Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

付帯状況のwith, 接続詞のas, など(イスラエル当局が、ラマダン中にアル・アクサ・モスクを急襲) #AlAqsaUnderAttack

今回の実例は報道記事から。

世界の目がウクライナに集まり、ウクライナから脱出した人々は、普通の国ではrefugeesとして、日本という奇妙に特殊な国では「難民」ではなく「避難民」として次々に受け入れられて「ほっこりするニュース」的に消費されてすらいる一方で、ロシアがウクライナを侵略する前から続いていた、よその土地での国家的な暴力は、相変わらず、というかウクライナ情勢の影となってしまってますます、見過ごされている。

そして今日2022年4月15日は、西洋のキリスト教圏ではキリストが受難した聖金曜日(グッドフライデー)で、ユダヤ教では過ぎ越しの祭り (Passover) なのだそうだが、イスラム教ではラマダンという神聖な月の、金曜日という礼拝の日である。

その日、パレスチナ、というかエルサレムからTwitterで伝えられてきたのは、アル・アクサ・モスクでイスラエル当局が非武装パレスチナ人たちに対して殴ったり叩いたりしている映像と、礼拝の場でガス弾やゴム弾が使われているという報告だった。

twitter.com

この日、東京の私は、毎月2回オンラインで開催されているジェイムズ・ジョイス『ユリシーズ』の読書会に参加していたが、その横で開いている画面には、エルサレムからの映像・写真による弾圧の報告が次々と流れてきていた。

今回の実例は、その弾圧を報じるアルジャジーラ英語版の記事から。記事はこちら: 

www.aljazeera.com

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手記を読む(ボリス・ジョンソンが首相官邸で違法にパーティーをしていたころ、英国の人々はどんな生活を強いられていたか)

今回の実例は、前回の続きで、さらにTwitterから。

前回述べたように、いわゆる「パーティーゲイト #Partygate」*1ボリス・ジョンソン首相とその妻キャリー・ジョンソン、財務大臣のリシ・スナクという政権トップとナンバー2がそろって罰金刑を食らった。

これは、ジョンソンが「憎めないキャラ」扱いされている日本ではきっと「ジョンソン、やっちまったな(笑)」程度、下手すると「罰金なんて、お茶目www」的に流されているのではないかと思うが、事態はとても深刻で、疑惑が発覚した当初「パーティーなんかやってません」と国会で述べていたジョンソンは、国会に対して嘘をついていたということだから、明文化されている閣僚の倫理的な規範に反しているため辞任すべきである、というレベルの事態である。つまり、自分が作った法律(新型コロナウイルス感染拡大抑止のための行動制限)に違反したうえで、それについて国会で嘘をついたという規範違反という、二重の違反だ。

実際、世論調査では6割超の人々が「ジョンソンは辞任すべき」と回答している。

また、弁護士で上院議員でもあるウォルフソン卿は、ジョンソンのこの違反行為に耐えられなくなって、司法省の要職(ミニスター職)を辞した。辞意を伝える書状がまた、すさまじい。

ジョンソン派というか、ジョンソンの腰ぎんちゃくみたいな保守党の政治家たちは、総出で、日本語でいうところの「エクストリーム擁護」をテレビなどで展開しているが、中には「首相官邸でのパーティーは仕事が終わったあとの軽い飲み会です。学校の先生だって、病院の医療従事者だって、みんな、仕事終わりには事務室で軽く飲むでしょ」みたいなことを言い出す者がいて、人々は余計に腹を立てている。ジョンソンがウェ~イしてたころ、学校は休校だったが「エッセンシャル・ワーカー」と位置付けられる人々の子供たちのためにやっていた学校がいくつかあって(そういう学校にケンブリッジ公夫妻がオンラインで「訪問」して子供たちとおしゃべりしたりもしていた)、そういう学校では教職員は子供の安全を最優先し、神経をすり減らしながら仕事をしていた。医療従事者に至っては、仕事をするための装備を身に着けるだけでも一苦労で、マスクをつけっぱなしで顔に青あざを作り、家族とも会えない状況で、身も心も粉々にしていたのだ。ましてや、ジョンソンは野放図な行動をして、案の定感染して、医療によって生命を救われた人物だ。下記はジョンソンの腰ぎんちゃくによるエクストリーム擁護に対する医療従事者の発言。「帰宅したら玄関で着替えて、シャワーを浴びるまでは子供をハグすることもしなかった。一日コロナ患者のICUで仕事を終えた後、職場でワインなんていう気分じゃなかったし、意味がわからないんだけど」

デイリー・メイルなどは「パーティーゲイトなんか些細なことです。ウクライナで戦争をやってるときに、そんなどうでもいいことで首相を交替させるんですか」みたいなことを言っているが、人々の反応は冷ややかだ(メイルのコメント欄がこんなに「保守党批判」で埋まることはまずない)。実際、英国では戦争中に首相が変わった例は結構あるわけで。

と、このように、人々の怒りは、ジョンソンのでたらめさに慣れてはいても「ついに堪忍袋の緒が切れた」ような状態だから、簡単にはおさまらないだろう。ジョンソンがこのまま首相の座に居座るとしても、ずっとこの冷たい目線にさらされることになる。

だってこれは、自分の生活から遠く離れた政治の中枢で起きたことではなく、自分ともかかわっているのだから――いったい、何人の人々が、COVIDでの行動制限のために大切な家族と会うこともできず、感染してしまった身内を孤独のうちに送ってきたことか。

今回は、そういう体験をした人の連ツイを読んでみよう。

*1:いうまでもなく、この「-ゲイト -gate」という接尾辞は米国のウォーターゲイト事件にちなむものである。

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イレギュラーな関係代名詞, 強調の助動詞, no ~ but ..., on -ing, など(ボリス・ジョンソンが国会で嘘をついていたことが事実として確定)

今回は、前回の続きの予定だったのだが、イスイス団の思想にかぶれたテロリストの話よりもより緊急性の高いことが起きたので、予定を変更する。ボリス・ジョンソンが国会で嘘をついていたことが事実として確定した。

英国の政治になど特に関心がなくて、何が重要なのかがイマイチわかっていない人は、このニュースを「罰金刑」のニュースと文字通りに解釈し、Yahoo! Japanなどではそのように書きたてられた見出しが並ぶことになるだろうし、日本ではおそらく「ドジっ子ボリスのほほえましいニュース」「愉快なキャラ」扱いもされるだろうが*1、そうではない。

このニュースの何がポイントなのかを、ジョンソンと意見を異にして2019年総選挙のときに保守党を追放された(ボリス・ジョンソンという政治家は、そういうことをやってきてるんですよ、日本では知られてないから「ゆるキャラ」扱いする人がいるんだけど)ローリー・スチュワート元議員が箇条書きでまとめている。ちなみにこの人はガチのインテリで、19世紀的な上流階級である。

特に口頭で、強調し、また噛んで含めるように言うときの文体なので、同じ語句の繰り返しが効果的に使われている。「重要なのは~ではありません。重要なのは…です」のスタイルだ。日本語ではこれは不自然に響き、どうしてもこの文体を使うなら第1文と第2文の間に「そうではなく」などつなぎになる言葉を入れるものだが、英語では必ずしもそうしない。

文意は、「重要なポイントは、ボリス・ジョンソンが罰金納付告知書を受け取ったということではありません。そうではなく、罰金が科されたことで、ジョンソンが何度も繰り返し、自身のコロナ禍での行動について、議会に対して嘘をついていたということが、事実として立証されたことです。民主主義においては、説明責任に票を投じるわけですから、真実を述べる者が指導者にならねばなりません。ジョンソンは首相職を去らねばなりません」

そう。「法律違反したんだから、首相とはいえ罰金くらい払わないとねー」で済む話ではないのである。嘘をついてはならない職についている者が嘘をついていたことが立証されたのだから、その職にとどまることはできない。

*1:英国でもそういうふうに解釈する一般庶民はいると思う。

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同じことを報じる2つの記事を、読み比べてみる。(英、デイヴィッド・エイメス議員殺害で被告が有罪との評決)

今回は、同じ事柄を扱う報道記事を読み比べてみよう。

今から半年ほど前の2021年10月15日、自身の選挙区で有権者と1対1で直接対話する「サージェリー」の仕事をしていたデイヴィッド・エイメス英下院議員が、その「有権者」に刺し殺されるという事件が起きた。英国での国会議員の殺害・暗殺は、現代では3人目である*1。当時のツイート(スレッド): 

当ブログでも、このとき、各議員たちが「テロには屈さない」として「私のサージェリーはこれまで通り」と告知しているという記事を扱っている。

hoarding-examples.hatenablog.jp

エイメス議員殺害事件では、殺害者が現場にそのまま留まっており、連絡を受けて現場に出向いた警察官にすぐに逮捕された。そして、勾留期限が切れる前に起訴されたのだが、非常にショッキングな事件であるにもかかわらず、事件や、逮捕された容疑者(起訴されたあとは「被告」)について詳しいことが報道されることもなかったので、日本では「あの事件、報道なくなっちゃってるけど、どうなってるの?」という違和感を覚えた人が多かったかもしれない。だが、これは英国では当然のことだ。

この事件に限らずどの事件でも、逮捕された容疑者(起訴された被告)の人物像を含め、日本では当たり前のようになされている事件報道というものは、英国では行われない。裁判が陪審制で、被告が有罪か無罪かを判断するのは(裁判官)ではなく陪審員であるため、その判断を左右してしまうような情報が法廷の外で与えられることは、「法廷侮辱罪」になりうるためである。「何という名前の人物がどこで逮捕され、警察の取り調べを受けている」とか「逮捕された人物が起訴された」といったことは記事になるが(それでも、逮捕の段階では名前は伏せられることも多い。エイメス議員殺害のように現場で逮捕されたときは名前も出るが)、そういった「いつどこで」的な明々白々たる事実関係を超える報道記事は、裁判が行われそうな事件についてはまず出ない*2

この点、ある逮捕事例に関連してのベン・メイブリーさんの下記の説明が簡明であるが、Twitterのような個人の発言の場でも公衆送信する限りは、「やばいことやっちゃったねえ」とか「対に怪しいと思ってた」みたいな個人の感想や世間話程度であっても、法廷侮辱罪に問われうる。そういう話がどうしてもしたければ、ネットに書き込むようなことはせず*3、個人的な知り合いの間だけで済ませたほうがよいだろう。

というわけで、英国では、裁判になった何かの事件について、またその事件の加害者(容疑者、被告)については、裁判中に法廷で語られたことは「法廷でこのようなことが主張された」といった形で記事になることもあるが、事件の背景などを含めた詳しい報道が出るのは、裁判が終わった後になる。

エイメス議員殺害事件についても、2022年4月11日に陪審団が「有罪」という結論を出すまでは、詳しい報道はほとんどなかった。容疑者逮捕時にどのような報道があったかは私のTwitterのスレッドに少し記録してあるが、それを超えるようなもの(例えば「事件とはまるで関係のない、容疑者/被告のかつての同級生の証言」など)は、普通の報道媒体には出てこなかった。事実として伝えられたのは、名前と年齢と、「ソマリ系の英国人 a Briton with Somali heritage」といったことくらい*4、犯行動機については「~と思われる」の文体でしか伝えられていなかった。

というわけで、長い前置きになったが、今回は被告について「有罪」という評決が出たあとの報道記事を2つ、読み比べてみよう。

*1:1979年3月に、保守党のエアリー・ニーヴ議員が爆殺された。北アイルランドの過激派組織INLAが国会議事堂の駐車場内に停められていた議員の車に爆弾を仕掛けるという、おまえらどんだけ過激なんだという手口で暗殺した(80年代から90年代の「北アイルランドもの」のサスペンス小説などで、「制御のきかない、途方もない過激派」としてINLAが参照されているのは、この事件による連想に訴えかけるためである)。また、2016年6月、英国のEUからの離脱(Brexit)を決定したレファレンダムの投票日直前に、労働党のジョー・コックス議員が、エイメス議員と同じく「サージェリー」をしているときに、他人に知られることなく、極右思想と、「左翼ガー」「マスゴミガー」系の陰謀論に心酔していた中年のナチス愛好家によって殺害された。コックス議員はEU残留を主張し、殺害者は離脱を強く支持していた。物的証拠より、極右/ホワイト・ナショナリズム信奉者と判断されるが、殺害者は法廷でほぼ無言のままであり、本人がそれを認めたわけではないようだ。きっと「私は普通に祖国を愛しているだけの普通の人間であり、過激派ではない」と思っていることだろう。

*2:一方で、主要容疑者が死亡しているなどして裁判にならなさそうな事件、例えば2017年5月のマンチェスター・アリーナ爆破事件のようなものは、事件直後から詳しい報道があることが多い。

*3:TwitterだってFacebookだって「ネットへの書き込み」である。

*4:heritageなので、「親が移民で、本人は英国で生まれた」ということを示している。これが「本人が外国生まれで幼いときに英国に来た移民」の場合はoriginになると思う。ただoriginが必ず「外国生まれ」を意味するわけではなく、「親が外国人」の意味の場合もあるので難しい。

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挿入, 等位接続詞による構造, 関係代名詞, など(案内文を読み、必要な情報を確認し、オンライン講演に申し込む)

今回の実例は、実用文書から。

といっても簡単な、ウェビナーの案内と登録である。

センター試験の後釜になった共通テストでも、このタイプの「実用文書」は出題されているが、あれは、「本物の実用文書」「生きた英語」と扱うのはかなり困難で、ああいう、試験のためだけに作られた文書を受験から放逐することがここ30年くらいの「改革」の目的のひとつだったはずなのに、何やってんの感がものすごく強いのだが、それはそれとして。

中東欧の歴史がご専門の米イエール大学ティモシー・スナイダー教授が、Twitterでオンライン・イベントの告知をしている。

マイアミ大学のメナード・ファミリー・センター・フォー・デモクラシーの主催だが、だれでも参加登録できるので、今回はこのイベントの参加手続きをしてみよう。

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【再掲】《形容詞A if 形容詞B》の構造, awkwardの語義(バラク・オバマの回想録と時事通信の誤訳)

このエントリは、2020年11月にアップしたものの再掲である。

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【後日追記】この件についてのエントリはカテゴリでまとめて一覧できるようにしてあります。【追記ここまで】

 

今回の実例は、予定を変更して、今日まさにTwitterで話題になっている件について。

米国のバラク・オバマ前大統領が回想録を出したとかで、今週は英語圏の各メディアでもロング・インタビューを出すなどしていた。BBCも(ドナルド・トランプがぎゃあぎゃあ言ってるのをよそに)オバマのインタビューをトップニュースにしていた。それがトップニュースになっているときのキャプチャは取っていないが、記事はこちら: 

www.bbc.com

回想録そのものについては、BBCに出てるのはこれだけかな: 

www.bbc.com

ほかの媒体のサイトを見るなどすれば、回想録についての記事はたっぷり出てくるだろう。今回の本題はそれではない。

この回想録について、日本語圏でも日本語で「報道」がなされている。そして、その日本語の質がひどいということで、特にオバマには関心がない*1私の視界にもそれについての発言がどんどん入ってきている。

「ひどい」と指摘されている(ツッコミが入っている)のがどういうものかというと: 

これは時事通信の記事をYahoo!ニュースのTwitterアカウントがフィードしたものであるが(したがって文責は時事通信にある)、結論からいえば、おそらく「厄介」なんてことはオバマは言っていない。「扱いづらい相手」「やりにくい相手」という意図はあったのかもしれないが(詳細後述)、それは「厄介」ではない。さらに言えば「同僚」もおかしい。

時事通信のサイトでの記事はこちら (archive): 

www.jiji.com

この記事には次のようにあるが、朱字で示すところが問題ありである。

オバマ米大統領は17日発売の回顧録で、2009年11月に鳩山由紀夫首相(当時)と初会談したことに関し、「感じは良いが厄介な同僚だった」と指摘した。その上で、「3年弱で4人目の首相であり、日本を苦しめてきた硬直化し、目標の定まらない政治の症状だ」と酷評した

https://www.jiji.com/jc/article?k=2020111700728&g=int

本稿、少し長くなるので目次をつけておく。

  • 準備: 原文の確認(Google Booksの利用)
    • このテクストの文脈
  • 本編: 問題の箇所の検討
    • 問題点1: 「~と指摘した」という日本語
    • 問題点2: "pleasant if awkward" を「感じは良いが厄介な」とするのは誤訳
      • 《形容詞A if 形容詞B》という表現(構文)
      • awkwardという語の意味
    • 問題点3: オバマ氏は鳩山氏を「酷評した」のか
  • 【追記】時事通信だけじゃなかった。NHK

 

準備: 原文の確認(Google Booksの利用)

まず、オバマ氏の回想録の原文を確認してみよう。Twitterでは何人かが電子書籍から当該箇所を引用しているが、自分でも直接参照できればそれにこしたことはない。買えばよいのだが、このためだけに1冊蔵書を増やせるほどの余裕は金銭的にもないし、いくら電子書籍があるとはいえこれ以上「積読」を増やすわけにもいかない――というときにまず見てみるのは、Amazon電子書籍のSearch Inside(なか見検索)だが、この本でKindleで読めるのは序文の前半だけで、Search Insideには対応していない。

そこで、次の手段としてGoogle Booksを見てみる。Google Booksについて説明している時間はないのでここでは説明は端折るが、英語で調べ物をする人には必須のサイトのひとつがGoogle Booksである。いわゆる「ウェブサイト」「ウェブページ」だけでできる調べ物など、全体の一部であり、最終的には本で調べなければならないことはとても多い。そのときにウェブ検索ではなくGoogle Booksを使うことで、ある程度のことができる場合が多い(ただし私が知っているのは英語圏に限った話)。というわけで: 

こうして出てくる検索結果は2件で、そのうちの1件は索引、もう1件が当該の記述である。

*1:米大統領選が終わって、私の関心はBrexitに向けられている。あと、やけになったトランプが軍事面で何をするかということ。

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【再掲】ある「主張」に対置すべきは「もう一方の主張」ではなく「事実」である。Comment is free, but facts are sacred.

このエントリは、2020年11月にアップしたものの再掲である。

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今回は、先週ずっと見てきた「フォー・シーズンズ(ホテルではない)」のインシデントに関する落穂拾い的なことを。英語表現としておもしろいものがあったのでそれを書いておきたいということがひとつ、そして "Facts are sacred" という前提について強調しておきたいということがひとつ。

どちらから行こうか、と考えたときに、当ブログは英語の実例を集めておくブログなのだから当然前者だろうと思いはするのだが、キーをたたく指が自然だと訴えるのは後者なので、そちらから行こう。

「公正・公平」という理念がある。これは「不偏不党」という四字熟語で言い換えられうるし、現に「公平中立」と言い換えられて流通しているが、理念というより「原則」と言ってよいかもしれない。実務において、それは多くの場合、複数ある説をすべて併記するという形で実現される。そして多くの場合、その「複数の説」は2つだ。これを「両論併記」と言う。この妙な四字熟語っぽいものが世間で四字熟語として認知されているかどうかは私はよく知らないが、四字熟語のもつ金科玉条性とでも言うべきものは持っているように感じられる。

それがまっとうに機能するのは、そこで併記される2つの(あるいはそれよりも多い)説がそれぞれまっとうな場合である。例えば「車の自動運転は人間の生活を向上させるので積極的に推進すべきである」と「制御不能な行動をとる人間を前に、車の自動運転には安全性という問題があるので、慎重になるべきである」といったもの。日本の大学受験生も、ディベート的な小論文課題としてこのパターンの両論併記に遭遇することが日常的にあると思う。

他方、そういった、いわば理性的な議論を超えたところに話を持って行った上で、形式的な「両論併記」を実現することが「公平・公正」だという誤誘導(ミスリード: mislead)の試みも広くみられる。特に「post-truthの時代」と位置付けられる2016年以降はこれが英語圏の一般的報道機関でも切実な問題となった*1

この場合に「両論併記」を行うのは、議論の上で対立する2つの勢力のうち、一方の勢力が理性的な議論を超えたところに話を持って行くことを正しいこと、許容されることと認めてしまうことを意味する。

ご飯を食べたばかりの猫が「ごはん食べてませんけど?」と主張し(ここで以前述べたような「主張」がカギとなる。主張だけならいくらでもできるのである)、飼い主が「食べたでしょう」と主張する場合(これも事実の裏付けがなければ単なる「主張」であるが)、事実として飼い主が空いたばかりの猫缶ときれいになめ取られたお皿を持っているときは、猫の「ごはん食べてませんけど?」という主張は「根拠がない (baseless, unfounded) 主張」である。これを日常語では「嘘 (lie)」と言うが、特に英語において「嘘」は非常に強い言葉なので*2、「嘘」という言葉の代わりに「根拠のない主張」など遠回しな表現が使われる。

飼い主が猫缶やお皿を持って「あなたはもうごはんは食べたでしょう」と言うのは、「主張」ではなく「事実の指摘」である。これが事実だ。

そこに猫が「まだ食べてませんけど?」と主張するのは自由だが、猫の言うことは事実ではない。

これが、英ガーディアン紙を立ち上げた19世紀のジャーナリスト、C. P. Scottの "Comment is free, but the facts are sacred" という言葉の意味するところである。「主張・論評 (comment) をするのは自由である。しかし、事実は神聖不可侵*3である」。

「事実は神聖不可侵である」。つまり、どのような主張がなされようとも、それが事実を揺るがすということは、端的に、ありえない。猫がどんなに「まだごはん食べてませんけど?」と言い張ったところで空っぽの猫缶ときれいになめ取られたお皿の示す事実は変わらない。そういう事実を示すことが「公正 (fair)」であり「公平 (unbiased)」である。

逆に言えばこの場合、猫の側に立って「でも猫はまだごはん食べてないと言ってるじゃないか」と言うのは、「公平ではない、偏っている (biased)」ことになる。事実を無視して猫に加担しているわけだ。猫かわいいもんね。そうなっちゃうのもわかるよ。でも猫の言っていることは事実ではない。

この状況に両論併記(「猫はごはんを食べていないと主張し、飼い主はもう食べたと主張している」とする記述)を持ち込むことは、事実を無視し、猫の側に立つ行為であり、「公平・公正」とは程遠い。

*1:日本の報道機関ではずっと以前からこの問題があったように思われる。現状、私に確たる根拠はないが、英語圏シンクタンクなどは日本のこのnormを大いに参考にしているのではないかと思うことがある。もちろんこれは私の「主張 opinion」であり、「事実 fact」ではない。

*2:拙著にも書いた。ロンドン本参照。

*3:"sacred" は日本語に直訳してもピンとこないが「絶対である」「動かせない」としてもよいだろう

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挿入, パンクチュエーション, 過去分詞単独での後置修飾, など(希望を持つということについて)

今回は、前回の続きで、キャシディ博士がブチャの殺戮を受けて投稿した2つ連続のツイートの2つ目。前置きなどはすべて省略して、いきなり本題に入ろう。

第1文、ハイフン(-)とスペースを使った《挿入》があるが、これはダッシュ(―)を使ってスペースなしでタイプしても同じである。流儀というか、表記基準(スタイル)による違いである。大まかには、ハイフンは英国式で、ダッシュは米国式という区分がある(キャシディ博士は英国のオクスフォード大学に所属している)。

この挿入句の解釈が、ここはかなり難しいかもしれない。"it will never happen" の "it" は、後続のthat節の内容だ。文意は、「ロシアはICC国際刑事裁判所)の加盟国ではない、と、多くの人は言うだろう――そんなことは決して起こらないと」ということになるのではないかと私は解釈している。

第2文 "Just like the US and UK." は、「文」と書きはしたが、SV構造のない句である。「米国と英国と同じように」。

そう、今、「戦争犯罪だ」「国際刑事裁判所で裁かれるべき」と大騒ぎしている米国はICCに加盟していない。自身の軍隊の構成員が戦争犯罪で裁かれるのを避けるためだと考えられている(というと、日本にいっぱいいる米軍支持者というかサポみたいな人たちに「そんなバカなことを米国のような大国がするはずがない。イデオロギー先行でデマを言うな」と怒鳴りこんでこられるだろうけど、イデオロギー云々の話ではない。英文法のブログでそこまで詳しくは扱わないけど)。

話がずれてしまった。

先に行こう。

【以下、書きかけ】

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完了分詞構文, 等位接続詞の作る構造, 仮定法過去完了, など(ウクライナ、ブチャの殺戮)

今回の実例は、Twitterから。

先の週末(4月2日から3日)、ウクライナから、ロシア軍が撤退して解放されたキーウ州の街の、あまりにひどい状況が伝えられた。『ペンギンの憂鬱』などで知られるウクライナの作家アンドレイ・クルコフは、惨状を記録した写真を2枚添えて、「ウクライナのスレブレニツァだ」とツイートしているが(ツイートを表示すると、きつい写真が表示されるので、あまりうっかりとは見ないようにしてください。こういう写真は、一生忘れられなくなるから、それを覚悟で)、その街、ブチャ (ブーチャ; Bucha) のことを、クルコフは「芸術家と知識人の街」と説明している。

私としては、またもや、これまで知らなかった地名を、悲惨な事態、それもとんでもなく悲惨で非道な事態によって知ってしまったわけで、できるなら「芸術家と知識人の街」として知りたかったと、ネイルをきれいに塗った手の写真を見ながら、痛切に思っている

この非道な出来事――「殺戮、虐殺 massacre」と呼ぶよりないが、おそらくはそれ以上のもの――を前に、世界は文字通り、打ち震えた。Twitterには基本的に声がないが、だれもが声を震わせていた。

その一人が、英オックスフォード大で講師を務めているジェニファー・キャシディ博士である。キャシディ博士はアイルランドの人で、以前ご自身がツイートしていらしたのだが、親族の中で大学に進んだのは彼女が初めてだったという。つまり、アイルランドの庶民の家の人だ。大学はダブリンのトリニティ・カレッジで、その後、オクスフォードで修士号と博士号を取得している(出典)。1987年生まれとまだ30代の若い人だが、アイルランドの外務省で仕事をした経歴を持ち、その前は国連や欧州連合EU)外交部で仕事をしていた。

そのEUの仕事をしているときに、カンボジアで、1970年代のクメール・ルージュによる虐殺を裁いた「カンボジア特別法廷」に関する仕事をしている。このクメール・ルージュによる虐殺は日本語で読める本などがいくつも出ているから、特に年齢が若い人で、今のウクライナで起きていることに衝撃を受けて何もできなくなっている人がいたら、慰めには全然ならないと思うが、ウクライナが初めてではないということを知るために、こういった本を手に取ってみてもいいかもしれない。もちろん、クルコフが引き合いに出しているスレブレニツァのジェノサイドを含む殺戮が相次いだボスニア内戦について調べてみてもよい。

前置きはここまで

4月3日、キャシディ博士は次のような連続ツイートを投稿した。

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【再掲】ツッコミどころ満載の記者会見をツッコミながら実況する記者, 「待望の~登場」の定型表現, 接触節, not ~ any ...での全否定(連載:「フォー・シーズンズ」事件、その5)

このエントリは、2020年11月にアップしたものの再掲である。

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今回も前回からの続き。今週はずっとこのトピックを扱ってきたが、今回で終わりにする。

英語圏で「現場」があることの多くについて、このような形での「現場の記者からの実況ツイート」がある。Twitterで誰にでも見られる形で提供されている情報である。しかもタイムスタンプまでついていて、リアルタイムである。そこでは、記者が伝えていることだけでなく、何も伝えていない時間帯があることも受け手にわかるようになっている。例えば、紙面の記事で「デモ隊の一部が暴徒化」と伝えられていることが、実際に現場ではどういうふうなのか(たとえ話でいうと、混雑した電車の車両の片隅での口論のような規模だったのか、車両全体が騒然とするような事態だったのか、といったこと)も、手に取るようにとまではいかずともある程度はわかる。何か異常な事態が起きたときに、それだけを切り出して伝えるのがメディアの仕事だ。火事が起きて報じられるという「異常な事態」の裏側には、火事が起きていないので報じられないという「平常」がある。

事故や突然の災害のように、偶然に記者がその場に居合わせて現場から実況ということもあるが、今回の「四季造園」の事案を含め、そもそもジャーナリストが何かの取材をするためにそこに行っているときは元から完全な「平常」ではないわけで、そういう、いわずもがなの大前提での部分で雑な混同をしたうえで語ることはもちろん避けるべきであるが、それでも、Twitterのような開かれた場での、新聞記者という「伝聞」のプロによる言葉と視覚情報での実況は、いわばパッケージ品として出来上がった新聞記事で読み取ることは難しいような「現場」ならではの情報をも伝えてくれる。別の言い方をすれば、そこには「現場の空気」がある。

私はTwitter英語圏のジャーナリストや報道機関のアカウント*1リストを作っている。お役立ていただければと思う。

twitter.com

 

さて、というわけでペンシルヴァニア州の開票結果が明らかになった日に、同州最大都市の高級ホテル「フォー・シーズンズ」ではなく、なぜか同市郊外部の工業地帯のど真ん中にある「フォー・シーズンズ・トータル・ランドスケーピング」という造園業者の敷地内、車庫のシャッターを背景として行われたドナルド・トランプ陣営の法律家たちによる記者会見の現場から実況ツイートしていた英インディペンデント紙のリチャード・ホール記者のツイート。前回は、AP通信の結果確定の速報から20分が経過してもまだ会見が始まらないので、取材に来た諸メディアの撤収が続いていることを伝えるツイートまで見たが、今回はその5分後に、ルディ・ジュリアーニその人が出てきたというツイートから。

 "~ is here" は直訳すれば「~がここにいる」だが、意味的には「待望の~が登場〔完成、実現〕」といったことを表す。先日当ブログで取り上げた核兵器禁止条約発効のニュースのときにICANのアカウントが掲示していた写真にも、この定型表現を使った "The Ban Is Here" というスローガンが書かれたプラカードがあった。そのくらいに、言いたいことがわかりやすく通じやすいフレーズである。

「待望の新作が完成」という日本語を英語にするときに、日本語のままで直訳すると、意味をとるのがめんどくさいほど回りくどい言い方になってしまう。定型表現を使うことで手短に、直接、必要な情報を伝えることができるのだから、そうすべきである。それはお見舞いやお悔やみのメッセージでも同じだ

ジュリアーニ弁護士の発言内容は、文法的に見どころはあるのだが(to不定詞、関係代名詞)、今回ここまでですでに1700字を超えているので解説は割愛する。

*1:英語圏の英語メディア、第一言語は英語ではないが第二言語として英語を使っているジャーナリストも含む。

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口語的な省略, 肯定文でのat all, 同格, 挿入, など(この50年、世界各地での虐殺現場を見てきたジャーナリストのことば)

今回の実例は、Twitterから。

ウクライナでとてもひどいことが行われている(「起きている」のではない。「行われている」のである)ことは大きく報道されている通りで、その悲惨と非道を伝えるニュースで世の中があふれかえっているときに、基本的に、大学受験生の役に立てたらいいなと思ってやっているこのブログまで、そのトピックに接する、というか接さずにはいられない場にはしたくないなというのが私の個人的な思いなのだが、かといってウクライナに関する記事はここでは扱わないとするのもおかしなことだから、「ここではウクライナの話を目にすることはありません」と確約することはできない。

ただ、ここは言語に関するブログだから、言語ではなく視覚情報でショックを与えてしまうようなツイートや記事は避けようと思っている。私自身、若いころはかなりの程度まで平気で*1、人間というものは基本的にそういう写真や映像は見ても平気なもので、見たくなければ単に目を閉じればいいのだと思っていたのだが、2001年9月11日の米国でのテロ攻撃の写真・ビデオ映像に、テレビを見たり新聞を見たり、書店で雑誌をチェックしたりという日常生活の中で何度も何度も繰り返しさらされること、特に予期していないときに不意打ちのようにしてさらされることが、無言のうちにもたらす効果について考えるようになってからは、そういう考え方をしなくなった。それ以上に決定的だったのは、2010年代半ばのイスイス団による「恐怖のばらまき」という視覚的テロリズムに直接的に接したことだが。

と、あまり前置きに時間をかけているとまた書き終わらないのでこのへんにしよう。要は、当ブログでは、ショッキングな視覚情報を含むツイートなどは使わないが、文字情報ではそうとは限らない、ということである。

それでも、私が「これを語学学習の素材、よい例文(サンプル)扱いするのはあんまりだな」と思ったら、たとえそれが英語教材作成畑では「見事なクジラ」と呼ばれるような見事な実例であったとしても、ここで使うことはしないと思うが。

それがhuman decencyというものだと思うので。

というところで、今回の実例。

BBCに、ジョン・シンプソンさんというベテランのジャーナリストがいる。2011年の「アラブの春」のときに熱心にネットでニュースを追っていた人の中には、リビアの反政権武装勢力に同行して最前線から映像レポートをしていた白髪頭のおじさんを覚えている人もいるだろう。「ちょっとちょっと、後ろで爆発起きてますけどー!!」と叫んでしまうような映像報告が日本語圏でも話題になっていた。下記のはその映像とは違うものだが、2011年のリビアからのもの。40秒のところから出てくる防弾チョッキの男性がシンプソン記者だ。(エンベッドしといて言うのも変かもしれないが、直接的な戦闘の映像ではないにせよ武装勢力の映像で、発砲シーンもあるので、あまりうっかり見ない方がいいかもしれない。)


www.youtube.com

そのシンプソンさんが、現在ウクライナで行われていることについて、次のようなツイートをしている。

*1:ただし意図的にショックを与えようとした作り物は嫌いで、血まみれの素プラッタ系ホラー映画など特に嫌いだった。「これは見ておかないと話にならない」という「名作枠」の作品は見たけど……。

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「これしかない」という意味の定冠詞のthe, 省略, 関係代名詞のthan, 動詞化したYouTubeなど(「北アイルランドといえばこの曲」というスレッド)

今回の実例は、Twitterから。

1969年8月15日から物語が始まる映画『ベルファスト』では、この町の出身でこの町のことを歌い、当時から活躍していたヴァン・モリソンの楽曲が全体を通じて印象的な使われ方をしていたが、北アイルランドは多くの音楽家を輩出してきた土地である。

だから、下記のように、「子供の学校行事で必要になったんですが、北アイルランドの音楽といえばこれ、っていうアイディア出しをお願いします」と北アイルランド出身の人がTwitter上の北アイルランドに要請すると、とてもたくさんの回答が寄せられることになる。

このスレッド、眺めているだけでも楽しいのだが、今回はこのスレッドの中からいくつか英語表現を拾ってみよう。

なお、ツイート冒頭の "Norn Iron" は、Northern Irelandが口頭で砕けた調子になるとこういう音になるよね、っていう現地の人たちの表記。ただし、この土地のことをNorthern Irelandと呼び、"the North" とか "six counties" と呼ばないのは、1998年の和平合意(ベルファスト合意、またはグッドフライデー合意)以後の世代でなければユニオニストの人たち(俗にいう「プロテスタント系住民」)だから、この要請でこの表現が使われている時点である程度の振りわけがなされている*1。スレ主さんは北アイルランド出身で、米ワシントンDC在住。

ちなみに、概況としては、The Undertonesの例のあれと、Stiff Little Fingersの例のあれが二強で、そこにSnow PatrolやAshがからみ、そのほか綺羅星のごとく多くの名前が挙がっている、という展開ですかね。


www.youtube.com


www.youtube.com


www.youtube.com


www.youtube.com

*1:それでも、おそらくスレ主さんを直接知っている人の「ネタ」だろうが、IRAの結束促進や戦意高揚に用いられたナショナリストのお歌も推薦されてて、ああ、北アイルランドってこうよね……感が高いスレッドである。

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【再掲】be about to do ~, some + 単数形, 《結果》を表すto不定詞, 直説法か仮定法かを根拠をもって判定する, など(連載:「フォー・シーズンズ」事件、その4)

【再掲】現在完了, 省略, メディアが「次期大統領」と書き始めるときの手続き, など(連載:「フォー・シーズンズ」事件、その3)

このエントリは、2020年11月にアップしたものの再掲である。

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今回もまた、前々回前回の続き。もう前置きは書かずにいきなり話を始める。

というわけで、あまりに考えられないようなことが目の前で、なおかつ地球の反対側で起きているので、私は目をぐるぐるさせながら画面を凝視していた。流れてくる珍妙な話――いくつもいくつも流れてくるのだが、そのどれもが同じことを言っていて、そして私はそれがあまりに珍妙なので、自分が英語を正確に読めている気がしなくなってきて、頭がやばいことになっていた(あまりに変な話にパニックになり、言語中枢がぁぁぁとなっていた)――を飲み込むことができそうでできずにいたときに見たのが下記だ。

 "instead of ~" や "end up" といった受験でもよく出る表現が入っているが、文意は「名門ホテルのフォー・シーズンズを押さえるはずが、町場の造園業者を押さえてしまったのか。タージ・マハルを予約したと言って、実はカレー屋でしたっていうような話か」(直訳ではない)。"The equivalent of ~" も頻出表現で「~と等しいもの」。

そしてジェイムズ・ベジックさんのこの投稿に対する英デイリー・ミラーのマイキー・スミス記者のリプライに、「誰がうまいこと言えと」とつぶやいてしまった。

「タージ・マハルを予約したはずが、アトランティック・シティのトランプ・タージマハルだった、というような事案かも」。

 アトランティック・シティのトランプ・タージマハルは、トランプが経営していたカジノで、1990年の開業の1年後には破産し、その後経営がトランプの手を離れていたが、最終的に2016年の大統領選挙の前に閉鎖された。

www.afpbb.com

これを見てようやく、完全に話が飲み込めて、安心することができた。東京でいえば、「おおくら」と言うから「ホテルオークラ」かと思ったら、近所の居酒屋の「大蔵」だった、みたいなことだろう。なぜそんなことが起きるのかは想像がつかないが(だから脳がバグる)、担当スタッフが電話番号を探したときに間違えたとかだろう。それにしたって、そもそも、造園業者 (landscaping company) が記者会見場の提供なんてするんだろうか。いや、食堂とか書店ならまだわかりますよ。でも造園業者? ……というわけで、たぶん単なる間違いなんだろうけれど(この「間違い」を描写するときには、mishapblunderfiascoという単語が使われている)この会社に何かがあるのかもしれないと、呼びつけられた記者たちが考えたのも当然である。

そしてGoogleマップを頼りに現場に急行した記者たちが見たものは……

前々回前回も見た英インディペンデントのリチャード・ホール記者の実況ツイート。《現在完了》のお手本のような文だ(《完了》の用法)。「フォー・シーズンズ・ランドスケーピングに到着しました(したところです)」という言葉に、敷地の外に集まっている人々の写真。そして、《next to ~》を使って、「それ(造園業者)は『ファンタジー・アイランド』というアダルト本のショップの並びにあります」。

ここで、それまで「何これ、信じがたいことが起きてるんだけど」というムードだった英語圏Twitterが、一気に爆笑に包まれた感じがある。

ちなみに、スミス記者の早い段階でのツイートにも書いてあるし、Google Mapsでも確認できるが、造園業者の向かいは火葬場だ(火葬場といっても日本のそれのように立派な建物の立派な施設があるわけではない)。並びの店は、ホール記者は「アダルト本の店」と看板通りのことを書いているが、Twitterでは多くの人がもっと直接的な商品の名称で語っていて、さすがにそれは転記するのがはばかられるから書かないけれど、要するに、人が人として生まれることが決定づけられることと、骸となって火葬されることとがつながってる場所の中に、トランプ陣営が(間違って)手配した記者会見場の「四季造園」があるということで、そりゃ笑うよね。

トランプ支持者は「リベラルがトランプ陣営をバカにして嘲笑している」と憤慨したかもしれないが、事実は、「嘲笑」とかそういうレベルの話ではない。あまりにおもしろいめぐり合わせに噴き出しているだけだ。それ以前に、あまりに変なことが起きているので笑わずにはいられないのだが。

いや、Boratというよりこれか:  

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【再掲】時制の一致, 近未来の予定を表す現在進行形, 前置詞+関係代名詞, 連鎖関係代名詞, など(連載:「フォー・シーズンズ」事件、その2)

このエントリは、2020年11月にアップしたものの再掲である。

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今回は、前回の続き。前置きを書いているとまた終わらなくなるのでサクサク行こう。

前回は、現地時間で7日(土)の朝、現職の大統領が「弁護士による記者会見を行う。フィラデルフィアフォー・シーズンズで11時」とツイートしたのをすぐに消して、「でっかい記者会見をどーんとやる。フィラデルフィアフォー・シーズンズ・トータル・ランドスケーピングで11時半」と投稿し、現地にいる記者たちが「フォー・シーズンズ・トータル・ランドスケーピングって何よ?」と次々にGoogle Mapsで調べだし、それが普通に記者会見をやるような場所ではなく、市郊外の工業地帯にある小さな造園業者だということがわかったというところまで書いた。どう見ても「フォー・シーズンズ」違いであるが、今にいたるも、トランプ陣営はこれが「間違い」だったとは言っていない。傍観者的には、「記者会見場の手配もまともにできないのか」と思うし、「会見場の手配もまともにできないたちが不正投票について法廷で追及するって息巻いたところで、無理があるのでは」としかも思えないのだが。

ともあれ、リアルタイムでこれを見ていた私が、目をぐるぐる回しながらなんとか記録したものによると、早くもこのタイミングで英タブロイド、デイリー・ミラー(米国でいうとニューヨーク・デイリー・ニュースに相当)のミッキー・スミス記者が手早く記事をまとめていた。下記記事である。

www.mirror.co.uk

この見出しを見たとき、私はまだ、爆笑しながらも「わけがわからないよ、どうしよう、英語が読めなくなっちゃったのかも」というモードだったのだが、"Confusion" と言い切ってくれているので「わけがわからなくっていいんだ」と大いに安心することができた。ミラーは英国のメディアなのでイギリス英語で "gardening" としてくれているのも安心感があってよい(米国からのツイートでは "landscaping" という用語で入ってきていて、それも私の中では不安を引き起こした……あまりなじみがない用語だから)。

この記事は次のように書きだされている。茶化しているような部分(これがあると英語学習者には単に読みにくくなるという部分)*1をグレーで示して転記すると: 

Donald Trump sparked confusion today as he announced a press conference by his legal team would take place outside a landscape gardening firm.

In a series of tweets, the President announced his team of lawyers, led by Borat 2 star and former New York Mayor Rudy Giuliani, would speak to the press outside the Four Seasons in Philadelphia.

He wrote: "Lawyers press conference at Four Seasons, Philadelphia. 11.00 A.M."

But eight minutes later, the original tweet was deleted.

The President, who is expected to lose the election at some point today, said: "Four Season's (sic) Landscaping!" - quote tweeting his original tweet, which had already been deleted.

Finally there was clarity.

Trump tweeted to clarify that the Four Seasons he meant was not the hotel in Philadelphia, but a landscaping business around 11 miles away, called Four Seasons Total Landscaping.

2か所ある "would" は、どちらも《時制の一致》による過去形で、可能性を表すのにつかう仮定法のwouldではない。「~する予定であると述べた」「~することになっていると告げた」みたいに訳出すればよい。

ほかは特に文法解説ができるところはないのだが(強いて探せば関係代名詞があるが飛ばす)、内容としては、トランプは最初の「フォー・シーズンズで」というツイートを投稿して8分後にそれを消していて、それを消す前にそのツイートを引用する形で「フォー・シーズンズ・ランドスケーピングで」と修正したツイートを投稿していたが、そのどちらも最終的には削除されている。つまり、いったんアップした情報を修正したり削除したりと混乱しているわけだ。

そして「ようやくはっきりしたことがわかった (Finally there was clarity)」のだが、トランプの言っていたのはホテルのフォー・シーズンズではなく、「都心部から11マイル(約18キロ)離れたフォー・シーズンズ・トータル・ランドスケーピングという造園業者」のことだった、と。

*1:英語の報道文はこういうふうにして情報を入れ込んでくる。これに慣れないと報道記事は小説などよりも読みづらいと感じると思う。

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