今回の実例は、前回の続きで、グレッグ・ミッチェルさんのブログから。前置きなしでいきなり本題に入る。記事はこちら。
gregmitchellwriter.blogspot.com
前回は、原爆投下の2日前の米国政府および米軍内の動きを、端的に箇条書きでまとめたこのブログ記事の3パラグラフ目の前半を見たが、今回はその後半を見ていこう。
続きを読む今回の実例は、前回の続きで、グレッグ・ミッチェルさんのブログから。前置きなしでいきなり本題に入る。記事はこちら。
gregmitchellwriter.blogspot.com
前回は、原爆投下の2日前の米国政府および米軍内の動きを、端的に箇条書きでまとめたこのブログ記事の3パラグラフ目の前半を見たが、今回はその後半を見ていこう。
続きを読む今回の実例は、歴史的事実を丹念に調べ、それまで当てられていなかった光を当てるということを地道に続けてきたジャーナリストのブログから。
今日は8月6日、広島市に原爆が投下された日である。戦後平和公園として整備されたかつての市街地では、広島市民や被爆者の方々、市長や県知事といった行政のトップに、日本政府の総理をはじめ閣僚、そして外国の大使などが参列しての平和記念式典が行われ、午前8時15分の投下時刻に黙禱が捧げられ、市長による「平和宣言」が読み上げられる。
そしてこの日、Twitter上の英語圏でも "hiroshima" は数多く言及されるし、多くの祈りが捧げられ、核廃絶(核兵器廃絶)への願い・誓いが言葉にされる。被爆の実相をまざまざと示す写真もツイートされる。その一方で、「広島に原爆投下」と聞くとまるで判で押したかのように「あれは正しいことだった」と言い募る人々が、まさに「湧いて出る」としか言いようのない感じで出てくる。その論拠は、「なるほど、確かに広島への原爆投下は悲惨な結果をもたらした。しかし、そうしたからこそ戦争を終わらせることができ、それ以上の流血を防ぐことができたのだ」というものである。ここで彼ら・彼女らが言う、防ぐことのできた「流血」とは、連合軍側、つまり自分たちの側の流血であり、日本人、特に日本の民間人のことなどは、それらの判で押したような言葉の主たちの視界にも入っていない。
https://t.co/J2FMBgi563 英語での "hiroshima" の検索結果。ちょっと踏み込むと、原爆投下によって生じた被害を具体的に書いている歴史学者のツイートに対する「なるほど、日本の市民の犠牲は残念だった。しかしこれによって連合国側で100万人の犠牲が未然に防がれた」云々のリプに遭遇するが。
— n o f r i l l s /共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) 2021年8月6日
その「原爆投下は正しかった」論は、戦後、アメリカ合衆国が自分たちの非を認めることができないという状況下で定着した「公式見解」みたいなものだが、事実とはかなり違っている。そのことを、資料の掘り起こしなどの地道な作業を通じて実証してきた人々のひとりが、アメリカ人ジャーナリストのグレッグ・ミッチェル氏である。第二次大戦終結の2年後にあたる1947年に生まれ、1980年代から核問題の分野で大きな仕事をしてきたベテランで、特に広島と長崎の原爆被害の実相を米国政府がいかにして隠蔽してきたかについての調査報道で知られる。
ミッチェル氏は所属媒体とは別に個人ブログやTwitterでの発言も活発で、最近は、毎年8月6日が近くなると、米トルーマン大統領の原爆投下の決断についてなど、米国での動きが記録された史料を丹念に掘り起こしてわかったことを読みやすい分量でまとめた過去(2013年)のブログ記事をフィードしている。その内容は、米国で広く信じられている公式の〈物語〉、すなわち「日本への原爆投下はいたしかたかなかった。投下していなかったら戦争は終わらず、欧州戦線はとっくに決着がついていたにもかかわらず、連合国側で大量の死者が出ただろう」という原爆投下正当化の言説に、大きな疑問符をつきつけるものである。
今年の3日以降のフィードは下記:
My Countdown to Hiroshima for today: 3 days before bombing Truman and Sec. of State Byrnes well aware of Japan's surrender overtures. Joint Chiefs chairman Leahy feels "barbarous weapon" not needed. https://t.co/W7Zfv6EnQU pic.twitter.com/T3h6MmCVVa
— Greg Mitchell (@GregMitch) 2021年8月3日
My Countdown to Hiroshima for today with two days to go: Bomb readied, Truman heading home, center of Hiroshima #1 target, but Gen. MacArthur still does not believe use of bomb necessary. https://t.co/ThHru34u0v pic.twitter.com/X5IxBJJjt6
— Greg Mitchell (@GregMitch) 2021年8月4日
My Countdown to Hiroshima, re: the eve of the bombing in 1945, the final fateful moments (and certainty that a 2nd bomb will be deployed). https://t.co/Ujv6GAEwVa pic.twitter.com/MXibMMlFTc
— Greg Mitchell (@GregMitch) 2021年8月5日
どれも一読に値する内容だが、今回は、2番目のツイートでフィードされているブログ記事から、英文法の実例を見てみよう。
続きを読むこのエントリは、2020年4月にアップしたものの再掲である。
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今回の実例は、新聞に出ている解説記事から。
文脈は下記連ツイ参照。(変換ミスは見逃してください)
しばらく前に英国のニュースで呼んでたこととほぼ同じ。今日もガーディアンにこの話しに関連する記事参照出てる。この次にぶら下げるの https://t.co/tVSXMePbWS
— nofrills/共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) April 7, 2020
How can Coronavirus models get it so wrong? https://t.co/1TS5tXkMuL この記事の文法事項を今日の英語実例ブログで取り上げる予定。
— nofrills/共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) April 7, 2020
これもそうだ。UCLのコステロ教授、4月3日: Despite what Matt Hancock says, the government's policy is still herd immunity | Anthony Costello https://t.co/JoMdbCDMwz (最初にherd innunity論に異を唱えた専門家のひとり)
— nofrills/共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) April 8, 2020
コステロ教授による最初の記事、3月15日: https://t.co/tQkxJGBTud The UK’s Covid-19 strategy dangerously leaves too many questions unanswered
— nofrills/共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) April 8, 2020
UCLのコステロ教授のこの指摘のあと、3月17日にImperial Collegeのファーガソン教授らによる研究論文が出て https://t.co/Dl6DmzlvQY 、英国政府は方針を転換した(少なくとも表向きは)https://t.co/upEgw7KSZL 。しかしそこで示された「検査検査検査の方針」はあまり実行されていない。←今ココ
— nofrills/共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) April 8, 2020
記事はこちら:
この「ピークはいつなのか」論は、4月8日現在、米国各州の地域メディアで大きな関心事となっているようで、Google newsで "the peak" あるいは "peaked" で検索すると記事がザクザク出てくる。その辺のことは英語表現集Wikiの方に少し書いたのでそちらもご参照のほど。
english-vocab-covid-19.memo.wiki
english-vocab-covid-19.memo.wiki
続きを読むこのエントリは、2020年4月にアップしたものの再掲である。
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今回の実例は、文法云々というより、聞き取りの練習。国連事務総長のメッセージを見てみよう。
今日、4月7日は「世界保健デー」である。英語ではWorld Health Dayと言う。WHO(世界保健機関)の設立を記念する日だ。詳細はリンク先(ウィキペディア日本版)でご確認いただきたい。WHOは、今はいろいろ言われてはいるが、人間の健康に関する問題を、世界全体・地球全体の問題として取り組んでいこうという方向があるのはこの機関のおかげである(たとえば1918年の所謂「スペイン風邪」のときは、こういう機関がなかった)。
この日にアントニオ・グテーレス(グテレス)国連事務総長は、Twitterアカウントにメッセージビデオをアップした。英語音声に英語字幕付きで、話すスピードも速すぎないので、聞き取りの練習にうってつけである。
World Health Day this year comes at a very difficult time for all of us.
— António Guterres (@antonioguterres) 2020年4月7日
We are more grateful than ever to all of our health workers fighting the #COVID19 pandemic.
You make us proud and you inspire us.
We stand with you and we count on you. pic.twitter.com/laENQX4HfK
Twitterのこの画面では、画面下部の英語字幕を消すことはできないので、字幕を見ずに耳だけで聞き取りをしたいという方は、紙などで物理的にモニターのその部分を覆う必要がある。
話し手のグテレス事務総長は英語は母語ではない。ポルトガル出身の政治家で、同国元首相(1995年~2002年)、国連では国連難民高等弁務官(2005年~2015年)を務めた経歴の持ち主で、2017年に国連事務総長となった。詳細は下記など参照。
グテレス事務総長の英語は、ところどころで「R」の音に強いクセがあるが(巻き舌)、非常に聞き取りやすい「グローバル・イングリッシュ」の好例である。私たち日本語母語話者も、「ネイティヴのようにぺらぺら」になる必要はなく、多少の日本語のクセはあっても、グテレス氏のように、落ち着いて、はっきり伝わるように話すようにしていけばよい。
続きを読む今回の実例はTwitterから。
前回取り上げたアレックス・スコットのツイートには、彼女と同じく労働者階級のバックグラウンドを有する人々から共感や感謝を示すリプライが多くついている。今回、実例として見るのはそのひとつ。
Solidarity Alex you are amazing and an inspiration. Never change and never try to tone down your accent - you being on our TVs every night sends such an inspirational message to millions of kids that they can achieve their dreams and is doing more than the haters ever could 😘
— Angela Rayner (@AngelaRayner) 2021年8月1日
投稿者のアンジェラ・レイナーは、労働党所属の国会議員(下院議員)。1980年生まれで、1984年生まれのアレックス・スコットとはほぼ同世代の女性である。マンチェスターのエリアにあるストックポートという街の出身で、16歳で子供を産んだために学校を中退し(そのときの子供の父親とはのちに結婚している)、後に専門学校(職業訓練校)で手話を学んでソーシャル・ケア・ワーカーの資格を取り、地元の議会で働いているときに労組の活動に携わったことから、労働党との接点を持つようになり、2014年に下院議員として初当選した。2016年には当時の労働党党首ジェレミー・コービンによって「影の内閣」の一員(教育大臣)に抜擢され、メディアでの露出も多くなり、同時にコンサルでもついたのかルックスにもこだわるようになって*1、私は「写真を見るたびに髪の縦ロールが盛り盛りになっていく人」という印象があるのだが、明らかに、「次世代の労働党を担う若手」の1人として存在感を発揮しようとしている(というか実際に発揮している)政治家である。たぶん、今の労働党では最左翼に位置する人で、最近はキーア・スターマー党首によって党の要職から外されてニュースになり、そのすぐ後に別の要職につけられていたりする。
というわけで、このツイートをしたアンジェラ・レイナーも、アレックス・スコット同様、スコットの発音に文句をつけたディグビー・ジョーンズ卿(パブリックスクール出のビジネスエリートで、1955年生まれと高齢の男性)とは対極的なバックグラウンドを有する。
*1:これは多くの政治家が当たり前のように行っていることである。日本でも知られている例としては米国のヒラリー・クリントン。政界入り前は「切れ者だが、もっさりした堅物」のようなイメージだった彼女は、眼鏡を外して髪型を変え、華やかな印象を与える女性政治家となった。
今回の実例は、報道記事から。
英語では、人によって [ŋ] の音が [n] の音に置き換わってしまうこと(綴りで示せば "-ng" が "n" になること。例: doing → doin')がある。「人によって」というより、「集団によって」と言った方がよいかもしれない。 [ŋ] の音を [n] の音で発音する集団がいる、という感じで、その「集団」の話し方に特徴的なものとして、つまり「〇〇訛り」の一部として、認識されている。
英国の場合、特にロンドン下町の労働者階級、「コックニー」と呼ばれる人々がこの話し方をする。同じロンドンの人々であっても階級が違う人びとは [ŋ] の音は [ŋ] の音で発音するが、労働者階級を気取りたい場合はわざと [n] の音で発音する。米国の場合はこういう発音は「南部訛り」(テキサス州など)の大きな特徴のひとつであり、「黒人英語」の特徴でもある。
だから、アメリカの黒人の音楽にルーツを持つロックでは、この、 [ŋ] の音を [n] の音にする発音がよく見られる。というか標準的なものになっているといってもよい。エルヴィス・プレスリーの "Hound Dog" の歌い出しが "You aint nothin' but a hound dog" なのはとてもわかりやすい。
この現象は、綴りでは"-ng" が "n" になるので、g-droppingと呼ばれているが、実際の音としては何かをdropしているわけではなく、よく似た別の音に置き換えている。G-droppingについては、英語版ウィキペディアにそこそこ充実した解説があるので、関心がおありの方はそちらを参照されたい。
https://en.wikipedia.org/wiki/Phonological_history_of_English_consonant_clusters#G-dropping
というのが前置き。
そういう事情だから、英国ではこの g-dropping は「教養のない、下品な労働者階級の言葉」のシンボル的なものになっていて、お上品な界隈では嫌われているしバカにされてもいる(が、それを表立って言い立てる人はあまりいないかもしれない)。お上品な界隈を離れて一般に広げても、「テレビのニュースキャスターがこういうしゃべり方をしていたら、聞く気がなくなる」ということはあるかもしれない(それをネタにしたコメディなどはいくらでもあると思う)。映画『マイ・フェア・レディ』でも見られるし、50年かそこら前に、ロンドンのコックニーがウエストエンドのエスタブリッシュメントの中に入り込んで出世しようとして発音矯正を受けたときに最初に直されたのがこれだというインタビューも読んだことがある。
だが、それが自分のしゃべり方であるという「誇り」を抱いている人たちも、とても多いし、中にはテレビに出ている人でこのしゃべり方をしている人もいる。俳優ならばいろいろな訛りを使い分けるが、スポーツ界の人などは自分のしゃべり方をそのままテレビでも使う。これはどこの出身の人でも同じである(例えば、マンチェスターの人はマンチェスター弁でテレビでしゃべっている)。もちろん人それぞれで、「標準語」を使っている人もいるのだが。
ということが、ちょっとした騒ぎを引き起こした。というわけで今回の記事はこちら:
アレックス・スコットは元プロフットボーラー(女子サッカー)。アーセナルの女子チームなどで活躍し、イングランド代表としても輝かしい実績を残して勲章までもらっていて、現在はテレビでサッカー解説者として活躍している。彼女はロンドンの東部、ポプラーという場所の労働者階級の出身で、ばりばりのコックニーである。
その彼女が、今回テレビで解説をしているのを聞いて、「聞くに堪えない」とSNSでわめきたてたのが、上院議員である(つまり「貴族」である)ディグビー・ジョーンズ卿。経済界の大物で、「卿」の肩書は一代貴族だが、大学はオックスブリッジではないもののパブリックスクール出身である。
※このあと書きかけ。PC不調なので再起動して、すぐに書きます。すみません。→IMEの設定の初期化と再起動で直りました。カーソル移動するだけで日本語入力と直接入力が切り替わってしまうようになっていた。ショートカットキーを触っちゃってたのかもしれない。
続きを読むこのエントリは、2020年4月にアップしたものの再掲である。
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【2020年6月9日補記】
本稿は、2020年4月3日にアップロードしており、その時点でWHOのサイトで確認することができた最新情報を扱ったものである。その後、4月下旬にはドイツなど欧州各国で公共の場でのマスク着用が義務化されるなどの動きがあり、さらに6月5日には、広く報道されているように、WHOが方針を転換し、人と人との間隔が十分に取れない公共の場所では、ウイルス感染の有無に関わらず、広く一般の人々にマスクの着用を推奨している。この方針転換のため、本稿で扱っている記事の内容は古くなってしまい、参照しているWHOの文書もWHOのサイトで上書き更新されている。ただし、当ブログの本題である「文書に見られる英文法」にはそのことによる影響はないので、本稿は取り下げず、リンク切れっぽくなってしまっているところを改めたうえで、掲載を続けておくことにした。
本稿で見ているWHOの記事は古いものであるということ、最新の方針はこれとは異なるということを念頭に、以下、ご覧いただければと思う。なお、最新の情報は常にWHOのサイトでチェックしていただきたい。
【補記ここまで】
【以下、4月のアップロード時のまま】
今回の実例は、世界保健機関(WHO)の一般向け文書から。
安倍首相の「全世帯に布マスク2枚ずつ配布」案のニュースは英語圏にも広まり、全世界を「ダメだこりゃ」と感嘆させている。
安倍首相がドヤ顔で触れ回ってきた「アベノミクス」の看板は、日本語圏で想像する以上に英語圏では立派なものとして通用してきたのだが(そりゃそうだ、公文書についてのひどい扱いとか、めちゃくちゃな「閣議決定」といった細かい国内ニュースは、英語圏では伝えられないのだから)、その「アベノミクス」をもじった「アベノマスク」というフレーズは英語圏でもAbenomask, Abenomasksと文字化されてネット上を流れている。
Buy My Abenomask https://t.co/iXNsUN2bSJ
— Gearoid Reidy (@GearoidReidy) 2020年4月2日
#abenomask これ、何十年後かまで延々と言われ続けるやつだ。 pic.twitter.com/dXqz7ipnTo
— nofrills/共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) April 3, 2020
#abenomasks ハッシュタグが複数形までありやがって草
— nofrills/共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) April 3, 2020
(2枚だからね、複数形にしなきゃね。英語話者としてはね。) pic.twitter.com/ZUOhOq0AyY
というわけでネット上では「マスク」が話題沸騰の状態で、データで見たらきっとはっきりと用例数が増えているだろうと思うが、そのマスク、英語圏では単にmaskと言って済むなら楽だが、maskは多義語なので、単にそう言うだけでは日本で一般的に使っているあのマスクのことだとわかってもらえない単語だ(face maskなどと言う必要がある)。そのことについては、最近始めた英語表現集のWikiのページに書いておいた。
english-vocab-covid-19.memo.wiki
いや、「マスクのことだとわかってもらえない単語だった」と過去形にすべきときなのかもしれない(少なくとも今は)。風邪を引いたときなど日本で人々がマスクを着用するような場面で決してマスクを使わなかった欧州各国や米国でも、今回の新型コロナウイルスの流行でマスクが使われるようになっていることが各地から伝えられている。だから今では、ひとまとまりの文章の最初のほうで "face mask" と書いておけば、その次に出てくる個所からは単に "mask" と書けば通じるようになっている。逆に言えば、何度も "face mask" と書かれているのはうっとうしいと感じられるくらいに「マスク」が文章の中で主役になっていることが増えてきたともいえよう。そういったことはきっとどこかで誰かがテクスト分析をしている(GoogleとかTwitterとかが)。
だが「医療」という文脈に限定すれば、maskという単語は前から(「仮面」などではなく)「外科(医療)用のマスク surgical mask」のことだった。というわけでWHOが今回のウイルス流行に際してまとめたマスクについてのページを見てみよう。
なお、留意が必要なのだが、このページは古いもの(まだSARS-CoV-2というウイルス名が確定していない段階でまとめられたもの)である。それから2か月以上が経過した2020年4月初旬の現時点では、内容的に古くなっているところがあるかもしれない。ただし、マスク使用についての基本的な注意点は不変である(マスクを汚染しないための取り扱い方など)。
WHOによるマスク使用の方針は、日本語圏では「マスクに効果なし」という(「効果」って何? という疑問を覚えさせるような)ぼんやりした形で広く一般に浸透し、かねてからのWHOへの反発(「親中的」という反発が、非常に色濃い)ともあいまって、「WHO何するものぞ、マスク最強」みたいな極端な心理状態を生じさせているように私には思われるのだが、そもそもWHOは「マスクに効果なし」とは言っていない。「こういう条件下では、マスクに効果なし」ということを言っている。
つまり英語でいうと《条件》を表すif節を使った構造だが、この「こういう条件下では」を除去した雑な理解では、文意は正しく読み取れないし、コミュニケーションが壊れるだけである。「お腹が痛いなら、おかゆを食べるといいよ」が「(無条件で)おかゆを食べるといいよ」と解釈されるくらいならまだよいが、「お腹が痛いなら、一日中ずっと寝ていてもいいよ」が「(無条件で)一日中ずっと寝ていてもいいよ」と解釈された日には、どんなことになることやら、想像するだに恐ろしい。
というわけで、以下はそのWHOのいう「こういう条件下では」を見ていくことにしよう。
ちなみに、いくつかの単語を除いて、この告知の文面で使われている英語は、ほぼすべて、いわゆる「中学英語」の内容である。中学英語の内容が不安な人は、受験研究社や学研のような出版社から出ている「中学3年分の復習」みたいな薄い問題集を買って、一通り全部やってみてほしい。難関高校入試対策のようなものではなく、学校で習ったことの復習のための問題集だ。それが全問正解できないようでは実用英語なんて段階には進めないので(「中学英語」は、日本語でいえばひらがな・カタカナと小学校レベルの漢字の知識くらいのものだ)、しっかり確認してみてほしい。基礎を確認することは恥ずかしいことではないし、そのために使えるものを使うことも恥ずかしいことではない。あと、「中学総復習」系の問題集をお勧めするのは、それが比較的安価で買えるからでもある。
続きを読む
このエントリは、2020年4月にアップしたものの再掲である。
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※本稿も、前回と同様、かなり前に準備してあったもので、内容的には懐かしい感じもするかもしれない。しばしお付き合いいただきたい。
今回の実例は、前回の続き。あの「転売ヤー」がどうなったかという報道から。
前回見た記事(NYT)では、普段からAmazon.comで物品を出品して小遣い稼ぎをしているテネシー州のマット・コルヴィンという男性が、3月1日に米国で初めて新型コロナウイルスによる死者が出たと聞いてすぐに車を出し、行ける範囲の小売店を回って、手指消毒剤やマスク、除菌ウェットティッシュなどを買い占め、即座にAmazonに出品したらめっちゃいい金になったものの、翌日にはAmazonからアカウント停止され、大量の「在庫」を抱えて途方に暮れている、ということが伝えられていた。その後、この記事はアップデートされ、コルヴィン氏は「在庫」の医療品を寄付することにしたといったことが報じられていた。
hoarding-examples.hatenablog.jp
今日見る記事は、そのさらに続き。この件は本国アメリカだけでなく各国で注目されていて、英国のBBCも記事を出していた。というわけで今日の記事はBBCから。記事はこちら。
見出しの段階でボキャビルに好適すぎる一品である。
続きを読むこのエントリは、2020年4月にアップしたものの再掲である。
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※本稿はかなり前(2週間くらい前)に書いたものである(差し替えなどしていて全然投稿できていなかった)。必要最小限のアップデートは加えたが、「何もかもがみな懐かしい」という感覚を引き起こすかもしれない。ただ、実例は実例なのでお付き合いいただきたい。
今回の実例は報道記事から。
新型コロナウイルスの感染が広がるにつれて、世界的に、このウイルスに効果がある衛生用品の需要が急増して、小売店の店頭で入手することが難しくなり、ネット通販では価格が高騰している。
日本では、ちょうど花粉症の時期と重なったこともあって、マスクが品薄になり、ネットで一般人が自分の不用品を個人相手に販売できる「フリマ」のサイト/アプリでは、普通ドラッグストアで298円で売られている花粉症対策マスクのようなものに、とんでもない値段がつけられていたりしたが、最終的には「マスク転売禁止」という政令が出されることになった。いわゆる「法律で禁止」の状態だ。(それでも何とかして抜け穴を見つけようという人々はいるようだが。)
日本語では、このようにしてネットで転売することで利益を得る人々を、俗に、「転売屋」にかけて「転売ヤー」と揶揄して呼ぶ。「ヤー」は「~する人」を表す英語の-erの接尾辞で、90年代に安室奈美恵ちゃんのファッションをお手本にして同じような恰好をする若い女性を「アムラー」と呼んだあたりから定着したと思われる俗語だ。
この「転売ヤー」の現象、もちろん日本特有のものではない。とはいえ、世界的にはマスクは元々あまり使う習慣がないようで、マスクについては「普段いつでもドラッグストアや雑貨屋で買えるのに、どこにも売っていない」ということにはなっていないようで、一般人がマスクがないと騒いでいる様子ではない(品薄パニックのようになっているマスクは病院で使うような高性能マスクだ)。一方で(なぜか)トイレットペーパーが品薄になったために、ネット上の個人間売買のサイト(eBayなど)ではトイレットペーパーの転売も横行して「なぜトイペ……」と笑いごとになっているが、直接ウイルス対策になりはしないトイペのようなものではなく、ハンドソープや手指の殺菌・消毒に使うハンドジェルの品薄・高額転売となれば笑いごとではすまされない。
今日見る報道記事は、通販サイトAmazon.comのマーケット・プレイスで出品者のアカウントを持っている人物が、需要急増を見越していち早く店頭在庫を大量に買い占めていた件のものである。
報道のフィードはこちら:
While millions of people search for products to protect themselves from the spread of the coronavirus, some sellers on Amazon are holding stockpiles of hand sanitizer and crucial respirator masks that many hospitals are now rationing https://t.co/mUhY8Pv4K7
— The New York Times (@nytimes) 2020年3月14日
続きを読む
このエントリは、2020年3月にアップしたものの再掲である。
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今回の実例は、英国政府の医療顧問団上層部の発言から。
英国政府は3月23日(月)にレストラン、パブなどの閉鎖(日本語ではおそらく「営業自粛」と位置付けられるもの)を経て「不要不急」の外出の禁止に踏み切り、以降、いわゆる「ロックダウン lockdown」の状態にある*1。日本時間で24日早朝のブルームバーグ報道:
英国は23日夜から全国的なロックダウンに入る。ジョンソン首相が国民向けのテレビ演説で発表した。新型コロナウイルスの感染が拡大する中、不要不急の移動を全て禁じ、住民は自宅から出ないよう命じられた。
期間は少なくとも3週間で、警察には人々の集まりを解散させたり違反者に罰金を科したりする権限が与えられる。
生活必需品以外の店舗や遊び場、図書館、信仰の場所も閉鎖される。必需品の買い物や治療を受けるためなどを目的とする外出は認められる。
政府は3週間後にこうした措置を緩和できるかどうか検証する。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-03-23/Q7NYY4T0AFB401
それから1週間が経過しようというタイミングで、政府の医療顧問団副チーフであるジェニー・ハリーズ博士が、英首相官邸が毎日行っている記者会見で、「行動制限は6か月にわたって続く可能性がある」と語った。それを伝える記事が下記である。
今回実例として見るのは、その後、事態がさらに進展したときに書かれた記事。ハリーズ博士の発言についてのこちらの記事での記述が、「書いてあることを、書いてある順番で、書いてある通りに読む」ことの練習台として、とてもよいものだと思ったので、それを見ていきたい。
記事はこちら:
*1:「ロックダウン lockdown」という用語はなかなか面倒な用語である。
このエントリは、2020年3月にアップしたものの再掲である。
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今回の実例は、英国のボリス・ジョンソン首相の発言から。
長々と前置きを書いている余裕がないのだが、日本語圏では新型コロナウイルス感染拡大に対する対策として、 #自粛と補償はセット であるということが、社会的に、全然認識されていない。むしろそういうことを言うのは「左翼」だというヒステリアに支配されているように見える。
しかし事実としては、「規制緩和」「民活導入」至上主義的な新自由主義、「小さな政府」というイデオロギー*1の発祥の地(のひとつ)で、2010年代はほぼずっと苛烈な新自由主義政策(「緊縮財政」と呼ばれる)をとってきたイギリス(英国)で、 #自粛と補償はセット であるということが、何よりも先に示されている。なお、今のイギリス政府が「左翼」だなどと強弁する者がいたら、それは悪質なデマゴーグである。
英国政府は、パブやレストランなどの営業の「自粛」を求めたが、このとき、通常店舗での飲食提供の許可とは別に取得しなければならない食事の配達やテイクアウェイ(店舗外での飲食)営業の許可を特例としてなくてもよいとするという「規制緩和」策と同時に発表され、その「テイクアウェイ営業の特別許可」以上にメディアで注目を集めたのが、 #自粛と補償はセット であるという明確な方針だった。十分に操業できず資金的に逼迫することが想定される企業で、人件費削減のために従業員を解雇すること(政府から見れば失業率を上昇させること)を避け、同時に通勤する人を減らし、「自粛」策が掛け声だけに終わらないようにするために、英国政府はいきなり、「給与の8割補償」を約束したのである。
その記事がこちら(2020年3月20日付):
この方針は、"an unprecedented step for the British government" と説明されているが、つまり第二次大戦時も、その前の世界恐慌のときも、その前の第一次大戦時もこういうことは行われていないという意味である。20世紀の英国は保守党と労働党の二大政党の間での政権交代が頻繁に起こる二大政党制であったが、社会民主主義(あるいは民主社会主義)政党である労働党が政権をとったときにも、このような政策はとられていないということだ。
続きを読むこのエントリは、2020年3月にアップしたものの再掲である。
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今回の実例もTwitterから。
前回まで、3回連続で、新型コロナウイルスの感染拡大抑止のために英国などで使われているスローガン、"Stay at home" を軸にした表現を見てきた。また、これらのエントリで、医療従事者からの情報発信についても扱った。「ソーシャルメディアで個人的につぶやく」とかではなく、「ソーシャルメディアを活用して病院全体で広く一般に向けたメッセージを出す」という行動が、世界各国で見られる。
hoarding-examples.hatenablog.jp
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今回見るのは、医療従事者からのメッセージを受けての一般市民の反応について。「3月26日(木)午後8時に医療従事者を讃えて一斉に拍手をしよう」という呼びかけが、イギリスでなされた。ハッシュタグは #ClapForNHS だ。
そしてTwitterには各地から、その拍手喝采の映像が流れてきた。
続きを読む
このエントリは、2020年3月にアップしたものの再掲である。
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今回の実例もソーシャルメディアでたくさん流れてきた標語・メッセージから。
先週、「集団免疫」論を捨てて以来、英国で(アイルランドも同じなのだが)人々に対し家にいるように呼び掛ける標語が繰り返し流されていることは既に書いた通り。
hoarding-examples.hatenablog.jp
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そのようなメッセージが政府から発され、医療現場(病院)が患者の激増(「オーバーシュート」なる珍妙な日本語が使われているが、あれはおかしい)に備えているときに、現場からは「負担をかけるな!」「病院に押し寄せるな!」というヒステリックな否定命令文ではなく、下記のような、とてもポジティヴで人間らしいメッセージが発された。
これだから、私は英語が好きなのだ。
North Manchester General Hospital Infectious Diseases ward team is here for you. Please stay home for us! @NorthMcrCO_NHS #Covid_19 #StaySafeStayHome #lovenhs #SocialDistancing #coronavirus #teamnhs pic.twitter.com/rXWNIotUza
— Sarah Lawrence (@sarahdigresses) 2020年3月20日
We stay here for you. Please stay home for us. pic.twitter.com/dpmIOzAHy7
— Cardiothoracic ICU (@CTICU_NYP) 2020年3月21日
上のツイートは英マンチェスター、下のは米ニューヨークの病院の医療従事者からのメッセージだ。"We stay here for you. Please stay home for us." 「私たちは、あなたがたのために、ここ(病院)にいます。あなたは私たちのために、家にいてください」
つまり、感染が拡大して患者が増え、病院がキャパシティを超えないように、一般の人々は自分が感染しないことと他人を感染させないことを第一に考えて、家にいてほしい(外出しないでほしい)というメッセージである。
日本でダイヤモンド・プリンセス号が注目されていたころから日本語圏では医療関係者やその方面の専門家が同じ内容のメッセージを発していたのだが、同じことを日本語で言わせると「病院に来るな」「病院に来る者を増やすだけだから検査なんかするな」という言い方になるのだから、いかにこの日本語圏というものが基礎に組み込まれているレベルで抑圧的なのかがいやでも感じられる。
続きを読むこのエントリは、2020年3月にアップしたものの再掲である。
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今回の実例は、前回の続きで、Twitterのハッシュタグを見てみよう。
前回は、英国政府がロックダウンに先立って打ち出していた "Stay at home. Protect the NHS. Save lives." の標語を見たが、今回は、この標語が人々の日常生活の中にどう入っているかを見てみよう。Twitterのハッシュタグになるとこのパートが脱落している。
また、 "Stay at home" の《前置詞》のatもあったりなかったりしている。つまり、"Stay at home" だったり、"Stay home" だったりしている。
"Stay at home" のほうは、《stay + 前置詞 + 名詞》の構造、"Stay home" のほうは《stay + 副詞》の構造になっている。homeという単語は名詞にもなれば副詞にもなるのだ。
私が中学・高校のころは、英語を文法でしっかり認識しておらず、何となく見ていたところがあって、このatは要るのか要らないのかがわからなかった。ちゃんと文法で認識していれば、すぐ上で述べたような論理が見えてくるのだが、文法を押さえていなかったので少々遠回りをした。
今でも、文法をまじめにやっている人は、"stay home" と言うか "stay at home" と言うか、2つの言い方の間に意味の違いはあるのかということで頭を悩ませることがあると思うが、結論だけ言ってしまえば、どちらでもよい。好みの問題・語数の問題・スペースの問題と考えておいてもよい。
というわけでハッシュタグ、#StayHome:
https://twitter.com/hashtag/StayHome?src=tren
#StayHomeSaveLives:
https://twitter.com/search?q=%23StayHomeSaveLives&src=tyah
#StayAtHome:
https://twitter.com/search?q=%23StayAtHome&src=tyah
#StayAtHomeSaveLives:
https://twitter.com/hashtag/StayAtHomeSaveLives?src=tren
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