Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

やや長い文, 同格, 分詞の後置修飾, 等位接続詞, 関係代名詞の非制限用法など(オーストラリアの森林火災と首相)【再掲】

このエントリは、2020年1月にアップしたものの再掲である。

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今回の実例も、前々回前回と同じ記事から。

オーストラリアの大陸全体に広がった今回の火災は、11月に始まり(起点を9月とする見方もある)、今もまだ燃えている。これまでに燃えた区域を立体的にマッピングしたものが(一部、誤って「NASAが撮影した写真」とキャプションをつけられて)Twitterなどネットで話題になり拡散している。

この火災により、大量の二酸化炭素などが出て、野生動物の棲息場所・食料となる緑が失われた。

野生動物の被害はものすごい規模になっていると考えられている。火傷を負ったコアラが通りすがりの女性に助けられ、動物病院に連れていかれ、「ルイス」と名前もつけてもらって可愛がられ、手当を受けていたが、回復する兆しがない*1ことから安楽死させられたことがニュースになったのは11月末、もう1か月以上も前のことだ。

www.news.com.au

野生動物だけでなく、人間も住処を追われ、絶対安全な場所といえば水辺だということで水辺に避難してきているような状態だが、この期に及んでまだオーストラリアの政治リーダーたちに危機感は薄いという。日本でもすさまじい規模の台風が相次いで首都圏を襲っても政治リーダーの危機感はとても薄くて、人々は怒り、また呆れていたが、オーストラリアも似たようなもの、というかもっとひどいようだ。

というわけで今回の実例は、 前々回前回と同じ記事から、その政治リーダーの危機感のなさを指摘した部分から。

*1:火傷は大変。京都でアニメーション制作会社に放火し、自身もひどい火傷を負った容疑者が話ができるようになるまでに何か月もかかっていたが、あのケースは容疑者の治療に当たった医師・看護師の尽力がすばらしかったのだと思う。

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性別を特定しない3人称単数代名詞としてのthey(新型コロナウイルス禍、1年前に政府内で何が起きていたか)

今回の実例は、日々のニュース報道ではなくあるひとつの大きな物事を振り返るような記事から。日本の報道機関で「特集」と位置付けられるような類の記事である。

この3月は、新型コロナウイルス禍によるロックダウン(外出禁止や店舗などの営業停止を含む、厳しい行動制限)という自由主義社会では考えられなかったような過激な策が、欧米各国でも取られるようになってからちょうど1年ということで、「あれから1年」という特集記事があちこちで出ている。もちろん、このパンデミックは、例えば地震などの災害やテロ攻撃のように「発生から1年」という明確な区切りの日があり、1年も経っていればある程度の距離を取って振り返ることができる、という性質ものではなく、現在もまだ進行中である。だから「あのときはこうだった」という内容の、日本語でいえば「風化させてはならない」系の過去形のトーンではなく、あくまでも現在進行形(というか、現在完了進行形)のトーンだ。

厳しい行動制限を導入した国のひとつである英国は、世界でも状況が最も悪い国のひとつである。お手軽で申し訳ないが、英語版ウィキペディアの「新型コロナウイルスのパンデミックにおける各国死亡率」の項に一覧表があるので、その表を "Deaths per 100,000 population" (人口10万人当たりの死亡件数)でソートして見ていただきたい。

en.wikipedia.org

現時点で一番上に来ているのはサンマリノだが、ここは人口がとても少ないので、死者数が77人でも、100万人当たりに換算すると227.91という数値になってしまう。他にもそのような、元々の人口が少ない国というのが欧州にはいくつかあるので、それらは目に映ってもスルーするようにして眺めていくとよいだろう。

そして、100万人当たりの死亡件数でソートしたときのこの表において、死者数が6桁に達している国々の中で、最も上に位置しているのが英国の189.61人である。単純に死者数だけなら米国の538,087人が最も多いのだが、米国は人口が多いから、100万人当たりだと164.47人となる。死者数の多さでは、米国の後にブラジル、メキシコ、インドと続き、英国は5番目で126,068人となっている。ちなみに日本は死者数は8,718人で、100万当たりだと6.89人となっている。(数値はいずれも2021年3月18日時点)

f:id:nofrills:20210319202602p:plain

https://en.wikipedia.org/wiki/COVID-19_pandemic_death_rates_by_country

(「英会話」なんかできなくったって別に構わないという人も、自力で読めない英文はとりあえずDeepL翻訳に投げればいいんで読めるようにする必要なんかないでしょと思ってる人も、ネットでの調べもので英語を使うことができれば、こういう情報に瞬時にアクセス可能だということを頭に置いておいてほしい。そこで差がついてしまうということも。)

英国は医療システムがよく整った国であり、科学の力も強い国である(「試験管ベビー」も「クローン羊」も英国の科学によるものだ)。それにもかかわらず、このウイルス禍では「世界最悪」と言える状況にある。

ウイルス禍が英国に及ぶ前に既に欧州大陸(特にイタリア)がひどいことになっていたわけで、それを注視し、先手先手で対策を立てていれば、こんなことにはならなかった、という批判がよくなされる。イタリアがひどいことになっていたころ、英国のボリス・ジョンソン首相は「ウイルス、恐れるに足らず」という態度で「私は誰とでもばんばん握手して回る」と豪語していたし、首相が「ものすごい数の死者が出る」と苦渋の表情を浮かべながらも英国政府は「(ワクチンなしでの)集団免疫 herd immunity」という戦略を取ろうとしていた(そして「集団免疫」論は、政府の記者会見で口に出されたとたんに、科学畑から異論反論が矢のように浴びせられて「疑似科学」と断罪され、政府は瞬く間に「そ、そんなの、基本方針だなんて、言ってませんよ?」と顔真っ赤にして反論しながら「集団免疫」論を奥に引っ込めたのだが)。3月中旬の上流階級の社交の場でもある競馬の「チェルトナム・フェスティヴァル」は、場内のあちこちに手指消毒ジェルを設置して普通に行われた(同じころに行われるアイルランドセント・パトリックス・デーのイベントは中止されていたが、ブリテンではまだそういう危機感みたいなのはなかった)。

そういったことを、1年が経過して、このウイルスで126,068人もの死者を出し、このウイルスとは関係のない原因で亡くなった場合も、ロックダウン(行動制限)のために普通に親戚一同や友人たちが集まって故人を埋葬もしくは火葬するという通常の葬儀を行うことができず、いくつもの企業が売り上げを失って苦境に陥り、中には事業を継続できない状態になった企業もあり……という中で、改めて振り返っているのが、BBC Newsの下記記事である。

ツイート主は記事を書いたBBC政治エディターのローラ・クエンスバーグ。以前も書いたと思うが、この人はTwitterがジャーナリスト必携のツールとなったころにいち早くTwitterを使って多くのフォローを集めていた記者で、Twitterがまだ定着しきっていなかった2011年にBBCからITVに移籍した際、Twitterアカウントをそのまま持って出ることについて「BBCの一員として集めたオーディエンスをそのまま引き連れてITVに移るのはいかがなものか」という論争を引き起こした。「Twitterのフォロワーは誰のものか」が真剣に議論されたのだ。隔世の感がある*1

閑話休題。このツイートの本文、 "ICYMI" はビジネスメールやショート・メッセージ、チャットなどでよく使われてきた略語で、"In case you missed it." のこと。「あなたが見逃した場合には」で、日本語の同等の言い方だと何だろう、「再送しておきますね」「改めてフィードします」くらいかな。

《in case S + V》は「SがVする場合には」が直訳だが、「万が一」くらいのニュアンスが入るので、日本語の「~する場合には」をいちいち "in case ~" を使って英訳すると違和感が出る、というのは、大学受験の和文英訳の定番ネタである。

*1:今では、ジャーナリストが完全に個人としてアカウントを持ち、所属機関が変わっても何も言わないのは当たり前だが、かつては「名前+所属機関」のアカウント名の人が多かったのでこういう議論がクエンスバーグ以外のケースでも見られた。BBCLauraがさくっとITVLauraになることは許容されるのか、という議論だ。

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私たちが英語でできるようにしておくべきことは「Noと言うこと」ではない。「Noというメッセージを的確に伝えること」である。

今回は少々変則的に。

ジョージア州アトランタで、3月17日、3軒のマッサージパーラーが次々と銃撃され、8人もの人々が尊い命を奪われた。殺された8人中6人がアジア系の女性だった。

www.msn.com

mainichi.jp

米国で「アジア系 Asian」と言えば、アジア全体を指すようで、私たちの思う「アジア」とあまりギャップはない。他方、英国でAsianと呼ばれるのはインド亜大陸の人々のことで(例えば、アカデミー賞主演男優賞ムスリムとして初めてノミネートされてニュースになっている俳優のリズ・アーメッドや、元One Directionのゼイン・マリク、ロンドン市長のサディク・カーン、内務大臣のプリティ・パテルはAsian Britishである)、中国や日本、ベトナムなどの東アジア人はEast AsianとかOriental, 少々雑で場合によっては侮蔑的な言い方ではChinese, 完全に侮蔑の意図ではChinkeeといった言葉で語られることが多いので、注意が必要である(最近、英国でも、Asianで東アジア人も含めているケースもあるようだが)。ChineseやChinamanは、中国人であるかどうかにかかわらず、東アジア人全般について、多くの場合侮蔑的に用いられる。これは、うちら日本人が欧州人のことを「青い目」呼ばわりするくらいに、適当な言語的現象・慣用である。

新型コロナウイルスパンデミックに伴い、このウイルスの感染症が最初に確認されたのが中国であることから、世界の各地でアジア(東アジア)差別・忌避が広まっているということが伝えられている。米国では前大統領のドナルド・トランプが、ここに改めて書くこともためらわれるような表現で新型コロナウイルスとその感染症のことを言い、絶対多数ではないにせよかなり多くの人々がそれに共鳴している。

日本にもなぜかそのアメリカでのアジア蔑視の言辞が入ってきているが、その界隈では、アジア全体が蔑視されている中で、「中国ではダメだが日本はスゴい」みたいに認識されているわけではない、という現実は無視されているようだ。日本人の側でのいわゆる「名誉白人」現象である。

名誉白人」というのは、かつての南アフリカの人種隔離(アパルトヘイト)政策について、白人側を支持した日本政府と日本人について言われ出したフレーズだったはずだが、その後その枠を超えて、白人全般になぜか親近感を覚え、有色人種全般になぜか嫌悪感を抱いている日本人について、揶揄の意味合いで用いられるようになった表現である。1980年代以前のレガシーだ。皮膚は黄色いのに中身は白いつもりでいるということから「バナナ」という揶揄も日本語圏でなされ、私が大学受験生だったころはそういうことのおかしさを指摘する論説文などを現国の問題集などでずいぶん読んだものだ(中には、「青い目」になりすました日本人が書いたエッセイのシリーズなどもある)。

ともあれその「(名誉白人たる)日本人」界隈では、「嫌われているのは日本ではないので、日本人であることを旭日旗等でアピールすれば差別されない」とかいう盛りに盛ったおとぎ話が出回っているようだ。笑いを取るため、つまり冗談で言ってるんだろうと思ってたら、どうやら本気っぽいのでビビってしまった。しかも白人国家の国旗をつけたTwitterアカウントで「多文化」云々を名乗っている人がそういうことを言っている。「名誉白人として受け入れてもらうこと」が「多文化」なのかもしれないが……。

人を「アジア人だから」といって差別するような人は、その人が中国人か日本人か韓国人かベトナム人インドネシア人かアフガニスタン人かなど気にしない。気にするはずがない。そういった人々は、「アジア人は "我々" とは違う」から差別するのである。

ともあれ、アトランタの銃撃事件では、ジョージア州の治安当局は容疑者(白人で男、21歳)の側に立っているようで、「容疑者はアジア人を殺しに行ったわけではない。容疑者はセックス依存で、性欲を刺激する性産業を攻撃したのだ」「その日はいろいろとうまく行かず、むしゃくしゃしていたのでやったみたいだ」みたいなことを、当局が記者会見で述べたとかいうことがニュースになってて、私が見ているTwitterの画面はみんながドン引きしている状態だった。

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セント・パトリックス・デーのオンライン・イベントに登録してみよう

今回は、変則的だけどいつもの時刻よりちょっと早めに出します。といっても思いついたのが遅かったので今から間に合うかどうか……。

今日3月17日はアイルランド守護聖人セント・パトリックの日で、アイルランドでは国民の祝祭の日となります。普段なら各都市・各街でパレードが行われたり、文化的なイベントが開催されたりして、春の訪れが感じられるようになったこの時期、人々は寒い冬から解放された楽しみを味わうのですが、今年は新型コロナウイルスパンデミックのため、アイルランド島でも、この日の大きなイベントが恒例行事となっている世界の各地でも、イベントはやるならオンライン化されています。

思えば昨年、欧州でこのウイルスの流行が深刻になることがはっきりしたときに最初に中止された世界的に有名な行事はイタリアのヴェネツィアカーニヴァル(謝肉祭)だったのですが、その次に中止になったのがアイルランドセント・パトリックス・デーでした。イングランドチェルトナム・フェスティヴァル(社交界の皆さまが集う競馬)は会場のあちこちに手指消毒ジェルを設置して強行され、のちに批判されましたが。

閑話休題

というわけで、今年のセント・パトリックス・デーはオンライン化。毎年、このアイルランドの祝日に最も近い週末に行われる原宿でのパレードも今年はなしで、アイルランド大使館がオンラインでイベントを主催します。その告知が下記。

登録は無料で、必要なのは姓名と有効なメールアドレスだけです。

さて、さっき今日の実例を探して画面を眺めていたのですが、これというものは何も見つからず、どうしようかな……と考えていたときに、そういえばセンター試験の後釜の共通テストでは事務的な文面を読める能力をはかるとかいうアカデミックな能力とは別の方向に針が降り切れてて、クソ面白くもないファンクラブの入会案内とかを読むことを強要されてるんだっけなと思いだしたので、この楽しいアイルランドのイベントの登録の画面を、そういう「実用英語」(笑)の一例といて見ておくといいんじゃないかと思いついたわけです。

登録のURLはこちら: 

https://www.eventbrite.ie/e/st-patricks-day-virtual-reception-registration-145418597941

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used to do ~, be goneなど(イラクのクルディスタンで進む樹木の違法伐採と環境破壊)

今回の実例は、Twitterから。

今日、3月16日は、イラン・イラク戦争中の1988年にイラクサダム・フセイン大統領が、自国内の自国民に対して化学兵器を使用し、何千という単位の自国民を殺傷した日である。この攻撃は、標的とされた場所の名前をとって「ハラブジャ(ハラブチャ)事件」と呼ばれるが、この非道な攻撃についてネット上の日本語圏で調べるのはかなり危うい感じもする。英語で調べるのがよいだろう*1

en.wikipedia.org

というわけで、33年前に毒ガス攻撃の対象とされたイラククルディスタンの人々の英語メディア、Rudaw EnglishのTwitterアカウントからは、現地での事件記念の式典の様子などがツイートされている。

だが、私にはそれらのツイートに「解説すべき英文法」を見つけることができない。というか最近、何を読んでも「解説すべき英文法」が見つからない。端的に「ネタ切れ」になっているのだと思う。一方で日本語圏Twitterで、ある英語由来の格言について説明するツイートで《句》のことを「条件節がある」と述べているものを見ると、うっかり「節ではなく句です」というクソリプを飛ばしそうになるので、英文法がすっかり抜けたわけではないのだが。

ともあれ、本題に入ると、そのRudaw Englishのアカウントでこんなツイートを見かけた。

 解説してくださいといわんばかりの英文である。

*1:と書くとまた「CNNを鵜呑みにするバカ」と絡んでこられるだろうが。

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時制の使い方, 疑問詞節, not only A but B, as well as ~, wrongという単語の意味, など(東日本大震災: wrongnessという感覚)

今回は、前回(3月11日付)の続き。背景説明などは前回のエントリを参照されたい。

実例として参照するのはこちら、日本外国特派員協会 (The Foreign Correspondents' Club of Japan: FCCJ) が毎月出している会報 "Number 1 Shimbun" の2021年3月号である: 

https://www.fccj.or.jp/sites/default/files/2021-03/03-March-2021-Number1Shimbun-final.pdf

この記事を書いたジョナサン・ワッツ記者(英ガーディアン、以下「ジョンさん」)は、東アジア特派員として、インドネシアスマトラ島沖地震による津波(2004年12月)や、四川大地震(2008年5月)で大きな被害が出た町に入り、取材を行っていたが、2011年3月に日本で起きた東日本大震災津波に襲われた東北地方の沿岸部の町に入ったときのことを、10年後の今、次のように回想している。

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英語での引用符の使い方, 長い文, 年齢の表し方, 【ボキャビル】limbo, 形容詞のturned(オーストラリアの森林火災で家から避難せざるを得ない人々)【再掲】

このエントリは、2020年1月にアップしたものの再掲である。

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今回の実例は、前回見たのと同じ記事から。

前回、というか昨日は、西洋の英語圏では実質年末年始の休みムード明けで*1アメリカのエンタメ業界ではゴールデン・グローブ賞の授賞式があったのだが、その場でオーストラリア出身のスターであるラッセル・クロウ(TVドラマの部門で主演男優賞を受賞している)が、今のオーストラリアの大火は地球規模の気候変動と密接に関連しているというスピーチを行ったとして、ガーディアンのニュースになっていた。

日本でも、6日の未明に超有名人がツイートしていたのが爆発的に話題になっていた。

 

オーストラリアは今の保守政権が人為的気候変動という事実を否定するスタンスに寄っていて、11月からずっと続いていて拡大するばかりの今回の火災について、「森林火災なら毎年起きている。気候変動との関連などない」という否認論を展開していたのだが、それを覆して気候変動と火災の関連を認める発言をスコット・モリソン首相が行ったのは、ようやくこの12月中旬のことだった。

www.news.com.au

グレタ・トゥーンベリさんがスピーチで "The problem now is that we need to wake up. It’s time to face the reality, the facts, the science." と述べて批判したのは、モリソン首相のように、人為的気候変動という事実・現実を認めようとしない政治的リーダーたちの態度だ。

 

さて、今回の記事は(前回と同じく)こちら: 

www.theguardian.com

*1:西洋では12月23日が「仕事納め」で、1月2日には普通にびしっと通常モードに戻るのがデフォだが、今年は2日が木曜、3日が金曜で、4日、5日が週末というカレンダーの都合上、いつもより長く「ゆるい」状態が続いていたため、6日にびしっと戻ってる感が高い。

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want ~ to do ..., いわゆる「Fワード」が新聞記事に出るとき(オーストラリアの原野・森林火災)【再掲】

このエントリは、2020年1月にアップしたものの再掲である。

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2020年になって最初の投稿*1は、オーストラリアですさまじい規模で広がり続けていて収束の気配すら見えてない様子の原野火災について、巻き込まれている人々(日本語ではおそらく「被災者」と呼ばれる人々)の様子を報告する特集記事から。

私はふだん、テレビを見ません。「テレビ」というメディアには関心を失ってしまっていて、うちにはTV受像機がなく、ワンセグ的なものがあったこともないので、テレビのニュースを見るという習慣はおろか、その環境すらありません(ネットでニュースクリップを見る程度のことはある)。だから、BBCやガーディアンなどを毎日ウェブで見ていて、国際的というか世界的に重大な出来事が報道されていても「これはどうせ日本ではろくに報道されてないんだろうな」と思うことはよくあります。

けれど、オーストラリアの原野・森林火災については、「ろくに報道されてない」ことはあっても「ほとんどor全然報道されてない」ということはないだろうと思ってたんですね。2019年秋にあれだけラグビーラグビーと騒いだ後だし、環太平洋でいろいろつながってるし、畜産・農産物輸入でのつながりも強いし、オーストラリアに留学している日本人も多いし、人の行き来もかなりある国です。

しかし実際には、大晦日から数日間、TVのある環境にいて、そしてその期間、ほぼずっとどこかでTVがついてて――とはいえドラマの一挙再放送とか駅伝とかサッカーとかにチャンネルが合ってることがほとんどだったし、イランのスレイマニ暗殺があったので、同じ部屋にいても私はずっとイヤフォンでBBC Newsを聞いてるみたいなことが多かったんだけど――、それでいて「オーストラリア」という単語をほぼ耳にしなかったのには、さすがに驚きました。ニュースは短いのを1日に1度くらいしか見てなかったとはいえ……。

一方で、オーストラリアが英語圏ということも影響しているに違いないのだけど、英語圏ではオーストラリアの未曽有の規模の火災は、この1か月ほど、連日トップニュースに入っているような大ニュースです。とはいえ「遠いどこかの国」の話でしかないという人も多いわけで、その規模の深刻さを示すために、いろいろな伝え方が工夫されてもいます。

ガーディアンがフィードしているこの画像では、ブリテン島とアイルランドに燃えている区域の面積を重ねて「ウェールズが丸ごと燃えてしまっている」といった情報を感覚的に伝えています。ここから私が日本に情報を引っ張ってくるとすれば、アイルランド島がだいたい北海道くらいの面積なので、北海道が半分以上燃えてしまっている、ということになります。欧州大陸ではさらに別の伝え方がされています(「ベルギーが全土焼失」のように)。

オーストラリアは人が住んでいない地域がものすごく広く、毎年この時期には原野・森林火災が発生しているというものの、今回がいつもと様子が異なるのは、人が住んでいる地域にまで火が広がっていること。今回みる記事は、そのような事情で家を追われた人に話を聞いて書かれた記事です。記事はこちら: 

www.theguardian.com

まず記事の見出しですが、「エデン (Eden)」という町に火が迫り、住民たちが脱出していることを伝えるために、「失われた楽園 (Paradise lost)」というキャッチフレーズをつけています。これは言うまでもなく、世界史の授業にも出てくるジョン・ミルトンの叙事詩、『失楽園 (Paradise Lost)』が物語っている旧約聖書の挿話を参照しているのですが、「エデン」という町での出来事を伝えるうえで、人々になじみ深い(人々が容易に連想できる)から使われているキャッチフレーズであって、宗教的な意味合いを持たせているわけではありません。

*1:1日から昨日までは過去記事の再掲でした。

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howの節, it is ~ to do ..., 分詞の後置修飾, 《同格》のof, 知らない単語があったときの文意の推測, やや長い文(英文読解), 過去完了など(この10年の科学を振り返る)【再掲】

このエントリは、2019年12月にアップしたものの再掲である。

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今回の実例は、年末になると各紙に出る「この1年を振り返る」系の記事から。

普段なら振り返るのは「この1年」なのだが、2019年は10年の区切りの最後の年でもあるので、「この10年を振り返る」という記事も多く出ている。今回見るのはそのような記事のひとつで、カテゴリーは「科学」。

記事はこちら: 

www.theguardian.com

まず見出しに、"have an axe to grind" という慣用句のバリエーション、"with an axe to grind" が入っている。have ~とwith ~は動詞と前置詞という大きな違いがあるが、どちらも《所有・所持》を表すことができるので、このような書き換えは日常の英語でよく見られる。

  Can you see the boy who has a large paper bag? 

  Can you see the boy with a large paper bag? 

  (大きな紙袋を持った男の子が見えますか)

"have an axe to grind" は直訳すれば「研ぐべき斧を持っている」だが、「思惑がある、下心がある」という意味の慣用表現として用いられる。さらにイギリス英語ではより狭く、「何かにかこつけて自分の言いたいことを言う、何かをダシにする」の意味で使われる。ちなみに語源(いわれ)は不詳だ。詳細は下記ページを参照。

www.phrases.org.uk

 

今回の記事は、Laura Spinneyさんというパリを拠点とするジャーナリストが書いたもので、この10年間における科学分野での顕著な発展や新発見などをたっぷり列挙したあとで、アンドルー(アンドリュー)・ウェイクフィールドに言及している。

ここ1~2年の間に、北米や西欧で、いったんはほぼなくなっていた麻疹(はしか)が再度大流行するようになってきていること、その背景にあるのが親が子供にワクチン接種を受けさせない「ワクチン拒否」であることは、日本でもそれなりに大きく伝えられている。ウェイクフィールドは1990年代終わりから2000年代にかけて、その「ワクチン拒否」を煽動/先導した人物である。彼は英国の医師だったが、1998年に権威ある医学誌に「新三種混合ワクチンにはこんなに恐ろしい副作用が!」という内容の研究論文(と称するもの)を発表した。「新三種混合ワクチン (MMR)」は麻疹・おたふく風邪・風疹を防ぐために生後9~15か月の子供に接種されるもので、ウェイクフィールドの論文(と称するもの)の要旨は、さまざまな経路を伝わって副作用を恐れる親たちの間に広まり、「MMR忌避・拒否」の波を引き起こしたわけだ。その後、2010年になってウェイクフィールドの論文(と称するもの)には重大な問題がある(元になったデータが虚偽だった)とされ、掲載誌が論文を撤回、つまり「あの論文に書かれていたことは、科学的に妥当なものではない」との見解を公に示しているのだが、一度ばら撒かれた虚偽情報が引き起こした不安は、時間が経過しても完全には消えない。この件については日本語でも記事が読めるので、どういうことか知りたいと思った方は、ぜひ下記の記事に目を通していただきたいと思う。

gendai.ismedia.jp

今回の記事の見出しにある "those with an axe to grind" は、このような、「ニセ科学」を撒き散らすことで利益を得ようとしている人々のことを言っている。

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複合関係副詞, 感覚動詞+O+動詞の原形, 強調構文(東日本大震災を取材した英国のジャーナリスト)

今回の実例は、10年前の今日のことを振り返るジャーナリストの文章から。

日本外国特派員協会 (The Foreign Correspondents' Club of Japan: FCCJ) は、日本で仕事をしている外国のジャーナリストの団体で、Number 1 Shimbunという会報を毎月、PDFで出している。現在、2016年以降の各号が誰でも無料で閲覧できるようになっている。

10年前の今日、2011年3月11日に東日本を揺らした大きな地震について「東日本大震災」という呼称が出るか出ないかのうちに、世界各国の大手メディアはスター記者を日本に派遣してきた。米CNNのアンダーソン・クーパーや、英Channel Fourのジョン・スノウといった人たちが、東京から、津波で甚大な被害を被った東北地方の町や避難所から、原発事故で立ち入り禁止となったエリアのすぐ近くから、次々と報道を行っていた。下記は3月14日のジョン・スノウの仙台からの報告(プレイヤーをエンベッドせず、URLだけ貼っておきます。あまり無防備な状態でうっかり見ないようにしてください)。

https://www.youtube.com/watch?v=CAOWDy-0H-E

FCCJに所属しているジャーナリストは、彼ら・彼女らのように大きな出来事があって初めて日本で取材するジャーナリストとは別で、普段から日本を拠点として仕事をしている人が多い。それらの人々も、派遣先(勤務地)が変われば日本を離れることになるのだが、今回、2021年3月のNumber 1 Shimbunでは、90年代から長く日本でジャーナリストとして仕事をし、その後中国に異動となり、東日本大震災のときは中国を拠点としていた英ガーディアンのジョナサン・ワッツ記者(現在は同紙の環境エディター)が、津波に襲われた石巻や大槌、気仙沼といった町を取材したときのことを回想して書いている。

今回の実例は、その一節から。

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付帯状況のwith, 分詞構文, as ~ as possible, prevent ~ from -ing, など(米CDC推奨、より密着度を高めるマスクのつけ方)

今回の実例は、Twitterから。

新型コロナウイルスのワクチン大量接種が早い国で進められつつあった一方で、クリスマスから新年の時期に、英国で最初に確認された新型コロナウイルスの変異株と、それとほぼ同時に確認された南アフリカの変異株とブラジルの変異株の感染力の強さが大きな懸念を引き起こし、これにより例えばドイツでは、ただの布マスクや不織布マスクより高品質なマスクの着用が義務付けられたりするようになった。米国ではCDC(感染症対策担当のお役所)が、マスクを二重にして着けること (double masking) を推奨するようにもなった。(ちなみに、日本で流行っているウレタンマスクは、どんなに密着していても、肝心の布がスカスカなので、のどが弱い人の乾燥対策にはなるし、お掃除のときにはホコリ除けとして役立つが、感染症対策にはならないから、CDCやWHOの指針では言及もされていない。)

そのCDCが今回、新たに、普通の不織布マスクなどを隙間なく着けるための簡単な方法を提案してSNSで広めている。二重マスクは、私もやってみたがさすがに息苦しく、歩いたり自転車に乗ったりするとめまいがして危険を感じることもあったが、今回提案されているこの方法だとその危険がなく、逆に鼻から口元にかけてのマスクの立体感が増して空間がしっかり確保されるので、普通に着けるよりもむしろ呼吸が楽で、同時にマスクと顔の隙間がなくなって密着度がアップしている。これはよいと思うので広まるといいなと思ってる。

今回の実例はその解説のスレッド(連続ツイート)より。

まずスレッド先頭の導入のツイート。前置きだから、これから何の話をしていくのかということだけがわかればよい(これを読んで内容がよくわからなくても気にしなくてよい)。ツイート先頭の糸巻きの絵文字は、"thread" (「糸」)の意味で、「これから連ツイを始めます」ということ。

 "3-ply mask" は一般的な3枚重ねの不織布のマスク(サージカルマスク)のこと。"Medium" は英語圏で広く使われているブログサービス*1であると同時に一種のウェブメディアで、このツイートをしている@elementalというアカウントは、Medium運営の公式ブログの一部である*2。ツイート文面は「CDCがマスク着用の際は密着度を高めることを推奨しています。一般的な不織布マスクの耳にかけるゴム紐を『結んで』(マスク本体を)『谷折りにする』わけです。Mediumのコロナウイルス・ブログを書いている@yeahyeahyasminさんが、手順を解説します」という内容(※ここに示したものは逐語訳ではない)。

続いて、具体的な手順の説明。折り紙ができる人には何も難しくないと思うので、ぜひ手元にマスクを1枚用意してやってみてほしい。

*1:Mediumはこの場合、「メディア」という一般名詞ではなく、「はてなブログ」「アメブロ」「note」などと同じような固有名詞である。

*2:米国のMediumは日本の「はてなブログ」「note」などよりずっとシリアスな取り組みをしているので、あまり「~のようなもの」という説明にとらわれないでいただいたほうがよいと思うが。

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強調のために副詞節が前に出たことによって起きる倒置(ローマ教皇のイラク訪問)

今回の実例は、Twitterから。

先週後半、3月5日から8日の日程でローマ・カトリック教会のフランシス(フランシスコ)教皇が、同教会の教皇としては初めて、文明の揺籃の地であるイラクメソポタミア)を訪問した。

www.vaticannews.va

「バビロン」とか「ウル」とか「ニネヴェ」とか、あるいは「チグリス川」「ユーフラテス川」でさえも――「イラク」や「バグダッド*1」のような、何もないときでもよくニュースに出てきた地名とは違う、現地の地名が、戦地として、あるいは米軍(を中心とする連合軍)の拠点として、または武装勢力の拠点や攻撃地点として、報道に出てくると、私の心はざわめいた。世界史の教科書そのものだ、と。旧約聖書の宗教に信仰のある人、宗教心のある人や宗教を研究している人なら「世界史の教科書」ではなく「聖書(旧約聖書)」と思ったことだろう。

そして、2003年初頭、当時、既に英語圏ギーク界隈を超えて広く使われつつあったウェブログというツールを英語で使っているイラク人たちが*2、自分たちの国のトップに座っている独裁者が原因で、自分たちの上に、自分たちの町に爆弾を投下しようとしているアメリカの人々に向かって、「ここには歴史がある」ということを声を限りに叫んでいたとき――今思えば、それは、既にイラクで「歴史」を「異教である」という理由で破壊していたイスイス団に破壊されそうになっていたパルミラについて、「それは歴史だ」と叫んでいた私を含む世界中の人々の叫びと重なる――、そのイラクの人々が意味していたのは古代メソポタミア文明であり、旧約聖書の世界であった。

イラクというとイスラム教国家というイメージが強いし、実際にイラクの人々の大半はイスラム教徒なのだが(シーア派スンニ派クルド人が3つの主要集団で、クルド人は宗教的にはスンニ派イスラム教徒である)、イスラム教が成立する前からそこには人々の暮らしがあったわけで、キリスト教を信じる人々のコミュニティは古くからイラクメソポタミア)にはあった。

……と、前置きを書くのに既にずいぶんな時間を割いてしまっているので、駆け足でいこう。

イラクキリスト教は「東方典礼カトリック教会」、つまり儀典は東方のもので、教義はカトリックという教会で、つながりとしてはカトリック系である。そのイラクキリスト教徒たちのもとを教皇が訪れるのは今回が初めてのことで、私はかつてネット上で知っていたイラクキリスト教徒のある人のことを思いながら、ネットでニュースを追っていた。イラク戦争前のイラクという国では、宗教は個人のもので、「あの人は〇〇教徒だからほにゃららだ」などという扱いを受けることはなかったという。それがイラク戦争で一変してしまったのだが。

教皇ご自身はイタリア語でお話しになるが、教皇のTwitterアカウントは英語だし、アルジャジーラ英語版や湾岸諸国の報道機関の英語版など、英語でニュースを追うことができれば、イタリア語も現地語(アラビア語)もできなくても、ある程度のことは追えた(もちろん、当事者が英語にして発信したいことを英語で拾うことができた、という程度で、深いことは英語だけでは無理だろうが)。ディアスポライラクキリスト教徒がジャーナリストとして英語で仕事をしていることも多い。今回、UAEの英語メディア、The NationalTwitter feedを何となくフォローしていた。このメディア、UAEについての報道はあまり真に受けるのはどうかというのがあるにせよ、Twitterの使い方は上手で、早くてわかりやすいなと思った。ほか、イラク国内のキリスト教コミュニティは北部に多いのだが、同じく北部にあり今回の旅程にも組み込まれていたイラクのクルディスタン(クルド自治州)のメディア、Rudawの英語版もよかった。

教皇は、5日にバグダード国際空港に到着して首相の出迎えを受けられ、その後市内に入って大統領宮殿での歓迎式を経て、the Cathedral of Our Lady of Salvationで各宗教宗派の指導者らとお会いになり、お話しをされた。ここは2010年10月にイスラム主義過激派(スンニ派の過激派、のちのイスイス団)に襲われ、58人もが殺された大聖堂で、そこに教皇がいらしたことは、イラクのクリスチャンの人々にとってとても大きな意味を持つと、当日流れてきたニュース系のツイートが述べていた。

ちなみに教皇は、新型コロナウイルスのワクチンの接種はとっくに済ませていて、多くの場面で、マスクなしで素顔をさらしておられた。

翌6日は教皇は南部の都市でシーア派の聖地であるナジャフに向かわれ(ここも2003年、ムクタダ・サドル支持のシーア派武装主義者と米軍をはじめとする連合軍の間で大変なことになった)、そこでイラクシーア派の最高権威であるアリー・アル=シスタニ師と対面された。どちらも高齢なお二人が、それぞれの聖なる色の装束(シーア派の黒、カトリックの白)で、真っ白な何もない壁を背にL字型のベンチの角の所に座っている写真は、重厚感というか密度がすごい写真だった。

前置きが長くなったが、今回の実例は、シスタニ師との対面を終えたころの教皇Twitterフィードから: 

*1:バグダード」という表記を個人的には使っているが。

*2:お若い方は知らないと思うが、当時はネットには「文字コード」という問題があり、1バイト文字(英語圏のアルファベット)と2バイト文字(中国語や日本語の文字も、アラビア語の文字も2バイト文字)の間には技術的な壁があって、英語圏のサービスを日本語圏やアラビア語圏で使う人は、英語を使う人に限られていた。

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butの作る論理構造, andによる接続 (国際女性デー)

今回の実例は、Twitterから。

今日3月8日は、国際女性デー (International Women's Day) である。日本語圏では「#国際女性デー」のハッシュタグTwitterで上位に来ているそうだが、Twitterを英語で使っている私の見ている画面内では、時差の関係から(英国・アイルランドが朝を迎えるのは日本がオフィスアワーを終えるころだし、米国の場合は時差が14時間から17時間もあるので、日付が決まっている記念日系のハッシュタグなどはだいたい1日遅れて盛り上がる)まだほとんど話題にもなっていない。

だが、この記念日の「中の人」的な存在である国連関連のアカウントは、前日から #InternationalWomensDay のハッシュタグでキャンペーン的なものを開始している。

 

と、本題に入る前に、毎年のことだが、「国際女性デー」と述べるだけで「女だけ特別扱いされていいですね」みたいな反応が出るのが楽しいインターネッツなのだが(日本語圏でも英語圏でもそこは同じである。ただ日本語圏のほうがもろもろ深刻かもしれないが)、「国際男性デー」というのもちゃんとあって、当ブログではそれについて既に書いてもいる。関心がある方はチェックされたい。

hoarding-examples.hatenablog.jp

昨年(2020年)の「国際女性デー」のエントリは下記: 

hoarding-examples.hatenablog.jp

というわけで本題。先日、毎日新聞で独占インタビューがおこなわれ、お人柄が伝わってくるような回答を示しておられたアントニオ・グテレス(グテーレス)国連事務総長のツイート: 

文法的に特に難しいところはない上に、意見をはっきり示すという点ではお手本になるような文面だから、このまま暗記して、基本文として自分の中にストックしておいてもよいだろう。

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【ボキャビル】festive, gesture, hirsute (クリスマスに、どう見ても〇〇〇な銀行強盗)【再掲】

このエントリは、2019年12月にアップしたものの再掲である。

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今回の実例は、クリスマス・シーズンの珍ニュースから。

クリスマスが商業イベントのひとつに過ぎないような扱いの日本では、12月24日のクリスマス・イヴがメインの日で、クリスマス・デーの25日まではスーパーマーケットなどで売られているような大量生産のお菓子やパンなどでも緑と赤のクリスマス仕様のパッケージのものが並べられているものの、26日になるとそういった商品は棚から姿を消し、店内のクリスマス・ツリーなどのデコレーションも撤去されて、日本のお正月のための商品や飾りつけ(門松や鏡餅や、羽子板と奴凧のガーランドなど)にとって代わられる。住宅街でも、26日以降もクリスマス・ツリーやサンタの人形が飾られていたら「だらしない」と陰口をたたかれるとか(知人談)。

一方、キリスト教西方教会東方教会ではまた微妙に違う)では、クリスマスの終わりは年をまたいで、宗教的には「公現祭」と呼ぶ日で、だいたい1月6日くらい(詳細はリンク先参照)。ツリーなどはそのころまで飾っておく。最近日本にも「アドベント・カレンダーというイベント」として入ってきたが、クリスマス・シーズンの始まり*1である「アドベント」が11月下旬から12月初旬なので、シーズンはおよそ1か月かそこら、続くことになる。

先日、ディケンズに関連する記事を取り上げたときも少し触れたと思うが、この間、特にクリスマス・デーが近づいた日々は「心を穏やかにし、他人に親切にする」ということが習慣づいており、チャリティの募金が大々的に行われ、英語圏の新聞や雑誌には「人生や家族をめぐるちょっといい話」の記事や随筆が掲載される。それらの記事や随筆は、ディケンズの『クリスマス・キャロル』で偏屈で自分のことしか考えていないスクルージを改心させた3人の幽霊のような役割を果たす(はずだ)。

だから今年も、トランプ弾劾(米)だとか、嘘に満ちたジョンソン政権(英)だとか、原野・森林の火災(豪)などいろいろあるけれども、そういったことを一瞬だけ忘れて、より人間らしいことを考える時間を読者に与える記事が、BBCなどにも出るだろうと思っていた。実際、出てるんだけどね。これ(北アイルランド紛争関連)とか、これ(ベツレヘムで羊を飼って暮らしているベドウィンの人々とクリスチャン)とか。

だが、それらの記事より、ある意味、目立っていた記事があった。この時期、この写真は、インパクトがあまりに強い。

www.bbc.com

この記事を読み終わったとき、私は「その名を用いることなく、いかにこの事件を描写できるかということに果敢に挑んだ秀作記事。最後の1文によってもたらされるカタルシスに読者は圧倒されるであろう」とツイートしたスマホの画面におさまってしまうくらいの短い記事なので、みなさん、どうか読んでいただきたい。

*1:宗教的に言えば、イエス・キリストの誕生を待ち(アドベント)、迎え(クリスマス)、広く知らしめる(公現祭)のがクリスマス・シーズンである。

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to不定詞の形容詞的用法, 言い換え, 言い足し, make + O + 動詞の原形(使役動詞), begin -ing, 挿入など(バンクシーが表現するキリスト降誕とイスラエルの違法な壁)【再掲】

このエントリは、2019年12月にアップしたものの再掲である。

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今回の実例は、正体を明かさず活動しているアーティストが、国際法に違反したコンクリート壁に分断されたキリスト生誕の町に捧げた作品についての記事から。

意外と知られていないかもしれないが、イエス・キリストが生まれたという町、ベツレヘムは、パレスチナにある。ヨルダン川西岸地区だ。そしてヨルダン川西岸地区は、ガザ地区のように完全に包囲・封鎖はされていないにせよ、イスラエルによって、かなりひどいとしか言いようのない形でいろんな方向で制限を受けている(などという表現では全然足りていないのだが)。パレスチナというとイスラム教というイメージがあるかもしれないが、それはイメージだけで、キリスト教徒のパレスチナ人も少なくない。日本のように宣教師がやってきて布教したのではない。元々、イエス・キリストはこの土地の人だったのだから。

ベツレヘムのクリスマス・イヴについては、数年前に現地報告を記録したページを作成した。

matome.naver.jp

 

イギリスのブリストル出身のアーティスト、Banksy(バンクシー)については、近年、東京など日本でもその「作品」をめぐる狂騒曲が繰り広げられ、メディアも大騒ぎするようになってきたので、説明は不要だろう。アーティストとしての芸名からおそらくBanksさんという名字ではないかと言われてはいるが*1、彼は顔も本名も生年月日も明かしていない。男性であることはわかっている。1990年代から都市の壁などにステンシルとスプレー缶で「作品」を描いてきたグラフィティ・アーティストだが、そのウィットに富んだ作品が町の風景の中で抜群の存在感を放ち、2000年を過ぎてどんどん注目されるようになって、ここ10年くらいは完全に「大物アーティスト」のようになって、作品はオークションハウスで取り扱われ、ものすごい額で落札されるなどしてはBBC Newsで報じられている。元々は街角の落書き小僧だったのに、今ではエスタブリッシュメントが「彼は経済的価値を持った存在だ」と認めている。

彼は一貫して「抵抗」、「異議申し立て」をベースにした作品を描き続けている。下記の作品集 "Wall and Piece" は比較的早い時期の作品の集大成と呼べるものだが(日本語版が出たのは遅かったが、原著は2007年)、この書籍タイトルは "Wall and Peace" のもじりである。 

Wall and Piece【日本語版】

Wall and Piece【日本語版】

 

この作品集が出されたころにwallとpeaceと言えば、即座に連想されたのが、イスラエルヨルダン川西岸地区パレスチナ自治区)内に食い込む形で無理やり建設した分離壁である。この「分離壁 separation wall」(国際司法裁判所の用語)は、英語圏のメディアの多くは「分離バリア separation barrier」と呼んでいるが、barrierも結局はwallと同じことだし、本稿での訳語は「分離壁」に統一する。ちなみに当事者のイスラエルはこれを「フェンス」と呼んでいる。そういったことは英語版ウィキペディアで確認できるので、各自ご参照いただきたい。これが「フェンス」と呼べるものかどうかは、どう見ても微妙なところだ。

イスラエルとしては、このwall/barrier/fenceは、「イスラエルの平和 (peace) を守るため」のものだが、その説明を額面通りに受け取ることはとても難しい。まともに地図を見ることができる人なら誰もが、「いや、その説明はおかしい」と言わざるを得ないような場所に作られているのだ。実際、国際司法裁判所は2004年にこの壁について「違法」と判断している(ただしこの判断は法的拘束力はないので、それから15年を経過した今も壁がそのままだ)。

この壁に、Banksyは絵を描いた。2005年、今から14年も前のことだ(→当時の拙ブログ記事)。

Près de Qalandia

 

パレスチナに対する彼の関心は一過性のものではない。2007年には、やはりベツレヘムに、現在でも観光資源となっている一群のミューラル(壁画)を描いていった。2015年2月には、イスラエルによる大規模な攻撃を受けたばかりでめちゃくちゃに破壊されていたガザ地区に入り、がれきと化してしまった家屋の壁にかわいい子猫の絵を描くなどした。「普段はパレスチナに無関心な世界の人々も、猫が描いてあれば見るんでしょ」という主旨でもあり、猫が好きなパレスチナの人々(特に子供たち)への贈り物でもあった。

そして2017年3月には、ベツレヘムの、分離壁からわずか数メートルのところにある建物を(ウォルドーフ・ホテルならぬ)「ウォールド・オフ・ホテル Walled Off Hotel」として改装・開業。このホテルには世界中からBanksy好きが訪れ、それによって壁に分断され経済的に発展する余地すらも奪われているベツレヘムの町に、キリスト教聖地巡礼とはまた違った層の観光客を呼び込み、同時にこの町のさらされている苦境を多くの人に知らしめている。

matome.naver.jp

そして2019年のクリスマス、Banksyはこの壁際のホテルに、新たな作品を設置した。今回は立体作品で、クリスマスの時期の伝統的なモチーフを扱っている。イエス・キリストの降誕(英語ではThe nativity of Jesus Christ)だ。

キリストの降誕の場面は、視覚芸術では、聖母マリアとその夫のヨゼフ、かいば桶に寝かされた幼子イエス、動物たち(ロバとウシ)によって描かれるというお約束がある。これに加えて、神の子の誕生を告げる星(「ベツレヘムの星」。この星に導かれて東方の三賢者がイエスの元にやってきた。クリスマス・ツリーのてっぺんに飾るのもこの星)と天使もよく描かれる。今回のBanksyの作品もこの伝統にのっとっている。ただし、マリアとヨゼフとイエスがいるのは小屋の中ではなくあの分離壁の前で、3人の上にあるのは輝く星ではなく、星のような形をした砲弾痕だ。壁には消えかかった文字で、「愛」「平和」という言葉が、英語とフランス語で書かれている。作品のタイトルは、The Star of Bethlehem(ベツレヘムの星)ならぬ、The Scar of Bethlehem(ベツレヘムの傷痕)。

 

この「新作」のことは、21日から22日に各メディアで一斉に記事になった。今回実例として見るのはガーディアンの記事。記事はこちら: 

www.theguardian.com

*1:英語圏では語尾に-yまたは-ieをつけて愛称化する習慣がある。Charles→Charlie, Steve→Stevie, Giggs→Giggsyなど。

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