Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

「~かもしれない」のcould, so that ~構文など(イエメンからの映像報告: 学校が破壊されても子供たちは学ぶことをやめない)

今回の実例は、ぜひ見ていただきたい映像報告から。

アラビア半島は、大部分がサウジアラビアだが、一番南側の端に細いベルト状に2つの国が並んでいる。東半分がオマーン、西半分がイエメンだ。

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https://www.cia.gov/the-world-factbook/static/d937425c0adb3b0638bc7a988de89e74/middle_east_pol-1.jpg

今から約10年前、チュニジアでの民衆の行動の末、2011年1月に大統領が退陣・国外逃亡に追い込まれたあとで、中東の独裁者に対する民衆の抗議・民主化要求の行動はエジプト、バーレーンリビア、シリアなど中東・北アフリカ各国に広まっていったのだが、その中で最も早く抗議行動が組織されたのがイエメンだった。だがチュニジアやエジプトのようには事態は進まず、同年末に当時の大統領(長期政権の独裁者)が退陣したものの、その退陣した独裁者が国内の反政府勢力と結んで、後継の大統領の政権を攻撃するというめちゃくちゃな事態となり、そして武装勢力を手先とする国の思惑などもあり、「独裁者への退陣要求と政治の民主化要求」から始まった騒乱は、何年かの間に近隣の大国の代理戦争と化し、イエメンは昔から英国との関係がいろんな意味で深かったのだが、現代社会の超大国である米国も英国も、それら近隣の大国との関係などいわゆる「大人の事情」的なことがあって、そしてイエメンの状況はとてもひどいのだが、シリア内戦ほどにも取り沙汰されなくなってしまった。

どのくらいひどいかというと、このくらいである。80年代であればポップスターが出てきてチャリティ・ソングによる連帯運動を組織していただろう。

"wipe out ~" は、1語ずつ丁寧に見ていくと、「wipeして、~をoutの状態にする」ということ。"wipe"は「ワイプ」というカタカナ語になっているが「ぬぐう、ふく」の意味。「outの状態」とは「その場から消えた状態」のことで、つまり "wipe out ~" は「~を完全にぬぐい去ってしまう」だ。

その前にある "could" は仮定法が元となった言い方で「~するかもしれない」ということを表す。このcouldは、無視できないレベルで危機が深刻であるという場合によく用いられる。「戦争と飢餓が、イエメン人の次の世代を一掃してしまうかもしれない」ということである。詳細な内容はリンク先の記事をご覧いただきたい。

こういうときに何かをできるはずの国連も、手をこまねいているわけではないが、ほとんど何もできない状態で、各国からの支援も減額されていて、グテレス事務総長が次のように「落胆した」という発言をTwitterでしているくらいである。

米拠点の難民等支援団体「インターナショナル・レスキュー」 のトップを務めるデイヴィッド・ミリバンドも、次のように述べているが、イエメンがなぜこうなっているのかということでの重要な要素(サウジアラビアという存在)についての言及はない。

英国政府の支援減額については下記記事など。

www.bbc.com

さて、そういう状況の中、BBCの取材陣がイエメン南部の街、タイズに入っている。ここは対立する両勢力が向かい合う最前線となったため、破壊の程度が著しい。BBCのオーラ・ゲリン記者は戦場からの報道、特に戦場に暮らす民間人・一般市民についての報道をよくしている記者だが、今回はタイズの学校を取材している。

「学校」、というか……。

報告は、4分足らずの映像だ。記者は英語で語り、取材されている児童らはアラビア語で話しているが、全編にわたって英語字幕(アラビア語の部分は英訳の字幕)が表示されるので、聞き取りができなくても内容の把握は問題なくできるはずだ。ぜひ、全部を見てみていただきたい。

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"You can't stop" のcanは、《許可》のcanか? (Daft Punkのダンスナンバー)

今回の実例は、見た瞬間に思わず「?」となった訳文から。

先週のニュースだが、世界的に大売れに売れて完全に定番化していた音楽の作り手、Daft Punkが解散した。Daft Punkはフランスのミュージシャン2人組*1。そういった背景についてはウィキペディアの例えば「フレンチ・ハウス」といった項目を参照していただくのがよいかもしれないが、彼らが売れたのは「フランス人だから」といったこと(一種の珍しさ)ゆえではなく、第一に、楽曲が多くの人の心をとらえるものだったからだ。そもそも、彼らの楽曲の曲名も、曲が「歌モノ」である場合の歌詞も、フランス語でなく英語だったから、クラブなどで彼らの曲を耳にして「いいな」と思ったとしても、それだけでは彼らがフランス人であることを知ることはできなかった。そもそもDaft Punkというユニット名も、人を食ったような英語である。Daftは「バカな、間抜けな」の意味の形容詞、Punkはまあpunkなのだが、語義としては「役立たず」みたいなけなし言葉だ。

当ブログは彼らの音楽については扱わない(音楽的なこと・文化的なこと・時代的なことについては、例えば、沢田太陽さんのこの文章などをご参照いただきたい)。当ブログで扱うのは、その彼らの解散を報じるニュースにあった訳文である。個人的に「?」となってしまい、その後しばし考えた。

*1:ロボットだから「2人」というのはおかしいかもしれないが、ここでは「人」扱いしておく。

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紛らわしいthatの用法, 感覚動詞+O+動詞の原形, 前置詞+動名詞, want to do ..., want ~ -ing, want ~ to do ... (アーセナル新任監督、ミケル・アルテタの抱負)【再掲】

このエントリは、2019年12月にアップしたものの再掲である。

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今回の実例は、スポーツのチームで、新任の監督が抱負を語ったという記事から。

アーセナルFCは、20年以上チームを率いたアーセン・ヴェンゲル監督が退任したあとを受けたウナイ・エメリ監督のもとでぐだぐだになってしまい、サポーターからの「エメリ辞めろ」のコールが日に日に高まる中で、クラブのフロントも11月の終わりについにエメリの解任を決断、後任が決まるまでの臨時の監督に、エメリのアシスタント・コーチで、かつてアーセナルで活躍したプレイヤーでもあるフレドリック・ユングベリが任命され、一方で正式な後任監督の人選が続けられた。その結果、最終的に監督になったのは、同じくかつてアーセナルで活躍したプレイヤーであるミケル・アルテタ

アルテタはバスク出身で、プレイヤーとしてはイングランドでの経験が最も長い。2005年から11年をエヴァトンで過ごし、11年から16年をアーセナルで過ごして現役を引退。その後はマンチェスター・シティでアシスタント・コーチを務めていた。アルテタは実はヴェンゲルが退任したあとの後任に取りざたされていたのだが、そのときは経験のなさからか登用されず、すでにパリ・サンジェルマンなどでたっぷり実績を積んでいたエメリが選ばれていた。そのエメリがチームをまとめることができず、ぐだぐだになってしまったアーセナルを何とかできるのは、アーセナルをよく知るアルテタだと期待されての人選と思われる。

というわけで、とにかく期待がものすごいふくらんでいるのだが、その期待をふくらませているのは第一に(サポーター以前に)スポーツ・ジャーナリズムである。今回の記事はそういうコンテクストの中にある記事だ。こちら: 

www.theguardian.com

「チームを一つに団結させていく」ということを表すためには、"will not tolerate dissenters" という表現は、なかなか、刺激的である。記事本文(アルテタの発言が多く紹介されている)には "dissenter" という単語は入っていないようだから、これはアルテタ本人の言葉ではなく、見出しを書いた人がブチ上げた「派手で人目をひく見出し」にすぎないのだろう。こういう見出しづくりは、スポーツ新聞の類(タブロイド)でなくてもよく行われる。にしても、ちょっと過激すぎると思うが……。

 

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【ボキャビル】apologise for ~, 過去分詞単独での後置修飾, 動名詞の意味上の主語, 未来完了など(落選議員の泣きっ面に蜂)【再掲】

このエントリは、2019年12月にアップしたものの再掲である。

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今回の実例は、12月13日の総選挙で残念ながら議席を失った議員が見舞われた悲劇についての報道記事より。

イギリスの国会議事堂は、観光ガイドブックの表紙にもなっている例の時計塔(ビッグ・ベンの塔)の横に広がっている豪奢な建物で、あの中には上院と下院の議場やロビーはもちろん、国王のためのスペースがあったり、議員や秘書・職員のための図書・資料室や食堂やバーがあったりするのだが、そういった「みんなで使うスペース」の他に、各議員のオフィスもある。

それらオフィスは2人で1部屋を使うこともある。そうして「オフィスメイト」になった議員同士として有名なのがトニー・ブレアゴードン・ブラウンである。この話を書き始めると長くなるので端折るが、ブレアとブラウンの物語をスティーヴン・フリアーズが映像化したThe Dealでは、2人の友情とライバル関係の始まりの場となるこのオフィスから物語が始まる。


The Deal (Stephen Frears)

これはセットで撮影されていると思うが、実際の議員のオフィスも、こんな感じの狭苦しいスペースだそうで、そこに各議員が書籍やら書類やら、パソコンやら何やら、議員としての仕事に必要なものを持ち込んでいる。替えのスーツやネクタイなどを置いている人もいる。

 

今回の記事は、13日の総選挙で議席を失った(元)議員が、そのようにしてオフィスに置いてあった私物が、勝手に処分されてしまっていたというあまりに気の毒な件についての報道記事である。記事はこちら: 

www.theguardian.com

見出しにある "incinerate" という単語は、大学受験生は覚えておかなくてよいが(長文に出てきたら語注を付けるレベルの語)、「~を焼却処分する」という意味。はてなブログでURLを埋め込むとこの見出しで表示されるが、実際にリンクをクリックすると "incinerated" ではなく "destroyed" と書かれていると思う。英検1級を受験する人はここでこの2つの語をほぼ同義の類義語として覚えてしまえばよいボキャビルになるだろう。

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やや長い文、助動詞+have+過去分詞、関係代名詞、など(チャールズ・ディケンズ、生涯最後のクリスマスに届かなかった七面鳥)【再掲】

このエントリは、2019年12月にアップしたものの再掲である。

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今回の実例は、クリスマス前の「小ネタ」系記事から。

チャールズ・ディケンズという名前は日本でもよく知られている。19世紀ヴィクトリア朝の英国を代表する小説家のひとりだ。当時の超売れっ子の流行作家で、ものすごい多作なのだが、中でも『クリスマス・キャロル』『オリヴァー・ツイスト』、『二都物語』、『大いなる遺産』といった作品は20世紀、に複数回映画化されていて、本を読まない人でも話を知っていることが多い。現地(英国)では「教科書に必ず載っている文豪」という存在なので、誰もが一度は何かしら作品を読んだことがある。日本で言えば夏目漱石と言われることもあるが、実際に作品に接する機会の多さでは宮沢賢治みたいな存在じゃないかと思う。いや、実際にはそれ以上で、アートフル・ドジャーやフェイギンやスクルージといった登場人物がその小説の外で認識されるくらい、常套句を用いれば「国民に親しまれている」作家だ。当然、とっくの昔に著作権は失効しているから、作品はネットで自由に読めるようになっている(下記、プロジェクト・グーテンベルクへのリンク参照)。何か読むものを探しているという方は見てみるとよいと思う。19世紀の英語は、勝手にイメージするほど古臭いものではない。

www.gutenberg.org

 

私自身、ディケンズは、中学・高校のときに日本語訳を学校の図書館で借りて読んでいるのと、映画化作品を何作か見ているだけで、実際のディケンズの文を読んだことはほとんどない。大学受験のときに使った問題集で長文の素材文として使われていたり、大学で読んだ論文に一部抜粋が入っていたりしたので断片的に読んだことはあったが、小説としてディケンズの書いたものをそのまま読むという機会はないままだった。先日、ちょっとしたきっかけがあって『クリスマス・キャロル』を読んでみたのだが、とても読みやすくて楽しめる英文だ。必要があれば日本語訳(多数出版されている)と照らし合わせて読んでみてもよいだろう。寛大さと善行、思いやりという、英語圏での現在の「クリスマス・スピリット」を決定づけたのが、この小説だそうだ。

www.gutenberg.org

 

クリスマス・キャロル (新潮文庫)

クリスマス・キャロル (新潮文庫)

  • 作者:ディケンズ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2011/12/02
  • メディア: 文庫
 
クリスマス・キャロル (光文社古典新訳文庫)

クリスマス・キャロル (光文社古典新訳文庫)

  • 作者:ディケンズ
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2006/11/09
  • メディア: 文庫
 

 

というわけで今回の記事はこちら。そのディケンズが、生涯最後となった1869年のクリスマスをどう過ごしたかがわかった、という「小ネタ」記事。長らく忘れ去られていた書簡が再発見されたのだそうだ。

www.theguardian.com

 

この記事は、最初のパラグラフで全体の内容のあらましが書かれ、2番目のパラフラグから後で内容が詳細に説明されている。これが報道記事の標準的なスタイルだ。このスタイルの文章は、出だしのパラグラフを読んでよくわからなくても、そこで止まらずに先に進んで読んでいくと内容がつかめる。

分量がある記事ではないので、全文に目を通していただきたい。

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報道記事の見出し、見出しにおけるto不定詞、分詞構文、to不定詞の形容詞的用法、など(ドナルド・トランプ弾劾)【再掲】

このエントリは、2019年12月にアップしたものの再掲である。

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今回の実例は、つい先ほどのニュースから。

今日2019年12月18日から19日(時差により日付が変わる)に世界的に最も大きな関心を集めているのは、米国議会下院でのトランプ大統領弾劾決議だ。決議は「権力の乱用」と「議会の妨害」の2点について行われ、最終的には2点とも可決された。

最初の「権力乱用」での決議の結果が出たのが日本時間で19日の午前10時半前、続いて「議会妨害」の結果がその20分後くらいに出た。

 

これを伝える英BBC Newsとガーディアンのトップページ(アプリ版)は、11時少し前の時点で、下記のようになっていた*1。 ガーディアンの方に出ているリード文(見出しの下の文)を見ると、この画面は2件目の決議(「議会の妨害」)の投票が進行中の間に作成されている。

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*1:米国のメディアは個人的にチェックしていないのだが、もっと大きく扱っているのではないかと思う。

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論説文のスタイル, 抽象名詞であるはずのものに複数形のsがつくとき, 付帯状況のwith(パンデミックと人権: 国連事務総長の主張)

今回の実例は、国連のアントニオ・グテーレス(グテレス)事務総長の文章から。

本題に入る前に、そのグテーレス事務総長へのインタビューを行うに際し、毎日新聞が読者から事務総長への質問を受け付けている。受け付けは今日、2月24日いっぱいまでとなっている。下記リンク先に趣旨説明があり、最後のパラグラフに質問投稿受付フォームおよびLINEアカウントへのリンクがあるので、そちらからご投稿のほど。ちなみに私はこういう内容で投稿した。

コロナ禍を人類は乗り越えることができるのか。偽情報や陰謀論自国第一主義の混沌(こんとん)の中で深まる対立、深刻化する気候変動を解決し、貧困を減らして男女平等も含む「SDGs(持続可能な開発目標)」を達成できるのか――。国連の取り組みが、今、改めて問われています。日本は分担金拠出額3位の主要貢献国。みなさんが国連に持つ関心や懸念などを、ぜひお聞かせください。

mainichi.jp

さて、本題。そのグテーレス事務総長が22日に、パンデミックの中の人権というテーマで、ガーディアンのRights and Freedom(権利と自由)のコーナーに寄稿している(→ archived here)。非常に広い範囲を扱った文章で、内容的には決して読みやすくはないが、構成はかっちりしていて、読む側が「藪から棒に、何の話だ?」と思ったところがあっても、そのあとの部分で丁寧な解説と情報の整理がなされ、そのうえに主張があるという、まさに論説文のお手本のような論説文なので、少々分量が多く感じられるかもしれないが(語数カウンターにかけたところ、790語だった)、ぜひ全文を読んでいただきたいと思う。英語学習という点から得るものが多いはずだ。

www.theguardian.com

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分詞構文、省略語で使うピリオドの有無(英米差)、定冠詞のtheの省略、be known for ~など(パキスタンの元大統領に反逆罪で死刑判決)【再掲】

このエントリは、2019年12月にアップしたものの再掲である。

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今回の実例は国際報道の記事から。

2001年から08年の間に意識があった大人なら「むしゃらふだいとうりょう」というフレーズは「ムシャラフ大統領」と即座に認識されるだろう。米同時多発テロからイラク戦争へと突き進んだ時代、国際ニュースで何度も出てきた名前だ。多くの人は、彼がパキスタンの大統領だったということも知っているだろう。

だがそのムシャラフ大統領がどういう人だったか、またいつ「大統領」になり、いつ退陣したのか、その後はどうしていたのかは知らない人がかなり多いんじゃないかと思う。ニュースに出なくなり、言及されることもなくなったからだ。

また、2008年までに国際ニュースをそれなりに熱心に見るという経験がなかった人は、まったく名前を知りもしないかもしれない。2005年ごろに小学生だった男性は「ムシャラフ」という名前が何か強そうだったし、テレビで見た顔が印象的で(「人の好さそうな丸顔なのに眼光だけやたらと鋭い」と)覚えてしまったそうだが。

そういう人でも、今回の記事の中ほどに "At a glance" として箇条書きの簡潔な年表みたいなのが挿入されているので、まずはそこを見ればどういう人なのかがわかるだろう。

記事はこちら: 

www.bbc.com

見出しだけでも十分に衝撃的だと思うが、この報道内容については日本語報道を参照しておくのがよいだろう。

www.jiji.com

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日本語の「仕方がない」を英語でどう表現するか, およびアメリカ英語のAAVEについて

今回の実例は、Twitterから。

現実世界に複数言語話者がいるのだから、Twitterにも複数言語話者がいて、その中には日本語を外国語として習得した人々もいる。そして、英語を母語とする日本語話者の間でときどき、日本で日本語のフレーズの「対訳」としてあらかじめ与えられている英語のフレーズについて、指摘がなされることがある。

今回見るのはそういう例だ――とはいえ、ツイート主がこの直後に「これは冗談だからね」と言っているので、あまり真に受けすぎてもいけないのだが。

まずは文面を虚心坦懐に読んでみよう。

"be played out" はbe outdatedとだいたい同じ意味。この場合のplay out ~は、「outの状態になるまで~をplayする」という意味で、「~をやりつくす、使い果たす」みたいな意味になるわけだが、これが受動態になったものが "be played out" で、「限度まで使い果たされる」、すなわち「もう使えない」から「古びてしまっている」ということだ。

これはよく「ネイティヴらしい」と形容される表現のひとつで、うちら外国語としての英語を使う者にとっては素直にoutdatedという専用の単語を使ってもらったほうがわかりやすい。なお、世間でウケる「英語は中学3年分で大丈夫」みたいな方針の英語学習本は、このplay out ~/be played outみたいなものも「中学レベル」と扱っているので、要注意である。

というわけで、上記@BadForUsさんのツイートの第一文は、「日本語の『仕方がない』を、"it can't be helped" と英語にするのは、古臭い。今はそんな英語を使う人はいない」という意味。

この「仕方がない」= "it can't be helped" の古式ゆかしい対訳ペアは、ずっと昔からあるもので、私もかつてそう教わったことがあるのだが(例えば研究社の新和英中辞典が引けるWeblio辞書のサイトで検索すると、この対訳ペアがあることが確認できる。そして和英辞典に載っていれば多くの「日本語の英訳」の文章に出てくることになり、それを通じて英語圏の日本語学習者が目にすることになる*1)、学校の試験のようなものは別として、会話の際に自分で使ったことはないと思う。その時々の文脈に応じて "No choice." とか "There's nothing we[you] can do about it." とか "That's life." いった表現が自然に出てくるからだ。"It can't be helped." なんて19世紀の上流階級のような言葉遣いは、自然にはできない。

@BadForUsさんのツイートは、ここまでは「冗談」ではない。「冗談」なのは第二文だ。

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as ~ as ..., 《条件》を表す直説法のif節, those who ~, spend ~ -ing, the + 比較級 ~, the + 比較級 ... 【再掲】

このエントリは、2019年12月にアップしたものの再掲である。

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今回の実例も、前回のと同じ、労働党の大惨敗に終わった総選挙の結果を受けて労働党の国会議員であるジェス・フィリップスが書いた論説記事*1から。

記事はこちら: 

www.theguardian.com

今回見るのは、前回見た部分のすぐ次のところから。

*1:ガーディアンは労働党の新聞だし、こういうのは「論説」ではなく「総括」と言うのかもしれないが、個人的にそういう用語に疎くて使いどころが分かっていないので、その点はご容赦いただければと思う。

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《感情》の原因を表すthat節, thousands of + 複数形, 動名詞, 《同格》のthat節, get used to -ingなど(労働党の大敗を直視する労働党議員)【再掲】

このエントリは、2019年12月にアップしたものの再掲である。

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今回の実例はガーディアンに掲載された論説記事より。

12月12日(木)に行われた英国の総選挙の結果は、広く日本でも報道されている通りで、獲得票数を分析すればまた違った像が現れるのかもしれないが、獲得議席数(選挙の結果を語るのは議席数だけである)では保守党とスコットランドのSNPのバカ勝ち・労働党の大惨敗という結果になった。大雑把なところをざっくり書いたものが本家ブログにあるので、関心がある方はご参照のほど(高校生向けにわかりやすくは書いていない)。

nofrills.seesaa.net

 

保守党の勝ち方の規模については、直接の数値はこの秋にボリス・ジョンソンに反対した保守党の議員たちが21人も党を追われたことを勘案して見るべきなのだが、保守党がどこで議席を獲得したかを見れば、もうそういう域は超えてるとしか言いようのない結果だ。つまり、これまで一度も保守党議員を出したことのない、労働党が地盤としてきたイングランド北部の選挙区が、労働党候補を落選させる例が相次いでいる。

議席が確定した投票翌日までは、ショックと混乱、拒絶・否認と怒りという感情が渦巻いていたが(特にコービン労働党を支持していた人々の叫びは、一部「お前らがそういうふうだからこうなったんだよ」と思わずにはいられないものもあったが、ほとんどは本当に悲痛なものだった。みんな信じていたのだし、みんな献身的だった、それは事実だ)、翌々日の土曜日になると、その衝撃の事実を前に、多くの労働党関係者・支持者が非常に厳しい分析を行うようになっていた。

今回見るのはそのような分析のひとつで、筆者はジェス・フィリップスイングランド中部の大都市、バーミンガムの選挙区の1つから今回も選出された労働党の国会議員で、1981年生まれと若い政治家だ。バーミンガムで生まれ育ち、大学はリーズだが大学院はバーミンガムで、選挙のために住所を移してきたような人ではない。つまり、彼女は彼女の選挙区をよく知っている。そういう人が忌憚なく現状を分析して書いた文章である。記事はこちら: 

 

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thatの区別, 補語になるthat節, 関係代名詞のthat, let + O + 動詞の原形, (また新たな変異株、B.1.525: その3)

今回も、前々回前回の続きで、新型コロナウイルスのまた新たな変異株についての報道記事から。

この記事のこの部分は、変異株についての恐怖感をあおらないようにする文体というか、情報を手際よくむぎゅむぎゅと詰め込んで、立て板に水のように語っている調子の文体の箇所なので、読む立場としては、見た目のボリューム感以上に読むのに時間がかかると思う。私が高校生の時にこういうのにぶち当たると、わからなくてわからなくて、場合によっては泣きながら、必要とあらば30分でも1時間でもかけて考えて読み解いていた。そうやってするすると読めたときの「これか」という感覚が、いわゆる「ブレイクスルー」の感覚だったのだと思う。というわけで、ちょっとつらいと思う方も少し頑張ってもらいたい。(全然歯が立たないという場合は、もう少しシンプルな例で基礎力を固めたほうが効果的であるが。)

記事はこちら: 

www.bbc.com

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連鎖関係代名詞, やや長い文, make + O + C, など(また新たな変異株、B.1.525: その2)

今回の実例は、前回の続きで、報道記事から。

今回は前置きなしで、いきなり本題に入ろう。記事はこちら: 

www.bbc.com

前回見たところの続きを読んでみよう。

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接触節, やや長い文, help + O + 動詞の原形, など(また新たな変異株、B.1.525)

今回の実例は、報道記事から。

ウイルスというものには変異が生じる。この1年間、世界を振り回してきた新型コロナウイルスも例外ではなく、2021年になってから世界的に注目を集めているのは、昨年の終わりに英国というかイングランドで確認された変異株と、それとほぼ同時に南アフリカで確認された変異株と、その少し後にブラジルで確認された変異株である。それぞれ、その変異が起きていなかったころのウイルスより感染力が高いといった特徴があり、確認されたときにはすでに一般の人々への接種が始まっていたワクチンが効くかどうかということも素早く検証されて大きく報道されていた。

このうち、イングランドで確認された変異株は、日本の報道では「英国型変異株」といったように呼ばれ、英国の報道では "the UK[British] variant" のほか、ケント州から発生した/ケント州で見つかったということから "the UK 'Kent' variant" などと呼ばれているが、英語圏でも多少専門的な用語を使うところでは "the B.1.1.7 variant", "lineage B.1.1.7"  などと表記されている。ピリオドを省略した "B117" という表記もよくなされる。この名称について詳細は英語版ウィキペディアを参照されたい。また、新型コロナウイルスの変異株のうち特に注意を要するものについても、英語版ウィキペディアにまとまっているので、それを参照されたい(ネット上の英語圏でだれでも自由に入手できる情報の量は、例によって、日本語圏でだれでも自由に入手できる情報の量とは、比較にならないほど大きい)。

B117株は、"Variant of Concern 202012/01*1"、つまり「懸念を生じさせる変異株、2020年12月の第一号」とも呼ばれているが、この Variant of Concern というのはイングランドの保健衛生当局がまとめているものである。変異株はたくさんあって、大半は特に大きな意味を持たないのだが、中には「ちょっとこれは……」となるものもあり、それら、「Concernとまでは行かないがちょっと気になるのでいろいろ調べている」という段階の変異株は "Variant under Investigation" と位置付けられている。

さて、今回新たにB.1.525と呼ばれる変異株が発見され、その変異株もまたちょっと気になる存在である、との報道が、今週各メディアでなされている。今回はBBC Newsでのその記事を見てみよう。記事はこちら: 

www.bbc.com

記事は(BBC Newsにしては)短いもので、大きく2つのセクションから成る。

*1:これを略すとVOC-202012/01となる。

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固有名詞が複数形になるとき, 助動詞+完了形, など(ドナルド・トランプの弾劾裁判の結論に)

今回の実例は、Twitterから。

(以下、肩書・敬称等省略)

日本の報道機関でも大きく報じられていると思うが、ドナルド・トランプの弾劾裁判は、予想されていたより早く先週末に結論が出され、共和党の反対により上院で必要な3分の2に届かず、米議会はトランプを1月6日の暴動煽動について、明白な証拠が山ほどあったにもかかわらず、有罪にすることはできなかった。下記BBCニュースのフィードに "43-57" とあるのは、「無罪が43票、有罪が57票」のことで、単純な過半数で事態を決定するシステムであれば「有罪」になっていた。隅から隅まで、政治的なことである。

この様子を、私はTwitterでジャーナリストやアナリスト、研究者のフィードを追って見ていた。意味合いとしては、共和党から7人が「有罪」に投票したという事実は軽視できない。

そうであっても、あれほど明白な証拠の数々がありながら、最終的な結論としてトランプを「有罪」にできず、すなわち「無罪」にしてしまったということは、好むと好まざるとにかかわらず、自分たち自身には何の権利もないのに一方的にアメリカ合衆国の政策にすべてが左右されてきた世界の多くの人々にとっては、まさに、呆れるよりないような事態である。これについては、アメリカ人ジャーナリスト(パレスチナ系)のアハメド・エルディン @ASE の下記の言葉に尽きると思う。

"future Trumps" と複数形になっているのは、これがドナルド・トランプ個人のことではなく、「将来出てくるトランプ型の人々」のことだからで、@ASEが言っているのはドナルド・トランプ個人がサイド大統領選に打って出るとかそういうことではなく、共和党そのものがトランプ的な何かの党になってしまった(のであろう)ということだ。

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