Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

【再掲】bythe time ..., 過去完了, to不定詞の意味上の主語, spend ~ -ing, 分詞構文, 「~につき」のa, など(新型コロナウイルス封じ込めに成功した韓国)

このエントリは、2020年4月にアップしたものの再掲である。

-----------------

今回の実例は、報道記事から。ジャーナリストも現地に直接出向くことができない状態で取材し裏取りをしなければならないので大変だと思うが、この記事は日本にいるジャーナリストが韓国について書いたものである。

広く知られている通り、韓国は今回のパンデミックに際し、感染拡大を抑制した成功例として世界各国から注目されている。2週間くらい前までは「まだはっきり成功したと言えるわけではない」という慎重な見方が多く出されていたが、4月15日の総選挙*1を経て、今でははっきりと「成功例」として参照されている。現在、多くの国々で意識が向けられているのは「第二波 (a second wave)」なのだが、韓国の第一波での対応策は第二波を控えた各国から注目されている。日本語圏ではこの基本的な事実でさえまともに認識されているかどうか極めて怪しいと思うので、以上、非常にざっくりと説明を加えたが、私も特に韓国に注目しているわけではないし、そもそも韓国語は読めないので、この説明では雑過ぎるとかいうこともあるかもしれないという点はご了解いただければと思う。

前置きはこのくらいにして、記事はこちら: 

www.theguardian.com

*1:日本語圏の報道やインターネット一般では「反日の文大統領は危機に立たされている」みたいな内向きのバイアスが強すぎて、まともな情報が入らないので注意。

続きを読む

【再掲】やや長い文, unlike ~, 関係代名詞の非制限用法, パンクチュエーション(日本の「医療崩壊」の危機)

このエントリは、2020年4月にアップしたものの再掲である。

-----------------

今回も、前々回および前回と同じ記事から。

今回は記事の一番最後の方、同じ危機の中にあって、英国という遠く離れた場所から東アジア(極東アジア)を概観してまとめている部分から。

記事はこちら: 

www.bbc.com

続きを読む

【再掲】関係代名詞の非制限用法, prepare for ~, despite ~,《同格》のthatの省略(日本の「医療崩壊」の危機)

このエントリは、2020年4月にアップしたものの再掲である。

-----------------

今回の実例は前回のと同じ記事から。

前回は報道記事そのものの一部を見たが、今回はその記事に書き添えられたエディターの「分析」(Analysis)から見ていこう。「分析」は、日本のメディアの用語でいえば「解説」のようなものだ。

記事はこちら: 

www.bbc.com

続きを読む

日本語では「死にたくない」、英語では "want to live" ~「翻訳」と「ローカリゼーション」

今回の実例は、Twitterから。といっても、いつもとは少し趣向を変えてみる。

アメリカ(主にハリウッド)の映画スターが、日本では独特の人気の出方をすることは、アメリカ人で日本に興味を持っている人々にとっては定番の話題のひとつである。YouTubeなどにアップされている、ハリウッドスターが出演している日本のテレビCMの映像のコメント欄で、英語話者がああだこうだと盛り上がっていることもよくある。

そういうふうな「日本での独特の人気」で知られるハリウッド・スターの代表格が、のちにカリフォルニア州知事にもなったアーノルド・シュワルツェネッガーである。彼はアメリカでは、親しみを込めて呼ばれるときは、「アーノルド」の愛称形の「アーニー」が用いられるが、日本ではなぜか「シュワちゃん」で、これは「~ちゃん」という日本語を知っている人には、とても受ける。レオナルド・デカプリオの「レオ様」もなかなかウケがよいが、「シュワちゃん」はもっとウケる。

という話で盛り上がっているのが、「アニメばかりどんなに見てたって、知ることができない日本がある」という方針で運営されているウェブサイト Unseen Japan のアカウントの下記のツイートと、それへのリプライだ。

これらのツイートの英語は平易だから、ここでお二人が何を話しているのかは解説しなくてもよいだろう。

それより、私がこの @UnseenJapanSite のツイートを見て「おお」と思ったのは、原文(日本語)が「死にたくなければ」という《否定》の形で、訳文(英語)が "if you want to live" という《肯定》の形になっていることだ。

続きを読む

【再掲】現在完了, be unable to do ~, due to ~, 過去分詞の後置修飾、など(日本の「医療崩壊」の危機)

このエントリは、2020年4月にアップしたものの再掲である。

-----------------

今回の実例は、日本についての報道記事から。

新型コロナウイルスの流行について、日本は実はかなり早い段階では英語圏で連日トップニュースになるような扱いを受けていた。乗客や乗員に多くの欧米人が含まれていたダイヤモンド・プリンセス号のことがあったからだ。しかし2月半ばにこのクルーズ船からの下船が完了したあとは、ほとんど話題にもされなくなってしまった。検査体制をものすごいレベルで充実させた韓国や、徹底した追跡で封じ込めに成功していたシンガポールについては英語圏でも何度も言及されていたが、日本は完全にスルーされていた。検査件数がめちゃくちゃ少ないということは知られていたが、感染拡大が見られないことについては「謎 enigma」とされ、日本でいうところの「クラスター」云々(英語圏でいうcontact tracingに似ているのだろうが、一致はしていないと思う)はまるで注目もされず、2月後半以降ほぼずっと、Japanは感染件数のグラフには出てきても記事にはならないという感じだった。忘れているかもしれないが五輪の延期が決まってもいない段階で、つまり「今年の7月には東京で五輪が開催される」という前提があったときに、グローバルなパンデミックについて日本での感染状況が、欧米の主流報道機関でまともに言及もされなかったのである。正直、「あの国のやることはわからん」というオリエンタリズムを感じずにはいられない状況だった。実際に東京にいる私にも「なぜここで聖火リレーで人を集めるか」とかいうことがわからなかったのだから、英語圏報道機関がわからなかったとしても仕方がないが。

それがここ最近は少し変わってきて、日本の感染対策について記事になることが増えてきた。まずは例の「アベノマスク」の報道があったのだが、緊急事態宣言が出されながら東京都心部の通勤列車の混雑具合は変わらず、渋谷などの町の人出もゆる~い感じだといったことは、かなり批判的なトーンで伝えられた。そして今回、4月18日付のBBC News記事である。記事はこちら: 

www.bbc.com

この記事が取り上げているのは、日本語圏では四字熟語化している「医療崩壊」についてである。まずその「医療崩壊」をBBCがどう英語にしているかだが、ヘッドラインにある "health system may 'break down'" がそれにあたる。"break down" につけられている引用符は、その語句が直訳であることを示している。つまり「英語圏からみれば奇妙な表現」なのだが、その判断は私にはちょっと微妙なように感じられる。実際、英語圏ではこういう現象についてoverwhelmなどの表現を使うことが多いが、同時にcollapseという表現もよく出てくる。collapseならbreak downとほぼ同じだ。実際に記事本文では引用符なしでcollapseが用いられている。

そういった詮索はおいておくとして、記事の中身をみていこう。

続きを読む

【再掲】black cat appreciation dayは「黒猫の良さを認識する日(黒猫鑑賞デー)」。このappreciationは「感謝」ではありません。

このエントリは、ちょうど1年前、2020年8月17日にアップしたものの再掲である。

-----------------

今回は、いつもとは少々違った感じで。

手元にある英和辞典で、appreciationという単語を引いてみてほしい。《意味》がたくさんあって、どれが《正しい意味》(つまり、自分が今見ている文に適した語義)なのかが判断できなくなりそうなほどだと感じられるだろう。

例えば、私の手元にある『ジーニアス英和辞典 第5版』ではこのようになっている。

f:id:nofrills:20200819143931j:plain

ジーニアス英和辞典 第5版』(大修館書店、2014年)、104ページ

第一の語義として「鑑賞(力)、〔良質の物を〕味わう力」で、art appreciationという用例が出ている。続いて2番目の語義として「十分な理解[認識]; 思いやり」で、3番目に「感謝」が挙げられている。4番目は特定の文脈があっての語義で、5番目はあまり日常的に見るものではない。

もう1冊、本棚で一番大きな場所を占めている研究社の『大辞典』ではこうだ。

f:id:nofrills:20200819144119j:plain

『新英和大辞典 第6版』(研究社、2002年)、119ページ

私はこの単語は研究社が書いているこの語義*1で最初に覚えたのだが(問題集の解説に書いてあったので)、最初の語義が「(人・物の)真価を認める[理解する]こと、(物事を)心から楽しむ[味わう]こと」*2。2番目が「(好意などへの)感謝、謝意」で、3番目が「(的確な)判断、理解、認識」などとなっている。

 

ではここで問題。

"Black cat appreciation day" はどういう意味になるだろうか。

*1:研究社の『中辞典』でもとてもよく似た記述になっていることが、 https://ejje.weblio.jp/content/appreciation で確認できる。

*2:これが実にわかりやすくてよいので、ぜひ覚えてもらいたい。

続きを読む

倒置, 最上級(20年前に放逐されたタリバンが、アフガニスタンを再掌握)

今回の実例は、Twitterから。

昨日、8月15日(日)は、毎年のことだが日本では「終戦記念日」、国際的には "VJ Day Victory over Japan Day)" と呼ばれる日であり、インドでは独立記念日であり、多くの国々で日本の植民地支配が終わった記念日であり、北アイルランドでは1998年のオマー爆弾事件の日で、私は毎年のように、普段通りのことをしながら、自分の中で、今日本人である自分が、特に制限を課されることなく日本語と英語を通じて「世界」とつながっていられることの意味を改めてかみしめながら、追悼と、過去と現在とを考えることで過ごすつもりだった。

実際、昨日の今頃までは、そういう平和なモードだった。ただ、アフガニスタンで、まさに「電光石火」の勢いで次々と主要都市がタリバン支配下に入っていっている様は、とても気になっていた。既に土曜日までに、カンダハルもマザリシャリフも政府支配下からタリバン支配下になっていた。実は先週、今回のタリバンの進撃が進められるにつれ、毎日BBC Newsなどで大きく取り上げられていた段階で、記事を読んで「8月の終わりまでにはアフガニスタンの全域をタリバンが掌握するのではないか(現政府支配域が残るとしてもカブールだけになるのではないか)」と考えていた。しかし実際には、8月の半ばにはもう、すっかり……。

下記は昨日の今頃(18:30ごろ)のBBC Newsのトップページのキャプチャだが、「カブールの四方から、タリバンが入域している」という報道があったときのものだ。まさに首都陥落が現在進行形で伝えられていたのだが、このほんの数時間後には大統領が逃げ出して現政権が崩壊するということが起きた。 

 この事態を引き起こしたのは、米軍の全面撤退である。これは、ドナルド・トランプが画策し、ジョー・バイデンが実行した。 そもそもなぜ米軍がアフガニスタンにいる(いた)のかというとジョージ・W・ブッシュの「テロとの戦い」のためで、ちゃんと説明しようとすると20年前の2001年9月11日にまでさかのぼらなければならないのだが、その余裕は今はないから措いておくとして、今から10年前の2011年5月にバラク・オバマ政権下のアメリカが、パキスタンに潜伏中のオサマ・ビン・ラディンを殺害したことで、アメリカの「テロとの戦い」は終わらせる方向になって、まずはイラクから、そして今回アフガニスタンから米軍が撤退する、ということになった(米軍と一緒に「連合国 coalition」として軍隊を派遣していた各国も、次々と自国の軍隊を引き揚げている)。

米軍はアフガニスタンで何をしたかというと、そりゃもうひどいこともいろいろしたのだが、対タリバン武装勢力に対しては、「重し」的な役割は果たしていた。ざっくり言えば、米軍がいるから暴れられない、という構造ができていたわけだ。理屈で考えれば、その「重し」が消えてしまえば、武装勢力は暴れ放題になるし、実際にそういうことが起きた。ただし、群雄割拠するアフガニスタン武装勢力同士が争うということはなく、進撃を見せたのはタリバンだけ。そのタリバンは、ここ数年、アメリカなども関わる形で「和平交渉」を行っており、雑な説明になるが、昨日崩壊した政権(アメリカの肝いりで作られた政権)と共存するんだかそれに参画するんだか、とにかくそういう方向性が模索されていた。

それもこれも、大統領が逃げ出してしまったらもう終わりで、アフガニスタンはただ単に、タリバン支配下に入った。20年前に逆戻りというか、この20年は一体何だったのかという気分が、今、英語圏を覆っている。最も直接的なのが英デイリー・メイルの一面だ。

英国は、バイデン大統領の米軍完全撤退の決定に極めて懐疑的な発言がいくつか続いていたが、先週以降のタリバンの進撃のなかで、それがますます多くメディアに出るようになった。今回の実例は、英国でのそういった発言のひとつから。

続きを読む

【再掲】部分否定, when it comes to ~, be going to have to do ~など(新型コロナウイルスとワクチンの可能性)

このエントリは、2020年4月にアップしたものの再掲である。

-----------------

今回の実例は、報道記事から。

新型コロナウイルスに関しては「ワクチンができれば安心だ」みたいな前提があるが、一般論として、すべてのウイルス(を含む病原体)にワクチンがあるわけではない。このウイルスはまだまだわかっていないことがとてもたくさんあって、ワクチンが有効になるのかどうかもわからない。そのことについての記事。

記事はこちら: 

www.theguardian.com

続きを読む

【再掲】It is ~ that ...の強調構文(この事態に際しても、海外での評判を気にする日本の安倍政権)

このエントリは、2020年4月にアップしたものの再掲である。

-----------------

今回の実例は、報道記事から。

記事についての説明のための前置きは、書いているとその間にブチきれそうになるので省略。記事はこちら:  

 この記事については、下記のように連投した通り: 

というわけでぜひ全文読んでもらいたいのだが、実例としてはそのほんの一部だけを見る。

続きを読む

【再掲】to不定詞の意味上の主語, 主語になるto不定詞句, 疑問詞節(米大統領の「WHOへの資金拠出停止」発言と現実)

このエントリは、2020年4月にアップしたものの再掲である。

-----------------

今回の実例は報道記事より、テレビの時事系番組での識者の発言を紹介している部分から。

ドナルド・トランプ米大統領CDC(疾病対策センター)を縮小した自分の責任を回避し、陰謀論を振りかざしてWHOへの資金拠出を停止するとブチあげていることは、日本語圏でも大きく報じられた(んですよね)とおりだ。

ウイルスに国境はない。CDCは「国境到達前の闘い」を実践するため、世界60カ国以上に職員を派遣し、各国の専門家とも交流を重ねながら世界の牽引役となってきた。02年に重症急性呼吸器症候群SARS)が中国を襲った際、米国がCDCの専門家40人を現地に送って支援したことをきっかけに、両国間の協力も加速した。13年にH7N9型のインフルエンザが中国で発生した際は米中が共同研究を実施し、中国が開発したワクチンが米国側に提供された。

 だが、トランプ政権の下で国際保健分野は冷遇されている。政権はCDCの予算を削減しようとし、エボラ出血熱対策の教訓から設けられた国家安全保障会議NSC)のパンデミック担当チームも18年に解体された。そこに、通商分野を中心とした米中対立が追い打ちをかけた。

 トーマス・フリーデン元CDC所長はロイター通信に「トランプ政権のメッセージは『中国に協力するな。彼らは敵だ』ということだ」と語る。……

https://www.asahi.com/articles/ASN4F7DKGN4DUHBI003.html

 

WHOをめぐっては、アメリカ議会で与党 共和党を中心に中国寄りだという批判が強く、トランプ大統領としては強硬な姿勢を示した形です。

……

アメリカは、WHOの最大の資金拠出国で、拠出を停止すれば感染対策をめぐる国際協力に影響が出ることも懸念されます。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200415/k10012387751000.html

 

日本語圏ではこの問題について、米国内の「共和党民主党」の政治問題として回収しようというナラティヴが激しいが(NHKが特に)、今の米共和党がトランプ党みたいなことになってるという前提があるわけで、「トランプの主張を支持するトランプ支持者対その他」と言ったほうがよいのではないかとSNSで米国圏をちらっと見て思うのだが、それはさておき。

この問題について、欧州の小国だが歴史的に米国とのつながりがめっちゃくちゃ太いアイルランド外務大臣がズバっと直球で批判している。

今回の実例は、外務大臣のこの発言を受けてのアイルランド公共放送RTEの記事から。記事はこちら: 

www.rte.ie

続きを読む

【再掲】仮定法過去 (ああ、2020年)

このエントリは、2020年4月にアップしたものの再掲である。

-----------------

今回の実例はTwitterから。

っていうか、解説いらないよね。

 「窓から外を見てこういうのを目にしたとしても、驚かない」。お手本通りの「仮定法過去》。

 

Twitterのこのハッシュタグ、いろいろ刺激が受けられると思う: 

twitter.com

 ハッシュタグに含まれている "could" も仮定法だ。こういう英語に、「あるある」とか「ですよねー」と共感しながら大量に接することができるというのは、英語学習に大きなプラスとなる。Twitterを使っているのなら、日本語圏を一歩出て、英語圏を覗いてみてほしい。玉石混交だし、トピックそのものがわからないこともあるけれど(例えば政治家についての話題とかTV番組の話とか)、ハッシュタグで話題になっているものをちょっと見てみるだけでも、自分にとっての世界が広がる。学校だけじゃない、塾だけじゃない、家だけじゃない、その外に世界がある。

 

 

参考書:  

このイングリッシュ・ジャーナルの「仮定法」特集はよくできている。紙版が手に入らなくても電子書籍版があるはずなので、気になったらチェックしてみてほしい。

 

 

 

【再掲】be due to do ~, 関係代名詞の非制限用法, cannot do ~ enough(英、ボリス・ジョンソン首相退院)

※今日2021年8月11日は、昨日の続きを書くつもりだったのですが、低気圧の影響で古傷がものすごく痛くていろいろ無理なので、過去記事の再掲載とさせていただきます。すみません。小林章夫先生のあまりに突然の訃報も精神的にこたえています。

-----------------

このエントリは、2020年4月にアップしたものの再掲である。

-----------------

今回の実例も、前回と同じ記事から。記事はこちら: 

www.bbc.com

ボリス・ジョンソンのこの退院後のメッセージは、日本では「よいリーダーのもの」として評価されているようだ。そのように見ることは間違いではないのだが、この人物が首相になるまでの道のりでいかに言葉を雑に扱ってきたか、いかに《事実》を軽視してきたかは忘れてはならない。そういったことについては既に書籍などでしっかり取り上げられている。例えば下記の本。3年前の本だからもう古く見えるかもしれないが、2016年のBrexitとトランプという衝撃の中でよくぞここまでまとめたという好著である。 

Post-Truth: How Bullshit Conquered the World (English Edition)
 

 

ジョンソンのような人物にでさえ、新自由主義の故郷たる英国でこのような政策をとらせ、「NHSが、すばらしい」みたいな発言をさせるこの新型コロナウイルスの威力は、私たちの現状認識を歪めひずませてしまっているのだが、それに加えて日本は……いや、やめておこう。このブログでまであのくだらないビデオについて言及することはない。まったく、星野源じゃなくてニール・ヤングやエアロスミスだったら、今ごろ「勝手に使ってんじゃねーよ、ドタコ」くらいの発言が出てただろう。

閑話休題。今回の実例は、ジョンソン退院時のメッセージを報じるBBC記事のかなり下の方の部分から。

続きを読む

「『誤訳』とは、原文の語句・構文や意味内容についてのはっきりと誤った解釈に由来するものをいう」(中原道喜)

ここでは唐突に映ると思われるが、ある経緯から、誤訳というものについて書いておきたいと思う。誤訳とは何であり、何ではないのか、ということだ。

さて、「誤訳」とは何であるのか。見ての通り「誤った訳」だ。ではその「誤った」とはどのようなものか。

今手元にないのだが*1鴻巣友希子さんの(確か)『翻訳教室』に「誤訳というものは存在しない。あるのはいろいろな訳である」という考えが示されていたと記憶している。これは非常にポジティヴで、翻訳を学ぶ側からすれば前向きになれるし、他人の考え方にもオープンになれる考え方なのだが、この理想が適用されうるのは、英語に関する基本的な知識が既に一定レベルに達している人だけである。

「英語」で話をすると、「何か特別な能力のある人だけがやっていること」だろうと思われてしまいがちなので、日本語に置き換えよう。

例えば、小学校3年生の子に「今ね、小学生をタイショウに、アンケートをお願いしているんです」と言えば、言っていることの内容は理解されるだろうが、ではその子がこの「タイショウ」は「対象」であって「対称」でも「対照」でもないということを知っているか(理解しているか)というと、まだ知らない(理解していない)だろう。基本的な知識が既に一定レベルに達していない状態とは、こういう状態のことである。その場合は、その人にはこれから伸びる余地があるということで、それ自体がその人の能力や人格についての決定的な否定になるわけではない。

翻訳をやろうという人ならば、基本的には、高校で習うレベルの英単語や英文法は、「基礎」という位置づけで、だいたい完全に頭に入っているのが当たり前で(つまり上記の例でいえば「対象」と「対称」と「対照」が区別できるのは当たり前、という状態で)、上述した「誤訳というものは存在しない。あるのはいろいろな訳である」という考えは、それが前提になっている。

だから、"My neighbour’s cat meowed." という英文を、「隣家の飼い猫がニャーと鳴いた」とするか、「ご近所の猫ちゃんがにゃあって言ってくれたよ」とするか、「お隣のねこちゃんが元気にご挨拶していった」とするか、などのバリエーションはありえるし、文脈によっては「うちの隣には猫がいて、そいつが鳴いてうるさかったんだ」とすることもあるだろうが、「隣の犬が鳴いた」や「隣の猫が走っていった」とすれば明確な、単語レベルの誤訳だ。

"High above the city, on a tall column, stood the statue of the Happy Prince."*2という英文を、「街を上がっていったところに高い柱が立っていて、王子の像はしあわせでした」とすれば、文法解釈がめちゃくちゃな誤訳だ。

これが誤訳であると言い切れる根拠は何かと言うと、英文法である。「文法的に解釈すると、そういう文意ではない」ということである。具体的に言えば、この文の主語は "the statue of the Happy Prince" で、動詞は "stood" であり(SとVが逆になった《倒置》の構文である)、"High above the city" は「街の上方」、つまり「街を一望できるような高い位置」のことで、その次の "on a tall column" はそのような位置を可能にしている構造物について説明している個所。したがって、この文は「街を一望できる高い柱の上に、幸福な王子の像が立っていた」という意味になる。

文法構造に従って解釈した結果のアウトプットは、上述の「隣の猫」の例のように、人によっていろいろなバリエーションがありうるが、この文の《意味》は、どのように表現しようとも変えてはならない。

したがって、「街を上がっていったところに高い柱が立っていて、王子の像はしあわせでした」は誤訳で、「街を睥睨するようにそびえたつ高い円柱の上に、しあわせな王子の彫像がすえつけてありました」は誤訳ではない。

 「誤訳」というもののこのような定義は、翻訳という作業をやる人々の間では広く共有されている一般的なものである。中原道喜『誤訳の構造』(2003年、聖文新社)には次のように書かれている (p. 10)。

つまり「誤訳」とは、原文の語句・構文や意味内容についてのはっきりと誤った解釈に由来するものをいうのであって、訳語の主観的選択の適否といった次元のものではない。 

誤訳の構造

誤訳の構造

Amazon

 ※リンク先は2021年に版元を改めて復刊されたバージョン

ではここで次のツイートを見てみよう。

*1:というか取り出せない。積読山のどこかにある。

*2:英文出典: https://www.gutenberg.org/files/30120/30120-h/30120-h.htm 

続きを読む

【再掲】関係代名詞の二重限定, やや長い文, It is ~ that ...の強調構文, thatの判別(英、ボリス・ジョンソン首相退院)

このエントリは、2020年4月にアップしたものの再掲である。

-----------------

今回の実例は英国のボリス・ジョンソン首相の発言から。

先日みた通り、ジョンソン首相は新型コロナウイルス感染でしばらく入院していた。一時は集中治療室に入れられるほど病状が深刻で、英国では支援者以外も「いくらなんでもこんなことで死ぬなよ……」という主旨で「がんばれボリス」的なムードが沸き起こったが(そして「まさかあの人物がこんなふうに応援されることになるとは」と多くの人が、「生き延びろ」というストレートな思いと同時に、複雑な感情を抱いた)、集中治療室で快方に向かい、酸素マスクは着けていたようだが挿管もされず、もちろん人工呼吸器につながれることもなく、1週間ほどで退院した。その間、毎日のブリーフィングを担当する閣僚たちからは「ジョンソン首相は病院でNHS(国民健康保険)の尽力により、最高の医療を受けている」といったことがそういう主旨の言葉で語られていた。

ジョンソンと同じころに入院し、そしてジョンソンほどの手厚い医療を受けることなく不帰の人となった人々の数を思うと、これは一口に「よかった」と言えることではない。それでも私はジョンソンが無事退院できたことはよかったと思うし、生還した以上は2016年以降これまでの英国のめちゃくちゃなあれこれを見直して方針転換していってほしいと思っている。何だかんだいって、ジョンソンは、3月半ばまでの英国の奇妙な新型コロナウイルス対策を180度転換させたのだ*1。「病的な嘘つき」と言われる人物のことだから、期待しすぎは禁物だが、少しは期待してよいだろう。

退院後のジョンソンの言葉は、そういう期待を持ち続けてもいいのかなと思わせるものだ。

BBCの記事がそれを紹介している。記事はこちら: 

www.bbc.com

*1:「集団感染」論、つまり人々の外出を特に制限せずに大勢を感染させ、大勢を死なせつつ、コミュニティ全体で免疫を獲得する、という考え。今回のウイルスが感染したら免疫を獲得できるようなものなのかどうかわかっていない段階でそういう話が側近・顧問団の間で方針として固まったのだが、1本の論文でそれが覆った。

続きを読む

【再掲】同等比較, 関係代名詞, 接続詞のas, やや長い文(「モデル」はなぜ正確に予測できないのか)

このエントリは、2020年4月にアップしたものの再掲である。

-----------------

今回の実例も、前回と同じ記事から。

"Garbage in, garbage out" という言葉を聞いたことがある人もいるかもしれない。Garbageはアメリカ英語で「ゴミ一般」のこと(イギリス英語ではrubbish, またはtrashと呼ばれる類のゴミ)で、「ゴミを入れたらゴミが出てくる」という意味だ。

何のこっちゃと思われるかもしれないが、これは計算機科学・IT分野の警句めいたフレーズで*1、「ダメなデータを入力したら、ダメな結果が出力される」ということ。だから最初から「ゴミ(ダメなデータ)」を入れるな、ということだ。

「ゴミ」というのは少々厳しい表現だが、今回見ている記事は、基本的に、そういう話をしている。つまり、予測を立てる「モデル」の元となったデータが十分によいデータでないと、その「モデル」が出す予測は十分にあてにすることができない。(なお、「よいデータでない」とは、「質的によくない」ということだが、その内容はさまざまだ。例えば必要な計測ポイントが5つあるのに3つしかないとか、ある都市の住民全体の傾向を割り出さねばならないときに、データが取れたのが60歳以上の男性に偏っていたとか、1500件のデータが必要だったのに500件しか取れなかったとか。)

今回のパンデミックのように、この先どうなるかを予測するためには、十分に正確なデータが、十分な数、必要となる。それができているとみなされているのは韓国とドイツで、どちらも検査をたっぷり行っている。

前置きはこのくらいにして、記事はこちら: 

www.theguardian.com

*1:現在では、計算機科学・IT分野を離れたところでもこのフレーズがかなり定着してきていて、「議論の前提がぐだぐだだと、議論の結論もぐだぐだになる」といった場面でも用いられるようになっている。

続きを読む
当ブログはAmazon.co.jpのアソシエイト・プログラムに参加しています。筆者が参照している参考書・辞書を例示する際、また記事の関連書籍などをご紹介する際、Amazon.co.jpのリンクを利用しています。