今回の実例は、ぜひ見ていただきたい映像報告から。
アラビア半島は、大部分がサウジアラビアだが、一番南側の端に細いベルト状に2つの国が並んでいる。東半分がオマーン、西半分がイエメンだ。
今から約10年前、チュニジアでの民衆の行動の末、2011年1月に大統領が退陣・国外逃亡に追い込まれたあとで、中東の独裁者に対する民衆の抗議・民主化要求の行動はエジプト、バーレーン、リビア、シリアなど中東・北アフリカ各国に広まっていったのだが、その中で最も早く抗議行動が組織されたのがイエメンだった。だがチュニジアやエジプトのようには事態は進まず、同年末に当時の大統領(長期政権の独裁者)が退陣したものの、その退陣した独裁者が国内の反政府勢力と結んで、後継の大統領の政権を攻撃するというめちゃくちゃな事態となり、そして武装勢力を手先とする国の思惑などもあり、「独裁者への退陣要求と政治の民主化要求」から始まった騒乱は、何年かの間に近隣の大国の代理戦争と化し、イエメンは昔から英国との関係がいろんな意味で深かったのだが、現代社会の超大国である米国も英国も、それら近隣の大国との関係などいわゆる「大人の事情」的なことがあって、そしてイエメンの状況はとてもひどいのだが、シリア内戦ほどにも取り沙汰されなくなってしまった。
どのくらいひどいかというと、このくらいである。80年代であればポップスターが出てきてチャリティ・ソングによる連帯運動を組織していただろう。
War and famine could wipe out the next generation of Yemenis https://t.co/E1vEAoVHTJ
— enjoli liston (@enjoli_) 2021年3月1日
"wipe out ~" は、1語ずつ丁寧に見ていくと、「wipeして、~をoutの状態にする」ということ。"wipe"は「ワイプ」というカタカナ語になっているが「ぬぐう、ふく」の意味。「outの状態」とは「その場から消えた状態」のことで、つまり "wipe out ~" は「~を完全にぬぐい去ってしまう」だ。
その前にある "could" は仮定法が元となった言い方で「~するかもしれない」ということを表す。このcouldは、無視できないレベルで危機が深刻であるという場合によく用いられる。「戦争と飢餓が、イエメン人の次の世代を一掃してしまうかもしれない」ということである。詳細な内容はリンク先の記事をご覧いただきたい。
こういうときに何かをできるはずの国連も、手をこまねいているわけではないが、ほとんど何もできない状態で、各国からの支援も減額されていて、グテレス事務総長が次のように「落胆した」という発言をTwitterでしているくらいである。
The outcome of today’s pledging event for Yemen is disappointing.
— António Guterres (@antonioguterres) 2021年3月1日
I thank those who pledged generously & ask others to consider again what they can do to help stave off the worst famine the world has seen in decades.
The @UN stands with the starving people of Yemen.
米拠点の難民等支援団体「インターナショナル・レスキュー」 のトップを務めるデイヴィッド・ミリバンドも、次のように述べているが、イエメンがなぜこうなっているのかということでの重要な要素(サウジアラビアという存在)についての言及はない。
The news that today’s UN pledging conference on Yemen resulted in less than half of what was asked for and necessary to save lives is a symbol of global retreat from addressing critical global problems: https://t.co/t2boFNQ6pd
— David Miliband (@DMiliband) 2021年3月1日
英国政府の支援減額については下記記事など。
さて、そういう状況の中、BBCの取材陣がイエメン南部の街、タイズに入っている。ここは対立する両勢力が向かい合う最前線となったため、破壊の程度が著しい。BBCのオーラ・ゲリン記者は戦場からの報道、特に戦場に暮らす民間人・一般市民についての報道をよくしている記者だが、今回はタイズの学校を取材している。
「学校」、というか……。
報告は、4分足らずの映像だ。記者は英語で語り、取材されている児童らはアラビア語で話しているが、全編にわたって英語字幕(アラビア語の部分は英訳の字幕)が表示されるので、聞き取りができなくても内容の把握は問題なくできるはずだ。ぜひ、全部を見てみていただきたい。
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