Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

【再掲】《have + O + 過去分詞》の構造を、書いてある通りに読む、ということについて。

このエントリは、2021年4月にアップしたものの再掲である。

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今回は、前回の続き。前回は前置詞のintoを勝手にtoに読み替えてしまい、原文にない情報を勝手に付け足してしまった(つまり、英語で書かれていることを書かれている通りに読めていない)誤訳を取り上げたが、今回はより「受験英語」寄りの、ど真ん中の文法項目である。

英語のいわゆる「5文型」のうち、第5文型、すなわち《SVOC》は、自分で英語ができると思い込んでいて翻訳なんかにも手を出してみちゃったりすると、実は全然わかっていない(読めていない)のでとんちんかんな訳文を作成してしまいがちな文型である。ごくごく初歩的な、"I call my cat Omochi." (「私は自分の猫をおもちと呼んでいます」)とか、"This song makes me happy." (「この歌は私をハッピーにする」=「この歌を聞くとハッピーな気分になる」)のようなものがこなせないということはさすがにないだろうが、まずはこの基本を再確認しておくことが必要である。《SVOC》の文型においては、「O=C」が成り立つ。ここで出した2つの文でいうと、"my cat" = "Omochi" であり、"me" = "happy"である。

さて、《have + O + 過去分詞》という構文がある。日本語にするときは、文脈によって、「Oを~させる」「Oを~してもらう」「Oを~される」と3通りの訳し方があるのだが、この構文を英語として英語で考えると「どう訳すか」は関係がなく、この構文でも「O=過去分詞」が成り立つということが重要だ。例えば、"He had his watch repaired." (「時計を修理してもらった」)では "his watch" = "repaired" である。

ここで気をつけねばならぬのが、"He had his watch repaired."  という文では、repairするのは(文の主語の)heではない、ということである。

さらに言えば、repairするのが誰であるかはこの文では度外視されている。この文のポイント(言いたいこと)は「時計がrepairされた」ということで、誰がrepairしたかはポイントではないのだ。

というわけで、ここで今回の実例。

Royal brides married at the Abbey now have their bouquets laid on the tomb the day after the wedding and all of the official wedding photographs have been taken.

The Unknown Warrior - Wikipedia

少し長めの文だが、"the day after" から後は《時》を表す副詞節だから、文の構造を確認する段階では外してしまっておいて構わない。 

朱字で示した部分は、過去分詞のmarriedによる《後置修飾》で、直前の "Royal brides" にかかっている。「(ウエストミンスター)アベイで結婚した王室の花嫁たち」の意味だ。

さて、下線部で示したところが、《have + O + 過去分詞》の構造になっていることは、見ただけでわかるだろう。というか、これが見ただけでわからないレベルならば、翻訳に手を出すには早すぎる。

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【再掲】"on her way into the abbey" を「アベイへ赴く途中の路上で」と解釈してしまう程度の英語力で、翻訳などしないでほしい。たとえウィキペディアであろうとも。

このエントリは、2021年4月にアップしたものの再掲である。

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今回は、少し変則的に、英語で書かれていることを書いてある通りに読み取ること、余計なものを付け足して解釈しないことについて。「たかが前置詞、されど前置詞」という話でもある。

前々回の当ブログ記事で、英国のエリザベス女王の配偶者(王配)であるエディンバラ公の死去について扱った際、エリザベス女王のお母さん(エリザベス王太后)について、日本語版のウィキペディアをリンクした。そのときに開いてあったタブを(ようやく)閉じようとしたときに、ついでに生没年など基本情報以外のところも読んでみるかと、ごはん食べながら読んでいたときに、とても奇妙な記述に気づいた。下記、ウィキペディア独特の脚注の数字の部分を除去して、私の見た版(その時点での最新版)から引用する。

アルバートとエリザベスは1923年4月26日にウェストミンスター寺院で結婚式を挙げた。ウェストミンスター寺院へ赴く途中でエリザベスは、第一次大戦で戦没した兄ファーガスを偲んで、路上にあった第一次世界大戦戦没者を悼む無名戦士の墓 (en:the Unknown Warrior) に、手に持っていたブーケを突然捧げた。これ以来、王族の結婚式では、結婚式後に花嫁がブーケを無名戦士の墓に捧げることが伝統となっている。

エリザベス・ボーズ=ライアン - Wikipedia

「ブーケを突然捧げた」という日本語が相当不自然だったりすることに意識が向いてしまうかもしれないが、ここで見るのはその点ではない。「ウェストミンスター寺院へ赴く途中で……路上にあった第一次世界大戦戦没者を悼む無名戦士の墓に」の部分である。

英国について少し詳しい方や、何となくであってもウエストミンスター修道院ウィキペディアでは「寺院」の表記を採用しているが、Abbeyなので文字通りには「修道院」である*1)についてご存じの方、また、前回ウエストミンスター修道院で行われた王族の結婚式(ウィリアム王子とケイトさん)をじっくり見ていた方ならお気づきかもしれないが、「第一次世界大戦戦没者を悼む無名戦士の墓」は「路上」になどない。

ウエストミンスター修道院の建物の中にある。

そんなことは、上に引用した日本語版ウィキペディアにご丁寧に記載されている "en:the Unknown Warrior", つまり「無名戦士の墓」についての英語版ウィキペディアの項を見れば、わかることである。

He was buried in Westminster Abbey, London on 11 November 1920

The Unknown Warrior - Wikipedia

太字で示した前置詞の "in" は「~の中に」だ。「1920年11月11日、彼(無名戦士)はウエストミンスター修道院中に埋葬された」のである。

*1:この表記論争は泥沼なのでうっかり踏み込まないほうがよい。ちなみにWestminster Abbeyはイングランド国教会の施設だが、同じ通りを少し西に行ったところにあるWestminster Cathedralはカトリック教会の施設で、これが日本語では「ウエストミンスター大聖堂」と呼ばれている。

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【再掲】仮定法過去完了 (ドイツ、極右テロ集団の裁判/欧州の諸言語について)

このエントリは、2021年4月にアップしたものの再掲である。

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今回の実例は、報道記事から。

ドイツで、極右テロ集団の裁判が始まったとBBC Newsが伝えている。2019年秋にテロ計画が発覚し、2020年2月に集団のメンバーが逮捕され、今回その裁判が開始された、という報道である。ドイツで起きていることを英語で伝える記述だが、そこに「もしもこの集団のテロ計画が実行されていたら」という《仮定法過去完了》のお手本のような一節がある。今回の実例はそれ。

記事はこちら: 

www.bbc.com

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本日休載

既に大きく報道されている通り、英国のエリザベス女王が亡くなって、私も「エリザベス2世」と表記を変えているのですが、ただいつものように画面を見ているだけで、とにかく、入ってくる情報量が多すぎる上に、それがコテコテのナショナリズムであり、また未整理の感情の垂れ流しだったり、時として誤認や誤解に基づいたどろどろした怨念のようなものだったりしていて(英国の立憲君主制の「君臨すれども統治せず」を、私だって額面通りに受け取ってはいないけど、でも完全にスルーすることはできないんだけど、どうもそこが……)、くたびれてしまいました。

本来は、今日はここでアイルランドからの言葉をいくつか読もうと思ってましたが、今日は無理。できれば明日アップするようにしたいですね。

あと、女王が亡くなったことは、ここ(英語ブログ)ではなく本家で書かなければならないとも思っているので……。

少しだけ。

エリザベス2世の死去を告げる言葉が、"The Queen is dead, long live the King" (直訳すれば「女王はみまかられた。国王の長寿を祈る」)で結ばれたことが注目されているが、これは女性であるエリザベス女王の後を受けることになっていたチャールズ皇太子が男性だからこういう変化が目に見える形になっているのであり、男の国王が亡くなり男の皇太子が即位する場合は "The King is dead, long live the King" となって、ぱっと見では何が何やらわからないかもしれない。ちなみにこれは、大昔にフランス語から入った表現だが(元は "Le roi est mort, vive le roi!" という)、そのフランスは革命で王政廃止・共和制となった。The monarch is dead, long live the republic! っていう感じか。

 

 

リズ・トラス政権の見かけ上の「多様性(ダイバーシティ)」と、「グローバル・ブリテン」について

今回は、パレスチナについて前々回および前回の続きを準備していたのだけど、英国の新内閣について言うまでもない当たり前のことをTwitterでちょろっと書いたら数千の単位でRetweet/Likeされるということになってしまったので、それについて少し詳しく扱っておこうと思う。よい機会だ。パレスチナについては明日。

リズ・トラス政権が発足し、「多様性」が注目されているようだ。だが私はその「多様性」は見かけだけだと見ている。ちなみに私は「政局」にはほぼ関心を向けずに、英国政治の細部を10年も20年もずっとウォッチしているオタクである。ただのオタクなので、権力者についてものを書き、その権力者に直接会ったといってきゃあきゃあ騒いだりしない立場にある。

順番に話をしていこう。英語を読むという技術的なことについても、いつも通り、ちょいちょい挟んでいく。いつもは当ブログは上限4000字を目安に書いているのだが、今回は無視する。

英国では、7月上旬に、当時のボリス・ジョンソン保守党党首(つまり英国首相)が辞意を表明した。数々の嘘に耐えかねた保守党員たちが、いつものように自己保身のために嘘をついたジョンソンに反旗を翻して次々と閣僚の座や党内の職を辞したことによって起きたことだった(たったひとつの嘘で、ではない。何百と重ねられてきた嘘の最後のひとつだった)。そして8月の夏休みシーズンを挟んで、後任の保守党党首を決める党内の選挙が行われ(この間、ジョンソンはずっと夏休みを満喫しっぱなしだった)、最終的な決選投票が今週月曜日に実施されて、リズ・トラス前外務大臣が新党首に選出された。それは選出当日に当ブログでも扱った通りである。

hoarding-examples.hatenablog.jp

英国は、日本と同様の*1議院内閣制をとる(このあたり、アメリカ人にはイマイチ話が通じないことが多い。政治学者でもひょっとして混乱してるのかなって思う人がいるくらいだ)。議会最大党(与党)の党首が、政府のトップ(内閣総理大臣; 首相)になる。首相は、日本でも儀礼的に天皇が任命するが、英国も国王(現在はエリザベス女王)が任命する。今回のように、議会の選挙をせず与党党首の交替という形で首相が代わるときは、簡単に説明すると、現職首相(今回の場合はジョンソン)が国王のもとを訪問して辞職を申し出、それを国王が承認し、続いて新首相(トラス)が同様に国王のもとを訪問して、そこで任命される、という形になる。デイヴィッド・キャメロンからテリーザ・メイになったときも、メイからジョンソンになったときも、そういうふうにして引き継がれていて、その様子はBBC Newsなどが中継していたので、YouTubeなどで映像を探せば出てくるだろう。

今回は、エリザベス女王が毎年夏の休暇を過ごしているスコットランドのバルモラル城にいるので(首相任命のためにロンドンに戻ってくることはしなかった)、ジョンソンとトラスがそれぞれバルモラル城を訪れて、この儀式的な手続きを行った。このとき、2人が別々にプライベート・ジェットを使って移動したので、「税金の使い道としてどうなのか」とか「環境負荷がこんなに高い」といった指摘が、パロディアカウントからも通信社からもなされている(が、新旧首相2人を一緒に飛行機に乗せるわけにもいかないだろう。リスクが高すぎる)。

(猫のラリーさんのツイートにある "used to travel" は見かけ上は《used to do ~》だが、実は《used something to do ~》のsomethingが関係代名詞になったうえに省略されている形で、「~するために…を使う」の意味なので、早合点しないように注意。この "to travel" は《to不定詞の副詞的用法》である)

というわけで、月曜日に党首選が行われ、火曜日に女王による任命の儀式が行われ、水曜日に組閣となった(歌いたくなった方、こちらでどうぞ)。

その結果、予想通りとはいえ、呆れるほどあからさまに極右リバタリアンで気候変動否定論に親和的で反EUで反左翼な顔ぶれが並んだ。個人的には北アイルランド大臣がERGでNIOトップもERGという人選狂気を感じるしかないのだが、そんなことを書いたって日本語圏ではほぼ通じないだろうから先に行こう。

*1:というか日本が真似したのだが。

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make + O  + 動詞の原形(使役動詞), 接続詞while, 同格の接続詞that, など(国際的圧力があって、ようやくのことでジャーナリスト殺害を認めたイスラエル)

今回の実例は、前回の続きで、この5月にパレスチナでジャーナリストを銃撃したことについて、イスラエルが自軍の責任を認め、その責任を「痛感」しているらしい(が、責任を取る気はない)というトピックから。文脈や背景などについては前回のエントリを参照。

イスラエルの中では非常に数少ない存在である、パレスチナ人の人権のために活動する人権団体B'Tselem(ベッツエレム、またはベツェレム)の連ツイ。前回は最初のツイートだけを見た: 

今回は、まずその続きのツイートを見よう。スレッドの2つ目: 

3つ目: 

まず、2つ目のツイートから。やや長い文だが、ツイート全体で1文になっている。大きな構造としては、《接続詞》のwhileの前に区切りがある。

Enormous public and international pressure was needed to make Israel spurt a faint confession that one of its soldiers had killed journalist Shireen Abu Akleh, / while at the same time shaking off any responsibility for her death. 

このwhileについては前回のエントリで、米NBCのアイマン・モハルディーン記者のツイートで用いられている例で扱ったので、今回はそこは省略する。

whileに先行する部分、つまりwhileの導く副詞節に対する主節の部分だが、これの主語と述語がどれだか、一読して把握できただろうか。

これは次のような構造になっている。

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英文を書くときの接続詞の使い方, コロンやセミコロンと接続詞(5月に射殺されたパレスチナ人ジャーナリストについて、イスラエルが「責任を痛感」しているようだ))

今回の実例は、Twitterから。

今年5月、パレスチナヨルダン川西岸地区で「PRESS」と大きく表示した防弾チョッキを着用して仕事をしていたTVジャーナリストが、イスラエル軍の兵士によって、防弾チョッキから出ている首から顔にかけての部分を撃たれて死亡する、というめちゃくちゃなことが起きた。

起きたことがあまりにひどすぎて、展開もいろいろありすぎて、書こうと思っていたことが全然書けていない状態ではあるが、当ブログの過去記事は以下: 

hoarding-examples.hatenablog.jp

hoarding-examples.hatenablog.jp

hoarding-examples.hatenablog.jp

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撃ち殺されたシリーン・アブ・アクレさんはパレスチナ人で、アルジャジーラアラビア語放送の記者としてパレスチナから伝える仕事を長くしてきた人で、アラブ全域で「誰もが知っているテレビのジャーナリスト」という存在だった。

その彼女を撃ち殺したことを、イスラエル軍は認めようとはせず、殺害直後などは逆に「パレスチナ人が撃ったんですよ」と人を馬鹿にするようなことを主張して各国のメディアに報じさせていたが(同じことを、ウクライナについてロシアがやったら、それらのメディアはそう報じていただろうか)、殺害から4か月もたってようやく、イスラエルは、ジャーナリスト殺害という立派な違法行為をはたらいたのは自分たちであるということを認めた。ただし「断定」の口調ではない。「その可能性は極めて高い」という口調である。「パレスチナのNGOがテロ組織のフロントである」とか、「ガザ地区の小学校の敷地内から攻撃が行われた(ので小学校を砲撃・爆撃した)」とかいったことを主張するときは「その可能性は極めて高い」などと言いもせず、証拠も示さずに断定するくせに、自分らのやったことについてはこれである。

日本語でいうと「責任を痛感している」ということだろう。安倍政権以降の日本語世界では「責任」は「痛感する」ものになっていて、「取る」ものではなくなっているとよく指摘されるが、それと同じようなことがイスラエルでも起きているのではないか。

ただ、イスラエルが殺害を認めたことは驚きだと言ってもよいかもしれない。今回「その可能性は極めて高い」などという口調ではあっても、殺害を認めた背景には、被害者が(殺害時は広くは知られていなかったかもしれないが)米国籍を持っていて(二重国籍)、事件は「米国外で米国人が殺された」という性質を帯びるものとなり、米国で人々の声が大きくなったことも作用しているであろう。それでもこの程度なのは、単に米国政府に事を荒立てる気がないということを示している。普通に真面目に「米国人殺害事件」として対処するならば、CIAのドローンを送り込んで「容疑者」を爆殺するのがデフォになっているような国だ、現在、特にオバマ政権以降の米国は。

シリーン・アブ・アクレさんがただのパレスチナ人だったら、イスラエルはいつまでものらりくらりと「肯定も否定もしない」という方針を貫いて、殺害の事実を絶対に認めようとしなかっただろう。

というわけで、今回の実例。イスラエルの発表を受けて、多くの人が言葉を発しているので、それを見ていこう。

まずはNBCのニュースキャスター、アイマン・モハルディーン。彼はパレスチナディアスポラで、NBCに移る前はアルジャジーラ・イングリッシュの記者だった。2011年のエジプトでの革命のときに、毎夜タハリール広場を見渡せる建物の上から実況解説をしていた彼の姿を覚えている人も多いだろう。

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記事見出しに含まれるto不定詞, either A or B (英国、ボリス・ジョンソン退任後の首相が決まる)

今回の実例は、報道記事の見出しから。

当ブログでも簡単に触れてはきたが、今から2か月前の7月上旬に、英国では財務大臣をはじめとする複数の閣僚や、その他政権の要職にある人々が50人あまりも、次々と辞任した。雪崩のような辞任を引き起こしたきっかけは、ボリス・ジョンソン首相が要職に登用していた……ええと、何て名前だっけ、もう忘れてしまったし、検索していると遅くなるから名前なしで進めるけど、保守党の議員についての嘘だった。この保守党議員は、会員制クラブという閉ざされた場で恥知らずにも痴漢行為を働いて被害者に精神的な傷を与えたのだが、議員にとってはそういう性的な接触は何でもないことだったらしく、ジョンソンはこの議員がそういう人物だと知っていて要職に就けたのではないかと追及されたときに「まさかあんな人物だとは知らなかった」と答えたのだがこれが真っ赤なウソだった。

ジョンソンの辞任を引き起こしたのはこのたった一つの嘘ではない。この嘘は、英語でいうthe last strawとして作用したかもしれないが、ジョンソンは口を開けば嘘しか出てこないというレベルの嘘つきであり、首相になってからも何度も何度も嘘を重ねてきた。それでも支持してきたのは、国民であるというより、保守党員たちである。

下記は「ジョンソンの嘘、精選50件」というデイリー・ミラーのまとめである。辞意表明の7月7日に出た記事だが、あまり見栄えのしない成績で大学を出たあとでありついた職場(名門の新聞、ザ・タイムズ)から、嘘を理由に放り出されたところから始まっている。

www.mirror.co.uk

ちなみに、嘘を理由にジョンソンを早々に見限ったタイムズの編集長は、つい先日亡くなった。

このペースで書いているとまたエントリを書き終わらないので先を急ごう。

こうして7月上旬に現職が辞意を表明し、その後任が、約2か月後の今日、決まったのである。2か月も時間がかかっていたのは、間に夏休み期間が入っていたことも大きいが、いくら「夏休み」とはいえ、首相がずっと官邸を留守にしているという異常な状態が英国では1か月続き(昨年、2021年はそうやって政治トップが夏休みを満喫している間に米国がアフガニスタンから全面撤退して、カブールの空港に国外脱出を求める人々が詰めかけ、現地の英国大使館のトップはヴィザ発給のために最後まで残っていたのだったが)、しかもその間、引っ越し業者の車が首相官邸前に来ていたというのだから、夏休みに出たっきりで首相官邸には戻らない(=仕事をしない)つもりだったと考えられている。

その間、英国では異常な高温や豪雨に渇水といっためちゃくちゃな気候災害が起き、ロシアによるウクライナ侵略とそれに対する制裁に端を発した急速なインフレと光熱費の急騰が人々の生活を直撃している。でも首相は夏休みを満喫していて、何もしない。

そういう「政府不在」の状態(「無政府」だから文字通り、アナーキー・イン・ザ・UK)が、これでようやく終わるというところまで来たが、まあいろいろと、あまり楽観できる状況ではない。私は英国にいる友人たちのことが本当に心配である。こっちもこっちなのだけども。

というわけで、議会制民主主義における手続き通り、首相はすなわち与党のトップで、首相は首相職を辞するだけでなく与党の党首も辞するのだから、後任は(本来は選挙をやり直して決めるべきなのだろうが慣例的に)与党で党首選挙を行って決めることになる。その党首選挙の最終的な結果が、今日、9月5日に出たのだ。

保守党の党首選には何人もが立候補していたが、最終的に決選投票に進んだのが、リズ・トラス外務大臣と、リシ・スナク前財務大臣(上述した「痴漢議員に関する嘘を発端とする大量辞任」のときに辞任した)の2人だった。保守党では、党首選の決選投票は国会議員だけでなく一般党員も投票するが、国会議員はスナク支持が多い一方で、一般党員は圧倒的にトラス支持と伝えられており、決選投票はこの2人と決まった瞬間にはもう、英国の報道には「トラスで決まり」というムードが漂っていた。

その後、2人の間での討論が行われるなどし、どちらも中身がぐだぐだじゃねぇかということで、私がフォローしているような英国の人々は怒るやら呆れかえるやら制度を変えねばならぬと力説するやら猫のラリーさんを首相にしろという運動に加わるやら。

ともあれ、そうして迎えた新党首決定の日、現地時間で12:30(日本時間で20:30)の結果告知を前に出ていた記事の見出しが、今回の実例である。記事はこちら(中身変わってたらアーカイヴで): 

www.bbc.com

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【再掲】名詞節のwhether節, 倒置 (エディンバラ公死去で追悼番組一色になったBBC)

このエントリは、2021年4月にアップしたものの再掲である。

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今回の実例は、報道記事から。

英国のエリザベス女王の夫であるエディンバラ公(フィリップ殿下)が亡くなったことが公表されてすぐの4月9日から10日にかけて*1、英国では物理的に「どこを見てもエディンバラ公」という状態になり、王室廃止論者までもが人が亡くなったことには追悼の意を表している中でも、さすがにうんざりという空気が私の見ている画面内には横溢していた。下記など、ディストピアものの映画から切り出したかのようである。

サッカーの国際試合の実況中継まで、途中で停止された。「見たい人はTVではなくWebで見てください」っていうふうになっていたそうだ。ただし女子サッカーだ。男子サッカーだったら、国王(女王)の配偶者の死去で、試合実況中継をやめるかどうか……。

前回、英王室で主要な一員が亡くなったのは、2002年。エリザベス女王のお母さんであるエリザベス王太后が101歳で亡くなったのだが、あの時はどうだったのだろうか。第二次大戦を国民と一緒に乗り越えた王妃(当時)として非常に親しまれていた方だったが(人間であり、しかもあのようなお立場の方だから暗い面もあったにせよ)、2002年と2021年とではメディア環境が違いすぎるので比較にもならないかもしれない。2002年は少なくとも、「見たくなければ見なければいい」ということは今より容易だったはずだ(見たいものが放映中止になっているという問題はあっただろうけれども)。インターネットはブロードバンドが導入されつつあったけれども、そんなに常時「つながって」なかったから。

今回、特に公共放送BBCのテレビが、複数あるチャンネルのすべてで通常番組を停止してエディンバラ公追悼番組を流し始めたことは、「怨嗟の声」と言ってもよいようなものを引き起こしていた。当然である。人々はBBCに高いライセンス・フィー(BBCの受信のために義務化されている費用。日本でいう「NHKの受信料」に相当するが、取り立てはより厳しい)を払っている。BBC Oneが追悼番組一色になるだけならだれもが納得するだろうが、BBC Two以下全チャンネルというのは明らかに過剰だ。しかもラジオまでというのだから徹底している。

日本では、うちらのようなある程度の年齢の人は、昭和天皇が亡くなったときのメディアの「自粛」騒ぎ(「自粛」の強要という文化は、新型コロナウイルス禍のずっと前から、この国の一部である)を思い出すだろうが*2、この「BBCエディンバラ公逝去の話しかやってない」という状態は、「どこの独裁国家だよ」「北朝鮮か」という反応を引き起こした。

BBCには当然苦情が殺到し、いろいろさばききれなくなったのか、「この件でご意見がおありの方はこちらのフォームにメールアドレスをお入れください。後ほどBBCの公式見解をお伝えします」というページが作られた(その後、このページは消えたようだが)。

今回の実例は、そのことを英国の外から伝える、フランスの通信社(使用言語は英語)AFPの記事から。記事はこちら。

 

*1:この日のログ: https://twilog.org/nofrills/date-210409/asc and https://twilog.org/nofrills/date-210410/asc 

*2:といっても私自身は当時あまりテレビを見ていなかったしラジオもあまり聞いていなかったので、具体的なことは体験していないせいかあまり記憶になくて、ただ、昭和天皇の体調が悪化していくなか、日々「下血」のことが「今日の株式市況」みたいな調子で伝えられ、井上陽水が車の窓から「お元気ですか」と言うだけの車のCMが「不謹慎」と叩かれて放送中止になったことだけ、やけに鮮明に覚えている。レンタルビデオ屋は混んでて、どれもこれもみな貸し出し中になってた。

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【再掲】one of the + 複数形, 最上級を用いた表現 (北アイルランドがひどいことになっている)

このエントリは、2021年4月にアップしたものの再掲である。

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今回の実例は、何にするか、今これを書き始めているときにはまだ見えていない。本エントリは、「たまたま文法事項が入っているのを見かけた記事を実例として取り上げる」のではなく、本来は本家ブログで書くべきところを、本家に合うトーンで仕上げようとするときっと書かずに終わってしまうから強引に「英語の実例」を素材として書くということを試みるものである。全体の設計図は頭の中にあり、どこに着地するかもだいたい描けているのだが、具体的に言葉にするのに時間がかかっている。何より、事態が進展中だから、書くよりも事態を追う方に意識が向いているのだ。ともあれ。

北アイルランドの事態が急速に悪化してきている。「思春期の若者たちのいつもの大暴れ」――recreational riot(ing)と呼ばれているようなもの――ならここまでエスカレートする前に誰か「影響力のある人物」(これは北アイルランド独特のユーフェミズムで、柔らかく言えば「地域社会の顔役」のことだが、それがどういう人物かは、武力紛争当事者たる武装組織を社会のファブリックの一部として織り込んでいる社会のことゆえ、だいたい察しがつくだろう*1)が、ニュース記事にならないようなところで「はい、もうそこまで」という指令みたいなのを出すのだが、今回はそういうこともなく、所謂「プロテスタント」と所謂「カトリック」の両サイドの若者たちが、直接ものを投げ合うところまでエスカレートした。

以下、「プロテスタント」「カトリック」「ロイヤリスト」「リパブリカン」「ユニオニスト」「ナショナリスト」などの用語については、下記をご参照いただきたい。

nofrills-nifaq.seesaa.net

nofrills-nifaq.seesaa.net

nofrills-nifaq.seesaa.net

nofrills-nifaq.seesaa.net

nofrills-nifaq.seesaa.net

北アイルランドでは、両派を分ける分断 (divide) のそれぞれの側で、若者たちが(多くの場合、「ディシデント dissidents」と位置付けられる大人たちの庇護のもとで)暴れることはよくあるが(だから、 "loyalist riot" 「ロイヤリストの暴動」、 "republican riot" 「リパブリカンの暴動」という言い方は、現地報道でもよく出てくる)、両コミュニティの境界線を越えて暴動が連鎖することは、ここ数年――というかBrexitの投票の前年から――はなかったはずだし、ましてや両コミュニティが境界線を挟んで直接にらみ合い、ものを投げ合うということなどなかった。事態がそこまでエスカレートしたのは、ひとえに、リーダーシップがないからだ。

今回、Twitterハッシュタグ#NorthernIrelandRiots (= Northern Ireland Riots) というのが出てきているのを見て、私は「なんというブリテン*2目線」と目を白黒させてしまったのだが、事態が激化してブリテンの政治家たちも懸念の表明などを行うようになると、ニュースが北アイルランドだけにとどまらなくなり、そういったニュースでは「北アイルランドのどこで暴動が起きているのか」よりも「北アイルランドで暴動が起きていること」をメインとして伝えるから、このようなナラティヴの表層雪崩的な横滑りみたいなのはどうしても発生する。個人的には、もう何年も前から使っている北アイルランドのジャーナリストや報道機関のアカウントのリストで情勢を追っている。

*1:これがアジアでのことならば、あれらの人々は必ずwarlordと呼ばれていたはずである。

*2:ブリテン」は北アイルランドでは「メインランド」とも呼ばれる。正確に言えば北アイルランドユニオニスト側、つまりデフォルトの側では。ナショナリストの側ではこれを「イングランド」と呼ぶこともあり、実際にスコットランドウェールズを除外してイングランドのことを言っていることもあるのだが、ブリテンの側が今はそんなふうにかっきりきれいに分かれていないので、非常にややこしい。

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「文頭のAnd, But, So」は「ご法度」ではない: その実例を、学術論文、論説文や小説の文、ノンフィクションなどからいくつか。

今回は、前回のエントリの最後に少し書いたことの補足として実例をいくつか挙げる。

何の話かというと、「アカデミックな英語の文書では『and/but/soを文頭に置くのはご法度』っていう暗黙のルールがある」という俗説・誤情報・都市伝説の話である。

少しまじめに勉強すれば、and, but, soで書き始められている英語の文にはしょっちゅう遭遇するので、「そういう場合もあるのだろう」というようにゆるく認識できるはずだが、実際にはそこまで量的に英語に接する人はごくごく少数でしかなく、したがって、この俗説が困るのは、「and/but/soを文頭に置くのは常にご法度」という誤った知識として世間に広く定着してしまっている点だ。実際、「butは幼稚だから、howeverを使おう」ということが、日本語で「『でも』は話し言葉なので、小論文を書くときには『しかし』を使おう」というのと同じように信じられて実践されている場面もある。結果、howeverを使うと不自然になるような場面でもがんがんhoweverを使い、そして変だということに気づきもせず、変だと指摘しても何が変なのかわからない、ということが生じている。

いや、まて、元の文は英文一般ではなく「アカデミックな文書」に限定されているではないか、という反論もあるだろう。では問いたい。「アカデミックな文書」とは何か。学術論文か。企業の研究所が出す報告書の類か。学者が書いた一般向け書籍か。

ネットが使える今、学術論文は誰でもある程度探せるだろう。Google Scholarを使うといい。Google検索では、語頭の大文字と小文字を区別した検索ができないのだが、とにかく検索窓に単語を打ち込んで目視してみるだけでも、これらの接続詞で書き始められている文は見つかるはずだ。例えば下記のように。

https://scholar.google.jp/scholar?hl=ja&as_sdt=0%2C5&q=%22But%22+&btnG=

というわけで、以下ではネットではなかなか探せそうにない*1ものを少し挙げておく。必ずしも「アカデミック」ではないが(フィクションを含む)、口語的なくだけた文ではなく、小学生の作文のようなものでもない。

また、最後に参考として、国連の報告書(これも「アカデミックな」文に入れてもらえるだろうか)で接続詞がどのように用いられているかも見ておこう。というかたまたま、本稿を準備しているときに、新疆に関する報告書が出たので、それを接続詞という観点から見ておいてもいいかなと思ったのだが。(この報告書、内容はもちろん超重要ですが、それだけでなく形式としても)

*1:andとAndを分けて検索することは、現在のネット検索ではほぼ不可能であるがゆえ、著作権切れの古典的文章のようなものでも検索できない。

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【再掲】前置詞+関係代名詞, 分詞構文か、分詞の後置修飾か (スエズ運河、あのショベルカーで土砂の除去作業をした1人の運転手)

このエントリは、2021年4月にアップしたものの再掲である。

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今回の実例は、報道記事から。いやあ、あの作業を最初ずっと1人でやっていたとは、この報道を見るまで、知らなかった。というか、複数台の作業車があるのが、たまたま写真では1台しか写っていないのだと思っていた……。

というわけでいきなり本題。「あの作業って、どの作業ですか」と思われただろうが、写真を見ていただくのが一番早い。これですよ、これ。

スエズ運河を再び通れるようにするために貢献したショベルカーの運転手にインタビューしました」というこの記事のフィードは、The Nationalという英語メディアのフィードである。

The Nationalという媒体は世界でいくつかあるのだが、そのひとつがUAE(アラブ首長国連邦)の英語メディアで、本拠はアブダビにあり、中の人たちは英国や米国の大手メディアで仕事をしてきたジャーナリストたちが多い。編集長はミナ・アル=オライビさんという女性のジャーナリストで、イラク系英国人である*1

Twitter cardの部分に示されているように、あのショベルカーを運転していたのはAbdallah Abdelgawadさん(「アブダラー・アブデルガワド」さんとお読みするのだと思う)。彼はスエズ運河の保守管理をする会社で契約社員(あるいは日雇いの作業員かもしれない)として働いていて、月収は3000エジプト・ポンド、米ドルに換算して190ドルだそうだが、日本円に換算すると21,000円くらいだ。エジプトの水準でも決して高給取りというわけではないだろう。コンテナ船エヴァー・ギヴン号が座礁した日の朝、彼がいつものように出勤すると、「船が座礁しちゃったから今日は現場には入れない」と言われて、いったんは会社の寮に戻ったのだそうだ。その後、彼個人に電話があって、他の部分の作業と並行して、船首の周囲の土砂をショベルカーで除去する作業をやるように依頼されたのだという。たぶん、ショベルカー運転の技術が高い人なのだろう。

で、そういう場合、作業チームを作って複数でローテーションを組むものだと思うが、当初なんとその仕事を割り振られたのは彼一人*2。その後、アブデルガワドさんはごく短い睡眠時間しかとらずに、あの巨大な船がいつグラっと傾いたりしてつぶされてもおかしくないという過酷な環境の中で、あの大変な作業を乗り切った。

記事はとても読みやすく、英語も難しくないので、ぜひ全文を読んでいただきたいと思う。TV番組になりそうな話だ。

*1:イラクサダム・フセイン政権時代に国外に亡命した人々の子供で、亡命先で教育を受けて大人になった人々には、ジャーナリストや学者になっている人がけっこういるが、アル=オライビさんもその世代の方ではないかと思う。

*2:というか現場はその日その日を契約して仕事を請け負っている労働者ばかりで、もはや「作業チーム」など組める体制ではないのかもしれない。エジプトだって日本やそのほかの国と同じように、現場が「ギグ・エコノミー」化しているのかもしれない。

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英語の文章の構造: Butによる対比, トピック文とサポート文(最後のソ連指導者、ミハイル・ゴルバチョフ死去)

今回の実例は、報道記事から。

日本のメディアでも、今日、大きく報じられた通り、かつて存在した超大国ソ連ソヴィエト連邦)の最後のトップを務めた歴史の当事者が亡くなった。

説明のための前置きは不要だろう。記事はこちら: 

www.bbc.com

もはや日本語圏では、この人の肩書が「書記長」であったことも、説明しないと通じなくなっているかもしれない。ソ連が消えたのは30年以上前のことだ。私にとっては、大学までに頑張って学んだ国際秩序についての基礎的な知識が、大学を出ることには完全に役立たずになっているというわりと切実な経験なのだが(それは、実際には同世代の人たち全員に共通しているはずだ。日本では「バブル世代」と一口に片付けられるうちら世代は、「冷戦の終わりの世代」でもある)、「ペレストロイカ」や「グラスノスチ」といった舌を噛みそうなカタカナ語を流行語として覚えたりしただけの人もいるかもしれない。そういうふうに、最近はやりの言い方で言うと「濃淡」は人によりけりいろいろだったが、それでもミハイル・ゴルバチョフの名前を知らない人はほとんどいなかっただろうし、顔と名前が一致しないという人もほとんどいなかっただろう。「ゴルビー」という、いかにも英語圏っぽい愛称(「ボブ」が「ボビー」になるような)も、ここ日本語圏で、かなり広く浸透していた。

実際、「冷戦」があんなにあっさりと終わるとは、まったく思っていなかった。米ソ両首脳が紙に署名して終わるなんて。その上、ソ連が消えてしまうなんて、何が起きているのか理解が追い付かないレベルの出来事だった。でも、冷戦末期、まだまだがっちがちの「ソ連」だったころのアエロフロートにも乗り、「新生ロシア」になったあとのアエロフロートにも乗って(ロンドン行きで一番安い航空会社がアエロフロートだった)、「ソ連/ロシアの飛行機で、アメリカのデルモンテの製品が提供される」という形で変化に接した私は、冷戦の終結がもたらす未来は、明るいものだと思っていた。その次の瞬間にユーゴスラヴィアがひどいことになるのだが。

というところで実例: 

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付帯状況のwith, 文法的にイレギュラーなケース(次期首相と目されるリズ・トラスの「能力」)

今回は、小ネタ。受験にはまったく役に立たない事例を取り上げるので、そのつもりで読んでいただきたい。

8月最後の週末も過ぎ、英国はそろそろ夏休みムードも終わりつつある。夏休みに入る前に辞意を表明し、夏休み期間になったらそっこうで海外へとヴァカンスに出かけたボリス・ジョンソン首相は、帰ってきたと思ったらまたすぐにヴァカンスに行ってダウニング・ストリート10番地を留守にし、英国(特にイングランド)を襲ったものすごい暑さと渇水、それに未処理下水の垂れ流し問題(保守党は少し前に、イングランドで下水をそのまま海に流すことを合法化していた)、光熱費の高騰といった問題はほっぱらかして「次の首相が状況を見極めて適切に対応する」とかなんとか言ってるらしい。もはや「レイムダック」と呼ぶこともできないくらいに終わってる人だから、Twitterでのニュース記事のフィードでこの人物の名前や写真を見ることも、めっきり減った。

一方で露出が激増しているのが、次期首相最有力とみられるリズ・トラス外務大臣である。保守党党首選は、ジョンソン退陣のきっかけを作ったリシ・スナク前財務大臣と、トラスとの間で最終投票が行われるのだが、トラスの支持がスナクの支持を大きく上回っているから、多くの報道機関がすでにトラスを「事実上の次期首相」と扱っている。

報道機関だけではない。外国の政府も同様なようで、8月最後の週末が明けた月曜日、フィナンシャル・タイムズが次のような記事とTwitterスレッドを投稿した。

このツイートには、みんな大好きな《付帯状況のwith》が含まれている。 "With Liz Truss on course to become ..." は "As Liz Truss is on course to become ..." という節として解釈してよい。

と、FTが伝えている内容はこのスレッドなりリンク先の記事なりを見ていただくとして、今回実例として取り上げるのは、この投稿についていたリプライから。

文法的にイレギュラーなケースである。

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【再掲】時制(過去と過去完了), 関係代名詞 (スエズ運河コンテナ船座礁と、ある女性に対するフェイクニュース)

このエントリは、2021年4月にアップしたものの再掲である。

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今回の実例は、報道記事から。

3月23日、エジプトのスエズ運河を航行中の巨大な(東京ドーム2個分の長さがある)コンテナ船が運河を斜めにふさぐようにして座礁し、スエズ運河の機能が停止してしまうということが起きた。座礁した船は、ネット上でミーム化しつつ、エイプリルフールのジョークのネタとして仕込まれつつ、約1週間後にようやく離礁に成功して、スエズ運河は機能を回復したが、この座礁が引き起こした洋上の大渋滞が解消するにはさらに数日かかり、立ち往生させられていた船が運河を通過したのは、座礁発生から約10日後のことだった。座礁発生後に運河の入り口のあたりに到着した船も行列に並んでいるので、平常の状態に戻るにはまだ数日かかるのだという。これで生じた損失は、日本円にして1100億円を超えるとも。

www3.nhk.or.jp

というわけで、年度末の10日間ほどをこのニュースに釘付けになっていた方も少なくないと思われるが(おつかれさまです)、事態が落ち着いたころにBBC Newsが伝えた下記のニュースは、何とも頭の痛くなるような内容で、それでいて当事者はとても前向きで力強く、なおかつ英語としてとても読みやすく、長文多読素材として好適である。ぜひ全文を読んでみていただきたい。

www.bbc.com

記事見出しの《コロン (:)》は、発言者と発言内容を区切る用法で使われており、 "Marwa Elselehdar" は人名である。このマルワ・エルセレーダーさん(とお読みするのだと思う)はエジプトで女性として初めて船長の資格を取った方で、それゆえに大統領に表彰されるなど目立った存在だった。そして、性差別(sexism)が激烈な社会では、そういうふうに「目立つ女」(最近の日本語圏の流行語でいえば「わきまえない女」)はとりあえずそしられ、叩かれるのが常である。と書くと「男だって云々」論者がわいてくると思うが(そして私はその論は一概に退けられうるものではないという考えではあるが)、あと30分以内でこのエントリを書き上げねばならないから、そこらへんは今は措いておいて先に行く。

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