Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

仮定法と直説法, 仮定法過去完了, if節のない仮定法, howeverの論理展開, トピック・センテンスとサポート・センテンス(クルーズ船検疫についての論文)

今回の実例は、学術論文から。

元々はいつも通り報道記事についての原稿を予定していたんだけど(急に学校が休みになってしまった高校生が余裕で読めそうな一般向け記事があった)、いろいろあるのを見てしまったので予定を変更しました。今日予定していたのは明日に回します。

今回の実例はこちらから: 

academic.oup.com

 

学術論文は、一般の報道記事とは違って、一般人がちょっと目にしてぱっと読みにくるものとして書かれてはいません。その論文が掲載されている媒体(学術誌、学術雑誌)を読む学者・専門家たちが読むことが前提です。だから、分野が違う人は文字は追えても意味はわからないかもしれない。それはうちら日本語母語話者が日本語の文献を読む場合でも、専門分野じゃないものを読んだら中身がわからないのと同じです。金融政策の専門家は、例えば金本位制の歴史の解説は読んだら書いてある通りに理解できるものですが、宇宙物理学の解説書は理解できるとは限らないわけです。逆に宇宙物理学者は金本位制の歴史の解説は上っ面をなでることくらいしかできないかもしれない。

しかしながら、これが英語で書かれている以上、使われている英文法は普遍的なものです。金融政策の専門家でも宇宙物理の専門家でも、記述に際しては同じ文法 (the same set of rules) を使います。(ここで言ってることがわかりづらければ、日本語でいえば金融政策の専門家が「利害のショウトツ」というときも、宇宙物理学者が「電子ショウトツ」というときも、どちらも「衝突」をいう漢字を使うことをイメージしていただければよいと思います。)

今回みる論文は、 International Society of Travel Medicineという学術団体*1が出している、The Journal of Travel Medicineという学術誌です。発行元は英オックスフォード大学出版部です。この学術誌を読むような専門家が読むものとして書かれた論文ですから、英文法がわかるからといって、この分野の知識がない者(例えば私)には、内容をしっかり理解することはほぼ無理な領域です。理解もできないものを解説はできません。したがって、ここでするのは内容の解説ではなく、記述の基礎に使われている文法の解説です。そのことを前提として、本稿、この先をご覧いただければと思います。

*1:「国際渡航医学会」が日本語での定訳のようです。see https://togetter.com/li/223088 

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関係代名詞, 仮定法のcould, result in ~, 動名詞の意味上の主語, to不定詞の意味上の主語(米・タリバン和平合意)

今回の実例は、アフガニスタンタリバンと米国の和平合意についての報道記事から。

新型コロナウイルスがこれほどまでに世界的関心を集める切迫した事態になっていなかったら、また、米大統領選挙で民主党予備選挙ジョー・バイデンがようやく勝利したというニュースがなかったら、少なくとも英語圏では丸1日はこの話題で持ち切りになっていたであろう。当然、日本語のメディアでも大きく報じられている。

mainichi.jp

ただしこの「和平合意」、確かに画期的な一歩と言えるかもしれないが、中身のほうはどのくらい実現性があるのか、かなり疑問だ。

mainichi.jp

mainichi.jp

こういったことを解説するのは本ブログの目的ではないので、関心がある方は各自報道記事などをご参照いただきたい。重要なのは、アフガニスタンに対し米国が(国連決議を伴って)軍事介入(戦争)を仕掛けたのは2001年10月で、それからもう18年以上が経過しているということである。今、高校生の人たちはこの戦争が始まったときは生まれてさえいない。大学生の人たちも記憶がつく前の出来事だ。

今回参照する記事はこちら: 

www.theguardian.com

 

実例として参照するのは、書き出しの部分。

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完了不定詞、関係副詞の非制限用法、関係詞の先行詞が離れている場合(アンネ・フランクの同級生)【再掲】

このエントリは、2019年5月にアップしたものの再掲である。英語における《過去》と《現在》に注目してご覧いただければと思う。

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今回の実例は、「歴史の生き証人」の活動についての文章から。

アンネ・フランクという少女の名前を聞いたことのない人はまずいないだろう。ドイツの都市フランクフルトのユダヤ人の家にアンネが生まれたのは1929年だったが、1933年1月にアドルフ・ヒトラーが首相となってからほどなく、一家はドイツを脱出してオランダのアムステルダムに逃れた。そこでアンネは幼稚園に上がり、モンテッソーリ学校で明るく楽しく子供時代を過ごしていたが、1939年9月にドイツがポーランドに侵攻して第二次世界大戦が始まると雲行きが変わる。

1940年5月にはドイツ軍がオランダに侵攻。それから1週間もしないうちにオランダはドイツ軍に占領されていた。以降、オランダのユダヤ人たちはじわじわと、ナチス・ドイツの「反ユダヤ主義」にさらされ、しめつけられていく。子供たちはユダヤ人学校に通わされることになり、アンネたちはモンテッソーリ学校には通えなくなった。

そしてついに、ドイツ支配下にある国・地域で「ユダヤ人狩り」(絶滅作戦)が始まると、アンネの父親は経営していた会社が入っている建物に「隠れ家」を準備して、元のように暮らせる日々まで潜伏して待つことにした。そして、1942年7月にアンネたちフランク家の人々と、その友人のファン・ペルス一家の人々など8人が、建物の外には一切出ず、それどころかそこに人が住んでいる気配を見せることもせずに潜伏生活を始めることになったのである。

そのような日々のなか、10代前半となったアンネが書いた日記は、これまでに世界の60の言語に翻訳され、3000万部以上が売れている

増補新訂版 アンネの日記 (文春文庫)

増補新訂版 アンネの日記 (文春文庫)

 
完全版 アンネの日記 (文春文庫)

完全版 アンネの日記 (文春文庫)

 

彼女の日記は、何度か改訂され増補されるなどして、読み継がれつつ内容を充実させてきたが、2019年5月にCollected Worksとして英語の新訳が出たとのことで、今回見ているガーディアンの記事が出たわけだ。 

Anne Frank: The Collected Works

Anne Frank: The Collected Works

 

 記事はこちら: 

www.theguardian.com

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「結論が先」の英語の書き方、分詞の後置修飾の二重限定、形式主語、挿入、助動詞+完了形(エベレストの大混雑)【再掲】

このエントリは、2019年5月にアップしたものの再掲である。これもまた重要な文法事項がぎゅうぎゅう詰めに入っているので、丁寧に確認するつもりでしっかり見ていただければと思う。

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今回の実例は、エベレストの大混雑についての報道記事から。

ここ数日、見事な青空をバックにしたエベレストの白い稜線に登山家(登山者)たちが列をなしている衝撃的な写真が話題になっている。この写真は元英軍人(それも特殊部隊SBS)でMBE持ちのNirmal Purjaさんが、Facebookにアップした写真だ。彼は現在は冒険家として活動しており、現在は7か月の間に14の高山に登頂するという "Project Possible - 14/7" を行なっている。そのプロジェクトのためにエベレストに行っていて、見たまま、ありのままを撮影した。詳細はNirmal PurjaさんのFB投稿を参照(2019年5月22日付)。 

www.facebook.com

今回見る記事は、この「過酷な環境下での長蛇の列」という状況の中で、何人もの登山者が命を落としているということを報じる記事である。

www.theguardian.com

記事の最初の文で、このようなことが起きている背景について、"in a season marred by poor weather and overcrowding on the world’s highest mountain" とざっくり説明している。英語で文を書くときは「結論を先」というルールがあるが、このように最初にざっくり説明をしておいて、具体的なことはおいおい述べる、という形を取るわけだ。この記事はその例としても大変優れているので、全文のご一読をお勧めしたい。

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if節のない仮定法, 英文の構成(パラグラフ・ライティング), force ~ to do ... (南アフリカを変えた少年)

今回の実例は、長文多読素材を探している人にはうってつけの記事から。

以前ざっと説明したことがあるのだが、BBCにNewsbeatという青少年向けのコーナーがあるBBC Newsのウェブサイトでは一般のニュースとシームレスになっているが、文章は一般向けのものより読みやすく、トピックは、報道、つまり「そのときそのときの最新ニュース」から一歩引いたところから何かを解説するようなものが多い。

今回見る記事のトピックは、この30年ほどの間に南アフリカがどう変化したか、である。

南アフリカ(南ア)はかつて、厳格な人種差別を国の制度としていた。元からその土地に暮らしていた黒人は数の上では多数だったが、19世紀にやってきた白人が数の上では少数だったにもかかわらず政治を独占し、人種主義の理念に基づいて、黒人を格下の存在として扱い、白人と非白人は居住場所も含め社会の中で隔離されていた。むしろ、隔離しないことは違法、という社会だった。この制度を、南アの白人たちが使うアフリカーンス語オランダ語から派生した言語。南アに入植したのがオランダ東インド会社の人々だったため)で「アパルトヘイト」といった。日本では、その字面から英語の「ヘイト hate」の関連語だと思い込んでいる人も少なくないが、アパルトヘイトはhateとは全然関係ない。アルファベットで書けばapartheidで、「隔離、隔離した状態」の意味だ。

このようなことを聞くと「昔の話だろう」と思われるかもしれないが、さほど昔ではない。アパルトヘイトの撤廃は1990年から着手されたにすぎず、南アフリカで初めて全人種が分け隔てなく参加した選挙が行われたのは1994年で、まだ26年しか経っていない。おおむね今30代半ばから上の南アフリカ人は、アパルトヘイト制度をうっすらと記憶しているだろう。

南アは2019年10月~11月に日本で開催されたラグビーのワールドカップで優勝したし、日本を含む各国の代表に南ア出身のプレイヤーがいたが、ラグビーの南ア代表で黒人がプレイするようになったのは、アパルトヘイトが終わってからである。

アパルトヘイト運動の指導者で、長く投獄されていたネルソン・マンデラが大統領に選出された1994年の選挙のあと、南アは劇的に変化し「近代化」されたが、すべてが良くなったわけではなかった。それが今回見る記事で扱われているトピックである。

記事はこちら: 

www.bbc.com

記事自体の内容や、見出しにある「南アを変えた子供の活動家」については特に解説しない。記事がとても読みやすいので各自お読みいただきたい。

今回の実例として見るのは、記事の下の方。

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call for ~ to do ..., to不定詞の受動態, 分詞構文, 受動態, やや長い文(ドイツで起きた極右テロ、シーシャバー銃撃事件)

今回の実例は、ドイツで発生した極右テロについての記事から。

新型コロナウイルスの報道に埋もれてしまっているし、そもそも日本語ではろくに報道されてもいないかもしれないが、日本時間で2月20日(木)の朝、ドイツのハーナウ (Hanau) という都市で銃乱射事件 (mass shooting) があった。

ハーナウはドイツの西部ではあるが地理的にはドイツの国土のだいたい真ん中らへんにあり、大都市フランクフルトにほど近く、技術系企業の工場も多くあり、工場労働者が多く、トルコ系住民が多い。歴史ある街で、「メルヘン街道」の起点として観光客の行き来も多い。

テロリストが襲ったのは、そういう都市で、飲酒しないイスラム教徒の人たちをはじめとする市民に憩いの場として親しまれている2軒のシーシャ(水煙草)バーだった。最終的には9人が殺害され(うち1人は翌日に病院で息を引き取った)、容疑者は銃撃後に戻った自宅で母親を撃ち殺し、自身も銃で自殺した。

 容疑者は43歳の男で、両親と同居し、極右過激主義に染まっていた。自分で運営するウェブサイトに「マニフェスト」(文書)を掲げ、ビデオをアップしては、外国人排斥の考えや優生学を説き、ドナルド・トランプを支持するなどしていたという。精神的に問題があって女性と親密な関係になったことがないとか、頭の中で始終声がしているとかいったことも述べていたそうだ。 特に中東・中央アジア北アフリカにルーツのある人々を嫌悪し、集団的殺害を呼び掛けていたという。

事件を起こす3か月前の2019年11月に、検察長官に宛てて、「世界を支配する闇の勢力がいる」といったことを書き綴った手紙を書いていたが、当局は反応しなかったそうだ(そりゃそうだろう。そういう人は一定数いるもので、当局はいちいち対応はしないものだ)。テロ(政治的暴力)実行犯ではあるが、特定の極右の団体とのかかわりは特になく、いわゆる「ローンウルフ」型で、銃の入手方法の詳細などはこれから明らかにされるという段階である(ドイツは銃規制は厳しいのだが、どうやってこういう人が銃を手にすることができたのだろう)。詳細は英語版でもウィキペディアにまとまっている(当然のことながらドイツ語版の方が詳しい)。

en.wikipedia.org

 

トルコの人々が標的とされ、実際に何人も殺されるという卑劣な事件を受け、英ガーディアンが、ドイツとイスタンブールに記者を送って事件の背景を調べて出した記事が、今回参照する記事である。記事はこちら: 

www.theguardian.com

見出しにある AfD は、 Alternative für Deutschlandのこと。おそらく解説は不要だろうと思うが、「それって何のこと?」と思った方は下記ウィキペディアの「概要」のところと「2019年」のところだけでも見ておいていただきたい。

ja.wikipedia.org

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関係代名詞の二重限定、訃報の伝え方(NASAの黒人女性数学者、キャサリン・ジョンソンさんの訃報)

今回の実例は、Twitterから。

2月25日早朝、NASA(アメリカ航空宇宙局)のアカウントから、残念なニュースが流れてきた。

 1行目のように、文の構造を取らず《人名 (何か年号-別の年号)》とだけ書かれているのは、誰かが亡くなったことを告知するときの型である。2つの年号は生年と没年だ。つまり、"Katherine Johnson (1918-2020)" は「キャサリン・ジョンソン氏 (1918年生、2020年没)」という意味である。

報道記事の場合、日本語では訃報の見出しは「〇〇氏死去」とか「△△さん 35歳で急逝」と書くが、英語では "〇〇 Dies" とか "△△ Dead at 35" などとする。

これとは別に、故人の属していた団体や家族などが直接公に告知をするなど場合に、上述の《人名 (生年-没年)》の型がとられる。もっと詳しく、生年月日と没年月日が書かれることもある。例えば、先日亡くなったテリー・ジョーンズについては、所属のモンティ・パイソンのサイトに次のように掲示されている。

f:id:nofrills:20200226054559p:plain

www.montypython.com

先日急逝したDJ・音楽プロデューサーのアンドルー(アンディ)・ウェザオールについては、彼のプロデュースでスターダムにのし上がったスコットランドのバンド、プライマル・スクリームが次のようにツイートしている。

これ(人名と数字)だけで、誰かが亡くなったという事実を伝えることができるわけだ。

 

さて、NASAが亡くなったことを伝えているキャサリン・ジョンソンさんとは誰か。

彼女はNASAに所属していた数学者。1960年代に彼女がNASAで行った計算は、アメリカの宇宙開発において不可欠なものだった(軌道計算)。しかし彼女は男性ではなく白人でもなく、「数学エリート」として悠々と歩んできたわけではなかった。そのような立場に否応なく置かれた黒人女性数学者・科学者は彼女だけではない。そのことは、2016年の映画Hidden Figures(日本では『ドリーム』というジェネリックでふわっとした邦題をつけられてしまった)で描かれている。Hidden Figuresは「物理現象の背後に隠されている数字」の意味であり、同時に「歴史の陰に隠された人物たち」の意味でもある。 

 

映画の原作となり、映画公開の3か月前に出版された同名のノンフィクション本は、ティーンエイジャーでもすいすい読めるように編集された版も出ているので、そちらを飼って読んでみるのもよいだろう。 

Hidden Figures Young Readers' Edition

Hidden Figures Young Readers' Edition

  • 作者:Margot Lee Shetterly
  • 出版社/メーカー: HarperCollins
  • 発売日: 2016/11/29
  • メディア: ハードカバー
 

 

さて、前置きが長くなってしまったが、ここからが今日の本題である。

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報道記事の見出し(未来のことはto不定詞で表す), be to do ~(ロンドン、ベスナル・グリーンの博物館)

今回の実例は、偶然にもつい先日(連休初日)再掲したのと同じ項目なので、「知識の定着を図る」的に見ていただければと思う。

ロンドンの真ん中を東西に横断する地下鉄、セントラル・ラインに乗って、都心部から東に向かおう。ざっぱくに言えば、昔からの都市としてのロンドンはリヴァプール・ストリート駅までで、そこから先は(今はロンドンのど真ん中だが)かつては「ロンドンの外縁部」みたいなところだった。それが「イーストエンド East End」つまり「東の果て」だ。

その「東の果て」に少し入ったところになるのがベスナル・グリーンという地域。ここは面白い歴史を持っているのだが、特に19世紀後半、チャールズ・ディケンズが小説にしていた時代には、ここは英国でも最も貧しく荒んだスラム街となっていた。環境は劣悪で、悲惨だった。(そういうところだからこそ「救貧活動」も盛んだったのだが。)

そのベスナル・グリーンに博物館が設立されたのは1872年だった。貧困層への教育の提供が目的だった——というか、「文化を恵んでやる」という発想だったのだが。当時の最先端の技術を使った鉄骨の建物が都心部のヴィクトリア&アルバート博物館 (V&A) から移築され、企画展的なものを次々と開催する会場として使われたようだ。やがて20世紀に入り、第一次大戦の後には美術専門館となったが、そこで子供のセクションがどんどん拡張されていったという(「子供」という概念自体がヴィクトリア朝の発明だが)。そして1974年、この施設は「チャイルドフッド・ミュージアム(子供時代博物館)」と定義されることとなった。詳細は下記参照(ウィキペディア)。

en.wikipedia.org

20年前に書いたそっけない訪問記もよろしければ。

nofrills.in.coocan.jp

この博物館、「ロンドンに行くが、あまり知られていないおもしろい博物館はないか」という人がいれば必ず紹介してきたのだが、ついに大々的な改装がおこなわれることになったという。今回の実例はそれを伝える記事から。

記事はこちら: 

www.theguardian.com

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so ~ that ... 構文, 英国内の言語的多様性, さまざまな貼り紙の英語(欧州議会議員選挙での投票所 #DogsAtPollingStations )【再掲】

このエントリは、2019年5月にアップしたものの再掲である。Twitterをうまく使うと、このような「言葉のある風景」にたくさん触れることができる。

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今回の実例は、5月23日、欧州議会議員選挙投票日のTwitterから。

今年の欧州議会議員選挙はEU加盟各国で23日から26日にかけて投票が行われ、26日の投票締め切りをもって開票が始まった。投票日が早かった英国では26日深夜(日本時間では27日朝6時ごろ)まで報道に制限が課せられており、出口調査結果も出されていなかったが、現地で日付が変わるころ(日本時間27日朝8時ごろ)にはブリテンの大方の結果は出ていた。この選挙に興味がある方は、ガーディアンの開票速報live blogが要領よくまとめられていると思うので、そちらをご参照のほど。

今回、当ブログで参照するのは、選挙そのものについての記事ではなく、選挙に付随的に発生するTwitterハッシュタグ。これが、ツイート本文での言語情報は少ないのだが、写真からいろいろなことを読み取るのが楽しいという人にはめっぽう楽しいはずだ。

まずはこちら: 

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some ~, others ...の構文, another, if節のない仮定法(ジョージ・ベストの銅像が似てなさすぎる件)【再掲】

このエントリは、2019年5月にアップしたものの再掲である。これも重要な基本構文がてんこ盛りだが、話がおもしろいので、ゲラゲラ笑って読んでいただければよいと思う。

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今回の実例は、文法項目としてはほんの3日前に取り上げたものとカブる。

もう笑い転げてしまって、トピックの背景解説どころではないので、記事はこちら: 

www.theguardian.com

 

……とはいえ、多少は解説を書いておかないと何のことかわからない方々も多くいらっしゃるだろう。

ジョージ・ベストは往年の名フットボーラー。北アイルランドベルファスト出身で、身体が細くて弱々しく見えるタイプで、「あんな子がプロの世界でやっていけるはずがない」的に扱われていたが*1、実際には、「ミュンヘンの悲劇」で多くのプレイヤーを亡くしたマンチェスター・ユナイテッド (MUFC) でスター・プレイヤーとなり、MUFCを欧州の強豪の地位に引き上げた立役者となった。詳しくは、川端康雄先生の新書をお勧めしたい。 

新書524ジョージ・ベストがいた (平凡社新書)

新書524ジョージ・ベストがいた (平凡社新書)

 

ベストはフットボーラーとしても抜きんでた存在だったが、とにかくルックスと派手なライフスタイルで注目された。ハンサムとしか言いようのない顔立ちをして、髪を長めにしたりしていて、まるでザ・ビートルズのメンバーのようなスターだということで「5人目のビートル」との異名をとった。ベストはキャリアを終えるころには酒などで身を持ち崩していて、私はマンチェスターのMUFCのサポの人から「悲しくなるから彼の名前は口にしないでくれ」と言われたこともあるのだが、最終的には酒で肝臓を悪くして、2005年に59歳の若さで他界した。

 

Embed from Getty Images

 

そのジョージ・ベストは、出身地のベルファストでは「スポーツ界のヒーロー」としてプロテスタントカトリックの区別なく敬愛される存在で*2、近距離便が利用するベルファストのシティ空港は2006年に「ベルファストジョージ・ベスト・シティ空港」と改称したし、記念紙幣も作られたし、MUFCのホーム・スタジアムの外周部にはベストを含む3人の同時代の名選手の銅像が建てられた。下の写真の一番左がベストである。

 

Manchester The United trinity.jpg
By Paul Hermans - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, Link

 

このジョージ・ベストの新たな銅像が、今回、ベストもプレイしていた北アイルランド代表のホームであるベルファストウィンザー・パーク・スタジアムの近くに建てられ、除幕式が行われた、というのが2019年5月23日のニュースだった。

そしてその銅像が……端的に言えば「誰っすか、これ」というクオリティで、英メディアが笑いをこらえながら(あるいは爆笑しながら)記事にしているわけだ。

今回の実例はそれらの記事のひとつから。

*1:関係ないが、今年引退した野球のイチロー選手が米大リーグに移籍したとき、日本では「あんな細いのが、ムキムキマンばかりのMLBでやっていけるはずがない」という意見が特に年長者の間で非常に強くあった。

*2:ベスト自身はガチのプロテスタント労働者階級の出である。

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報道記事の見出し(未来のことはto不定詞で表す), be to do ~(マンチェスター・シティ主将の退団)【再掲】

このエントリは、2019年5月にアップしたものの再掲である。苦手な人が多い《be+to不定詞》のことがちょっとわかった気になれる実例だと思う。

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今回の実例は、日本の学校教育では習ったことがない人が多いかもしれない項目について。報道記事の見出しだ。

報道記事の見出しは長さに制限があるので、いろんなものが省略される。日本語では元から語順が持つ意味上の重要性が低いところに持ってきて、意味を確定する助詞が省略され、結果として体言の羅列になりがちで、何を言っているのかわからなくなることもしばしばであるが、英語では見出しにおける省略には一定のルールがあり、さらに語順によって意味が決まる部分が大きいので、慣れてしまえばさほど難しくはない。

学校教育では、その英語の報道記事の見出しのルールは体系的には教わらないかもしれないが、ビジネスパーソン向けの英語参考書や時事系英語雑誌ではよく取り上げられているし、ネット上にもある程度まとまった解説がある。例えば下記のようなページだ。

rnnnews.jp

個別の見出しを見れば何となく意味が把握できていると思うが、体系だった理解ができているかどうか不安、という場合は、上記ページを一度ざっと読むだけで頭の中が整理されて有益だろう。

さて、今回の実例は、元記事のURLが上書き更新されて見出しが変わってしまっているのでいきなりキャプチャ画像:

f:id:nofrills:20190523060741j:plain

2019年5月19日、BBC Sport
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パラグラフの構造, 文頭のAnd, due to ~, 前置詞のas, make sure (that) ~(五輪開催地をめぐるフェイクニュース)

今回の実例はTwitterから。

2020年2月20日、妙にキーボードで打鍵しやすい日付のこの日に、Twitter上の日本語圏に「フェイクニュース」があふれた。今回はそれについて取り上げようと思う。いつもとは趣向を変えて、ブログの執筆をライヴ・ツイートする形にした。当ブログを読んでいない人にも届けたかったからだ。

ログはここ: 

https://threadreaderapp.com/thread/1230503506814980096.html

 

このままだとブログでは読みづらいので、こちらはこちらで形式は別に整えるが、内容自体はライヴ・ツイートと同じである。

 

個人的に、Twitterは使用言語を英語に設定して、Trendsの地域設定もIrelandにしてあるので(Brexit Dayまではthe United Kingdomにしてあった)日本語圏で何が流行っているのかは気づかないことが多いのだが、今日は【今夏五輪はロンドンで 市長候補】とかいう刺激的な話が流行っていたようだった。

この記事(時事通信)自体、非常にミスリーディングである。「市長選の主要候補」の発言が「ロンドンでの代替開催の誘致に名乗りを上げた」ことになるわけがない。

考えてみてほしい。例えば都知事選で現職ではない立候補者が、例えば「東京でのガソリン車販売を禁止する」という "公約" を掲げ、現職が「それも検討していかねばならない課題だ」と語ったら、「東京、ガソリン車販売禁止へ」という話になるだろうか。なりはしない。

なのに時事通信は、野党候補者がツイートして、現職も同じようなことを述べたという話を、「今夏の五輪『ロンドン開催を』 新型肺炎で市長選候補名乗り」などというド派手は話に仕立て上げてしまった。正直、何考えてんすか、としか言いようがない。 

今夏の五輪「ロンドン開催を」 新型肺炎で市長選候補名乗り(時事通信) - Yahoo!ニュース

 

しかもそれをYahoo! Japanが猛プッシュ。何もなくても東京オリパラに対して否定的なムードが強いところにこの新型コロナウイルスの感染拡大があって誰もが不安になっている中、「ロンドンが名乗りだって? どうぞどうぞ」とばかりに広まったのも無理からぬ話である。

 

これはただ流行ったのではなく、「フェイクニュース」化して流行ったのだ。つまり、拡散されるうちに、「ロンドン市長候補が名乗り」という変な日本語が、いつの間にか「ロンドン市が名乗り」となっていたのだ。元都知事の舛添さんまでこの短絡っぷりである。 

(これは皮肉ではなく、私は本心で舛添さんという方の頭脳は尊敬している。)

 

さらには自民党の国会議員までこうだ。

 

こうして「インフルエンサー」的な立場にあるアカウントが次々と「釣られた」状態になり、Twitter上の日本語圏ではすっかり、「ロンドンが名乗りを上げた」という話になってしまったようだった。

このように「フェイクニュース」化したのは、どうやら新聞が変な見出しを付けて印象操作したことも一因となっているようだ。

こういうのはどうしたらいいんだろう。アニメ美少女が出てきて「もう、みんな、あわてんぼうさんなんだから☆」と怒ったりしたら改まるのか? 

 

実際には、ロンドンでは支持が薄くて弱い保守党の候補が、少しでも目立とうとしてフカしているだけだ。下記の指摘は正しい。

 

ではこの候補はどう発言したのか。そもそもこの候補はどういう人なのか。それを今回の当ブログの「実例」として見ていきたい。

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英語のパラグラフの書かれ方, 接続詞, 助動詞+have+過去分詞, therefore, 分詞構文など(ダイヤモンド・プリンセスの検疫は不十分だったという米CDCの声明)

今回の実例は、米国の政府系機関の文書より。

豪華客船「プリンセス・ダイヤモンド」のことは先日書いた通りである。今回の実例は、この船で行われていた「検疫」についての米CDCの文書(の一部)だ。

CDCはCenters for Disease Control and Preventionの略語で、「アメリカ疾病管理予防センター」のこと。米国の保健福祉省所管の感染症対策総合研究所である。所在地はジョージア州アトランタ。ここがどういう存在かというと、「本センターより勧告される文書は、非常に多くの文献やデータの収集結果を元に作成・発表されるため、世界共通ルール(世界標準)とみなされるほどの影響力を持ち、実際に日本やイギリス等でも参照・活用されている」(下記ウィキペディアより)。詳細はウィキペディア参照。

ja.wikipedia.org

 

そのCDCが、米国人乗客が一部を残して船から引き上げて米国へ帰国したあとで、ダイヤモンド・プリンセス号での検疫についての声明文を出した。

既に広く報じられているように、下船して帰国のためのチャーター機に乗り込んだ人々の一部が感染していて機内で簡易的に隔離されるということが起きたが、332人が帰国した(全員がこれから米国内でさらに2週間隔離される)。

アメリ国務省などによりますと、新型コロナウイルスへの集団感染が確認されたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の乗客などを帰国させるために手配したチャーター機に乗っているアメリカ人のうち14人について、新型コロナウイルスへの感染が確認されたということです。

この14人は数日前に船内で検査を受け、チャーター機の出発前に新型コロナウイルスに感染しているという検査結果が出ていたということです。

しかし国務省は、14人を機内で隔離することで、ほかの乗客への感染を防ぐことができると判断し、帰国させることにしたということです。

www3.nhk.or.jp

(2020年2月17日)

 

アメリカ政府が手配した2機のチャーター機は、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」に乗っていたアメリカ人、338人を乗せて羽田空港を出発し、17日にカリフォルニア州テキサス州に到着しました。

これらのチャーター機には、新型コロナウイルスの感染が確認された14人が搭乗していましたが、アメリ国務省によりますと、カリフォルニア州に向かった飛行機の機内でさらに3人が発熱し、機内で隔離されたうえで到着後、医療機関に搬送されました。

www3.nhk.or.jp

(2020年2月18日) 

 

今回参照するCDCのステートメントは、現地18日付(日本時間では19日)で出されたものである。チャーター機で帰国しなかった人々(約100人)についてのものだ。文面はこちらから: 

edition.cnn.com

※CNN記事は一部抜粋。全文を確認したい方は下記から。

https://www.cdc.gov/media/releases/2020/s0218-update-diamond-princess.html

 

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関係代名詞の非制限用法, 前置詞, 時制, 付帯状況のwith, など(事故死したコービー・ブライアントへの顕彰)

今回の実例も、前回と同じNFLスーパーボウルのハーフタイム・ショーについての記事から。

記事はこちら: 

www.bbc.com

このスーパーボウルのほんの数日前、1月26日に、米スポーツ界では衝撃のニュースがあった。バスケットボールのスーパースター、コービー・ブライアントが、ヘリコプターの墜落事故で亡くなった。各界で故人への哀悼の意が捧げられたが、このショーも例外ではなかった。

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if節のない仮定法, ハイフンの用法, thatの判別, 関係代名詞, 付帯状況のwith(米NFL、圧巻のハーフタイムショーとヒスパニック)

今回の実例は、少し前の記事になるが、米NFLスーパーボウルのハーフタイムショーについての論評記事から。

NFLはNational Football Leagueで、アメリカン・フットボールの全国リーグ、「スーパーボウル」はその優勝決定戦で、NFL傘下の2つの団体(カンファレンスと呼ばれるらしい)それぞれの首位のチーム同士が直接対決する。日本の野球でパリーグセリーグの首位同士が試合して日本一を決めるのと同様のシステムだ。この優勝決定戦は毎年2月の第一日曜日に行われ、米国ではまさに国民的関心事になるそうだ。

試合のハーフタイムに行われるのが「ハーフタイムショー」。現行のシステムが始まったころ(1960年代後半)は地元の高校・大学の吹奏楽団が演奏を披露するといった地味な余興だったそうだが、ほどなくそこに著名な歌手やミュージシャンが加わるようになり、1990年代に入ると超有名な芸能人が出演するようになって、どんどん大掛かりに派手になってきた。2004年まではショーのテーマが設定されていたようだが、今ではそれもなく、「一流スターによる、このとき限りの特別なショー」として、NFLについての報道など普段は全然しない米国外の報道機関までも注目するものとなっている。詳細はウィキペディアの一覧のページが興味深い。

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という、何というか、THIS IS AMERICA! と叫んでいるような商業主義丸出しの傾向が数十年の間にどんどん強まってきたことが見て取れるド派手イベントなのだが、今年はそのステージに立ったのは、シャキーラジェニファー・ロペス (J-Loと表記される) という2人の女性歌手。2人ともラテン系でラテンポップスの人ということが注目のポイントとなったが、この日に私が見ていたTwitter上の英語圏(半分くらいはアメリカ)はラテンポップスとかそういうジャンル関係なしに「シャキーラすごい」「J-Loすごい」で埋め尽くされていた。

さて、シャキーラはコロンビア出身だが、お父さんの両親が米国に移住したレバノン人で、「シャキーラ」という名前(本名)もアラビア語である。お父さんは子供の頃に家族でコロンビアに移住し、お母さんはコロンビアの人(スペイン系、イタリア系)で、つまり彼女には多様なルーツがある。

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彼女のパフォーマンスにはアラブの要素が多く取り入れられており*1、今回のスーパーボウルのハーフタイムショー(このエントリの下の方に公式チャンネルの映像をエンベッドしておく)でも、ベリーダンスやミジュウィズという楽器(笛の一種。音を聞けばすぐにわかると思うけど「中東っぽい」音がする楽器)が取り入れられ、クラウド・サーフィングしてステージに戻ったときには、シリアからレバノンパレスチナといった地域で一般的な歓喜の表現であるザガリート(単数の場合はザガルートとも。女性が口先で舌を震わせて「ルルルルル」と高い声を上げる)もしている*2Led ZeppelinのKashimirが一瞬入ってたのは、あれはシャキーラには元からそういう曲があるのだろうか。

一方でジェニファー・ロペスのステージには「籠の中の子供たち」が登場し(歌っているのは彼女の娘さんだそうだ)、彼女の両親のルーツであるプエルトリコの旗が登場し、Born in the USAの歌が登場した。

つまり、米大統領選挙がおこなわれる年の初めの方の国民的イベントで、パフォーマー両者ともにかなりはっきりしたメッセージを出していて、それゆえに単なる「現代を代表する歌姫2人の華麗な競演、圧巻のパフォーマンス」には特に表立って反応しないような媒体でも、レビュー記事を(目立つところに)出すということになったのだろう。

前置きが長くなったが、記事はこちら: 

www.bbc.com

*1:その解説としては、 https://www.pajiba.com/tv_reviews/your-explainer-of-all-the-middleeastern-stuff-shakira-did-during-the-super-bowl-halftime-show-.php が詳しい。

*2:これに対しては、これが何であるのか知らない人たちから非常に失礼な発言が相次いでいて、ワシントン・ポストがまとめ記事を作ったほどである。 https://www.washingtonpost.com/nation/2020/02/03/shakira-tongue-superbowl/ 

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