今回の実例は、英国で日曜日の朝のテレビといえばこれ、というような定番の政治家インタビュー番組でなされた、財務大臣の発言と、その発言を言い換えたものである報道各社のヘッドラインから。
以前も少し説明したが、英国では、首相はPrime Ministerだが、内閣 (cabinet) を構成する閣僚たちはMinisterではなくSecretary of Stateと称する。例えば「教育大臣」はSecretary of State for Educationと言い、新聞記事などで短縮した形で表されるときはEducation Secretaryとする。
なので「財務大臣」はSecretary of State for Finance...と言いたいところだが、そうならない。財務大臣は特別な役職で、Chancellor of the Exchequerと言う。略すときはChancellorだ。最も重要な仕事は予算の責任者としての仕事である。(以上、定冠詞は省略した。)
英国では、Chancellorは財務大臣であると同時に、「政権ナンバー2」である。副首相 (Deputy Prime Minister) のポストもないわけではないが、任命されないケースも多く、常にどの内閣でもいる財務大臣が恒常的な「ナンバー2」と言える。住居(官邸)も、首相がダウニング・ストリート10番地で、財務大臣は11番地である。英国では基本的に、通りのこちら側に偶数番地、あちら側に奇数番地というように並んでいるのだが、ダウニング・ストリートはそうではなく、10番地と11番地が隣り合っている。
というわけで、政権トップである首相が退陣するときは、ナンバー2である財務大臣の動向にも関心が向けられる。そもそもが首相と財務相はセットみたいなものだが、特に今回のテリーザ・メイのように、政権を担っていくことを諦めて自ら退くという場合は、財務大臣も一緒に退陣することは織り込み済みで、「次は誰が財務大臣になるのか」ということが早くから関心を集め……て当然なのだが、そこは建前と真顔の国、あまり表立っては取りざたされていない。
そこに持ってきて、いよいよ保守党党首選の投票(一般党員による郵便投票)が締め切られる(22日。結果発表は23日)というタイミングで行われた、21日の「日曜朝の政治家インタビュー番組」で、財務大臣本人がスタジオで、次のような発言をしたわけだ。
発言を文字にするとこうなる:
I’m sure I’m not going to be sacked because I’m going to resign before we get to that point. Assuming that Boris Johnson becomes the next prime minister, I understand that his conditions for serving in his government would include accepting a no-deal exit on 31 October and that’s not something that I could ever sign up to.
これが、各メディアでは、次のように、if節を使った表現にまとめられて伝えられた。下記は一例としてSky News.
ハモンド財務相の "Assuming that Boris Johnson becomes the next prime minister" という発言が、ここでは "if Boris Johnson wins the Conservative leadership race" とif節を使って言い換えられている。
if節と見ると「仮定法だな」と思ってしまうかもしれないが、これは直説法のif節、単なる《条件》を表すif節である。
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