Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

【再掲】セント・パトリックス・デーのオンライン・イベントに登録してみよう

このエントリは、2021年3月にアップしたものの再掲である。

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今回は、変則的だけどいつもの時刻よりちょっと早めに出します。といっても思いついたのが遅かったので今から間に合うかどうか……。

今日3月17日はアイルランド守護聖人セント・パトリックの日で、アイルランドでは国民の祝祭の日となります。普段なら各都市・各街でパレードが行われたり、文化的なイベントが開催されたりして、春の訪れが感じられるようになったこの時期、人々は寒い冬から解放された楽しみを味わうのですが、今年は新型コロナウイルスパンデミックのため、アイルランド島でも、この日の大きなイベントが恒例行事となっている世界の各地でも、イベントはやるならオンライン化されています。

思えば昨年、欧州でこのウイルスの流行が深刻になることがはっきりしたときに最初に中止された世界的に有名な行事はイタリアのヴェネツィアカーニヴァル(謝肉祭)だったのですが、その次に中止になったのがアイルランドセント・パトリックス・デーでした。イングランドチェルトナム・フェスティヴァル(社交界の皆さまが集う競馬)は会場のあちこちに手指消毒ジェルを設置して強行され、のちに批判されましたが。

閑話休題

というわけで、今年のセント・パトリックス・デーはオンライン化。毎年、このアイルランドの祝日に最も近い週末に行われる原宿でのパレードも今年はなしで、アイルランド大使館がオンラインでイベントを主催します。その告知が下記。

登録は無料で、必要なのは姓名と有効なメールアドレスだけです。

さて、さっき今日の実例を探して画面を眺めていたのですが、これというものは何も見つからず、どうしようかな……と考えていたときに、そういえばセンター試験の後釜の共通テストでは事務的な文面を読める能力をはかるとかいうアカデミックな能力とは別の方向に針が降り切れてて、クソ面白くもないファンクラブの入会案内とかを読むことを強要されてるんだっけなと思いだしたので、この楽しいアイルランドのイベントの登録の画面を、そういう「実用英語」(笑)の一例といて見ておくといいんじゃないかと思いついたわけです。

登録のURLはこちら: 

https://www.eventbrite.ie/e/st-patricks-day-virtual-reception-registration-145418597941

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機械翻訳に関するメモ(何がどのようにできないのか)【2022年8月版、Google翻訳、英語→日本語】

今回は、いつもと趣向を変えて、機械翻訳についてのメモを。

先日来、当ブログを休載して、ウィキペディア英語版のcultural Marxismの項を日本語にするという作業をやっている。これが、予想外に難航している。ざっと読んだとき、つまり自分が百科事典から情報を得るように読んだときには気にならなかった記述のクセがどうにも難物で(ぶっちゃけ、拙い)、「翻訳」である以上は原文から離れるわけにはいかないのだが、ウィキペディアの場合は原文をそのまま翻訳すればいいというものでもなく、これをこのまま日本語にしたところで、日本語の百科事典として果たしてどのくらいの意味があるのかがわからず、結局、英語版のウィキペディアでソースとして参照されている論文や記事などを読んで、もろもろ匙加減のようなものを判断することになっている。

とりあえず、主要な部分は今日の時点でだいたい作業完了している(体裁などはまだこれから手を入れるが)。

ja.wikipedia.org

さて、この作業を行うにあたり、ウィキペディアに備わっている「翻訳」の機能をチェックしてみた。

ウィキペディア日本語版は最近見た目(レイアウトとデザイン)が変わったのだが、ログインした状態で右上にある人の形のアイコンの横にある上下方向のボタンをクリックすると、下記のようなメニューが出てくる。この「翻訳」(添付図、ピンク色の枠内)をクリックすると、翻訳用特設エディターへの入口みたいな画面が開く。

理念的には便利そうなのだが、これをそのまま「翻訳」のために使うということは私はしていない。なぜなら、ウィキペディアに埋め込まれているのは、原文(英語)を機械翻訳ウィキペディアではGoogle翻訳を使っている)に投げて、その出力結果(訳文、とされているもの)を表示し、「変なところは修正する」という作業を前提とした2ペインのエディターで、つまり機械翻訳に下訳をやらせて人間が推敲・修正するという、機械翻訳信奉者がイメージしている通りのことができる環境なのだが、実際には、機械翻訳に下訳なんかできないからだ。使い物にならない。これはひがみとかで言ってるわけではない。私だって、機械が下訳してくれるんなら、やってもらいたい。だってダルいもん。

実際のところ、機械翻訳に任せることができるのは、せいぜい、外国語で書かれた化学物質の名前を、人間がいちいち辞書を引いたりすることなく、日本語にする、という程度の作業だ。

最近は句動詞の処理もうまくなっているし、動詞の訳語もこなれた感じになってきているから、出力結果(「訳文」)の見かけ上の「流暢性」は、例えば1980年代までの学者が訳した外国語文献ではありがちだった生硬さや、堅苦しさにあふれた人力翻訳の文よりも、ひょっとしたら上かもしれない。だから、「専門家が見たら粗はあるのかもしれないけど、そこまでこだわらなければ使えるんじゃね」と思われるかもしれない。でも、それは見てわかる部分だけにごまかされてる。断面部分に具がたっぷり入ったサンドイッチに手が伸びてしまっている状態だ。実際にはそのサンドイッチには、断面部分にしか具は入っていない。

では具体的に、何がどうダメなのか。

そういうことを、今回のウィキペディアの作業で扱った3000語程度の文から偶然見つけたものを通じて、書き留めておきたいと思う。

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【再掲】used to do ~, be goneなど(イラクのクルディスタンで進む樹木の違法伐採と環境破壊)

このエントリは、2021年3月にアップしたものの再掲である。

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今回の実例は、Twitterから。

今日、3月16日は、イラン・イラク戦争中の1988年にイラクサダム・フセイン大統領が、自国内の自国民に対して化学兵器を使用し、何千という単位の自国民を殺傷した日である。この攻撃は、標的とされた場所の名前をとって「ハラブジャ(ハラブチャ)事件」と呼ばれるが、この非道な攻撃についてネット上の日本語圏で調べるのはかなり危うい感じもする。英語で調べるのがよいだろう*1

en.wikipedia.org

というわけで、33年前に毒ガス攻撃の対象とされたイラククルディスタンの人々の英語メディア、Rudaw EnglishのTwitterアカウントからは、現地での事件記念の式典の様子などがツイートされている。

だが、私にはそれらのツイートに「解説すべき英文法」を見つけることができない。というか最近、何を読んでも「解説すべき英文法」が見つからない。端的に「ネタ切れ」になっているのだと思う。一方で日本語圏Twitterで、ある英語由来の格言について説明するツイートで《句》のことを「条件節がある」と述べているものを見ると、うっかり「節ではなく句です」というクソリプを飛ばしそうになるので、英文法がすっかり抜けたわけではないのだが。

ともあれ、本題に入ると、そのRudaw Englishのアカウントでこんなツイートを見かけた。

 解説してくださいといわんばかりの英文である。

*1:と書くとまた「CNNを鵜呑みにするバカ」と絡んでこられるだろうが。

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引き続き、ウィキペディア翻訳作業中のため、ブログはお休みします。

昨日に引き続き、ウィキペディアでの翻訳作業中のため、ブログはお休みします。

翻訳作業が完了しているのは途中までですが、すでにページは公開してあります

ja.wikipedia.org

現在、「この記事はただいま大幅な改稿を行っています」という表示が出ています。これが取れたら、翻訳の不備などのチェックをみなさまよろしくお願いします。

ウィキペディアの文章というのは独特で、翻訳という作業をするには、リンクや出典、注釈のことをしょっちゅう気にしていないといけないので、普通の訳文作成のようには進まないのですが、そういった形式的なことと同時に、テクストそのものの性質が特殊なので、けっこう難しいです。

どう特殊かというと、普通のテクストは新聞記事であれ書籍のようなものであれ、ひとつのまとまった文章として(多くの場合ひとりの人間によって)書かれているので、「流れ」というものがあります。その「流れ」を読み取り、それに乗ることで、元の言語とは別の言語でのアウトプットという作業が促される。

一方でウィキペディアは、特に今やっているようなジャンルの項目は、「ある学者がこう評している。別の評論家はこのように批判している」といった、誰かの発言・著作からの引用が、大した脈絡もなく大量に詰め込まれているのが基本で、そこには「流れ」というものはなく、あるのはぶつぎれの断片である。このようなウィキペディアの文面を「読む」とき、実は「読む」という作業はしていなくて「情報を取る」という作業しかしていないのだな、ということが、英語を日本語にするという作業をしてみると実感される。

そして、そこにある断片のひとつひとつが、新聞記事のようなあっさりした記述ばかりならまだ楽なのだが、ウィキペディアの場合、思想家・哲学者や著述家など、個性的な書き手の個性的な文章から、一節だけを引用してきたようなものが入っていて、そういうのが、英語を読めば内容はわかるんだけど、じゃあそれを日本語で表せるか(リライトできるか)というと非常に難しい、というものがある。今回すでに作業した中にもスラヴォイ・ジジェクの引用があったのだが、この具体例で「あ、そういうことか」とお分かりいただけるのではないかと思う。

いや、ジジェクはまだよくて、何か所かで引用されているイエール大ロー・スクールの教授の文面は、短い引用なのだが、クセの強い独特の、所謂「読みづらい」文体で、前後も読んでみないと日本語になりゃしない、というのを無理やり作業している。

というのが途中報告。またこの後、作業を進めます。

 

本日、ウィキペディア翻訳作業中につき、ブログはお休みします。

今回は、予定を変更して休載します。

昼間、TBSラジオ荻上チキさん(はてな古参には「トラカレさん」のほうがなじみ深いだろう)の番組を聞いていて、これはやっとかないとなと思ったウィキペディアの翻訳をやっているので、ブログを書いてる時間がなくなりました。

経緯は下記の通り。番組はRadikoで明日10日の15時台まで追っかけ再生可能です: 

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-ing形の判別, 前置詞+動名詞, 分詞構文, 時制, 大過去など(イスラエルによるガザ地区攻撃、問題は武力行使だけではない)

今回の実例は、報道記事から。

先週後半から日曜日にかけて、また、パレスチナガザ地区イスラエルによって攻撃された。今回は「ガザ地区からロケット弾が発射されたので応酬した」といういつものパターンですらなく、イスラエルいわく「先制攻撃 preemptive attack」だった。

この「先制攻撃 preemptive attack」という攻撃のありかたは、2003年のイラク戦争のときは国際的に喧々諤々の議論を引き起こしたものだが、もはやほとんど誰も何も言わない。英語でいう「normaliseされた」状態になっている。

ともあれ、こうしてまた、イスラエルによって完全に囲まれ、出入りもできない状態に置かれているガザ地区は、そこが世界有数の人口密集地であるにもかかわらず、容赦なく爆撃の対象となる。そして住宅密集地の1軒だけを破壊するイスラエルの兵器の「性能」に人々は感嘆し(もはやそれすら、当たり前のものになっているかもしれないが)、大手の報道では「パレスチナ武装勢力の戦闘員が死亡」という見出しの記事が出てイスラエル側の主張がくどいほど説明され、「民間人にも被害」的に書き添えられた短い文の中で、殺されるべきではなかった人々(武装勢力のメンバーだって、戦闘中でなければ、軍事攻撃で殺されるべきではないのだが)の死者数だけが書かれ、それで報道のお役目はおしまい、というのが、英語メディアでもありがちな、2010年代半ば以降の「中東報道」である。

これがまたダブルスタンダードの最たるもので、ロシアがウクライナに対し、イスラエルパレスチナに加えているような暴力を加えるとロシアを声高に非難するメディアが、イスラエルに対しては何も言わずに正当であると認めている状態である。

最近はそれが本当にひどくなってきていて、私はもとからBBCなどは見出ししか見ないことにしているのだが、この週末は具合が悪かったので見出しすらろくに見ていない。

代わりに見ていたのがTwitterで活動しているパレスチナ系の英語メディアや、英米に拠点を置く中東情勢専門の独立系メディアのフィード、そしてもちろん、ガザ地区で暮らしているパレスチナ人の英語話者のフィードである。

さて、今回の攻撃――それはイスラエルによって「軍事作戦 military operation」と呼ばれる。ロシアが同じようなことをすると西側世界のメディアは嘲笑するのに、イスラエルがやると無表情のままである――は、軍事的に開始される数日前から、実は始まっていたと思われる。イスラエルから(つまりガザ地区の外の世界から)ガザ地区へ入るための検問所が、8月1日から閉鎖されていたのだ。これにより、日々消費されていく物資は入らなくなる。そういうことをしておいて「イランが背後にいる武装組織がー」と叫んでいるのが現状で、そういうわめき声をしかつめらしく聞いて差し上げるのがおメディアさまのお仕事といわんばかりの記事を見かけるが、そういうのはスルーすることにして、検問所の閉鎖と物流の停止が、ミサイルがあろうとなかろうと、ガザ地区の一般市民にどんな影響を与えているかという記事を見てみよう。掲載は当ブログで前にも参照した独立系メディアMondoWeissである。

mondoweiss.net

見出しにある通り、ガザ地区には発電所が1か所しかない。燃料を燃やして発電する火力発電所で、ガザ地区全体の電気をここ1つでまかなっている(ほか、個別に稼働させている発電機もあるが)。

検問所が閉鎖されると燃料が入らなくなる。つまり発電ができなくなる。

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【再掲】時制の使い方, 疑問詞節, not only A but B, as well as ~, wrongという単語の意味, など(東日本大震災: wrongnessという感覚)

このエントリは、2021年3月にアップしたものの再掲である。

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今回は、前回(3月11日付)の続き。背景説明などは前回のエントリを参照されたい。

実例として参照するのはこちら、日本外国特派員協会 (The Foreign Correspondents' Club of Japan: FCCJ) が毎月出している会報 "Number 1 Shimbun" の2021年3月号である: 

https://www.fccj.or.jp/sites/default/files/2021-03/03-March-2021-Number1Shimbun-final.pdf

この記事を書いたジョナサン・ワッツ記者(英ガーディアン、以下「ジョンさん」)は、東アジア特派員として、インドネシアスマトラ島沖地震による津波(2004年12月)や、四川大地震(2008年5月)で大きな被害が出た町に入り、取材を行っていたが、2011年3月に日本で起きた東日本大震災津波に襲われた東北地方の沿岸部の町に入ったときのことを、10年後の今、次のように回想している。

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【再掲】複合関係副詞, 感覚動詞+O+動詞の原形, 強調構文(東日本大震災を取材した英国のジャーナリスト)

このエントリは、2021年3月にアップしたものの再掲である。

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今回の実例は、10年前の今日のことを振り返るジャーナリストの文章から。

日本外国特派員協会 (The Foreign Correspondents' Club of Japan: FCCJ) は、日本で仕事をしている外国のジャーナリストの団体で、Number 1 Shimbunという会報を毎月、PDFで出している。現在、2016年以降の各号が誰でも無料で閲覧できるようになっている。

10年前の今日、2011年3月11日に東日本を揺らした大きな地震について「東日本大震災」という呼称が出るか出ないかのうちに、世界各国の大手メディアはスター記者を日本に派遣してきた。米CNNのアンダーソン・クーパーや、英Channel Fourのジョン・スノウといった人たちが、東京から、津波で甚大な被害を被った東北地方の町や避難所から、原発事故で立ち入り禁止となったエリアのすぐ近くから、次々と報道を行っていた。下記は3月14日のジョン・スノウの仙台からの報告(プレイヤーをエンベッドせず、URLだけ貼っておきます。あまり無防備な状態でうっかり見ないようにしてください)。

https://www.youtube.com/watch?v=CAOWDy-0H-E

FCCJに所属しているジャーナリストは、彼ら・彼女らのように大きな出来事があって初めて日本で取材するジャーナリストとは別で、普段から日本を拠点として仕事をしている人が多い。それらの人々も、派遣先(勤務地)が変われば日本を離れることになるのだが、今回、2021年3月のNumber 1 Shimbunでは、90年代から長く日本でジャーナリストとして仕事をし、その後中国に異動となり、東日本大震災のときは中国を拠点としていた英ガーディアンのジョナサン・ワッツ記者(現在は同紙の環境エディター)が、津波に襲われた石巻や大槌、気仙沼といった町を取材したときのことを回想して書いている。

今回の実例は、その一節から。

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完了分詞構文, in order to do ~, 前置詞+動名詞, if ~ were to do ..., want ~ to do ..., など(EUROの覇者、イングランド・サッカー女子代表の次期首相あてオープンレター)

今回は、前回の続きで、イングランドのサッカー女子代表が保守党党首最終候補に宛てて送ったオープンレターについて。なお、昨年来、「オープンレター」というと感情的に反応する人々が日本語圏で目立つようになっているが、日本語にすればただの「公開書簡」であり、一般的な(そう、一般的なものなのである)言論の方法のひとつでしかなく、「卑劣な恫喝手段」のようなものでは全然ない。

ともあれ、欧州選手権(EURO)で初めて優勝を飾った代表チームが、その歓喜の熱も冷めぬうちに、政府によって冷や水を浴びせられて抗議の声を上げている、というのがから見ているトピックである。

冷や水」とは何かというと、女子ももれなくサッカーというスポーツに接する機会を得られるようにしようという方針を撤回した、ということだ。それについて、前回から見ているフィード元のメディア、女性誌のStylist Magazine*1は、次のように説明している。

すなわち、「現状、体育(PE)の授業でサッカーに触れる機会がある女子は全体の63%に過ぎない」。やってみる機会すらなければ、自分がそれをやりたいかどうか、自分がそれに向いているかどうかを判断することすらできない。本当は眠っている才能があったかもしれない若い女性が、それを自分で知る機会もないままになるかもしれないし、プレイしたこともないスポーツとはその後も疎遠なままになってしまうかもしれない。

優勝した女子代表チームの人々は、実際、自分たちが子供のころにサッカーをやりたいと言っても相手にされなかったという経験を有しており、今の子供たちにもそれが継承されてしまうことを深く憂慮している。彼女たちの言い分を一言でまとめると「学校での必修化」なのだが、学校でサッカーが取り入れられたときに全員が関心を持つとは限らないにせよ、少なくとも選択は、全員ができるようにしたほうがよい、というのが彼女たちの考えである。(「選択的夫婦別姓制度」に対する「別姓の強制はやめろ」的な的外れな反応にさらされてしまったので、日本語圏ではこの「選択」というものが通じないだろうと思いながら、私はこれを書いている。もしこの文が何かぼんやりした印象を与えるとしたら、そのせいである。)

実際、今回の優勝メンバーのひとりであるエレン・ホワイトマンチェスター・シティ)は、小学生のときにアーセナルにスカウトされているのだが、学校には女子チームがなく、少年リーグでプレイすることはできなかったという経験を有している。ウィキペディアからリンクされているそれについての地元紙の記事は、1998年のもの映画Bend It Like Beckhamの前のことである。

このツイートでもうひとり言及されているレイチェル・ヤンキーはホワイトより10歳くらい年長で元アーセナル所属。子供のころ、女子にはプレイできるチームがなかったので、頭を丸刈りにして「レイ」という名前で男子に成りすましてプレイしていたという。1990年くらいの話である。ちなみに「女性解放」「ウーマンリブ」云々が1970年代の話だ。

このツイートにも、《完了分詞構文》や《in order to do ~》、《前置詞+動名詞》(これは1つ上で見たツイートにも入っている)など文法的な見どころがあるが、すでに2000字を超過しているので、その説明は割愛する。

というところで本題。その彼女たちが、今回、英国首相あてにオープンレターを出すことにしたのだが、その首相(ボリス・ジョンソン)は夏休みが終わったら退陣することになっているので、あて先は首相ではなく、次に首相になる可能性のある人物2人(つまり保守党の党首選で最終候補になっているリズ・トラスとリシ・スナク: "the two remaining Tory leadership candidates" とStylist Magazineは説明的に述べている)である。そのオープンレターの文面 

ツイート本文には、《分詞構文》があるが、その説明も割愛する。あと、「~を書く」の動詞でpenを使うということも覚えておくといいだろう。自分で使う機会はなかなかないが、誰かが書いた文章で使われているのを見たら注目しておくとよい。日本語でいうと「したためる」のような語感のある動詞である。

*1:この媒体は「女性誌」とはいっても「芸能ゴシップ雑誌」や「ファッション誌」ではない。都市部で働く高収入の女性たちをターゲットにしたライフスタイル・マガジンで、フェミニズムの文脈にある媒体である。とはいえ、現代の英語圏ではファッション雑誌の多くがそうなのだが。

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make a u-turn over ~, to不定詞の形容詞的用法, provide A with B, など(EUROの覇者、イングランド・サッカー女子代表のオープンレター)

今回の実例は、Twitterから。

7月7日から31日にかけて、欧州ではサッカー女子の欧州選手権(EURO 2022)が行われていた。ホスト国は、これまでの最高順位が2位のイングランドで、決勝戦ではこれまで最も多く優勝しているドイツとイングランドの対戦となった。

勝戦は、イングランドが先制したもののドイツが追い付き、90分を終えた段階で1-1のドローで延長戦に突入。そして延長戦で1点を取ったイングランドが逃げ切り、初の優勝を飾った。

翌日の英国の新聞はこのニュースで持ち切りになった。スポーツでの「イングランド」の話題は「英国全体」の話題であるかのように扱われるのが英国の大手メディアの常だが、それにしたって……という「一色」ぶりだった。まあ、その是非はとりあえず措いておこう。

このようなフィーバーっぷりの中で、女子代表チーム(男子の代表がThree Lionsと呼ばれるので、女子はLionessesと呼ばれている)は自身の勝利を祝いながら、次の世代へ夢と希望をつないでいこうとしている。テレビの前では、彼女たちの活躍にくぎ付けになっている次の世代の子供たちが大勢いる。

しかしその「ライオネシズ」は、祝賀ムードも冷めやらぬうちに、抗議のオープンレター*1をしたためることとなった。

今回の実例は、そのことを伝える女性誌Stylist Magazineのフィードから。こちら: 

何があったのかをつぶさに知らなくても、このフィードの一文を読むだけで、どういう経緯で何があったのかを読み取ることができる。

書き出しの "Just days after..." は「…してからわずか数日の後に」の意味。このdaysの使い方に気を付けておこう(「数日」を常にa few daysやsome daysと英語にするクセがついている人は、直しておいた方がよい。冗長だから)。

"the government has made a u-turn" の部分は、読めばわかると思うが「政府がUターンをした(方針を180度転換した)」。動詞としてmakeを用いること、u-turn不定冠詞を伴うこと(可算名詞であること)、その不定冠詞はanではなくaであることを確認しておこう。

*1:昨年以降、日本語圏では「オープンレター」と聞くときぃきぃわめきだす人が出るようになったが、「オープンレター」は別に珍しいものではない。誰だって書けるし出せるし、それをメディアなどで取り上げてほしければそのように根回しすればよい。普段「論文には論文で反論せよ」と言ってる人が「オープンレターにはオープンレターで反論せよ」というふうなことを言ってる気配がなかったのが、私にはとても不思議だったのだが、あれはどういうことだったのだろう。

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動名詞が主語の文, 完了形の受動態, 現実味のcould, be動詞が省略された特殊な文体, 頭韻(保守党党首選挙の投票システムがやばい)

今回の実例は、Twitterから。

数々の嘘を重ねてきたボリス・ジョンソンが、今回もまた逃げ切れると踏んだのだろうが、身内をかばう嘘*1をついて、その累が自分にも及ぶことを恐れた閣僚や政権や党の要職者50人余りの同時多発辞任という事態をまねいたことで退陣表明、つまり与党保守党の党首を辞し、すなわち英国の首相を辞めることにするという宣言を余儀なくされたあと、保守党では次の党首選びが行われてきた。

党内で必要とされる人数の推薦人を集めた8人の候補のだれが次の党首にふさわしいかを、国会議員による投票で2人にまで絞り込んだあと、最後に一般党員からの投票で2人の決選投票が行われる。ここまで5度の投票で最終候補2人としてリズ・トラスとリシ・スナクが残り、次は一般党員からの投票で次のリーダーが決まる、という段階になっている。ちなみにウィキペディアによると、保守党員が英国の有権者に占める割合は、0.35パーセントだそうだ。たったそれだけの少ない人数で、次の首相が決まってしまうのは、議院内閣制のバグといっていいだろうが、ボリス・ジョンソンにせよその前のテリーザ・メイにせよ、このバグをハックすることで英国の首相という権力の座についてきたわけだし、これはたぶん世界的に、議院内閣制を採用している国ではどこででも見られるようなことになっているだろう。

で、この一般党員からの投票というのは、もちろん、全員が直接顔を出して投票箱に票を投じるということは現実的ではないので、遠隔投票が採用されている。ちなみに、今回の党首選、英国の保守党の党員であればだれでも投票できるので、英国籍を持っていなくても、英国在住でなくても投票できるのだそうだ。

はい、今、フラグ立てました。

というわけで今回の実例は、このいかにもつついてくださいというバグがありそうな投票制度について、英国の情報機関から待ったがかかった、というスクープが、保守党員御用達新聞であるデイリー・テレグラフに出た。記者自身のTwitterフィード: 

ベン・ライリー=スミス記者は、このツイートを筆頭とするスレッドで、スクープ内容をかなり詳しく書いてくれているので、内容に関心がある方はそちらを参照していただきたい。

ここでは英語の話をする。

まず最初の "EXCLUSIVE" は、

まず第1文: 

Voting for the next Prime Minister has been delayed after GCHQ warned cyber hackers could change people’s ballots

"Voting" という-ing形で始まっているが、この文は分詞構文などではなく、《動名詞》の句が主語になった構文だ(このvotingを動名詞と考えずに「投票」という名詞と考えることもできるかもしれないが)。主語は "Voting for the next Prime Minister" という動名詞句で、述語動詞は "has been delayed" と、《現在完了の受動態》になっている。

*1:選ばれた人しか入れない男性専用の会員制クラブの中で、年少のメンバーに痴漢行為を働いていたことが発覚した国会議員を、そういうことをする人物だと知っていてジョンソンは要職に登用していたのだが、そのことについて「今回の事態が発覚するまでああいう人だとは知らなかった」という嘘をついていたことがバレたことが、「ラクダの背をへし折った最後のわら」になったのである。

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主張のはっきりした文, 接続詞のas, butを用いた構造, confuse A with B, 前置詞+動名詞(アルカイダのアイマン・アル=ザワヒリ殺害)

今回の実例は、Twitterから。

すでに日本語圏でも大きく報じられていると思うが、アルカイダ(AQ)のトップであるアイマン・アル=ザワヒリが、アフガニスタンの首都カブールで爆殺されたことを、米大統領が発表した。日本語圏では「無人機からミサイルを発射して殺害」「空爆で殺害」などなどという文言で報じられているが、要するに軍事用ドローンによる攻撃で、やったのは米軍ではなくCIAである。それについて、英ガーディアンは次のように説明している。

The CIA strike will be seen as a proof of the US’s ability to conduct “over-the-horizon” operations despite last year’s military withdrawal from Afghanistan. But it also raised questions over al-Qaida’s continued presence in the country since the Taliban regained power.

Ayman al-Zawahiri: al-Qaida leader killed in US drone strike in Afghanistan, Joe Biden says | Ayman al-Zawahiri | The Guardian

記事中の "over-the-horizon" の部分に貼られているリンクはAXIOSのもの: 

www.axios.com

表示されている概要の文を見ればわかると思うが、米軍をなるべく現地に投入しないことを目的として考案・計画される作戦のことだ。

米軍の事例ではなく英軍についてのものだが、このような作戦については、2015年に "Eye in the Sky" という映画が制作されている。日本でも各種オンライン配信で見られるので、ご覧になったことがない方は是非見ていただきたい。フィクションだが、まったくの絵空事というよりは、実際に起きていた問題をベースに構築されたフィクションである。

さて、テロ事件・テロ計画の「容疑者」を、逮捕して法のもとで裁くのではなく、殺害・暗殺することは、今世紀に入ってからイスラエルパレスチナ武装勢力指導者に対して堂々と行うようになってから、すっかり常態化してしまっているが、本来はとてもおかしなことである。

今回のザワヒリ殺害を発表する際、ジョー・バイデン米大統領は、“Justice has been delivered and this terrorist leader is no more,” “People around the world no longer need to fear the vicious and determined killer.” と述べているが、「法の支配」のもとでは、 "justice" は「法の裁き」であるという前提はどこへやら、アメリカンなスーパーヒーローじゃあるまいし、「世界中の人々の恐怖はこれで消えた」みたいなことを堂々と言っているのは、本来、「えーと、どっからつっこんだらいいんですかね」という話である。(これは2011年5月に、バラク・オバマ大統領の指示のもとでウサマ・ビン=ラディンが殺害されたときも、当然、指摘されたことである。)

……というのが前置き。

今回の実例は、そういうことを指摘するツイート。投稿主はアムネスティ・インターナショナルUKおよび北アイルランドのパトリック・コリガンさん。投稿は2件ある: 

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be + to不定詞, to不定詞の形容詞的用法, 過去分詞の分詞構文, 付帯状況のwithと形容詞, など(英、C型肝炎の診断にAIを導入へ)

今回の実例は、報道記事から。

ソースが探せなくなってしまったのだが、先日、「日本語は一般的病名・疾患名で臓器の名前を使って『〇〇炎』などと言うからわかりやすいが、英語は病名・疾患名に臓器の名前が入っていないことがあってわかりづらい」ということが話題になった。そのときに例示されていた病名のひとつが、「肝炎」を意味するhepatitisだ。

hepatitisには「肝臓 liver」の影も形もない。ついでに言うと、綴りを見ただけでは読み方もはっきりわからない。語強勢(アクセント)はどこに来るのか、heは「ヘ」なのか「ヒー」なのか*1、といったことがわからないと、この単語を口にしたところで通じるかどうかもわからないし、誰かがそれを口にしたとして聞き取れるかどうかもわからない。つまり、「単語(の見た目、スペル)を知ってても、口頭では通じない」ということになりがちな単語だ。

だが実は、hepatitisには「肝臓」を表す語根(語幹)が入っている。

「肝臓」なら、日本語でなまっちゃってるけど、食材として「レバー」という語が英語由来で日本語に定着しているから、「肝炎」だって「レバーなんとか」という呼称なら、日本語母語話者にもわかりやすかったかもしれない。だが、hepatitisに入っている「肝臓」はliverではなくheparというギリシャ語由来のことばで、このheparということばは「肝炎」のhepatitisのほか「肝臓の」を意味する形容詞のhepticにも使われてはいるものの、単独で「肝臓」の意味でこの言葉を使うことはあまりないから、わかりにくいのだ。

ちなみに -itis は「炎症」の意味で、これは例えば「気管支炎」のbronchitisなどにもみられる。

と、前置きはここまで。

さて、「肝炎」といえばC型肝炎である。英語では hepatitis C と言う。

C型肝炎はウイルス感染なので、ウイルスの抗体検査をすることで感染を確認するのが一般的だが、英国ではさらに先進的な取り組みがなされることになりそうだ、というのが今回みる記事の内容。こちら: 

www.theguardian.com

見出しの最初についている "Exclusive:" は「本紙独占」「スクープ」の意味で、報道内容としてはこの最初の一語は外してみればよい。

勘のよい方はこの見出しを見ただけで本日の文法項目はあれだなとピンと来ただろう。

*1:ちなみに、hepatitisの語強勢は第3音節に置かれ、無理を承知で敢えてカタカナで書けば「ヘパタイティス」というような発音になる。

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【再掲】付帯状況のwith, 分詞構文, as ~ as possible, prevent ~ from -ing, など(米CDC推奨、より密着度を高めるマスクのつけ方)

このエントリは、2021年3月にアップしたものの再掲である。

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今回の実例は、Twitterから。

新型コロナウイルスのワクチン大量接種が早い国で進められつつあった一方で、クリスマスから新年の時期に、英国で最初に確認された新型コロナウイルスの変異株と、それとほぼ同時に確認された南アフリカの変異株とブラジルの変異株の感染力の強さが大きな懸念を引き起こし、これにより例えばドイツでは、ただの布マスクや不織布マスクより高品質なマスクの着用が義務付けられたりするようになった。米国ではCDC(感染症対策担当のお役所)が、マスクを二重にして着けること (double masking) を推奨するようにもなった。(ちなみに、日本で流行っているウレタンマスクは、どんなに密着していても、肝心の布がスカスカなので、のどが弱い人の乾燥対策にはなるし、お掃除のときにはホコリ除けとして役立つが、感染症対策にはならないから、CDCやWHOの指針では言及もされていない。)

そのCDCが今回、新たに、普通の不織布マスクなどを隙間なく着けるための簡単な方法を提案してSNSで広めている。二重マスクは、私もやってみたがさすがに息苦しく、歩いたり自転車に乗ったりするとめまいがして危険を感じることもあったが、今回提案されているこの方法だとその危険がなく、逆に鼻から口元にかけてのマスクの立体感が増して空間がしっかり確保されるので、普通に着けるよりもむしろ呼吸が楽で、同時にマスクと顔の隙間がなくなって密着度がアップしている。これはよいと思うので広まるといいなと思ってる。

今回の実例はその解説のスレッド(連続ツイート)より。

まずスレッド先頭の導入のツイート。前置きだから、これから何の話をしていくのかということだけがわかればよい(これを読んで内容がよくわからなくても気にしなくてよい)。ツイート先頭の糸巻きの絵文字は、"thread" (「糸」)の意味で、「これから連ツイを始めます」ということ。

 "3-ply mask" は一般的な3枚重ねの不織布のマスク(サージカルマスク)のこと。"Medium" は英語圏で広く使われているブログサービス*1であると同時に一種のウェブメディアで、このツイートをしている@elementalというアカウントは、Medium運営の公式ブログの一部である*2。ツイート文面は「CDCがマスク着用の際は密着度を高めることを推奨しています。一般的な不織布マスクの耳にかけるゴム紐を『結んで』(マスク本体を)『谷折りにする』わけです。Mediumのコロナウイルス・ブログを書いている@yeahyeahyasminさんが、手順を解説します」という内容(※ここに示したものは逐語訳ではない)。

続いて、具体的な手順の説明。折り紙ができる人には何も難しくないと思うので、ぜひ手元にマスクを1枚用意してやってみてほしい。

*1:Mediumはこの場合、「メディア」という一般名詞ではなく、「はてなブログ」「アメブロ」「note」などと同じような固有名詞である。

*2:米国のMediumは日本の「はてなブログ」「note」などよりずっとシリアスな取り組みをしているので、あまり「~のようなもの」という説明にとらわれないでいただいたほうがよいと思うが。

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【再掲】強調のために副詞節が前に出たことによって起きる倒置(ローマ教皇のイラク訪問)

このエントリは、2021年3月にアップしたものの再掲である。

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今回の実例は、Twitterから。

先週後半、3月5日から8日の日程でローマ・カトリック教会のフランシス(フランシスコ)教皇が、同教会の教皇としては初めて、文明の揺籃の地であるイラクメソポタミア)を訪問した。

www.vaticannews.va

「バビロン」とか「ウル」とか「ニネヴェ」とか、あるいは「チグリス川」「ユーフラテス川」でさえも――「イラク」や「バグダッド*1」のような、何もないときでもよくニュースに出てきた地名とは違う、現地の地名が、戦地として、あるいは米軍(を中心とする連合軍)の拠点として、または武装勢力の拠点や攻撃地点として、報道に出てくると、私の心はざわめいた。世界史の教科書そのものだ、と。旧約聖書の宗教に信仰のある人、宗教心のある人や宗教を研究している人なら「世界史の教科書」ではなく「聖書(旧約聖書)」と思ったことだろう。

そして、2003年初頭、当時、既に英語圏ギーク界隈を超えて広く使われつつあったウェブログというツールを英語で使っているイラク人たちが*2、自分たちの国のトップに座っている独裁者が原因で、自分たちの上に、自分たちの町に爆弾を投下しようとしているアメリカの人々に向かって、「ここには歴史がある」ということを声を限りに叫んでいたとき――今思えば、それは、既にイラクで「歴史」を「異教である」という理由で破壊していたイスイス団に破壊されそうになっていたパルミラについて、「それは歴史だ」と叫んでいた私を含む世界中の人々の叫びと重なる――、そのイラクの人々が意味していたのは古代メソポタミア文明であり、旧約聖書の世界であった。

イラクというとイスラム教国家というイメージが強いし、実際にイラクの人々の大半はイスラム教徒なのだが(シーア派スンニ派クルド人が3つの主要集団で、クルド人は宗教的にはスンニ派イスラム教徒である)、イスラム教が成立する前からそこには人々の暮らしがあったわけで、キリスト教を信じる人々のコミュニティは古くからイラクメソポタミア)にはあった。

……と、前置きを書くのに既にずいぶんな時間を割いてしまっているので、駆け足でいこう。

イラクキリスト教は「東方典礼カトリック教会」、つまり儀典は東方のもので、教義はカトリックという教会で、つながりとしてはカトリック系である。そのイラクキリスト教徒たちのもとを教皇が訪れるのは今回が初めてのことで、私はかつてネット上で知っていたイラクキリスト教徒のある人のことを思いながら、ネットでニュースを追っていた。イラク戦争前のイラクという国では、宗教は個人のもので、「あの人は〇〇教徒だからほにゃららだ」などという扱いを受けることはなかったという。それがイラク戦争で一変してしまったのだが。

教皇ご自身はイタリア語でお話しになるが、教皇のTwitterアカウントは英語だし、アルジャジーラ英語版や湾岸諸国の報道機関の英語版など、英語でニュースを追うことができれば、イタリア語も現地語(アラビア語)もできなくても、ある程度のことは追えた(もちろん、当事者が英語にして発信したいことを英語で拾うことができた、という程度で、深いことは英語だけでは無理だろうが)。ディアスポライラクキリスト教徒がジャーナリストとして英語で仕事をしていることも多い。今回、UAEの英語メディア、The NationalTwitter feedを何となくフォローしていた。このメディア、UAEについての報道はあまり真に受けるのはどうかというのがあるにせよ、Twitterの使い方は上手で、早くてわかりやすいなと思った。ほか、イラク国内のキリスト教コミュニティは北部に多いのだが、同じく北部にあり今回の旅程にも組み込まれていたイラクのクルディスタン(クルド自治州)のメディア、Rudawの英語版もよかった。

教皇は、5日にバグダード国際空港に到着して首相の出迎えを受けられ、その後市内に入って大統領宮殿での歓迎式を経て、the Cathedral of Our Lady of Salvationで各宗教宗派の指導者らとお会いになり、お話しをされた。ここは2010年10月にイスラム主義過激派(スンニ派の過激派、のちのイスイス団)に襲われ、58人もが殺された大聖堂で、そこに教皇がいらしたことは、イラクのクリスチャンの人々にとってとても大きな意味を持つと、当日流れてきたニュース系のツイートが述べていた。

ちなみに教皇は、新型コロナウイルスのワクチンの接種はとっくに済ませていて、多くの場面で、マスクなしで素顔をさらしておられた。

翌6日は教皇は南部の都市でシーア派の聖地であるナジャフに向かわれ(ここも2003年、ムクタダ・サドル支持のシーア派武装主義者と米軍をはじめとする連合軍の間で大変なことになった)、そこでイラクシーア派の最高権威であるアリー・アル=シスタニ師と対面された。どちらも高齢なお二人が、それぞれの聖なる色の装束(シーア派の黒、カトリックの白)で、真っ白な何もない壁を背にL字型のベンチの角の所に座っている写真は、重厚感というか密度がすごい写真だった。

前置きが長くなったが、今回の実例は、シスタニ師との対面を終えたころの教皇Twitterフィードから: 

*1:バグダード」という表記を個人的には使っているが。

*2:お若い方は知らないと思うが、当時はネットには「文字コード」という問題があり、1バイト文字(英語圏のアルファベット)と2バイト文字(中国語や日本語の文字も、アラビア語の文字も2バイト文字)の間には技術的な壁があって、英語圏のサービスを日本語圏やアラビア語圏で使う人は、英語を使う人に限られていた。

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