフィードがあって、そこにはだいたい常にアメリカの話が一方的にフィードされてきている(ちなみに私は英語でTwitter/Xを使っていて、地域設定も「自分がいる場所」にしていないので、日本語のフィードは自分でフォローするなどしているものしか目にしない)。

その「スポーツニュース」と「エンタメニュース」から。

ちなみに「スポーツニュース」のページを別個で開くとアメリカとは関係ないサッカーの話しか並んでいないのだが、Exploreタブだとアメリカの話ばかりで、どういう仕組みなのかはよくわからない。

ともあれ、その「スポーツニュース」のところにあったフィード。

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感覚動詞 + 目的語 + 動詞の原形, not just ~の否定の構文, 人称代名詞sheの意外かもしれない用法(ドナルド・トランプ就任式典でのイーロン・マスクの最低の所業)

ガザ地区での停戦が2025年1月19日の日曜日夕方(日本時間)に、予定より3時間ほど遅れて発効した*1。私が見ている画面はガザ地区からのフィードとガザ地区からのニュースを報じている独立系メディアのフィードで満たされているのだが、日本時間で日曜日から月曜日にかけては、停戦のお祝いと、「久しぶりに、いつ爆撃されるかを恐れることなく眠れる」といった安堵の言葉と、解放されて西岸地区やエルサレムの自宅にやっと帰った大学講師やジャーナリストなどの人質(イスラエルが不当拘束していたパレスチナ人をメディアはprisoner「囚人」もしくは「捕虜」と呼ぶが、イスラエルはこの人たちを起訴する予定もなくただ拘束していただけなので「囚人」ではなく、戦闘中の戦闘員をとらえたわけではないので「捕虜」でもない。hostage「人質」である)についてのニュース、破壊された街の破壊された自宅に戻る人々や、そこで白骨を見つけた人々(攻撃された家の下敷きになって救出することもできなかった家族の遺体である)の映像が次々と流れてきた。爆発の映像は、ガザ地区からは出てこなかった(レバノンからは流れてきたし、西岸地区は放火などでひどい状態だ)。ガザ地区から爆発の映像が流れてこないということに自分がいかに違和感を覚えているかに気づいて、ぞっとした。自分の中でもあれが普通のことになっていた。

そういう中で、米国ではドナルド・トランプの大統領就任式典が行われていたらしい。「らしい」というのは、ガザの停戦を追うのでいっぱいいっぱいで、BBCなどニュースサイトはチェックしている暇がなかったし、私の見ているTwitter/Xの画面にはその話は流れてきていなかったから(フィルターバブルって恐ろしいよね)「流れで見てしまう」ということもなかったからだ。もちろんその日程は把握はしていたのだが、元々別に米国政治に関心はないし(英国については早口で語るが)、2024年の大統領選挙の期間中、民主党とその支持者が「ガザなんてどうでもいい」という態度をあからさまに示していたのに完全に辟易して「正直、アメリカがどうなろうと知ったこっちゃない」という極端な無関心モードに入っている。

そんな中でも流れてきたのが、下記である。画像はTwitter/Xに投稿されていたRolling Stone記事のキャプチャ。ちなみに、Rolling Stone誌に対する信頼も私は失っている。信頼していたジャーナリストがここの編集長になったのでよくチェックするようになっていたのだが、そのジャーナリストが、お友達のジャーナリストが児童ポルノで逮捕されたときに容疑を隠蔽しようと記事を書き換えるという、実にしょぼいビッグ・ブラザー的な、日本の芸能事務所とずぶずぶのマスコミかっていうことをやったからだ。それでも、人々が話題にしていたら見出しくらいは見るし、今日流れてきていたこのキャプチャ画像は二度見した。

どうやらトランプの就任式での光景のようだが、これはもう完全にアレにしか見えない(ADLは「違うよ、全然違うよ」と弁護しているようだが、「ADLさんがああ言ってるんだぞ」とドヤる人々のほか、誰が信じるというのだろう)。ノルウェー労働党の青年組織のキャンプを襲って何十人も殺したテロリストが法廷でやってたやつだ。

とはいえ、普通に良識のある人は「い、一瞬を切り取った一枚の写真では文脈わかんないし……」と思うだろう。Twitter/Xのアルゴリズムはそういうところも行き届いていて(よくできてると思うよ、ほんとに)動画も流れてきている。

*1:遅れた理由について、イスラエルは「ハマスが約束していた名簿を出さないから」と言い、ハマスの側は「準備をしようにもイスラエルの攻撃のせいで進まなかった」と言っているので、名簿の提出が遅れたことは事実ではあるようだ。ソースはDrop Site Newsのフィードだが、リンクを探している時間がない。

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イギリス英語では、組織・団体は複数扱い("BBC Are Complicit" という横断幕)

今回は5分で書き終わりたいので、文脈説明なしの実例だけ。

先日、ChatGPTに英文校正させたら、組織・団体が主語のときの動詞を単数形にされたが、これはアメリカ英語で、イギリス英語では複数扱いになる、ということを少し書いた。米語ではLos Angels Dodgers is ... と言うが、英語ではArsenal are ... と言う、ということだ。

その実例を見かけたのでサクっとメモっておく。ロンドンでの抗議行動を伝える写真である。

"BBC You Are Complicit" と書かれた横断幕を、たぶん10人ほどが持って掲げている。これは、単数扱いも複数扱いも関係ないセンテンスである。普通の文体にすれば、

BBC, you are complicit.

であり、「BBCよ、おまえは加担している」の意味だ。

後日、同じグループが同じ横断幕で抗議のスタンディングをしようとしたところ、ダンマクを持てる参加者が少なかったらしい。かくして、1語削ってこうなった。

"BBC You Are Complicit" の "You" を削って、"BBC Are Complicit" としている。

"BBC" は組織・団体の名称で、イギリス英語ではこれは自然な、ごく普通の表現である。

だが、アメリカ英語ではこれは単数扱いとなって "BBC Is Complicit" としないと違和感が出るところなので、このケースでは参加者が少なかろうとなんだろうと頑張って原文のままの長いダンマクを掲げるか、センテンスを作ることをあきらめて、単語だけで "BBC", "Complicit" と2つに分かれて持って立つかすることになるだろう。

BBC, you are disgustingly complicit. End the Genocide in Gaza. Free Palestine. 

 

リフアト先生とこういう話ができてたら、楽しかっただろうな。英語語るのではなく、英語語るの。日本語母語話者からは「英語の冠詞って何なんすか、あれ。アラビア語にもあるんですか、あれ」、アラビア語母語話者からは「アラビア語は『アル』ですね」みたいなゆるい会話。

対訳: Israel Must Free Dr. Hussam Abu Safiya (カマル・アドワン病院の院長の身柄をイスラエルは解放するようにと求める署名)

本エントリには、ガザ地区北部、カマル・アドワン病院(2024年12月27日、イスラエル軍により制圧)からイスラエル軍によって連行された同院院長のホサム・アブ・サフィヤ医師の身柄解放を求める下記請願文・署名(米国の正副大統領宛て)の対訳を掲載します。

www.change.org

本稿は、2025年1月5日に版下を作成した印刷物(PDFはこちら)のために訳出したものである。日本語圏の人にこの署名の存在と内容を知らせ、署名者を増やすことを目的とした私訳であり、翻訳許可などは取っていない。ただし、Change.orgの署名の主催者に「訳したから、よかったらリンクなどしてください」といった連絡を取ることはするかもしれない。Twitter/XでQuoteする形で連絡済み。LikeとRepostをもらいました。

印刷物の写真はこれ。水曜日の池袋のスタンディング等で配る予定。A面は今回このエントリに掲載する請願文の日本語訳で、B面は先日当ブログに掲載したガザ保健省の請願文の日本語訳と原文である。: 

以下、訳文はCC BY-NC-SA 4.0 Internationalでの公開です。営利目的でなければご自由にお使いくださって構いません。ただし派生物(印刷物など)に関しては、当ファイルと同じ条件で公開することを条件とします。営利目的(商業出版など)でのご利用については、当ブログのフォームからご相談ください。翻訳者名は nofrills もしくは https://freefree.ps/@nofrills と記載していただけるとありがたいです。

This work is licensed under CC BY-NC-SA 4.0

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inかduringか……Chat GPTに英文校正してもらったよ(カマル・アドワン病院の院長先生の解放を求めて、私にもできること)

前回のブログで取り上げた、ガザ地区北部で唯一(部分的にでも)機能していた病院、カマル・アドワン病院が完全に破壊され、病院長をはじめ医療スタッフがイスラエルに逮捕され拘束されている件で、前回のブログで紹介した署名のほか、さらなるアクションを取ることができるということを、Twitter/Xで @AsadoriQさんによって教えられた

つまり、英語で意見をまとめて、イスラエルのジェノサイドを全面的に支持しているEUの要人や、EU加盟国外相にメールで送信するという手がある、ということだ。

メールなので、同一のテンプレ文をみんなで送信するというよりは、ここに文面を考えて書きたいという方も多いだろうし、文面例はいくらあってもいいだろう。

というわけで、私も書いてGoogle Docsにアップした。アクションの参考にしていただければと思う。

Dear 相手の肩書きと名前
https://action.eko.org/a/eu-israel-impact-hub1?akid=141654.22729136.c-OeA7&rd=1&source=fwd&t=2 の一覧の「名前 - 肩書き」を参考に】

I am writing to strongly urge that you immediately intervene to secure the release of Dr Hussam Abu Safiyah, who has been unlawfully arrested and detained by the Israel Defense Forces. 

Dr Safiyah is a respected Palestinian medical doctor and the director of Kamal Adwan Hospital, which was completely destroyed after being set on fire by the Israeli army at the end of the year 2024. The now wrecked hospital was the last functioning one in the northern part of the Gaza Strip, where the Israelis have been carrying out the so-called General's Plan, aimed at wiping out the Palestinian population in Northern Gaza. 

After being besieged for months, the people who remained at the hospital, including medical staff, patients and civilians in the area, were forcibly removed, humiliated and degraded, with some illegally detained by the army. This alone would constitute a war crime in a normal world, let alone shelling a hospital and killing medical doctors, nurses and first responders. 

Dr Hussam Abu Safiyah is among those who were abducted on 27 December 2024 after the Israeli forces stormed the hospital. According to several news sources including CNN, the docter and other medics from Kamal Adwan Hospital are being held at Sde Teiman military detention center. This is extremely alarming, as it is notorious for the worst kinds of human rights violations such as torture, sexual abuse and rape. Dozens of the Palestinian detainees have already been killed there during the current Israeli war on Gaza. 

We hereby call on you to demand that Israel immediately release Dr Hussam Abu Safiyah and other innocent medical personnel from Kamal Adwan Hospital. Regrettably, so far we have seen very little from your side to stop this textbook-case genocide. Instead, we have been witnessing the international rule of law being dismantled by the very ones who established it after World War II. It is well beyond time for you to change course and begin applying sanctions to the country—politically, economically, and militarily.

Yours sincerely,
お名前 【例えば John Doe

以下、この文面作成時に英文校正ツールとしてChat GPTを使ったので、そのことについてのメモ。

Chat GPTのOpen AIはイスラエル支持という点で非常に問題のある企業だが、実際に英文校正の内容面であてになるところがここしか思いつかなかったということで今回使用した、ということを最初にお断りしておく。そのことで不快になる方がいらしたら、この先には進まず、閲覧を停止してくださってかまわない。「ついでだからブログに書いちゃれ」と考えたときに、「AIによる英文校正」の実例を示すにはやはりポピュラーなChat GPTがよかろうという要素もあった。

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やっぱりDeepL翻訳は実用には無理。今ならGoogle翻訳の方がいいんじゃないか(カマル・アドワン病院の院長の身柄解放要請署名)

ガザ地区では、北部で唯一まだ一部でも機能していた病院が、何か月も攻撃を受け続けた挙句、クリスマスの後にイスラエル軍の総攻撃を受けて完全に破壊され、燃やされるということが起きている。ウクライナでロシアがやったことを何倍にもしたようなひどさである。これはイスラエルによる明白な戦争犯罪のなかでも最もひどいものだ。だが、世の中は静かだ。

病院内には、元からの入院患者のほか、イスラエルの攻撃で負傷して運び込まれてきた人や、避難してきていた近隣住民もいた。もちろん、医師や看護師、機械の技術者などの医療スタッフもいる。総攻撃前に、病院の建物の脇が爆破されたり、病院内に向けて砲撃や銃撃が行われたりしていて(この段階ですでにひどすぎるのだが、そういうことはもう完全に常態化されてしまった)、医療スタッフも死傷していた。病院長のフッサム・アブー・サフィヤ医師(小児科)もそのひとりだ。院長は、自身が負傷しながら、また息子を殺戮されながらも、毎日、病院内からこの事態の停止を求める呼びかけを行っていた。毎日、である。

私の見ている画面にも院長の映像は毎日流れてきたし、私はそれをリツイート/リポストしていた。だが、リアル世界で私が接する人のなかで関心らしい関心を示した人はあまりいなかった――パレスチナ連帯スタンディングの現場でも、である。

ともあれ、病院は総攻撃を受け、中にいた人々は脱衣を強要される、女性は髪を覆うヒジャブを奪い取られるといったひどい屈辱をうけさせられた上に強制連行された。病院は、火を放たれた。動けない状態の人は焼き殺されたことだろう。医療スタッフも何人か焼き殺されたと伝えられている。

院長は白衣姿で、単身、瓦礫のなかを歩いて、イスラエル軍の戦車に向かって歩き、「投降」した。その後、「イスラエルの拷問施設」として知られるスデ・テイマン強制収容所に送られた。この収容所では、先に総攻撃を受けたガザ地区最大の病院、アル=シファ病院のアル=ブルシュ院長が、強姦されて(つまり異物を挿入され)放置され、殺されている。

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「ガザ市民」を名乗る募金詐欺の可能性について(実例つき)

■目次■

  • 病院が次々と攻撃対象とされているガザ地区北部の無法と惨状
    • カマル・アドワン病院
  • ガザの人々によるクラウドファンディング
    • 真正なアカウントかそうでないか
      • SNSなどで見かけるクラファンが真正であるかどうかが確認しきれない場合の寄付先としては
    • 私が遭遇した疑わしい事例
      • 少なくともこの夏まで、Twitterの古株からは「お金を送って」という要請は一度もなかった
      • クラファンのサイトなどでの、ベーシックな確認の方法
      • 「ガザの看護師」からの要請(10月下旬)
      • 「ガザの看護師」氏との再会(12月下旬)
  • おまけ: 「ダマスカスのゲイ・ガール」の事案

 

病院が次々と攻撃対象とされているガザ地区北部の無法と惨状

ガザ地区北部が本当にめちゃくちゃな状況になっていて、3つある設備の整っていた病院のうち、1つはぺちゃんこにされた建物の前でイスラエル兵が会心の笑みを浮かべて自撮りしており*1、もう1つは今まさに包囲攻撃下にあり、医師・看護師や患者、避難民が中にいるままでイスラエルの銃撃・砲撃などにさらされ、戦場に投入された無人の爆破装置(「爆発物を搭載したロボット」と説明されているが、遠隔操作可能な軍用車両に爆破装置の仕掛けがなされたもののよう)による攻撃も行われており*2、もう1つでは、門の前にあったジャーナリストの車(PRESSと表示されたミニバス的な車)がイスラエルの攻撃を食らって中にいた5人のジャーナリストが生きたまま焼き殺された*3

カマル・アドワン病院

とりわけ、カマル・アドワン病院の状況はあまりに深刻で(世界の主流メディアが完全に無視しているような状態だからより一層深刻)、イスラエルはクリスマスに首相が「キリスト教徒の皆さんに友愛を」云々というスピーチをする一方で、病院を攻撃する(しかもとんでもないやり方で)ということを、せめて記録だけはしなければならないと思っているのだが、全然作業が追い付かない状態である。

togetter.com

カマル・アドワン病院のことは、マスコミがほぼ報じてないから、ほぼ誰も知らない。パレスチナ連帯運動で街頭に立っているような人でも知らない。私が使っているSNSでこれについての話が十分に意味を成す程度の量をもって流れてきているのはTwitter/Xだけだ。そして今、Twitter/Xを使っていると「イーロン・マスクを利する行為をしている者」として白眼視されるのだが(無料アカウントがあのサイトをどんだけ使ったって、奴に実際の利益をもたらすことはないんだけどね、頭数になってしまうだけで)、そう言ってる人々は、ガザのことになど関心はかけらもないのだろう。

ガザの人々によるクラウドファンディング

さて、そのような状況下だが、ガザ地区のほぼ完全な破壊(人口の96%が家を失い、職場が消えて職を失った人もとんでもなく多い)と、完全封鎖(物資がほとんど入らないので、青空市場で売ってるものもとんでもない価格になっている。昨日の報告ではお米1キロで日本円に換算して2500円近く*4)のなかで生きることを余儀なくされている人々は、最終手段として、個人が手はずを整えて実施するクラウドファンディングという方法で、生活費を得ている。

これらのクラウドファンディングは、今年に入ってから激増したのだが、当初は「破壊された家を修復する費用」とか「失業したが薬が高騰しているので医療費が必要」とか「次にラファの検問所があいたときにエジプトに脱出するための費用」とかいった名目で集められていたものが、今では「明日の食べ物を買うためのお金」のような直接の生活費になっている。私がフォローしているガザの人々でも、自分と自分の家族の生活費をそうやって募っている人は少なくない。

真正なアカウントかそうでないか

というわけで、募金要請のTwitter/Xアカウントは非常に多くあるのだが、そのすべてが真正であるわけではない。

*1:インドネシア病院。ベイト・ラヒヤ。

*2:カマル・アドワン病院。ベイト・ラヒヤとジャバリア難民キャンプの境のあたり。

*3:アル=アウダ病院。ジャバリア。

*4:日本でも米価はすごくて、去年まで5キロ2000円内で余裕で買えていたお米が、今は5キロ3500円では買えず、4000円の予算が必要になっているのだが。

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前置詞のcome, 未来完了, 助動詞+have+過去分詞, など(スコットランド前首相ハムザ・ユーサフの政界引退表明)

Twitter/Xを見てたら、《前置詞のcome》の実例があった。これは普通にウェブ検索やコーパス検索をしても非常に見つけづらく、実例は見るたびにメモっておきたいのだが、当ブログでは、これまでに1例しかメモれていない。貴重な実例だ。

発言主は、今年4月までスコットランド自治政府の首相を務めていたハムザ・ユーサフである。1985年グラスゴーに生まれたユーサフは、まだ40歳にもならない若さだが、2011年に26歳でスコットランド自治議会に初当選している。

実例としてメモっておきたい投稿は、そのことに関連する一文で書き出されている。

ていうか、ここは何ですか、《完了形》の鉱脈か何かですかね。(目をキラキラさせながら)

ともあれ、ひとつずつ見ていこう。

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"Remember me", or what's not to be lost among the destroyed university buildings /破壊された大学と、決して失われぬものについて

はじめに Introduction: 

今回は英文法解説とかじゃなくてただの文章。英語と日本語の二本立てで書きます。12月6日、ガザのリフアト・アルアライールさんが殺されて1年になる日に、リフアトさんについてガザと薄くつながっている線の上でふらふらと踊るようにしながら書き始めました。最初に英語、次に日本語です。

Basically this blog is about English grammar tips, but today I'm going to post an essay in English, and a companion piece in Japanese.  Inspired by a post by Majd, a Gazan on Twitter/X, I started writing the English version on 6th December 2024, one year to the day since Israel killed Dr Refaat Alreer. 

英語圏(というか米国)では、10日にリフアトさんの遺稿集が出ます。版元は米ニューヨークの独立出版社、O/R Booksです。版元のサイトに内容見本などが出ています。米国では、これを(あえて)Amazonで注文して、ベストセラーリストの1位に入れようという運動があります。

10th December sees Refaat's book on sale in the US. It's published by O/R/ Books, an indepentent publisher in NY, USA. They have excerpts and page samples on their website. I crave for a paper copy but may have to resort to an e-book

orbooks.com

目次 Contents: 

  • In English
    • The Beacon of Knowledge
    • Light a candle
    • "Remember me"
  • In Japanese 日本語 (not a straight translation of the above): 
    • ろうそくを灯してほしい
  • 追記

 

In English

The Beacon of Knowledge

The other day, while I was translating something that I still dare not speak publicly about, I came across this phrase, referring to a university in Gaza: the beacon of knowledge. 

In Gaza, and perhaps anywhere in the world, universities are local landmarks. Something you can't miss when you pass by, and can be seen over the city from a distant viewpoint. And that landmark has an awful lot of knowledge in it! It has lasted and will last for a very long time, sometimes centuries. My own university, located in a Tokyo suburb, is more than 100 years old. Considering it was in the second half of the19th century that Japan came to have western-style universities, it's quite old. One of the oldest, perhaps. It will remain there long after I die. It will last for a very long time, giving its students an awful lot of knowledge and producing an awful lot of tales. 

I translated the phrase into Japanese as "something that shows you where knowledge is", having in my mind a picture of almost intimidating appearance of a typical university building. That might be a Tokyo university. Or a London one. Or a university in Gaza. It could be any university I've seen in pictures, or in person. 

After a careful and precise proofreading by an awesome friend of mine, I changed the line into "something that guides you to knowledge", which sounds better and more suitable. Something more abstract.

For there's no university left in Gaza. There are no more university buildings that stand and welcome students, professors and citizens who want to read and/or attend lectures that are open to non-students. No such thing exists in Gaza any more. University buildings stand in ruins. Perhaps they now exist only metaphysically. 

That is, universities in the abstract. What makes you sadder? 

One of my placards that I recently printed, based on Majd's post:  https://x.com/Majdomar__/status/1863344133894439041
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「これはジェノサイドである」――アモス・ゴールドバーグ教授(ヘブライ大学)のご発言に、日本語字幕をつけました。 #ガザ市民のための声翻訳 #ガザ #Gaza

"Yes, it's a genocide" と題するシンプルなビデオが、12月4日にTwitter/X上の英語圏でバズっていた。ビデオの主は、英国のBrexitというカオスの中から生まれた稀代の風刺アクティヴィズム(というものがあるとして)集団、Led By Donkeysだ。そして「その通り、これはジェノサイド(の一例)です」という言葉の主は、イスラエル人のジェノサイド研究者、アモス・ゴールドバーグさんである。

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4日の夜(から5日の早朝にかけて)、私は4日に出たばかりのステファニー・クープさんのご著書『国際法からとらえるパレスチナQ&A イスラエルの犯罪を止めるために』(岩波ブックレット、700円弱)*1を読んでいたのだが: 

読書を中断して、Led By Donkeysのビデオ(というかアモス・ゴールドバーグさんのご発言)を日本語化することにした。

字幕翻訳は素人だが、日本語圏で即座に共有しておくべき点がてんこもりだからだ。事実に関する否認論に、これ以上の居場所を与えてはならない。

YouTubeで字幕をつける機能があるので、それを利用した。4分15秒程度の映像だが、ずっとしゃべりっぱなしでみっちり詰まっているし、話の内容は専門的で用語確認も必要だしで、字幕を表示するタイミングの調整にも手間取って、作業にはほぼ3時間を要した*2Led By Donkeysには翻訳の連絡を入れてある

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ゴールドバーグ教授の言葉は、可能であれば、音声として、耳から入れていただきたいのだが(言葉は元々音声であり、空気の振動であり、それが他者の心に伝わるものだということが感じられる声)、耳から入れるより目から入れたい方には、Led By DonkeysのTwitter/X投稿で全文がテキストでアップされているのをご覧いただければと思う。

英語の字幕は映像に最初から入っている(YouTubeの画面で字幕をオンにしなくても大丈夫)。私がつけた日本語の字幕は、その上に表示されるようになっている。再生ボタンを押しても日本語字幕が表示されない場合は、下図で矢印をつけてあるように、歯車のアイコンをクリックして[字幕]から[日本語]を選択すれば表示できる。

今回のブログの本体は以上。

以下、「有料部分」には、英文法・語法解説と、発言者やビデオのアップ主について、書いていく。

 

■目次■

発言主のアモス・ゴールドバーグ氏について

Amos Goldberg is a professor in the Department of Jewish History and Contemporary Jewry at the Hebrew University of Jerusalem and a fellow of the Van Leer Jerusalem Institute, also sitting on the institute's editorial board. Goldberg has published widely on The Holocaust, and was the editor of the journal Dapim: Studies on the Holocaust (2004–2014).

Amos Goldberg - Wikipedia

ざっと日本語化すると、「アモス・ゴールドバーグ氏は、エルサレムにあるヘブライ大学のユダヤ史・現代ユダヤ民族学科(日本語の正式な訳が私には確認できない。正式な名称ではないかもしれない)教授。ヘブライ大学は、日本でいえば東京大学みたいな存在である。Van Leer Jerusalem Instituteという人文科学・社会科学の研究機関のフェローもつとめ、この機関の編集理事でもある。ホロコーストに関する著作は数多く、2004年から14年の間は、ホロコースト研究の学術誌Dapimの編集者でもあった」。

つまり、このトピックに関して政治的な思惑に左右されて発言するような立場ではないガチの専門家で、非常に信頼性の高い発言主である。

 

*1:ハンユニスの学校の先生で、自助というか共助団体のCare For Gazaをやってるムハンマド氏や、ジャーナリストのヒンド・フーダリー氏の現地報告がフィーチャーされてる。

*2:時給1000円で計算して3000円分、専門技能らしく時給2000円で計算して6000円分のボランティアである。

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hardly any ~, 不定冠詞aに複数形の名詞が続いている例, no sooner + 倒置の構文, など(韓国、大統領がいきなり戒厳令→秒殺)

いや、びっくりした。

昨日の夜というか今日の早朝、ふとTwitter/Xの画面を見たら下記のようになっていた。

この画面を見て、私は、「シリア情勢が急激にアレなことになっとるな、やはりヒズボラがいないと……」などとひとりで納得した。Trendingの項目にあるMartial Law(戒厳令)は、Damascus(シリアの首都、ダマスカス)と関連しているものだと思い込んでいたのである。

"Martial Law" の文字列をクリックするまでは。

トムとジェリー』で、ジェリーが何かしようとしているのを発見したトムみたいな顔になった。目玉がびょーんと前に飛び出すやつ。声も出なかった。

私は別なことをやっていたのでニュースに気づくのが遅く、「これはいったい何」ということを把握して、その飛び出した目玉が元に戻るころには、事態は展開しまくっていた。大統領が何やら陰謀論的なものを開陳しているのを英訳で読み終わったころには、国会議事堂にかけつけ、封鎖も乗り越えて窓を破って議場に入った議員たちが、決議案を可決していた。

はえぇ。ジェットコースター・ドラマか。

突然だがここで英文法解説。

There are hardly any from President Yoon’s party

太字にした "hardly" は《準否定語》で、「ほとんど~ない」の意味。直接扱うのは難しく感じる人は、解釈するときにはnotで仮に置き換えて考えるとよい(There are not any from ... と考える)。要するに否定語なのだが、それとanyが一緒にあるので「ほとんどまったく~ない」の意味。

この "any" の直後には、先行する投稿(前の文)にあるmembersが省略されている(Membersというか、members of parliamentであるが)。繰り返しを避けるためというか、いわずもがなのことなので省略されているという事例だ。

There are hardly any members of parliament from President Yoon’s party

文意は「ユン大統領の政党の議員はほとんどだれもいない」。

「野党がー」と言いつのって戒厳令を出した大統領が、「あんな人たち」扱いをしている人たちが、民主主義の手続きにのっとって、戒厳令という無茶を粛々とひっくり返したのだ。ものすごい短時間の間に。

鮮やかである。さすがである。全Twitter/Xが震えていたであろう。

英文法解説。《最上級 + ever》の表現が使われている。「史上最も~な」の意味である。皮肉やあてこすり、あるいは誇張で使われることも多いが、ここでは文字通りの意味。文意は「これは史上最短の戒厳令ですかね?」句読法も含めてきっちりした英語で書かれているが、発言者はカナダで経済や市場に関する調査や分析の仕事をしている人のようだ。

そしてこの「史上最短」については: 

「なんかすさまじい2時間だった」。2時間! 映画館に入って、映画観終わって出てくるくらいの時間! 長尺映画だったら、2時間なんて映画観てる間にすぎてしまう。

……というように、"2 hours" をひとつのまとまりとして扱っているので、複数形のhoursなのに、単数形につく《不定冠詞》の "a" がついている。

同じことを言っているのが、下記のミーム画像である。

ここで、客相手に武勇伝をおもしろおかしく披露する(というシーンだと思うが)バーテンが言っている "That was a scary couple of hours." は、

That was a scary two hours.

と表すこともできる(a couple of を使った方が自然だと思うが)。a couple of ~は「(同じものが)2つ」の意味で、日常生活ではa couple of minutes[hours, days, weeks, etc]の形でよく出てくる。

韓国の2時間で終わった戒厳令について書かれたものから、もうひとつ。ソウルを拠点とするフリーランスのジャーナリスト*1の投稿だ。

第1文の "can be" は、とても日常的な表現だが、自分で使いたいときに使えるようにするには練習が必要な表現だ。いろいろ言ってみるといい。Trains can be very crowded even in the afternoon on a Wednesday. (水曜日の午後でも、電車はとても混むことがある)とか、Fruits can be too costly for an ordinary worker like me. (果物は、わたしのような普通の労働者には高価すぎることもある)とか、10個くらい自分で文例を考えると、だいたい使えるようになる。

文法ポイントがあるのは第2文。んでもって、日本の英語教育では、「こんな小難しい言い方をする人はいない。暗記のための詰め込み教育は無駄」的な根拠不明な言説にあおられて、こういう表現を教えなかった時期があるのだが、こういう構文は普通に英文でニュースなどを読んでいれば1日に1度は遭遇する。TwitterXのような気軽な場でさえこういうふうに使われているのだ。

No sooner had martial law been declared than protesters appeared with paper banners demanding it to end.

《no sooner ~ than ...》は、基本的に《比較》の表現で、「…よりゼロだけ早く」と直訳できる(noは「ゼロ」の意味)。つまり「…と~はほぼ同時」みたいな意味だ。これを、もっとこなれた日本語で、「~するや否や、…」とか「~するとすぐに、…」と日本語にするのが一般的である。

Noという否定語が強調のために文頭に出て(それと強くつながっているsoonerも一緒になっている)、そのあとは《倒置》が起きている。

martial law had been declared

→ No sooner had martial law been declared

文意は、「戒厳令が宣言されるとすぐに、戒厳令終結を要求する紙のバナーを持ったデモ隊が現れた」の意味。自分でパソコンで作ったり、手書きしたりしたプラカード的なものを持って、人々が集結したのである。夜中に。しかも戒厳令が出されてから1時間もしないうちに人々は集まったという。

強い。

 

というわけで、「えっ、韓国で戒厳令?」とびっくりし、私でも知っている先例のことを考えて頭をぐるぐるさせているうちに、民主主義国家らしい手続きが粛々と勧められて戒厳令が解かれたという怒涛のような2時間について、Twitter/X上の英語圏を見ていたら、あれこれ文法項目が目に入ったよ、というお話しでした。

ガザ・ジェノサイドについては英文法がどうのこうのという余裕はほとんどない。とにかくおこなわれていることがひどすぎるのと、それについて書かれた文が大量すぎる。でも、本当は、ガザの人たちが封鎖下にあってあれほどに優れた英語を使えるようになっているのはなぜかということを、もっと知りたい。その一端は、2023年12月7日に爆殺されたリフアト・アルアライール教授が編集した、ガザの若者たちが英語で書いた短編小説集の前書きに、リフアト先生自身が書いていることからうかがえる。

この本が、つい最近、日本語に翻訳された。

 

Let it be a tale. 

※……と言っても、今回、特に中身はないです。書いてる間に『ブレグジットの日に少女は死んだ』の話になったりしてます。

 

※ここまでで約5000字

*1:この方はフリーランスだが、大手報道機関の特派員でも、20年前なら東京や香港を拠点としていたかもしれない東アジア担当のジャーナリストが、最近はソウルを拠点とするようになっている。

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ガザで何百人ものアスリートが殺されていることが不問に付されるなか、アムステルダムで「暴徒化」したのは誰だったのか(英文法解説つき)

11月8日(金)の深夜、「アムステルダムでサッカーファンが暴徒化してイスラエル人が襲われた」的な話が流れてきた。まるでアムステルダムユダヤ人標的のテロ計画でもあったかのような書きぶりの記事もあったが、何があったのか、具体的に中身を見てみたら、そういう話ではなかった。

もはや「フェイクニュース」などということばを誰も使わなくなった今、こういうことが白日のもとで起きている。しかも「欧米」が主導している。日本で盛り上がる「背後にロシアの影」云々のたわごとすらも出る状況にない。

唖然とするよりない。

以下、とても長い。あと、今回は英文法解説もある。

■目次■

 

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