Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

【再掲】仮定法過去完了(ジョージ・フロイドさん殺害事件の裁判より)

このエントリは、2021年4月にアップしたものの再掲である。

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今回の実例は、Twitterから。

昨年、2020年5月、米ミネソタ州ミネアポリスで、ジョージ・フロイドさんという男性が警察によって取り押さえられている間に死亡した。いや、「警察によって取り押さえられている間に死亡した」のではなく、「フロイドさんを強引に押さえつけている警官が彼を殺害した/殺した/死なせた」、と書くべきだろう。

この事件は、その後、全米各地でのBlack Lives Matter運動のうねりを引き起こし、各地でデモが行われ、そして日本では、ほぼすべてと言えるくらいのデモが平和的な抗議行動だったにもかかわらず、報道写真や映像などを根拠に「暴動」云々というネガティヴなイメージだけをしたり顔で語る人々が、それこそインテリ層の中にも、数的・質的に無視できない程度に出現し、中には「左翼が組織する広範で組織的な暴動」といったことを言い出す人までそこらへんにごろごろし始めるありさまだったが、それらの人々のうちかなり多くが、11月の大統領選挙では不正がどうたらこうたらで本当に勝っていたのはドナルド・トランプだと信じていたりしていたことだろう。私はああいう方面にはアンテナを張っていない*1から雑な把握しかしていないが、丁寧な把握などする必要もないことである。ちなみに、私自身も「BLMを支持する左翼」云々という言いがかりをつけられているわけだが、これは右翼・左翼の問題ではなく、普遍的人権(生存権)の問題であり、フロイドさんに起きたことは「生存権」とかそれ以前の、シンプルに「人を殺すな」という言葉で語られるべきことである。

さて、このフロイドさんの死をめぐって、現場にいた警官たち4人の中で唯一起訴されているのが、うつ伏せになっていたフロイドさんの首を約10分間にわたって(そのうち約9分間は、フロイドさんは息があった)膝で押さえつけていたデレク・ショーヴィン被告である。裁判は今年3月8日に開始され、事件を目撃していた人々など大勢の証言が行われる。

それら証言者のひとりの発言を引いた報道のフィードが、今回の実例。とても、とても重い実例である。

 

*1:というより接点を持たないように努力している。Twitterではあれらのアカウントの多くをミュートしてある。

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【再掲】省略, 使役動詞makeの構文, 現在進行形, ぱっと見はtoo ~ to ...構文に見える形式主語の構文, など(ティエリ・アンリがSNSを離れた)

このエントリは、2021年4月にアップしたものの再掲である。

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今回の実例は、前回の続きで、SNSと距離を取ることにしたティエリ・アンリのインタビューでの発言より。アンリがどういう人かなどの説明は、前回のエントリをご参照のほど。今回はさっそく本題に入ろう。記事はこちら: 

www.bbc.com

なお、今回はぜひ、この記事ページに埋め込まれている映像でアンリが語っている音声を聞いていただきたいと思う。発音には、アンリの母語であるフランス語の影響はもちろんあるのだが、それはあまり強くはなく、さらに、発話のペースは英語として非常にナチュラルなものである。また、BBC Newsの記事の文面は、アンリの発言をそのまま文字化したものではなく、多少「文章整理」的なことが行われており、元発言にある語が省かれている部分があったりもする(そういう加工はほとんど加えられていないと言える程度だが、無編集・無加工ではない)。

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【再掲】年齢の表現, ひとまとまりの文章の中で繰り返しを避けるための言い換え表現, too ~ to ...構文, など(ティエリ・アンリがSNSを離れた)

このエントリは、2021年3月にアップしたものの再掲である。

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今回の実例は、インタビューでの発言から。

ティエリ・アンリといえば、1990年代終盤から2000年代にかけてのサッカー界のスーパースターのひとりである。2014年に現役引退したが、フットボーラーとして一番の時期に在籍していたイングランドアーセナルでは今も「キング」であり、多くの人々の尊敬を集めている。

その彼は、現役時代からサッカー界の人種差別という問題に取り組んできた。2004年に代表戦で相手となったスペインの(よりにもよって)監督から、黒人であることで侮辱的な言われようをしたことがきっかけで、スポンサーのNikeと組んで、Stand Up Speak Upという人種差別反対のキャンペーンを開始した(これは組んだ相手がNikeだったことで批判も受けたのだが)。

アンリが現役だったころのフットボール界での人種差別、特にフランスでのそれについては、陣野俊史さんの下記の本に詳しい。 

サッカーと人種差別

サッカーと人種差別

 

そのアンリが、先日、人種差別発言の横行を理由として、ソーシャルメディアから離れること (removing himself from social media) を宣言した。TwitterFacebookInstagramも全部(一時的に)やめてしまうという。Twitterでも、長文をスクリーンショットで投稿する形でステートメントが出されていたが、アンリのアカウントはそのツイートも含め過去のツイートが全部削除されて「跡地」の状態になっているので、その文面はもう参照することができない*1。ただ「ソーシャルメディアから離れる」という宣言のツイートそのものの文面は、私がはてなブックマークにメモしてあったので、前半だけ見ることができる。人種主義が絡んだ話になると日本語圏ではことが面倒になることがあるのだが、こういうことについては事細かに「エビデンス」を要求する方々には、それをもって、アンリがSNSをやめたという事実確認の根拠としていただきたい*2

今回の実例は、そういう決断をしたアンリにそれについてインタビューしたBBCがまとめた記事から。記事はこちら。

www.bbc.com

なお、アンリはフランス出身のフランス人だが、イングランドで長くプレイしていたし、現役引退後はイングランドのTVでサッカー解説の仕事をしていたこともあり、英語は「ネイティヴ話者なみ」である。

*1:個人的には手元に保存してあるが、アンリ本人がネットから削除してしまったのだから、これはこのまま手元に置いておくだけにする。

*2:ついでに言うと私はもっと具体的な、ツイートそのものも保存してあるし、実はネット上でもアーカイヴはされているのだが、アンリ本人が既にネットから削除してしまったものについてここで取り上げることは差し控える。

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【再掲】倒置, be + to不定詞, 省略, など。(カズオ・イシグロの新作を英語で読んでみよう)

このエントリは、2021年3月にアップしたものの再掲である。

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今回の実例は、前々回(3月24日投稿)と同じく、カズオ・イシグロの最新作『クララとお日さま』の原著(英語)より。 

クララとお日さま

クララとお日さま

 

ちなみに「クララ」は原著では "Klara" で、これはClaraの別綴りであるが、言葉としてはclearという語とつながっている。こういう連想が働くかどうかもカギのひとつとなるフィクションだが、Amazon Kindleで試し読みできる部分だけでもそういったことが感じられると思う(けっこうたっぷり読めるので)。

さて、前々回(3月24日投稿)では、この物語の語り手であるKlaraがとてもかっちりした、いわばお手本のような英語を使っているということを述べ、実例としては《強調》で副詞節が前に出たために、主節でSとVの《倒置》が起きている個所をみた。このなんだかクラシカルな印象を与える構文は、この作品では繰り返し出てくる。Klaraはそのように「学習」しているのだろう。今回は、前に見た個所の少し後に出てくる2つ目の《倒置》の構文を見てみよう。

なお、今回は少しだけ作品の内容に触れている。とはいえ、「ネタバレ」になるようなことではなく、日本での出版社が宣伝のために書いている文で堂々と出している部分にあるのと同じ程度だが、それでも、本当にまっさらな状態で一切の先入観なく、作品そのものを最初に読みたいという方は、今回の当ブログはこの先に進まないほうがよいだろう。(私は今回そういう読み方をして、そしてとても楽しめている。)

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【再掲】even if ~, be regarded as having ~, the+最上級 ~ everなど(古賀稔彦さん死去)

このエントリは、2021年3月にアップしたものの再掲である。

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今回の実例は、英語版ウィキペディアから。

1992年のバルセロナ五輪で金メダリストとなった柔道家古賀稔彦さんが、53歳という年齢で亡くなったことは、英語圏でも伝えられている。

私は柔道のことは道着の縫い目のひとつほども知らないが、どこかすれ違う程度の縁を得た、日本に関心のある人(特にアニメだゲームだとさわぐようになる前に日本に関心を抱いた人の中には、柔道と接点があった人がわりとよくいた)が、Kogaという名前を出して、"the greatest of all time" と、今ならGOATという略語にされるような表現で語っていたことがあったと、ずっと忘れていたようなことを、訃報に接して思い出した。

 「古賀稔彦は、柔道界のマイケル・ジョーダンのような存在だった」と書き出されているこの文は、そのあとでその内容を具体的に説明しており、《トピック・センテンス》の次に《サポート・センテンス》という英語の書き方のお手本のようだ。

 「たとえ~でも」の《even if ~》を使って「たとえあなたが、柔道やマーシャル・アーツ(格闘技)について何も知らなくても」と前置きして、「これを見れば、何か普通でないことが起きているということがわかるかもしれない」と古賀氏のすごさを示す映像を紹介するツイート。残念ながら、本当に柔道について何もわからない私には、「すごい、軽々と一本背負いしている」ということしかわからないが、ここでは古賀氏は「10の別々のこと」を一緒におこなって、あの見事な技を決めているのだという。

本当にすごい技能を持っている人は、軽々とやってのける。楽器の演奏でも、工芸でも、スポーツでもそうだ。素人には「すごい」ということしかわからない。「よくわからないけどすごい」のだ。そしてもちろん、その背後には、素人には見えないような努力と鍛錬の積み重ねがある。 

古賀稔彦さんの英語版ウィキペディアのページは、私が訃報に気が付いたときには既に更新されていた。その冒頭、その人物についての概略を端的に述べる部分に、ウィキペディアらしからぬ、というか書き言葉らしからぬ次のような一文があるのに気付いた。

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主語が長い文, to不定詞の2つの用法(岸田内閣と統一教会)

今回の実例は、Twitterへの報道機関のフィードから。

報道機関が記事を出して、その報道機関の公式アカウントがそれをTwitterにフィードするときのパターンは大まかに2通りある。記事の見出しとURLだけをツイート本文に記し、その下の部分で展開される写真付きの部分(Twitter card)にリード文を表示しているパターンと、見出しとリード文を混ぜたようなやや詳し目の記述とURLをツイート本文に記し、Twitter cardを添えているパターンだ。

いずれも記事がアップロードされると自動でフィードするツールを使っていると思われるが’(記事の取捨選択はしているかもしれないが)、そのような自動化ツールのひとつがEchoboxで、日本で発行されている英語新聞the Japan TimesはそのEchoboxを使っている。

それがどこでわかるかというと、ツイート本文の下、投稿日時の表示の横のところだ。

https://twitter.com/japantimes/status/1561576871158054912

”Echobox" と表示されているのがわかるだろう。

さて、今回の実例はこのフィードの本文。上記の2通りのパターンのうち、後者のパターンで、単なる見出しよりは詳しい文面がツイート本文として投稿されている。

この文面、主語が長い。

「主語が長い」ということは、述語動詞がどれだかが把握できてはじめてわかることなのだが、このツイート本文の述語動詞はどれか、ぱっと一読しただけで把握できただろうか。

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過去の習慣を表すwould, 日本語の助詞の重要性(小ネタ2つ)

今回の実例はTwitterから、小ネタ系を2つ。

忙しいので、前置きの解説なしでいきます。

まずはこちら。日本で報道されていることを英語にして紹介している神田国際大学のジェフリー・J・ホールさんのツイートより: 

第2文、コンマ2つにはさまれた《挿入》を外すと、次のようになる。

Hagiuda, ..., would often visit the church

はい、《過去の習慣を表すwould》。「よく~していたものだ、よく~したものだ」。

いろいろパネェっすな、英語にすると。

パネェんだけど、英語で世界を見るときの解像度はこういう感じです。特に人間の行動に関しては。

もう少し加えると、ここに仮定法か直説法か(現実には起きていない・起こりえないことか、現実に起きた・起こりえることか)、話者の心情が入った表現か心情の入らないドライな事実か、といった、大まかに二分するフィルターが(何枚か)重なっているという感じです。「きのう何食べた?」は直説法で過去の1点について言う表現を使えばいいし、「転生したら勇者だった」みたいなのも(少なくともその物語上は「現実に起きた」ことだから)同じく直説法で過去。一方で「どうなる、日本経済」みたいなのは事実に基づいて展望を述べるなら直説法で未来を言う表現を使うし、「もしも米国経済が08年のような激動に見舞われたら」みたいな最悪のシナリオを想定して考察するという場合なら仮定法でwouldなどを使う。

小ネタの2つ目: 

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【再掲】倒置, 「~したものだった」のwould, andによる接続(カズオ・イシグロの最新作を英語で読んでみよう)

このエントリは、2021年3月にアップしたものの再掲である。

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今回の実例は、話題の本から。

これ。 

クララとお日さま

クララとお日さま

 

英語版も日本語版(を含む各国語版)も同じ日、3月2日に発売となったこの作品、英語版は言うまでもなく日本語版も紙の書籍と同時に電子書籍も出ていて、各ネット書店・電子書籍信販売元で最初の方が試し読みできるようになっている。

その試し読みを両方読んで、私はこれは先に英語で全部読んでから日本語訳を読もうと思ったので、まずは英語版を購入して少しずつ読み進めている。日本語版は紙でも電子でも2,750円するが、英語版の電子書籍なら1,000円台だ。

全編を通じて "I" が語っている一人称小説だが、この "I", すなわちKlaraがとてもかっちりした英語を使うので、受験英語をしっかりやっている人ならほぼ難なく読み進められるだろう。ところどころ、Klara以外の誰かの発言としてカギカッコでくくられている中で、口語的に崩れた表現が出てきたりもするが、それもさほど読みにくくはない。物語の書き方としてもあまり小難しい感じではなく、なんというか、素直な英文だから、新学期が始まるまでの間に何か読んでおきたいな、というようなケースにはぴったりだろう。

で、この本の英語版は、紙の本も電子書籍も、英国版と米国版が出ている。英国版はFaber & Faberという出版社で、米国版はKnopfという出版社だ。表紙が違うので見分けがつくが、中身は、試し読みできる電子書籍の見本部分で確認した限り、どちらも同じである。通例、英国の作家が書いた作品は英国式の綴りや単語が使われているので、米国版はそこを米国式に微修正するのだが(例えばcolourはcolorと差し替えられ、realiseはrealizeに置き換えられる。もっと大きな修正例では、英国では Harry Potter and the Sorcerer's Stone だった作品が、米国では Harry Potter and the Philosopher's Stone にされ、ニュアンスが抜け落ちてしまったことがある*1)、Klara and the Sunでは英国版でもcolorという綴りが使われている。これはおそらく、作家によるKlaraというキャラクターの造形の一部だ――Klaraはアメリカ英語を使う。Klaraは20世紀後半以降、アメリカで発展してきた「計算機科学の子」だからだ。この作品は、Klaraが見聞きしたこと、"感じた" こと、"考えた" ことや "推測した" こと、つまりKlaraのmindがどう動いたかを、Klara自身が言葉にして、"I" の主語で書き綴っているという体裁の物語であり、"color" という綴りを使っているのは、作者のカズオ・イシグロではなくKlaraなのだと私は読みとっている。(そう読んでいるのは私だけではないと思うが、作品を読み終えるまでは書評・評論は意図的には見ないようにしているので、未確認。)

ともあれ、作品について立ち入るのは当ブログの仕事ではない。Amazonでも英国版、米国版両方の電子書籍があるが、このようなわけで、どちらを買っても同じである。「colorじゃなくてcolourって書いてないと読みづらいんだよね」という英国式綴りに最適化されている目の持ち主には若干つらいかもしれないが、選択の余地はない。

ではどちらを買うかというと、今のところ、価格が違うからそれで決めればいいと思う。Amazon Kindleでは私がチェックしたときは英国版が1,500円くらいだったが、今は1,100円しない程度になっている。 

私が買ったときは楽天KOBOの方が安かったのでKOBOで購入したが(余談だがKOBOは元々カナダの会社なので、英語の書籍が充実している)、今ならKindleの方が安い。専用端末でなく、スマホやPCのアプリで読むなら、どちらを買っても同じだ(ただしスマホ・PCのアプリは、Kindleの方が、同期やメモの使い勝手がKOBOアプリよりも数倍よい。というかKOBOのアプリはかなりタコで、イマイチ便利さに欠ける)。

 

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米国版はこちら。米国版は、現時点で、KindleKOBOでは300円以上の価格差がある。 

Klara and the Sun: A novel (English Edition)

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というわけで、今のところでは一番安いのはKindleの英国版、次がKOBOの英国版だ。

自分に読みこなせるかどうか不安だという場合は、Kindleのサンプルを見てみるとよい。サンプルでもかなりたくさん読めるようになっているから――私のスマホの画面で450ページ分――、自分の英語力で読めるかどうかを確認するくらいは余裕でできるだろう。

今回の実例はこのサンプル部分から。小説の文面をばーんと貼るのは抵抗があるので、実例の出てこないパラグラフはマスクしてある。文中、Rosaとあるのは語り手のKlaraの友達である。

f:id:nofrills:20210324074523j:plain

https://www.amazon.co.jp/Klara-Sun-English-Kazuo-Ishiguro-ebook/dp/B08B8BDLW1/

キャプチャ画像内でハイライトしてある部分の前半では、《倒置》が起きている。《強調》のためにonlyのついたwhenの副詞節が前に出たことで、主語と述語が逆転して、「S+助動詞+動詞の原形」の語順ではなく、「助動詞+S+動詞の原形」の語順になっている。

Only when I pointed out something to her would she turn her head

これを倒置でない(つまり通常の)語順にすれば、 "she would turn her head only when I pointed out something to her" となる。文意は、「だ・である」調で直訳すれば、「私が彼女に何かを示したときにだけ、彼女は頭の向きを変えた」。

ハイライト部分の後半から: 

but then she'd lose interest and go back to looking at the sidewalk outside and the sign.

太字にした "she'd" は、ここでは "she would" の省略である。このwouldは、文章を書いている時点から過去を振り返って「~したものだった」と述べるときに使うwouldである。

下線で示した "and" は何と何をつないでいるだろうか。直後が "go" という動詞の原形だから、この "and" はその前にある動詞の原形と "go" をつないでいると考えられる。つまり、 "she'd lose ... and go ..." という構造だ。というわけで、文意は「しかしそうすると、彼女は関心を失い、外の歩道と標識を見つめることに戻ったものだった」(直訳)。

こんな感じの英文だ。読めそうだなと思った人は、まずはサンプルだけでも読んでみてほしい。 

 

 

英文法解説

英文法解説

 

 

*1:ちなみに、この作品の英→米での修正例は、英語版ウィキペディアで米国版について記載するセクションで、一覧表でいくつか具体例が整理されている。表になっているのは、英国のjumperが米国ではsweaterにされるなど一般的な修正が多い。

【再掲】「海外からの~」「外国の~」の表し方, due to ~の2つの用法・意味, 付帯状況のwith(東京五輪は、国外からの観客なし)

このエントリは、2021年3月にアップしたものの再掲である。

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今回の実例は、Twitterがまとめているニュース系フィードのページから。

3月21日、何が何でも開催を強行するらしい東京オリンピックパラリンピック大会に、日本国外からの観客は入れないという決定が、正式に表明された。それは当然、即座に「国際ニュース」として英語でも伝えられ、それなりに注目の的になって、Twitterが ../events/ のURLでやっている「ニュースのまとめ」に掲載された。

twitter.com

この画面、Twitterの方針がいろいろ変わっているので、タイミングによっては、Twitterユーザー個々の言語設定によって表示されているものが英語ニュースだったり日本語ニュースだったりするかもしれないが、Twitterを英語で使っている私の環境では下記のキャプチャのようになっていた。

f:id:nofrills:20210323070204p:plain

https://twitter.com/i/events/1373232436142743558

この文面、短いが、けっこういろいろと学べるものがある。

この件では日本語圏の報道も「海外観客」「海外からの観客」という言い方をしているが、五輪という文脈がない場合の日本語圏での日常の表現では「外国人(観光客)」だ。そして、食堂などで親切心から、「外国人の皆様へ。英語メニューあります」ということを英語で表示するときに、この「外国人」を直訳して"foreigner" という表現を使ってしまい、気を悪くされる、といったケースもある。Foreignerという単語は、日本で英語を習っていれば非常に早い段階で覚える単語なので、日本では誰もが知っているから、英語が使えない人でも何となく使えてしまうのだろう。だが、この単語はあまりよい響きの単語ではない。全くの親切心からやっていることでお客さんの気分を害してしまうのは不幸なことで、避けた方がよいのだが、ではどう表現すればよいかというと、ここにあるような「海外からの~」の表現を使えばよいのである。

上記ページの見出しには: 

Spectators from overseas

とある。これが「海外からの観客」の意味だ。これを応用すれば、"customers from overseas" という言い方ができるということに気づくだろう。この表現はまったくもって穏当な表現で、日本語でいえば「海外からお越しのお客様」くらいのニュアンスで使える。

ただ、「英語メニューあります」という表示には、「海外からお越しのお客様へ」という断り書き自体が不要で、単に "English menu(s)*1 available." とか "We have English English menu(s)." と表示しておけばよい(余談だが、この「メニューあります」を "There is ~" で表すのは奇異である。和文英訳としては「まあ、そういうふうにするっちゃーするんだけどもー」と苦笑せざるを得ないが、翻訳としては苦笑の余地もなく、完全に誤訳となる)。

*1:menuは場合により単数形のことも複数形のこともある。

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過去分詞の後置修飾, not only A but also Bのbut alsoが消失してnot onlyが接続詞句的に使われている例, など(パレスチナの7つの人権NGOの事務所をイスラエルが急襲し封鎖)

今回の実例は、Twitterから。

第一線で活躍するパレスチナのジャーナリスト、シリーン・アブ・アクレさんが、ジェニン難民キャンプを取材中に、イスラエル軍によって理不尽にも撃ち殺されてから、この18日で100日を迎えた

シリーンさんのご家族・ご親族や友人・同僚の人々がそのことをツイートしはじめる少し前というタイミングで、シリーンさんの殺害のニュースに負けず劣らず衝撃的なニュースが流れてきていた。といっても人が殺されたのではない。残念なことに、パレスチナではイスラエルによって人が殺されるのはほぼ毎日のことで、それは私の見る世界ではろくにニュースになることもないし、私自身にも、深い衝撃を与えはしない。そういうことが伝えられるたびに、私に与えられるのは、「またか」という嘆息といら立ち、「いつまで続くのか」という怒りと憤りばかりである。衝撃ではない。英語ではこういうのを "not surprising" とか "not surprised" といった言い方で表すのだが、それは別の話。

何があったのかというと、パレスチナ人の人権のために活動しているNGO複数の事務所が踏み込まれ、書類などが持ち去られ、ドアが封じられたのだ。それも、オフィスに人がいない時間帯に。

NGOが急襲されただけではない。イングランド国教会の海外部門であるAnglican/Episcopal Churchの教会も急襲され、ドアが破壊されて解錠された。

イスラエルがどれほど常軌を逸したことを平気でやってくるか、この例だけでもおわかりいただけるだろう。理由はあとから何とでもつけられるし、実際に彼ら・彼女らはそうする。

この理解しがたい蛮行について、+972magがまとめているので、今回はそのスレッドを読んでみよう。

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準否定語のlittleが文頭に出たことによる倒置の構文とその意味, 時制の一致(ティム・バートンの新作の予告編と、人種)

今回の実例は、新たに公開される映像作品の予告編から。

アダムス・ファミリー The Addams Family』という作品をご存じだろうか。私はクリスティーナ・リッチを一躍有名にした映画で知ったが(下記のDVD参照)、作品自体はこの映画からさかのぼること50年以上前、1930年代、つまり第二次世界大戦/太平洋戦争前の一コマ漫画である。作者はチャールズ・アダムズ(アダムス)という漫画家だ*1

戦前と戦後に大きな断絶のある日本でそういうタイムスケール感で人気を保っているフィクションの作品というのは私には思いつかないのだが、米国の場合、例えばミッキーマウストムとジェリーなども第二次世界大戦前から愛されているキャラクターなので、特にこのお化け一家が「古くからある」という感じはしないのかもしれない。

ともあれ、このアダムズ・ファミリーは、何度もドラマ化・アニメ化・舞台化されていて、その最も有名なのが上述の1991年の映画なのだが、2022年の今もまた新たな作品が制作された。主人公は、91年の映画ではクリスティーナ・リッチが演じた一家の娘、ウェンズデー。監督は『シザーハンズ』や『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』などのティム・バートン。作品タイトルはWednesdayである。

この「アダムズ・ファミリー」の新作映画Wednesdayは、Netflixで公開されるのだが、今回Netflixから予告編が公開された。こちら: 

今回の英文法実例は、この予告編から。

*1:ウィキペディアをよく読むと、アダムズの最初の妻は後にジョン・ハーシーと再婚したそうだ。そう、核兵器の人体への恐ろしい影響を公にしようとしなかった米国政府にある意味で抵抗して、広島を訪れ、被爆者に話を聞いて、1946年8月という早い時期にHiroshimaという著作を世に出したジャーナリストである。

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長い文を文構造を正確にとったうえで読むということ, 副詞節, 挿入, not only A but B, など(かつてケニアで英国がなしたことを、「自虐的に」ではなく、批判的に検証する英国のドキュメンタリー番組)

今回の実例は、TVでのドキュメンタリー番組の取材でわかったことについて報じる新聞記事から。

欧州各国では、ここ何年かの間に、かつての植民地主義時代に植民地から奪って自国の博物館などに収蔵してきた現地の技術と美意識で作られた工芸品や歴史的な遺物などを、現地に返還する動きがみられるようになってきた。当ブログでも先日、ベルギーとコンゴの事例を扱った。

英国の場合、このような収奪を象徴する存在として、大英博物館におさめられて展示されているギリシャの彫刻があげられる。これは、この彫刻群をパルテノン神殿(あのパルテノン神殿である)から削りはがして英国に持ってきてしまった英国人外交官の名前にちなんで「エルギン・マーブル Elgin Marbles」と呼ばれてきたのだが、最近は、所有者でもない人物の名前を冠するより元々あった場所の名前を冠して「パンテオン・マーブル Pantheon Marbles」と呼ばれることも多い。この彫刻群は、1970年代にはすでにギリシャから返還要求が出されていたが、その要求を英国は、政府も学術界もそろって、「ギリシャのような遅れたところに置いておいても貴重な文化財が劣化してしまう。我が国でケアするのが世界のためだ」みたいなことを言って拒絶していた――という文章を、私は90年代に文化を扱う雑誌(『マリ・クレール』とか)か、思想を扱う雑誌(『ユリイカ』とか)で読んで知り、さらに英国の協力のもとで日本で出ていた大英博物館収蔵品の解説本に掲載されていた英国人の学者の書いた論文*1を読んで事態の深刻さを知って驚いたのだが、まあそういうわけで、私は大英博物館という場所にはどうも行く気になったことがない。

それでも、私が英国で好んで足を運んでいた博物館の中には、植民地から略奪してきたものを展示していた施設も少なくはなかったはずだ。そういった施設には、最近、収蔵品を元々あった国に返還するという決定をしているところがある。最近読んだのは、ロンドンのホー二マン博物館についての記事だ。

www.bbc.co.uk

このように、旧植民地との関係、というよりも、自国の旧植民地に対する態度の見直しが、かなり積極的と言ってよいような熱心さをもって進められているのは、何も文物や工芸品の返還というわかりやすい分野だけではない。

英国の植民地主義の苛烈さは、現地の人々に対する支配と圧制という形に現れていて、旧植民地が独立するという、英国にとってみれば「勢力が弱まり、かつての地位を失うこと」の証のような過程を経て、そして運よく、なおかつ/あるいは現地の人々の熱意と努力があったために、その証拠が残されていたケースでは、近年、それらの苛烈な支配と圧制の証拠が明らかにされつつある。

その最も新しい例が、今回見る記事で扱っているケニアの例だ。記事はこちら: 

www.theguardian.com

英語の過去形の文章というのは、「過去は過去だけどいつのことよ」と思わされることがけっこうある。この記事もそういう性質の文章で、こういう文章を読み慣れていないとちょっと読みづらいかもしれない記事だが、ぼやーっとしていてわかりづらいなと思うところがあっても、そのまま読み進めていくと、次第に記述が具体的になって話がはっきりしてくるから、心を折られることなく読み進めてみてほしい。

またケニアに対する英国の圧制(植民地支配)について細かい知識がない人でも、記事を読んでいくうちにその具体的な形が見えてくるように書かれているから、「西欧列強のアフリカ分割の時代、現在のケニアは英国の支配下に置かれた」くらいのざっくりしたイメージしかなくても、安心して読み進めてみてほしい。

英語の記事を読むというのはどういうことか、体験できると思う。

*1:日本語版ウィキペディアにも書いてあるが、英国の博物館員らが得意顔で削り落とした「汚れ」は、実は彫刻の元々の彩色の痕跡だった、ということを扱った論文だった。

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【再掲】主語がめっちゃ長い文, 動名詞の意味上の主語と動名詞, 関係代名詞など(3-0から追いついたアーセナル)

このエントリは、2021年3月にアップしたものの再掲である。

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今回の実例は、Twitterから。

昨日、3月21日の日曜日は、イングランドプレミアリーグではウエストハムアーセナルの「ロンドン・ダービー」だった*1ウエストハムは名称こそ「ウエスト」だが、ロンドン東部のクラブである(正確に言うと、ロンドン東部にある「ウエスト・ハム」という場所を拠点とするクラブである)。2012年のロンドン五輪で建設されたメインスタジアムを、いろいろとうまいことやって、本拠地として手にしたクラブでもある。またここは1980年代くらいまでの「フーリガン」の時代に悪名を高めたクラブのひとつで、このクラブの「ファーム」のことが映画化されていたり、あるいはロンドンを舞台にした映画で「ウエストハムのサポ」というと極めて粗暴な男たちという類型として登場していたりする。ロンドンがゾンビ化ウイルスに襲われ、東ロンドンの若者たちと老人ホームのじじばばがゾンビをなぎ倒すという、全然怖くない超低速ゾンビ満載の手作り感たっぷりの映画『ロンドンゾンビ紀行』(最高の邦題だが原題はCockneys and Zombies)でも、「粗暴なウエストハムのサポーター」がダレそうな場面の引き締め役みたいな感じで出てきていたと思う。 

ロンドンゾンビ紀行(字幕版)

ロンドンゾンビ紀行(字幕版)

  • メディア: Prime Video
 

何の話だっけ。

そうそう、それで、日曜日のロンドン・ダービーはウエストハムのホームであるロンドン・スタジアム(つまり元の五輪メイン会場)で行われたのだが、この試合が、笑ってしまうような展開だった。

つまり、ホームのウエストハムが先に3点取っていて、アーセナルが3‐0から追いついた(それだけでもドラマチックなのに、このうちの2点はオウンゴール)。

今回の実例は、そういう試合についての一言から。

ツイート主のJames Bengeさんは米国の報道機関CBSのサッカー担当記者である。

さて、このツイート、一読して《文の骨格》が取れただろうか。どれが主語で、どれが述語動詞かがわかっただろうか。

*1:ロンドンを拠点とするクラブは、現在プレミアリーグにはアーセナルチェルシークリスタルパレス、フラム、トテナム、ウエストハムの6つがあるが、特にライバル関係がすごいのが、アーセナルとトテナムの北ロンドン・ダービーと、ウエストハムとミルウォールのドッカーズ・ダービーである。ただしミルウォールは今はプレミアにはいない。

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【再掲】性別を特定しない3人称単数代名詞としてのthey(新型コロナウイルス禍、1年前に政府内で何が起きていたか)

このエントリは、2021年3月にアップしたものの再掲である。

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今回の実例は、日々のニュース報道ではなくあるひとつの大きな物事を振り返るような記事から。日本の報道機関で「特集」と位置付けられるような類の記事である。

この3月は、新型コロナウイルス禍によるロックダウン(外出禁止や店舗などの営業停止を含む、厳しい行動制限)という自由主義社会では考えられなかったような過激な策が、欧米各国でも取られるようになってからちょうど1年ということで、「あれから1年」という特集記事があちこちで出ている。もちろん、このパンデミックは、例えば地震などの災害やテロ攻撃のように「発生から1年」という明確な区切りの日があり、1年も経っていればある程度の距離を取って振り返ることができる、という性質ものではなく、現在もまだ進行中である。だから「あのときはこうだった」という内容の、日本語でいえば「風化させてはならない」系の過去形のトーンではなく、あくまでも現在進行形(というか、現在完了進行形)のトーンだ。

厳しい行動制限を導入した国のひとつである英国は、世界でも状況が最も悪い国のひとつである。お手軽で申し訳ないが、英語版ウィキペディアの「新型コロナウイルスのパンデミックにおける各国死亡率」の項に一覧表があるので、その表を "Deaths per 100,000 population" (人口10万人当たりの死亡件数)でソートして見ていただきたい。

en.wikipedia.org

現時点で一番上に来ているのはサンマリノだが、ここは人口がとても少ないので、死者数が77人でも、100万人当たりに換算すると227.91という数値になってしまう。他にもそのような、元々の人口が少ない国というのが欧州にはいくつかあるので、それらは目に映ってもスルーするようにして眺めていくとよいだろう。

そして、100万人当たりの死亡件数でソートしたときのこの表において、死者数が6桁に達している国々の中で、最も上に位置しているのが英国の189.61人である。単純に死者数だけなら米国の538,087人が最も多いのだが、米国は人口が多いから、100万人当たりだと164.47人となる。死者数の多さでは、米国の後にブラジル、メキシコ、インドと続き、英国は5番目で126,068人となっている。ちなみに日本は死者数は8,718人で、100万当たりだと6.89人となっている。(数値はいずれも2021年3月18日時点)

f:id:nofrills:20210319202602p:plain

https://en.wikipedia.org/wiki/COVID-19_pandemic_death_rates_by_country

(「英会話」なんかできなくったって別に構わないという人も、自力で読めない英文はとりあえずDeepL翻訳に投げればいいんで読めるようにする必要なんかないでしょと思ってる人も、ネットでの調べもので英語を使うことができれば、こういう情報に瞬時にアクセス可能だということを頭に置いておいてほしい。そこで差がついてしまうということも。)

英国は医療システムがよく整った国であり、科学の力も強い国である(「試験管ベビー」も「クローン羊」も英国の科学によるものだ)。それにもかかわらず、このウイルス禍では「世界最悪」と言える状況にある。

ウイルス禍が英国に及ぶ前に既に欧州大陸(特にイタリア)がひどいことになっていたわけで、それを注視し、先手先手で対策を立てていれば、こんなことにはならなかった、という批判がよくなされる。イタリアがひどいことになっていたころ、英国のボリス・ジョンソン首相は「ウイルス、恐れるに足らず」という態度で「私は誰とでもばんばん握手して回る」と豪語していたし、首相が「ものすごい数の死者が出る」と苦渋の表情を浮かべながらも英国政府は「(ワクチンなしでの)集団免疫 herd immunity」という戦略を取ろうとしていた(そして「集団免疫」論は、政府の記者会見で口に出されたとたんに、科学畑から異論反論が矢のように浴びせられて「疑似科学」と断罪され、政府は瞬く間に「そ、そんなの、基本方針だなんて、言ってませんよ?」と顔真っ赤にして反論しながら「集団免疫」論を奥に引っ込めたのだが)。3月中旬の上流階級の社交の場でもある競馬の「チェルトナム・フェスティヴァル」は、場内のあちこちに手指消毒ジェルを設置して普通に行われた(同じころに行われるアイルランドセント・パトリックス・デーのイベントは中止されていたが、ブリテンではまだそういう危機感みたいなのはなかった)。

そういったことを、1年が経過して、このウイルスで126,068人もの死者を出し、このウイルスとは関係のない原因で亡くなった場合も、ロックダウン(行動制限)のために普通に親戚一同や友人たちが集まって故人を埋葬もしくは火葬するという通常の葬儀を行うことができず、いくつもの企業が売り上げを失って苦境に陥り、中には事業を継続できない状態になった企業もあり……という中で、改めて振り返っているのが、BBC Newsの下記記事である。

ツイート主は記事を書いたBBC政治エディターのローラ・クエンスバーグ。以前も書いたと思うが、この人はTwitterがジャーナリスト必携のツールとなったころにいち早くTwitterを使って多くのフォローを集めていた記者で、Twitterがまだ定着しきっていなかった2011年にBBCからITVに移籍した際、Twitterアカウントをそのまま持って出ることについて「BBCの一員として集めたオーディエンスをそのまま引き連れてITVに移るのはいかがなものか」という論争を引き起こした。「Twitterのフォロワーは誰のものか」が真剣に議論されたのだ。隔世の感がある*1

閑話休題。このツイートの本文、 "ICYMI" はビジネスメールやショート・メッセージ、チャットなどでよく使われてきた略語で、"In case you missed it." のこと。「あなたが見逃した場合には」で、日本語の同等の言い方だと何だろう、「再送しておきますね」「改めてフィードします」くらいかな。

《in case S + V》は「SがVする場合には」が直訳だが、「万が一」くらいのニュアンスが入るので、日本語の「~する場合には」をいちいち "in case ~" を使って英訳すると違和感が出る、というのは、大学受験の和文英訳の定番ネタである。

*1:今では、ジャーナリストが完全に個人としてアカウントを持ち、所属機関が変わっても何も言わないのは当たり前だが、かつては「名前+所属機関」のアカウント名の人が多かったのでこういう議論がクエンスバーグ以外のケースでも見られた。BBCLauraがさくっとITVLauraになることは許容されるのか、という議論だ。

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【再掲】私たちが英語でできるようにしておくべきことは「Noと言うこと」ではない。「Noというメッセージを的確に伝えること」である。

このエントリは、2021年3月にアップしたものの再掲である(ただしデッドリンクになってしまっているものだけは削除してある)。

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今回は少々変則的に。

ジョージア州アトランタで、3月17日、3軒のマッサージパーラーが次々と銃撃され、8人もの人々が尊い命を奪われた。殺された8人中6人がアジア系の女性だった。

mainichi.jp

米国で「アジア系 Asian」と言えば、アジア全体を指すようで、私たちの思う「アジア」とあまりギャップはない。他方、英国でAsianと呼ばれるのはインド亜大陸の人々のことで(例えば、アカデミー賞主演男優賞ムスリムとして初めてノミネートされてニュースになっている俳優のリズ・アーメッドや、元One Directionのゼイン・マリク、ロンドン市長のサディク・カーン、内務大臣のプリティ・パテルはAsian Britishである)、中国や日本、ベトナムなどの東アジア人はEast AsianとかOriental, 少々雑で場合によっては侮蔑的な言い方ではChinese, 完全に侮蔑の意図ではChinkeeといった言葉で語られることが多いので、注意が必要である(最近、英国でも、Asianで東アジア人も含めているケースもあるようだが)。ChineseやChinamanは、中国人であるかどうかにかかわらず、東アジア人全般について、多くの場合侮蔑的に用いられる。これは、うちら日本人が欧州人のことを「青い目」呼ばわりするくらいに、適当な言語的現象・慣用である。

新型コロナウイルスパンデミックに伴い、このウイルスの感染症が最初に確認されたのが中国であることから、世界の各地でアジア(東アジア)差別・忌避が広まっているということが伝えられている。米国では前大統領のドナルド・トランプが、ここに改めて書くこともためらわれるような表現で新型コロナウイルスとその感染症のことを言い、絶対多数ではないにせよかなり多くの人々がそれに共鳴している。

日本にもなぜかそのアメリカでのアジア蔑視の言辞が入ってきているが、その界隈では、アジア全体が蔑視されている中で、「中国ではダメだが日本はスゴい」みたいに認識されているわけではない、という現実は無視されているようだ。日本人の側でのいわゆる「名誉白人」現象である。

名誉白人」というのは、かつての南アフリカの人種隔離(アパルトヘイト)政策について、白人側を支持した日本政府と日本人について言われ出したフレーズだったはずだが、その後その枠を超えて、白人全般になぜか親近感を覚え、有色人種全般になぜか嫌悪感を抱いている日本人について、揶揄の意味合いで用いられるようになった表現である。1980年代以前のレガシーだ。皮膚は黄色いのに中身は白いつもりでいるということから「バナナ」という揶揄も日本語圏でなされ、私が大学受験生だったころはそういうことのおかしさを指摘する論説文などを現国の問題集などでずいぶん読んだものだ(中には、「青い目」になりすました日本人が書いたエッセイのシリーズなどもある)。

ともあれその「(名誉白人たる)日本人」界隈では、「嫌われているのは日本ではないので、日本人であることを旭日旗等でアピールすれば差別されない」とかいう盛りに盛ったおとぎ話が出回っているようだ。笑いを取るため、つまり冗談で言ってるんだろうと思ってたら、どうやら本気っぽいのでビビってしまった。しかも白人国家の国旗をつけたTwitterアカウントで「多文化」云々を名乗っている人がそういうことを言っている。「名誉白人として受け入れてもらうこと」が「多文化」なのかもしれないが……。

人を「アジア人だから」といって差別するような人は、その人が中国人か日本人か韓国人かベトナム人インドネシア人かアフガニスタン人かなど気にしない。気にするはずがない。そういった人々は、「アジア人は "我々" とは違う」から差別するのである。

ともあれ、アトランタの銃撃事件では、ジョージア州の治安当局は容疑者(白人で男、21歳)の側に立っているようで、「容疑者はアジア人を殺しに行ったわけではない。容疑者はセックス依存で、性欲を刺激する性産業を攻撃したのだ」「その日はいろいろとうまく行かず、むしゃくしゃしていたのでやったみたいだ」みたいなことを、当局が記者会見で述べたとかいうことがニュースになってて、私が見ているTwitterの画面はみんながドン引きしている状態だった。

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