今回の実例は、学術論文から。
元々はいつも通り報道記事についての原稿を予定していたんだけど(急に学校が休みになってしまった高校生が余裕で読めそうな一般向け記事があった)、いろいろあるのを見てしまったので予定を変更しました。今日予定していたのは明日に回します。
今回の実例はこちらから:
学術論文は、一般の報道記事とは違って、一般人がちょっと目にしてぱっと読みにくるものとして書かれてはいません。その論文が掲載されている媒体(学術誌、学術雑誌)を読む学者・専門家たちが読むことが前提です。だから、分野が違う人は文字は追えても意味はわからないかもしれない。それはうちら日本語母語話者が日本語の文献を読む場合でも、専門分野じゃないものを読んだら中身がわからないのと同じです。金融政策の専門家は、例えば金本位制の歴史の解説は読んだら書いてある通りに理解できるものですが、宇宙物理学の解説書は理解できるとは限らないわけです。逆に宇宙物理学者は金本位制の歴史の解説は上っ面をなでることくらいしかできないかもしれない。
しかしながら、これが英語で書かれている以上、使われている英文法は普遍的なものです。金融政策の専門家でも宇宙物理の専門家でも、記述に際しては同じ文法 (the same set of rules) を使います。(ここで言ってることがわかりづらければ、日本語でいえば金融政策の専門家が「利害のショウトツ」というときも、宇宙物理学者が「電子ショウトツ」というときも、どちらも「衝突」をいう漢字を使うことをイメージしていただければよいと思います。)
今回みる論文は、 International Society of Travel Medicineという学術団体*1が出している、The Journal of Travel Medicineという学術誌です。発行元は英オックスフォード大学出版部です。この学術誌を読むような専門家が読むものとして書かれた論文ですから、英文法がわかるからといって、この分野の知識がない者(例えば私)には、内容をしっかり理解することはほぼ無理な領域です。理解もできないものを解説はできません。したがって、ここでするのは内容の解説ではなく、記述の基礎に使われている文法の解説です。そのことを前提として、本稿、この先をご覧いただければと思います。
*1:「国際渡航医学会」が日本語での定訳のようです。see https://togetter.com/li/223088