このエントリは、2019年12月にアップしたものの再掲である。
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今回の実例も、前回のと同じ、労働党の大惨敗に終わった総選挙の結果を受けて労働党の国会議員であるジェス・フィリップスが書いた論説記事*1から。
記事はこちら:
今回見るのは、前回見た部分のすぐ次のところから。
続きを読むこのエントリは、2019年12月にアップしたものの再掲である。
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今回の実例はガーディアンに掲載された論説記事より。
12月12日(木)に行われた英国の総選挙の結果は、広く日本でも報道されている通りで、獲得票数を分析すればまた違った像が現れるのかもしれないが、獲得議席数(選挙の結果を語るのは議席数だけである)では保守党とスコットランドのSNPのバカ勝ち・労働党の大惨敗という結果になった。大雑把なところをざっくり書いたものが本家ブログにあるので、関心がある方はご参照のほど(高校生向けにわかりやすくは書いていない)。
保守党の勝ち方の規模については、直接の数値はこの秋にボリス・ジョンソンに反対した保守党の議員たちが21人も党を追われたことを勘案して見るべきなのだが、保守党がどこで議席を獲得したかを見れば、もうそういう域は超えてるとしか言いようのない結果だ。つまり、これまで一度も保守党議員を出したことのない、労働党が地盤としてきたイングランド北部の選挙区が、労働党候補を落選させる例が相次いでいる。
全議席が確定した投票翌日までは、ショックと混乱、拒絶・否認と怒りという感情が渦巻いていたが(特にコービン労働党を支持していた人々の叫びは、一部「お前らがそういうふうだからこうなったんだよ」と思わずにはいられないものもあったが、ほとんどは本当に悲痛なものだった。みんな信じていたのだし、みんな献身的だった、それは事実だ)、翌々日の土曜日になると、その衝撃の事実を前に、多くの労働党関係者・支持者が非常に厳しい分析を行うようになっていた。
今回見るのはそのような分析のひとつで、筆者はジェス・フィリップス。イングランド中部の大都市、バーミンガムの選挙区の1つから今回も選出された労働党の国会議員で、1981年生まれと若い政治家だ。バーミンガムで生まれ育ち、大学はリーズだが大学院はバーミンガムで、選挙のために住所を移してきたような人ではない。つまり、彼女は彼女の選挙区をよく知っている。そういう人が忌憚なく現状を分析して書いた文章である。記事はこちら:
Working-class voters didn’t trust or believe Labour. We have to change | Jess Phillips https://t.co/yur2aUSkps 読むのがつらいけれどとてもよい分析。筆者は労働党の国会議員(バーミンガムの選挙区で今回も議席保持)。
— nofrills/共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) December 15, 2019
続きを読む
今回も、前々回、前回の続きで、新型コロナウイルスのまた新たな変異株についての報道記事から。
この記事のこの部分は、変異株についての恐怖感をあおらないようにする文体というか、情報を手際よくむぎゅむぎゅと詰め込んで、立て板に水のように語っている調子の文体の箇所なので、読む立場としては、見た目のボリューム感以上に読むのに時間がかかると思う。私が高校生の時にこういうのにぶち当たると、わからなくてわからなくて、場合によっては泣きながら、必要とあらば30分でも1時間でもかけて考えて読み解いていた。そうやってするすると読めたときの「これか」という感覚が、いわゆる「ブレイクスルー」の感覚だったのだと思う。というわけで、ちょっとつらいと思う方も少し頑張ってもらいたい。(全然歯が立たないという場合は、もう少しシンプルな例で基礎力を固めたほうが効果的であるが。)
記事はこちら:
続きを読む今回の実例は、報道記事から。
ウイルスというものには変異が生じる。この1年間、世界を振り回してきた新型コロナウイルスも例外ではなく、2021年になってから世界的に注目を集めているのは、昨年の終わりに英国というかイングランドで確認された変異株と、それとほぼ同時に南アフリカで確認された変異株と、その少し後にブラジルで確認された変異株である。それぞれ、その変異が起きていなかったころのウイルスより感染力が高いといった特徴があり、確認されたときにはすでに一般の人々への接種が始まっていたワクチンが効くかどうかということも素早く検証されて大きく報道されていた。
このうち、イングランドで確認された変異株は、日本の報道では「英国型変異株」といったように呼ばれ、英国の報道では "the UK[British] variant" のほか、ケント州から発生した/ケント州で見つかったということから "the UK 'Kent' variant" などと呼ばれているが、英語圏でも多少専門的な用語を使うところでは "the B.1.1.7 variant", "lineage B.1.1.7" などと表記されている。ピリオドを省略した "B117" という表記もよくなされる。この名称について詳細は英語版ウィキペディアを参照されたい。また、新型コロナウイルスの変異株のうち特に注意を要するものについても、英語版ウィキペディアにまとまっているので、それを参照されたい(ネット上の英語圏でだれでも自由に入手できる情報の量は、例によって、日本語圏でだれでも自由に入手できる情報の量とは、比較にならないほど大きい)。
B117株は、"Variant of Concern 202012/01*1"、つまり「懸念を生じさせる変異株、2020年12月の第一号」とも呼ばれているが、この Variant of Concern というのはイングランドの保健衛生当局がまとめているものである。変異株はたくさんあって、大半は特に大きな意味を持たないのだが、中には「ちょっとこれは……」となるものもあり、それら、「Concernとまでは行かないがちょっと気になるのでいろいろ調べている」という段階の変異株は "Variant under Investigation" と位置付けられている。
さて、今回新たにB.1.525と呼ばれる変異株が発見され、その変異株もまたちょっと気になる存在である、との報道が、今週各メディアでなされている。今回はBBC Newsでのその記事を見てみよう。記事はこちら:
記事は(BBC Newsにしては)短いもので、大きく2つのセクションから成る。
*1:これを略すとVOC-202012/01となる。
今回の実例は、Twitterから。
(以下、肩書・敬称等省略)
日本の報道機関でも大きく報じられていると思うが、ドナルド・トランプの弾劾裁判は、予想されていたより早く先週末に結論が出され、共和党の反対により上院で必要な3分の2に届かず、米議会はトランプを1月6日の暴動煽動について、明白な証拠が山ほどあったにもかかわらず、有罪にすることはできなかった。下記BBCニュースのフィードに "43-57" とあるのは、「無罪が43票、有罪が57票」のことで、単純な過半数で事態を決定するシステムであれば「有罪」になっていた。隅から隅まで、政治的なことである。
US Senate votes 43-57 to acquit Donald Trump of single charge of impeachment related to Capitol riothttps://t.co/W5Fd99Y26i pic.twitter.com/aHUhSA1vwF
— BBC Breaking News (@BBCBreaking) 2021年2月13日
この様子を、私はTwitterでジャーナリストやアナリスト、研究者のフィードを追って見ていた。意味合いとしては、共和党から7人が「有罪」に投票したという事実は軽視できない。
The 7 GOP Senators who voted to Convict Trump:
— Joyce Karam (@Joyce_Karam) 2021年2月13日
1- Richard Burr
2- Bill Cassidy
3- Susan Collins
4- Lisa Murkowski
5- Mitt Romney
6- Ben Sasse
7- Pat Toomey
そうであっても、あれほど明白な証拠の数々がありながら、最終的な結論としてトランプを「有罪」にできず、すなわち「無罪」にしてしまったということは、好むと好まざるとにかかわらず、自分たち自身には何の権利もないのに一方的にアメリカ合衆国の政策にすべてが左右されてきた世界の多くの人々にとっては、まさに、呆れるよりないような事態である。これについては、アメリカ人ジャーナリスト(パレスチナ系)のアハメド・エルディン @ASE の下記の言葉に尽きると思う。
America just redefined and reduced its democracy, emboldening future Trumps to incite similar attacks.
— Ahmed Eldin | أحمد شهاب الدين (@ASE) 2021年2月13日
There can be no healing without accountability. The senate failed to hold Trump accountable bc Republicans fear his control over a more radical Republican base. #SHAME pic.twitter.com/nkCh7SvMaI
"future Trumps" と複数形になっているのは、これがドナルド・トランプ個人のことではなく、「将来出てくるトランプ型の人々」のことだからで、@ASEが言っているのはドナルド・トランプ個人がサイド大統領選に打って出るとかそういうことではなく、共和党そのものがトランプ的な何かの党になってしまった(のであろう)ということだ。
続きを読む今回の実例は、前回の続きで、国連のInternational Day of Women and Girls in Science (2月11日)に際してのプレスリリースの最後の方、STEM分野(いわゆる理系)と女性・女子の関係について説明している部分を読んでみよう。
記事はこちら:
International Day of Women and Girls in Science | United Nations
続きを読む
このエントリは、2019年12月にアップしたものの再掲である。
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今回の実例は日曜日の新聞に掲載されたインタビュー記事から。日曜日の新聞だから、のんびりしたムードの記事だ。
このエントリは12月13日の昼にアップロードされるよう設定してあって、そのころにはもう英国の選挙の結果がだいたい出そろっているだろうが、この原稿を書いているのは実は11日なので、ここでは総選挙のことには触れない。当方の書いているものはこのブログだけをチェックしていて英国の総選挙のことが気になるという方は、Twitter (@nofrills) をチェックしていただければと思う。
閑話休題。今回の記事はこちら:
ガーディアンの日曜版であるオブザーヴァーが毎週掲載している各界著名人のゆるめの(「好きな食べ物」とか聞いちゃうような)インタビュー、今週はロンドンのサディク・カーン市長に話を聞いている。
サディク・カーンについてはウィキペディア英語版を参照(日本語版にもエントリがあるが、滅茶苦茶すぎて使い物にならない。ヒマがあったら書き直したい……)。ロンドン南部のトゥーティングというところで生まれ育った生粋のロンドナーだ。お父さんはバスの運転手、お母さんはお針子という、ばりばりの労働者階級の出でもある。所属政党は労働党。
祖父母が1947年の旧英領インドの独立とインドとパキスタンの分離のときにインドからパキスタンに移り住み、両親が1968年にロンドンにやってきたという背景を持ち、2016年にロンドン市長に当選したときには「西洋の主要国の首都で、初めてイスラム教徒の市長が誕生した」と世界的に話題になった。ロンドン市長になる前は2005年から11年にわたってトゥーティング選挙区から下院議員に選出されており、その前は弁護士(ソリシター)をしていた。1970年生まれで、まだ40代である。
犬好きとしても知られており、英国でここ数年、選挙のたびにSNSで話題になっている「投票所の犬たち」(犬の散歩のついでに、犬を連れたままで投票所に行こう、という自然発生的な運動)にも、愛犬を連れて登場している。その犬、「ルナ」がカーンさん家にやってきたときの写真がこちら:
Saadiya and I are very excited to announce a new addition to the family...
— Sadiq Khan (@SadiqKhan) 2017年11月26日
...meet Luna Khan! pic.twitter.com/1Hp8g0J6Bh
今回のインタビューにもこのルナちゃんが登場する。
続きを読むこのエントリは、2019年12月にアップしたものの再掲である。
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今回の実例は、英国の総選挙直前に出た論説記事から(英国の総選挙は今日、12月12日が投票日である)。
筆者はスティーヴ・クーガン。英国では超有名なコメディアン(お笑い芸人)で俳優だ。先日取り上げたサシャ・バロン・コーエンと同じく、基本的にだいたい常にお笑いの「キャラ」として発言する立場なので、素の自分として発言するのは慣れていない、というタイプの人である。そのクーガンが、今回の選挙では素になって大真面目に発言している*1。
記事はこちら:
クーガンは元々イングランド北部の西の方の出身で、高等教育(演劇の専門教育)はマンチェスターで受けているが、現在はイングランド南東部のイースト・エセックス州在住である。本人は選挙権を得てこの方ずっと労働党を支持してきた、という人だ。
イングランドは伝統的に*2、北部は労働党が強く、南部は保守党が強い。英国の政治は「二大政党制」と呼ばれるシステムだが、保守党が強い地域で保守党に対抗できるのが、労働党とは限らない。確かに中央の最大野党は労働党だが、保守党寄りの空気が濃厚な選挙区では、選挙で2番目に多く得票するのは労働党ではなくLiberal Democrats (LD) であることが多い。クーガンの選挙区はそういう選挙区だ。こういう場合も、自分の選択、自分の良心としては、労働党の候補に投票するのが通常である。だが今回はクーガンはそうせずに、「戦術的に投票する」と宣言している。それがこの記事の見出し、"I’ve always been Labour, but tomorrow I will be voting tactically" の意味だ。
英国の総選挙は小選挙区制で、1つの選挙区からは1人しか議員を出せない。基本的に各政党はバカ正直に候補を立てるのだが、小政党で、どう見ても自党には勝ち目がないという場合はその選挙区では候補者を擁立せず、その分の労力を他の選挙区で使う、といったことも行なわれる。一方、複数の政党が話し合って「統一候補」を立てるということは、英国ではあまりないのではないかと思う(ないわけではないかもしれないが)。
というわけで、ウェールズやスコットランドや北アイルランドはそれぞれの地域の政党があるのでまた様相が異なるのだが(特に北アイルランドは、基本的にブリテンとはまったく別である上に、今回はいろいろめちゃくちゃですごいことになっている……その話は本家のブログで書かないとね)、イングランドの各選挙区には、少なくとも、二大政党である保守党と労働党、それから3番目の政党であるLDの3つの党の候補が立つ。それに加えてGreens(緑の党)や、今回が総選挙初参加となるナイジェル・ファラージのBrexit Party*3、今はもう完全に融け去ってしまっているファラージの古巣UKIPなどがところどころで候補者を擁立する。
そういったときに、例えば保守党と労働党とLDとGreensが候補者を立てていて、保守党が優位ではあるが圧倒的ではなく、労働党とLDとGreensの票数を合わせれば保守党の票数を上回る、という場合に、これら3党が党として統一候補を立てる方向に行かなくても、支持者たちが自主的にどれかひとつの有力な党の候補に票を集中させよう、というのが、「戦術的投票 (tactical voting)」である。この考え方により、クーガンは今回自分の支持する労働党候補への投票を控え、選挙区として保守党候補を圧倒するためにLDの候補に票を集中させる流れに加わっている、というわけだ。
*1:クーガンは、以前、タブロイド紙の記者がネタを取るために電話盗聴までしていたことが大問題になったときに、盗聴被害者としてインクワイアリの場に出て、素で大真面目に発言していたが、そのときにそれがいかにやりづらいかを半分涙目になって述べていたことがある。
*2:「伝統」といっても数十年のことだが。
*3:Brexit Partyは今回「一方的な選挙協約」として、保守党に公然と忖度して候補者を擁立せずにいる選挙区が少なくない。
今回の実例は、国連のプレスリリースから。
2月11日は、日本では神話の登場人物がなんちゃらという日かもしれないが、国連ではInternational Day of Women and Girls in Scienceとされている。日本語では「科学における女性と女児の国際デー」と直訳されているようだが、英語の "women and girls" は「老いも若きも、年齢に関係なく、女性たち」の意味である。そもそもgirlは必ずしも「女児」(この日本語が表せるのは、せいぜい小学生までだろう)とは限らず、10代後半までは確実にgirlだし、文脈によっては20代でもgirlでありうる。さすがに30代でgirlということはほとんどないと思うが……。
で、Twitterでも日本語圏では盛り上がっていないこの「科学における女性と女児の国際デー」だが、英語圏では理系、つまり自然科学分野 (Science, Technology, Engineering and Mathematicsの頭文字をとって、STEM fieldsという) で働いている女性たちの個人としての発言はもとより、中学・高校・大学などやCERNのような研究機関のアカウントの発言も、政府省庁のアカウントの発言もある。例えば米国務省とCERNのツイートは下記。
On International Day of Women and Girls in Science, learn how the State Department aims to reduce the gender gap in STEM fields and empower young women globally through @GPatState’s WiSci (Women in Science) camps: https://t.co/pYXMLizNRc. #WomeninSTEM pic.twitter.com/LDpo3j91YT
— Department of State (@StateDept) 2021年2月11日
Today is @UN's #WomenInScienceDay. Join us in celebrating #WomenInScience throughout the day.
— CERN (@CERN) 2021年2月11日
In this first video, meet CERN scientists Sara Vigo, Belen Ferrando, Sara Berrocal and Erika Lima who are in charge of the beam loss monitoring systems in the LHC tunnel. pic.twitter.com/Ac2TGUtNHH
これと全く同じタイミングで日本で話題になっていたこと(そしてそれは今回ばかりはほぼリアルタイムで英語で報道記事になって国際的に流れていたのだが)といえば、何もなくても東京五輪が世界的な関心を集めている最中に、「女が会議にいると、男ならしないような質問をしたりするから、会議が長くなる」などということを公的な場でぺらぺらとしゃべって世界的に非難を浴びることになった森氏の進退の問題で、私はSTEM分野の女性たちの笑顔の写真と、森氏の顔色の悪い写真が交互に流れてくるような画面を見ながらギャップにくらくらしてしまった。
Yoshiro Mori, Japan's Olympic organizing chief, now plans to resign on Friday amid widespread criticism over sexist remarks he made earlier this month, according to Japanese news reports.https://t.co/Nwv9cHE545
— NPR (@NPR) 2021年2月11日
ともあれ、この「科学における女性と女児の国際デー」は、2011年に現在の形で発足した国連女性機関(UNウィメン)が制定しているもので、国連のサイト (un.org) に趣旨説明のようなプレスリリースが出ている。今回の実例はその文面から。
※2022年になるころには、同じURLで文面が書き換えられているのではないかと思われるが、その場合は今年の文面が取得されアーカイヴされているものをご参照のほど。
このページの本文は、今ワードカウンターで数えたら486語だ。つまり大学入試の共通テストの第4問とだいたい同じ分量である。分量感をつかむために素材として使ってみるとよいかもしれない。共通テストの問題文よりは内容らしい内容があるので、読み甲斐もそれなりにあると思うが、淡々とした説明文で物語性があるわけでもなければ読ませる文体でもないので、読んでて楽しい文ではない。ともあれ。
続きを読む今回も、前々回と前回の続きで、ちょうど10年前のエジプトでどんなことがあったかを回想したジャーナリストの連ツイより。
米ニューヨーク・タイムズ (NYT)のジャーナリスト、リーアム・スタックさんはアラビア語を流暢に話すアメリカ人で、当時「革命」の中心地となっていたカイロのタハリール広場で治安機関(秘密警察)によって一時拘束され、カメラを没収された。が、スタックさんはそこで引き下がらず、翌日、秘密警察が拠点としていたエジプト考古学博物館(タハリール広場に面している)に赴いて、カメラを取り返してきた。そのときに秘密警察の人と奇妙なやり取りをすることになった、というのが前回見た部分の流れだ。
そしてそのあと:
A few weeks later I had what may have been my first solo byline in the @nytimes, which wound up being about the way the police and army were using that same site — the Egyptian Museum, a world famous landmark— as a makeshift prison and torture chamber. https://t.co/1AmuYmyYLz
— Liam Stack (@liamstack) 2021年2月7日
いきなり "A few weeks later" と時間が飛んでいるが、その点、少し補っておくと、スタックさんが一時拘束されたのが2月6日、カメラを取り返したのが7日で、10日には民衆に退陣を求められていたホスニ・ムバラク大統領が、大統領の権限をスレイマン副大統領に委譲し、11日にはついに辞任した。スタックさんのこの連ツイはそこを飛び越して、3月17日付のNYT記事にリンクしている*1。
Complaints of Abuse in Egyptian Army Custody - The New York Times
さて、この記事についてのスタックさんの説明だが:
I had what may have been my first solo byline in the @nytimes,
《関係代名詞のwhat》を使った表現で、《助動詞+完了形》も出てきている。「~であったかもしれないもの」という意味だ。ここでスタックさんが "was" ではなく "may have been" と書いているのは、もはや古い話だから、これが本当にそうだったかどうか、はっきりしないままで書いているということだろうと思う。
"byline" は、新聞や雑誌の記事で書いた人(記者)の名前が "By ..." と表示される行に由来する表現で、英和辞典では「執筆者名を書いた行」といった定義が与えられているが、実際に使われる英語では「執筆者名を書いた行のある記事」のこと(通例、my byline, his bylineといった所有格を伴った形で「~が名前を出して書いた記事」)。ここでは "my first solo byline" で「私の最初の単独での署名記事」で、名前を出して記事を書けるということは、補助役を卒業したということでもある。
そしてさらにこの "what may have been ~" という名詞節に、関係代名詞のwhichの節が続いている。
*1:3月17日といえば、日本では東日本大震災が発生した翌週で、それまで「アラブの春」に向けられていたメディアと人々の関心は福島第一原発に移っていたころだが、「アラブの春」自体もますます難しい局面に入っていて(例えばバーレーンでは国際メディアの記者は締め出されていた)、CNNのアンダーソン・クーパーのような国際メディアの看板キャスターが、中東ではなく日本に来ていたりもした。
本日2月10日、Windows Updateが全然終わらないので、準備中のブログ記事を書きあげることを断念し、明日の休日用に準備してあった過去記事をアップします。本日予定のエントリは明日11日にアップします。あしからずご了承ください。
このエントリは、2019年12月にアップしたものの再掲である。
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今回の実例は、英国の総選挙前の論説記事から。
英国の総選挙については、前回少し書いたので、文脈的なことはそちらをご参照のほど(情報量として全然足りていないが)。
記事はこちら:
この論説記事を書いたニック・コーエンについてはウィキペディアを参照。ガーディアンの日曜版であるオブザーヴァーをはじめとする多くの媒体に論説文を書いている政治コラムニストで、2003年のイラク戦争支持、2011年のリビア介入支持、2012年のシリア介入支持(シリアは実際に介入は行われなかった)のスタンス、つまり、2000年代に短期間だけ盛り上がった「人道的軍事介入」のイデオロギーの賛同者でそれを喧伝してきた書き手のひとりだが、「人道的軍事介入」があっと言う間に廃れたあとはそのテーマでこの人が書いた文は見なくなった。元々はそのような国際関係方面の人ではなくオックスフォード大学でPPEというバックグラウンドの人だ。
ちなみに、名字の「コーエン」はユダヤ系の名だが(そのことについては先日少し書いた)、ニック・コーエンの母親はユダヤ人ではないので彼はユダヤ人と見なされる立場にはなく、また信仰の点でもユダヤ人(ユダヤ教徒)ではない(無神論者である)という。ソースは上述のウィキペディア。
続きを読む
今回の実例は、前回の続きで、Twitterの連ツイを読んでいこう。
10年前のちょうど今頃、エジプトのカイロでホスニ・ムバラク大統領(当時)の退陣を求める大規模抗議行動を中から取材していたアメリカ人ジャーナリストが、抗議デモを監視していた秘密警察によって一時拘束され、翌日、没収されたカメラを取り返すために、秘密警察が拘置施設として使っていた博物館を訪れた、といったことを回想して書いているツイートである。10年前のエジプトについての前置きは抜き(前回書いたので)。
驚くべきことに、ジャーナリストから没収したカメラを秘密警察は素直に返却したわけだが(例えば今抗議デモが起きているミャンマーなどではそういうことはまず考えられないだろう)、ジャーナリストが博物館を後にしようとしたところで司令官が出てきて、中の写真を全部見せろと要求した。そして、カイロで撮影された戦車の写真などは削除させたものの、ほかの写真(エジプト情勢とは関係のない、ジャーナリストのプライベートな家族写真)にはお世辞を言ったり、軽い世間話をしてきたりした。秘密警察が、である。そのことについてジャーナリストは次のように述懐する。
I got this kind of bemused, semi-friendly treatment 100% because I was a super pale, white foreigner with a US passport. Anyone who looked even vaguely Arab, or who was Israeli, would never have been released in the first place, even with a foreign passport.
— Liam Stack (@liamstack) 2021年2月7日
bemuseという語は、amuse(「~を楽しませる」)に似ているが、意味はかなり違っていて「~を混乱させる」。類義語はconfuse, puzzleなどだ。だから "bemused, semi-friendly treatment" は「混乱した、半分フレンドリーな扱い」ということになる。もう少しわかりやすく言うと、ジャーナリストは秘密警察から「完全に敵対的な扱いではない扱いを受けた」と述べているわけだ。
そしてその理由について、"100% because I was a super pale, white foreigner with a US passport." と分析している。この "100% because..." は口語的な表現で、新聞記事や論文などでは用いられない。「完全に…という理由によるものだ」という意味。
つまりここまでの文意は「私は生ぬるい扱いを受けたわけだが、その理由は、完全に、私が真っ白い肌をした白人の外国人でアメリカのパスポートを持っていたからだった」。
そして第二文で、それをより詳しく説明している。すなわち「たとえ何となくであってもアラブ人のように見える人や、イスラエル国籍の人ならば、どのような人であれ、たとえ外国のパスポートを持っていたとしても、そもそも身柄解放などされなかっただろう」。
この第二文に2つ、文法ポイントがある。
続きを読む今回の実例は、Twitterから。
10年前の今ごろ、世界の目はエジプトの首都カイロに注がれていた。2011年1月25日、近隣のチュニジアでの革命に刺激を受けた人々が、自国の独裁者ホスニ・ムバラク(彼は形だけの選挙を行って、自分の息子に後を継がせるつもりでいたという)に退陣を求める平和的抗議行動を組織化して開始した。エジプトでは1月25日は「警察の日」で、「革命」派は、前年6月にハリド・サイードさんという青年が警察に捕らえられて拷問死したことに抗議するためにこの日を選んで、いくつかの都市で大規模なデモを組織した。首都カイロ市の中心部にある「タハリール広場」(「タハリール Tahrir」は「解放」の意味で、20世紀はじめの対英独立運動にルーツのある名称である)は、初日から「革命」派が座り込みを行い、人々が集う中心地となった。世界のメディアもそこに集まった。
革命派の人々がテントを張るようになった広場内には、携帯電話・スマートフォンとソーシャルネットが必要不可欠の存在だったあの「革命」を支える電源供給所のようなものから床屋まで揃っていた。
私も連日、ネットでだれでも登録などなしで自由に見られるアルジャジーラ・イングリッシュの24時間ニュースをつけっぱなしにして、現地から送られている英語でのツイート(エジプトのあの「革命」の中心となっていたのは大学生などインテリで、エジプトに限らずアラブのインテリは、英語は自由に使える人が多い)を日本語にしてリツイートするなどしていた。緊迫した状況だった。広場にいつ戦車が突入してもおかしくなかった(1989年6月4日の北京の天安門広場のように)。モニターの向こうからこの状況を注視している人たちは、「世界の目が注がれている」という状況を作ることで、現地の人々を守れると考えていた。そしてこのときは実際にそうだった。この時期までは、「惨事はメディアを排除して密室化したところで行われる」というのが基本的なことだったのだ。ほんの2年後、2013年の夏に同じエジプトのカイロで世界のメディアの目の前ですさまじい虐殺が行われて、そんな基本的な約束事は過去のものになったのだが、少なくとも2011年2月初めの時点では、「密室化させてはいけない」という思いで、世界中の人々が、タハリール広場を見つめていた。そのことがタハリール広場が全エジプトを代弁する存在であるかのような錯覚を生じさせた(そのことはのちに、あのときあの広場の中から様子を英語で実況ツイートしていたアメリカ人のジャーナリストや研究者、アナリストといった人々が反省していたのだが)。
2月1日の広場の映像がある。女性の服装を見るとわかりやすいのだが、イスラム教のルール通りに髪の毛や肌を覆っている人たちもいれば、普通に西洋的な服装で首やデコルテ、腕を出したTシャツ姿にまとめ髪という人たちもいる。年齢もさまざまで、子供連れの人たちもいる。プラカードは「海外」に見せるための英語も多いが、マジックで手書きしたようなものが多く、組織が配っているような雰囲気ではない。
こういった中から状況を伝えていたアメリカのジャーナリストのひとり、ニューヨーク・タイムズのリーアム・スタックさんが、10年前のことを振り返って連続ツイートをしている。
10 years + 1 day ago, I was detained by secret police in Tahrir Square, who took my camera & started to tie me up with a phone cord before they saw my US passport& let me go. Facebook just reminded me that 10 years ago today I went back to the museum& got them to return my camera
— Liam Stack (@liamstack) 2021年2月7日
文法的には《関係代名詞の非制限用法》と《使役動詞let + O + 原形不定詞》が出てくるのが注目ポイント。《remind + 人 + that ...》の構文もあるが、前から順番に読んでいけば意味を取りそこなうことはないだろう。
続きを読むこのエントリは、2019年12月にアップしたものの再掲である。
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今回の実例はTwitterから。
英国では今週の木曜日、12月12日が総選挙の投開票日である。12日の朝から夜まで投票が行われ、即日開票となり、だいたいの議席が確定するのは翌13日(金)の見込みである。
今回、なぜこんな変な時期*1に総選挙になっているのかということは、書くならこのブログではなく本家のブログに書く話だから、そこは割愛する。
その選挙の投票日を前に、いろんな言葉が報道機関のサイトやTwitterなどを飛び交っているのだが、英国の今の保守党(現在の政権党)の嘘つきっぷりと卑怯者っぷりは日本の現在の政権与党もビックリのレベルで*2、保守党批判の論理的で鋭い発言が多い。
今回の実例はそういった発言から。
A 4 year old with suspected pneumonia, lying on a pile of coats on a underfunded, understaffed A&E floor.
— Rachel Clarke (@doctor_oxford) 2019年12月8日
Our NHS - in 2019 😔
And you know what. The Tories have had 9 years to fund us properly.
If they really wanted to, they'd have done it by now.https://t.co/bYDNVxurzp
*1:通例、英国ではこの時期は基本的にクリスマス・ムード一色だ。ちなみに「クリスマス」といっても宗教色はもはやさほど濃くなくて、全体的には年に一度、人にカードを送ったり、プレゼントを用意したり、家族・親族が集まる機会、という感じ。日本でのお盆のほうがまだ宗教っぽいというケースも少なくないだろう。
*2:それでも、英国のほうが締めるべきところは締めているから、まだ日本よりましだと思うけど……とかいうことを書いてると突撃されそうだから書くのやめとく。